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1巻
1-3
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「これは金じゃねえよ!」
サラミを取り上げたアサカーさんは訝しげにそれを眺め、「食えるのか?」と確認して、食べ始めた。
「お? これは……うまいな! 干し肉か? それにしてはちょっと辛いが」
俺はアサカーさんの手にもう一つサラミを乗せる。
「これはサラミっていうんです。酒にも合いますよ」
自分でも一つ食べる。
「ああ、確かに酒に合いそうだな……って、違ぇぇよ! 話が進まねぇだろ!」
と言いつつ、俺の手からサラミをもう一つひったくる。
「お前ぇさん、行くところがないんなら、うちで日雇いで働かないか? 飯と寝床くれぇは用意してやるぜ」
「パパ!」
「パパじゃねぇよ! 懐くの早ぇなお前!」
とりあえずまったく土地勘がないことを伝えたところ、この山の名前はロクゴウ山で、最寄りの町はエンガルだと教えてくれた。アサカーさんが住んでいるのもその町だそうだ。
ちなみにお金の単位はエヌで、安い飲食店だと一食五百エヌ、宿屋は素泊まりで大体三千エヌなのだとか。
アサカーさんは、これからロクゴウ山の坑道で鉱石を掘り出すらしい。入山税は規定の籠一つあたり三百エヌ。籠一つ分の鉱石を都会の鍛冶屋に持っていくと、五千エヌ程度で買い取ってくれるという。籠は、幼児がしゃがんで入れるくらいの大きさだ。
アサカーさんは籠を二つ持っている。中はもちろん空。
これらの籠に鉱石を詰め込み、両肩からぶら下げて山を下りるらしい。
スゲー! 力持ち!
でもドワーフの鍛冶屋ならこれくらいは普通だと、アサカーさんは言った。
狙っている鉱石は「ウーツ鉱石」という種類とのことで、非常にレアなのだとか。これを精錬するとお宝に化けるそうだが、精錬にかかるコストが馬鹿高いのだとアサカーさんは不満をこぼしていた。
◇◇◇
さて、アサカーさんに雇われた俺。
今日の仕事は、「ウーツ鉱石を掘り出して籠の中に放り込み、その籠を背負って山を下りる」だけ。簡単そうだ。
目的地である坑道に着き、早速、鉱石を探す。俺は初めてなので、掘り出す作業はアサカーさんがやってくれた。やっぱりいい人だ。
少しして、アサカーさんが籠の中を見せてきた。黒っぽい石がいくつか入っている。
「おい、イント。鉱石の区別はつくか?」
正直全然わからないが、一つだけメタリックな灰色をした石があったので――。
「この灰色のが、ウーツ鉱石じゃないですか?」
「そうだ。ちょっと変わった模様が入ってるだろ? それを精錬すると、こうなるんだよ」
そう言って自分の腹に巻いてあるベルトのバックルを叩くアサカーさん。
そのバックルには綺麗な縞模様が入っていて、とても高価そうだった。
アサカーさんはその後もしばらく掘り続け――。
「よし、こんなもんかな? おいイント、この籠を背負ってくれ」
「へい! 親方!」
地面に置かれた籠の肩紐に腕を通し、一気に背負い上げる。
ポキン。
――ポキン?
「おんぎゃあああああ!」
腰がああああ!
悲鳴をあげたその勢いで、鼻の奥の粘膜が破れ、血が噴き出し、鼻腔を通って目からも血が流れ出る。
「腰がああああ!」
アサカーさんが、半目でこちらを見ながら言う。
「俺も長年鍛冶屋をやってるが、鉱石籠を背負うだけで流血した奴は初めて見たな……」
「いやぁ、本当に死ぬかと思いましたよー、あっはっは」
頭を掻きながら笑う俺。腰はもう治っている。血も止まっている。
「お前、回復早いな!」
「いやぁ、自分、『健康』の加護があるみたいで。体は弱いけど、復活が早いんです。やっぱり健康が一番っすね!」
アサカーさんは呆れている。
「健康の無駄遣いの最たるものだな……」
「ありがとうございます!」
「褒めてねぇよ! それにしても籠一つ持てねぇとは……弱ったな」
ため息をつくアサカーさん。
困らせちゃったな。どうしよう……待てよ、余分な物を捨てれば、俺でも持てるんじゃないか?
俺は籠の中の野球ボール大の鉱石を一つ掴んだ。
「これ一つで、アサカーさんのベルトのバックルが何個くらいできるんすか?」
アサカーさんは鼻で笑いながらバックルを撫でる。
「バッカお前ぇ、そんなサイズの鉱石じゃ、せいぜいコインくれぇの大きさのモン二、三枚が――」
チャリン……。
「いいとこ……ん?」
「あー、本当っすねぇ」
俺は縞模様の入ったコイン大のモノを地面から拾い上げた。
するとアサカーさんが俺からそれをむしりとった。
手にしたものを凝視しながら、口もとを震わせている。
「イント……お前ぇ、何やった?」
え?
「籠が重たいから、余分な物を捨てようかと。それで、鉱石からアサカーさんのバックルと同じ材質の物を抜き出してみました。あ……『錬成』っすねこれ。魔法って便利だなぁ」
目を見開いたアサカーさんが、いきなり俺の肩を掴んだ。
「おいイント! これはウーツ鉱じゃねぇ! ダマスカス鉱だ!」
あれ?
「あ……ごめんなさいアサカーさん! 俺、間違えちゃいました? きちんとバックルを確認したつもりだったんだけどなあ……」
「いや、そうじゃねえ。こんな魔法、見たことねぇよ。普通は鉱石を精錬してウーツ鉱、ウーツ鉱をさらに精錬してダマスカス鉱なんだよ。お前はその精錬工程をすっ飛ばしやがったんだ」
ワナワナと肩を震わせながら、アサカーさんはそのダマスカス鉱を見つめている。
「ひょっとして、俺、お手柄っすか?」
アサカーさんは俺の肩をバシバシ叩く。
「お手柄なんてもんじゃねぇ! イント、お前スゲーよ!」
うわぁ、アサカーさんすっごい喜んでるー!
でも……もしかして、掘り出した鉱石からじゃなくて、鉱壁からじかにやったらもっと取れるんじゃないか?
試してみよう!
「アサカーさんアサカーさん! 見て見て!」
俺は坑道の壁に手を当て、そこから大人の脚サイズの、丸太型をしたダマスカス鉱をずるんと引き出した。
するとアサカーさんは飛び上がり――。
「ほぎゃあああああ! 何じゃそりゃあああああ!」
十分後。
「なぁイント、落ち着け、な?」
「アサカーさんこそ、落ち着いてくださいよ……」
俺はウォーターボールで額の血を洗い流しながら、そうボヤいた。
取り出したダマスカス鉱をほいっと渡すと、アサカーさんは取り乱した挙句それを自分の足の指の上に落とし、悲鳴を上げながら俺のおでこに頭突きをかましたのだ。
ようやく落ち着いてきたらしいアサカーさんは、肩で息をしながら言った。
「なあ、イント、こりゃヤバいシロモンだ。かなりヤバい……これ一本で、とんでもない値段になるぞ」
……やっぱりまだ落ち着いていないみたいだ。
「ヤバいっすか? じゃあ、こうしたらどうっすかね?」
俺は丸太状のダマスカス鉱を、リラックスしたクマさんの形に変えてみた。我ながら、かわいくできたと思う。
「おお、これならベッドに持っていっても安心だな、でかしたイント! ……って違ぇよ! 形状に悩んでんじゃねえんだよ! 材質そのものがヤバいんだよ! 存在自体がヤバいんだよ! タダでさえヤバいのに、こんなにこんなにかわいくしちゃってどうすんだ!」
「アサカーさん、ノリツッコミですね?」
そう言ったら、顔を真っ赤にしたアサカーさんに殴られた。
どうしたものかと、ダマスカス鉱のリラックスなクマを含めた三人で輪になって座り、アイディアを出し合っていると――。
「おい……そのクマっぽいの、なんか動いてないか?」
アサカーさんがそんなことを言い出す。
「まさか~、目の錯覚っすよ」
見ると、クマも「ナイナイ」という感じで、顔の前で手を振っている。
「「動いてんじゃん!」」
俺とアサカーさんがハモると、クマも「アレ?」と首を傾げた。
どうやら、いつの間にかクマゴーレムにジョブチェンジしていたようだ。
しばらく考えてから、俺はふと思った。
クマのサイズを籠と同程度の大きさにすれば、俺の代わりに籠を背負えるんじゃないか?
よし、早速やってみよう!
俺は片方の籠の中身を一度取り出して、クマに中へ入ってもらい、ぬいぐるみくらいだったサイズを籠の大きさにまで引き上げる。
籠の中でパタパタと手を振るクマを見て、アサカーさんは耳まで赤くしながら「くっ!」と呻いていた。
どうやらアサカーさんは、アメリカ最大の暴走族の総長みたいにヒゲもじゃで、格闘マンガの主人公みたいな太い腕をしていても、かわいいものには弱いらしい。
クマに籠の外へ出てもらい、代わりにさっきの中身を入れ直してから、俺は言った。
「できました。このサイズのクマなら重い鉱石籠も背負えるはずですので、俺の腰も安心です。税は、入り口で籠一つ分の金額を追加で払えばいいかと」
これで、もう「ポキン」しなくて済みそうだ。
「いやいや、イントよ、そうじゃねえ。お前の腰の問題じゃねえんだよ。このクマ一体の価値の問題なんだ。不純物のないダマスカス鉱だと……そうだな、こいつ一体で、卸値五~六百万はする。武具に打ち直すと一千万はくだらない。そいつを抜き身で持ち歩くのが危険なんだ。クマにしようが何にしようが、この縞模様を見ればわかる奴にはわかっちまうからな」
クマの頭を撫でながら、アサカーさんは呟く。
「じゃあこの派手な縞模様を何とかしちゃえば、単なるクマゴーレムってことで片づくんですか?」
アサカーさんはヒゲをジョリジョリいじっている。
「うーむ、まあそうだな。だが、無事に持ち帰っても、卸先があるかどうか。こんなでかいダマスカス鉱を一気に買い取ってくれる店なんて都会にしかないだろうし、買い取ってもらえたとしても、ブツの出所を詮索されるだろうな」
「詮索されると、何か不都合があるんですか?」
アサカーさんは一層声を潜めた。
「お前が使うような魔法は見たことも聞いたこともない。ウーツ鉱からダマスカス鉱への精錬方法は、あるにはあるが、秘密にされててな。とある素材屋が独占してるんだ。その秘密を守るために、裏で結構血なまぐさいこともやってるって話だ」
そうなのか。じゃあ……。
「えーと、アサカーさんが買い取ってくれません? アサカーさんだったら、出所も知ってるわけだし、大事になりませんよね?」
眉根に皺を寄せて唸るアサカーさん。
「確かに大事にはならねえが……買い取る元手がない。しがない町の鍛冶屋にゃ、キツイ量だな」
「半値でいいっすよ! いや、二百でどうっすか?」
アサカーさんは目を剥く。
「そんな値段で卸していいシロモンじゃねぇ!」
「でも、命には替えられないし、一文なしの俺に寝床の世話まで申し出てくれたアサカーさんにだったら構わないっすよ。それに俺が持ってても路傍の石コロと一緒です」
アサカーさんは少し感動したようで、しんみりと笑い、俺の肩に手を置いた。
「イント……お前ぇ……」
「アサカーさん……もし大儲けしたら、見返り忘れないでくださいね」
「台無しだよ!」
「じゃあ早速、このクマの縞模様をごまかしましょうか!」
「流すんじゃねえ! ……って、どうやってごまかすんだ?」
「とりあえず砂をかけて、表面だけ錬成前の鉱石っぽく見せます。家に着いたら、その砂を落としましょう!」
そう言って、俺はクマにバサバサと砂をかけ始めた。
「ね、こんな感じで」
クマは顔をかばいながら、ペッペッと砂を吐き出し、目をくしくしこすって嫌がっている。
それを見たアサカーさんが――。
「バカヤロウ、嫌がってんじゃねぇか!」
俺を殴りつけた。鼻血が出る。
「アサカーさん、落ち着いてください」
俺はウォーターボールで血を洗い流す。クマはアサカーさんの背中に隠れている。
「うむ……すまん、つい」
アサカーさんに謝られた。
「大丈夫です。それより、この辺に赤土みたいな粘土層ってありませんか?」
「粘土層か……この辺りにはねえな」
そうだよな、鉱山だからなあ。
この砂……粘土にならないかな?
砂をひとつかみ掬い、頭の中で赤土をイメージしてみる。
すると……砂がみるみる赤土に変質していく。
「できるもんすね」
「もう驚かねぇよ……」
できあがった赤土を、クマの体表に塗りつける。やっぱお腹の部分は白っぽくしたほうがいいよな……石灰を混ぜて白っぽくする。
うむ。
会心の出来だ!
「おおお……イント、お前の才能の中でこれが一番スゲーな」
「そんなこと言うと、家に着いてもインゴットに変形させませんよ?」
「すまん……」
ともかく準備はできたので、早速クマに籠を一つ背負わせ、坑道出口に向かう。もう一つの籠はアサカーさんが背負っている。
出口手前で、税務官二人がチェックのために近づいてきた。
「コイツは、ゴーレムか?」
クマの頭を撫でながら聞いてくる税務官。アサカーさん曰く、ゴーレム自体はそこまで珍しいものではないらしい。ただ普通ゴーレムといえば、土人形を魔法で操作する程度であって、このクマみたいに自分で好き勝手に動くというのは考えられないそうだ。
税務官は、俺がクマを操作して歩かせていると思ってるんだろう。
「はい、籠一つ分の鉱石を材料に、ゴーレムを作って、運搬を手伝わせてます。なにぶん、僕が非力なもので」
俺が答える。
アサカーさんはソワソワと落ち着かない。悪いことのできない人なんだなぁ。
「お、俺の籠と、ゴーレムの背負ってる籠と、あとゴーレム本体で、籠三つ分の税を払う。それでいいか?」
アサカーさんが税務官に向かって言う。税務官は少し考えたあと、ぽん、と手を叩いた。
「おお、なるほど、そういうことか! 掘り出した鉱石で作ったゴーレムに背負わせりゃ、相棒が非力でも籠三つ運べるってわけだな? アサカー」
「はは……そうみたいで」
なんかアサカーさんの乾いた笑いが気になるが、無事に税を納め、俺達は坑道を出た。出口のところでクマが振り返ってパタパタと手を振ると、税務官二人はデレッと笑い、手を振り返していた。
「上手くいきましたね」
「俺の家に着くまで気を抜かんでくれよ。どうにも、足もとがふわふわして落ち着かん」
アサカーさん、顔に似合わず、案外メンタルが弱いらしい。
前を歩くアサカーさんの服の裾を、クマがチョイチョイと引っ張る。
アサカーさんは俺に向かって「何だ?」と聞くが、俺は「俺じゃないっすよ?」と首を振り、クマを指差す。
するとクマがアサカーさんに手を差し出した。
「手を繋いでほしいんじゃないっすか?」
「バ、バカ言ってんじゃねぇ!」
顔を赤くして狼狽えるアサカーさん。
「いや、俺が言ってるわけじゃないっすよ」
アサカーさんはクマを見つめる。クマも、負けじとアサカーさんを見つめ返す。
アサカーさんは……呆気なく陥落した。
耳まで真っ赤にして言う。
「くっ! 町の入り口までだぞ!」
いかついおじさんとクマ……まるで親子のようだ。
軽く疎外感を覚えたので――。
「アサカーさん、俺も手を繋いでいいっすか?」
そう尋ねたら、また殴られた。
3 エンガル! 呪! ボインボイン!
山を下り、麓を流れる大きな川に架かる橋を渡って――エンガルの町に着いた。
意外と栄えている感じがする。
アサカーさんによると、この町は「アサヒカウ王国」に属するそうだが、王都から離れていて辺境という位置づけらしい。隣国のアバスリ国、タンノ国との国境近くにあるとのことで、町には王国騎士団が駐屯しているという。
でも隣国との戦争はもう何百年もやっていないみたいで、騎士団も「一応」配備されているだけなのだとか。
それでも軍隊には変わりなく、軍の駐屯地がある町にはお決まりの歓楽街が、このエンガルにもあるらしい。その辺りは、前世の日本の事情と同じかな。俺の住んでいた町もそうだったもんな。
そんな歓楽街に通じる商店街の片隅で、「アサカー鍛冶屋」は営業していた。店を覗かせてもらったけど、剣や盾から、フライパンやスコップまで、多岐にわたる品揃えだった。
とはいっても、大自然に囲まれた辺境の町だから獣やモンスターも出没するらしく、そういった危険生物駆除の専門家「ハンター」向けの武器や防具がメインのお店だそうだ。
店の裏手にあるアサカーさんの住居兼鍛冶精錬所の、さらに奥にある物置小屋を「自分で片づけるなら家賃無料で貸してやる」とアサカーさんは言った。
ただし、あくまで俺が自立するまで。
自立支援付き、ニートお断り物件というわけだ。
さて、俺とアサカーさんは店を出たあと、クマをインゴットに変えるために精錬所に向かった。
「さあクマくん、表面の土を剥がすから、くるっと回ってー!」
そう命令を出すとクマは、ごろりとでんぐり返しをしやがった。
アサカーさんはそれを見て、デレデレにとろけている。
あざといクマだ……。
俺は問答無用で変性魔法を使い、表面の土を落として、縞模様のクマに戻した。
「それじゃあアサカーさん、インゴットにしちゃいますよ? いいですか?」
「お、おう! ひと思いにやってくれ!」
クマから顔を背けるアサカーさん。そんなにクマが気に入ったのか……よし、せめてアサカーさんの思い出に残る演出をしてあげなきゃな!
「変性!」
俺がそう唱えると、クマの表皮がグズグズと崩れ始めた。立っていたクマは四つん這いになり、小刻みに震えながら頭をこちらに向ける。
縞模様の肉片をボトボト零しながら、クマは手を床に何度も叩きつけた。頭の肉片がすべて落ちると、残った頭蓋骨の額に彫り込まれた「呪」の文字がうっすら緑色に輝く。そしてその頭蓋骨もバラバラと砕け、地面に落ちた。
床の肉片と骨片がまるで生き物のように寄り合わさって、四角いインゴットを形づくっていき、最終的にそれが六つ――整然と三段に積み重なった。
アサカーさんは、目に涙をためて言った。
「てめえええイント! ワザとだな? ワザとだろ! 夢に見ちゃうだろうが! なんてことしやがんだ!」
「やだなぁ、アサカーさんの思い出に残るように演出しただけですよぅ」
「思い出どころか、完全にトラウマだよ! 心的外傷後ストレス障害だよ!」
「そんなことはさておき、アサカーさん、ダマスカス鉱のインゴットですよ!」
「そんなこと呼ばわりかよ!」
そう言いつつ、職人の意地なのか、悲しい別れをしたばかりなのにアサカーさんはインゴットを一つ手に取って調べ始めた。
「これはすごいな……世の中に金属と名のつく物質は数あれど、俺はダマスカス鉱が一番好きなんだ」
すっかり職人の目付きになったアサカーさんは、壁に掛けられた鍛冶仕事の予定表らしきものを見ながら、予定を調整し始めた。このダマスカス鉱の加工を優先したいのだろう。
そして、俺に向き直って言った。
「すまなかったな、イント。つい夢中になっちまった。そろそろ飯でも食うか?」
転生してから初めてベビーサラミ以外の食い物が食べられると思い、俺は何度も頷いた。
サラミを取り上げたアサカーさんは訝しげにそれを眺め、「食えるのか?」と確認して、食べ始めた。
「お? これは……うまいな! 干し肉か? それにしてはちょっと辛いが」
俺はアサカーさんの手にもう一つサラミを乗せる。
「これはサラミっていうんです。酒にも合いますよ」
自分でも一つ食べる。
「ああ、確かに酒に合いそうだな……って、違ぇぇよ! 話が進まねぇだろ!」
と言いつつ、俺の手からサラミをもう一つひったくる。
「お前ぇさん、行くところがないんなら、うちで日雇いで働かないか? 飯と寝床くれぇは用意してやるぜ」
「パパ!」
「パパじゃねぇよ! 懐くの早ぇなお前!」
とりあえずまったく土地勘がないことを伝えたところ、この山の名前はロクゴウ山で、最寄りの町はエンガルだと教えてくれた。アサカーさんが住んでいるのもその町だそうだ。
ちなみにお金の単位はエヌで、安い飲食店だと一食五百エヌ、宿屋は素泊まりで大体三千エヌなのだとか。
アサカーさんは、これからロクゴウ山の坑道で鉱石を掘り出すらしい。入山税は規定の籠一つあたり三百エヌ。籠一つ分の鉱石を都会の鍛冶屋に持っていくと、五千エヌ程度で買い取ってくれるという。籠は、幼児がしゃがんで入れるくらいの大きさだ。
アサカーさんは籠を二つ持っている。中はもちろん空。
これらの籠に鉱石を詰め込み、両肩からぶら下げて山を下りるらしい。
スゲー! 力持ち!
でもドワーフの鍛冶屋ならこれくらいは普通だと、アサカーさんは言った。
狙っている鉱石は「ウーツ鉱石」という種類とのことで、非常にレアなのだとか。これを精錬するとお宝に化けるそうだが、精錬にかかるコストが馬鹿高いのだとアサカーさんは不満をこぼしていた。
◇◇◇
さて、アサカーさんに雇われた俺。
今日の仕事は、「ウーツ鉱石を掘り出して籠の中に放り込み、その籠を背負って山を下りる」だけ。簡単そうだ。
目的地である坑道に着き、早速、鉱石を探す。俺は初めてなので、掘り出す作業はアサカーさんがやってくれた。やっぱりいい人だ。
少しして、アサカーさんが籠の中を見せてきた。黒っぽい石がいくつか入っている。
「おい、イント。鉱石の区別はつくか?」
正直全然わからないが、一つだけメタリックな灰色をした石があったので――。
「この灰色のが、ウーツ鉱石じゃないですか?」
「そうだ。ちょっと変わった模様が入ってるだろ? それを精錬すると、こうなるんだよ」
そう言って自分の腹に巻いてあるベルトのバックルを叩くアサカーさん。
そのバックルには綺麗な縞模様が入っていて、とても高価そうだった。
アサカーさんはその後もしばらく掘り続け――。
「よし、こんなもんかな? おいイント、この籠を背負ってくれ」
「へい! 親方!」
地面に置かれた籠の肩紐に腕を通し、一気に背負い上げる。
ポキン。
――ポキン?
「おんぎゃあああああ!」
腰がああああ!
悲鳴をあげたその勢いで、鼻の奥の粘膜が破れ、血が噴き出し、鼻腔を通って目からも血が流れ出る。
「腰がああああ!」
アサカーさんが、半目でこちらを見ながら言う。
「俺も長年鍛冶屋をやってるが、鉱石籠を背負うだけで流血した奴は初めて見たな……」
「いやぁ、本当に死ぬかと思いましたよー、あっはっは」
頭を掻きながら笑う俺。腰はもう治っている。血も止まっている。
「お前、回復早いな!」
「いやぁ、自分、『健康』の加護があるみたいで。体は弱いけど、復活が早いんです。やっぱり健康が一番っすね!」
アサカーさんは呆れている。
「健康の無駄遣いの最たるものだな……」
「ありがとうございます!」
「褒めてねぇよ! それにしても籠一つ持てねぇとは……弱ったな」
ため息をつくアサカーさん。
困らせちゃったな。どうしよう……待てよ、余分な物を捨てれば、俺でも持てるんじゃないか?
俺は籠の中の野球ボール大の鉱石を一つ掴んだ。
「これ一つで、アサカーさんのベルトのバックルが何個くらいできるんすか?」
アサカーさんは鼻で笑いながらバックルを撫でる。
「バッカお前ぇ、そんなサイズの鉱石じゃ、せいぜいコインくれぇの大きさのモン二、三枚が――」
チャリン……。
「いいとこ……ん?」
「あー、本当っすねぇ」
俺は縞模様の入ったコイン大のモノを地面から拾い上げた。
するとアサカーさんが俺からそれをむしりとった。
手にしたものを凝視しながら、口もとを震わせている。
「イント……お前ぇ、何やった?」
え?
「籠が重たいから、余分な物を捨てようかと。それで、鉱石からアサカーさんのバックルと同じ材質の物を抜き出してみました。あ……『錬成』っすねこれ。魔法って便利だなぁ」
目を見開いたアサカーさんが、いきなり俺の肩を掴んだ。
「おいイント! これはウーツ鉱じゃねぇ! ダマスカス鉱だ!」
あれ?
「あ……ごめんなさいアサカーさん! 俺、間違えちゃいました? きちんとバックルを確認したつもりだったんだけどなあ……」
「いや、そうじゃねえ。こんな魔法、見たことねぇよ。普通は鉱石を精錬してウーツ鉱、ウーツ鉱をさらに精錬してダマスカス鉱なんだよ。お前はその精錬工程をすっ飛ばしやがったんだ」
ワナワナと肩を震わせながら、アサカーさんはそのダマスカス鉱を見つめている。
「ひょっとして、俺、お手柄っすか?」
アサカーさんは俺の肩をバシバシ叩く。
「お手柄なんてもんじゃねぇ! イント、お前スゲーよ!」
うわぁ、アサカーさんすっごい喜んでるー!
でも……もしかして、掘り出した鉱石からじゃなくて、鉱壁からじかにやったらもっと取れるんじゃないか?
試してみよう!
「アサカーさんアサカーさん! 見て見て!」
俺は坑道の壁に手を当て、そこから大人の脚サイズの、丸太型をしたダマスカス鉱をずるんと引き出した。
するとアサカーさんは飛び上がり――。
「ほぎゃあああああ! 何じゃそりゃあああああ!」
十分後。
「なぁイント、落ち着け、な?」
「アサカーさんこそ、落ち着いてくださいよ……」
俺はウォーターボールで額の血を洗い流しながら、そうボヤいた。
取り出したダマスカス鉱をほいっと渡すと、アサカーさんは取り乱した挙句それを自分の足の指の上に落とし、悲鳴を上げながら俺のおでこに頭突きをかましたのだ。
ようやく落ち着いてきたらしいアサカーさんは、肩で息をしながら言った。
「なあ、イント、こりゃヤバいシロモンだ。かなりヤバい……これ一本で、とんでもない値段になるぞ」
……やっぱりまだ落ち着いていないみたいだ。
「ヤバいっすか? じゃあ、こうしたらどうっすかね?」
俺は丸太状のダマスカス鉱を、リラックスしたクマさんの形に変えてみた。我ながら、かわいくできたと思う。
「おお、これならベッドに持っていっても安心だな、でかしたイント! ……って違ぇよ! 形状に悩んでんじゃねえんだよ! 材質そのものがヤバいんだよ! 存在自体がヤバいんだよ! タダでさえヤバいのに、こんなにこんなにかわいくしちゃってどうすんだ!」
「アサカーさん、ノリツッコミですね?」
そう言ったら、顔を真っ赤にしたアサカーさんに殴られた。
どうしたものかと、ダマスカス鉱のリラックスなクマを含めた三人で輪になって座り、アイディアを出し合っていると――。
「おい……そのクマっぽいの、なんか動いてないか?」
アサカーさんがそんなことを言い出す。
「まさか~、目の錯覚っすよ」
見ると、クマも「ナイナイ」という感じで、顔の前で手を振っている。
「「動いてんじゃん!」」
俺とアサカーさんがハモると、クマも「アレ?」と首を傾げた。
どうやら、いつの間にかクマゴーレムにジョブチェンジしていたようだ。
しばらく考えてから、俺はふと思った。
クマのサイズを籠と同程度の大きさにすれば、俺の代わりに籠を背負えるんじゃないか?
よし、早速やってみよう!
俺は片方の籠の中身を一度取り出して、クマに中へ入ってもらい、ぬいぐるみくらいだったサイズを籠の大きさにまで引き上げる。
籠の中でパタパタと手を振るクマを見て、アサカーさんは耳まで赤くしながら「くっ!」と呻いていた。
どうやらアサカーさんは、アメリカ最大の暴走族の総長みたいにヒゲもじゃで、格闘マンガの主人公みたいな太い腕をしていても、かわいいものには弱いらしい。
クマに籠の外へ出てもらい、代わりにさっきの中身を入れ直してから、俺は言った。
「できました。このサイズのクマなら重い鉱石籠も背負えるはずですので、俺の腰も安心です。税は、入り口で籠一つ分の金額を追加で払えばいいかと」
これで、もう「ポキン」しなくて済みそうだ。
「いやいや、イントよ、そうじゃねえ。お前の腰の問題じゃねえんだよ。このクマ一体の価値の問題なんだ。不純物のないダマスカス鉱だと……そうだな、こいつ一体で、卸値五~六百万はする。武具に打ち直すと一千万はくだらない。そいつを抜き身で持ち歩くのが危険なんだ。クマにしようが何にしようが、この縞模様を見ればわかる奴にはわかっちまうからな」
クマの頭を撫でながら、アサカーさんは呟く。
「じゃあこの派手な縞模様を何とかしちゃえば、単なるクマゴーレムってことで片づくんですか?」
アサカーさんはヒゲをジョリジョリいじっている。
「うーむ、まあそうだな。だが、無事に持ち帰っても、卸先があるかどうか。こんなでかいダマスカス鉱を一気に買い取ってくれる店なんて都会にしかないだろうし、買い取ってもらえたとしても、ブツの出所を詮索されるだろうな」
「詮索されると、何か不都合があるんですか?」
アサカーさんは一層声を潜めた。
「お前が使うような魔法は見たことも聞いたこともない。ウーツ鉱からダマスカス鉱への精錬方法は、あるにはあるが、秘密にされててな。とある素材屋が独占してるんだ。その秘密を守るために、裏で結構血なまぐさいこともやってるって話だ」
そうなのか。じゃあ……。
「えーと、アサカーさんが買い取ってくれません? アサカーさんだったら、出所も知ってるわけだし、大事になりませんよね?」
眉根に皺を寄せて唸るアサカーさん。
「確かに大事にはならねえが……買い取る元手がない。しがない町の鍛冶屋にゃ、キツイ量だな」
「半値でいいっすよ! いや、二百でどうっすか?」
アサカーさんは目を剥く。
「そんな値段で卸していいシロモンじゃねぇ!」
「でも、命には替えられないし、一文なしの俺に寝床の世話まで申し出てくれたアサカーさんにだったら構わないっすよ。それに俺が持ってても路傍の石コロと一緒です」
アサカーさんは少し感動したようで、しんみりと笑い、俺の肩に手を置いた。
「イント……お前ぇ……」
「アサカーさん……もし大儲けしたら、見返り忘れないでくださいね」
「台無しだよ!」
「じゃあ早速、このクマの縞模様をごまかしましょうか!」
「流すんじゃねえ! ……って、どうやってごまかすんだ?」
「とりあえず砂をかけて、表面だけ錬成前の鉱石っぽく見せます。家に着いたら、その砂を落としましょう!」
そう言って、俺はクマにバサバサと砂をかけ始めた。
「ね、こんな感じで」
クマは顔をかばいながら、ペッペッと砂を吐き出し、目をくしくしこすって嫌がっている。
それを見たアサカーさんが――。
「バカヤロウ、嫌がってんじゃねぇか!」
俺を殴りつけた。鼻血が出る。
「アサカーさん、落ち着いてください」
俺はウォーターボールで血を洗い流す。クマはアサカーさんの背中に隠れている。
「うむ……すまん、つい」
アサカーさんに謝られた。
「大丈夫です。それより、この辺に赤土みたいな粘土層ってありませんか?」
「粘土層か……この辺りにはねえな」
そうだよな、鉱山だからなあ。
この砂……粘土にならないかな?
砂をひとつかみ掬い、頭の中で赤土をイメージしてみる。
すると……砂がみるみる赤土に変質していく。
「できるもんすね」
「もう驚かねぇよ……」
できあがった赤土を、クマの体表に塗りつける。やっぱお腹の部分は白っぽくしたほうがいいよな……石灰を混ぜて白っぽくする。
うむ。
会心の出来だ!
「おおお……イント、お前の才能の中でこれが一番スゲーな」
「そんなこと言うと、家に着いてもインゴットに変形させませんよ?」
「すまん……」
ともかく準備はできたので、早速クマに籠を一つ背負わせ、坑道出口に向かう。もう一つの籠はアサカーさんが背負っている。
出口手前で、税務官二人がチェックのために近づいてきた。
「コイツは、ゴーレムか?」
クマの頭を撫でながら聞いてくる税務官。アサカーさん曰く、ゴーレム自体はそこまで珍しいものではないらしい。ただ普通ゴーレムといえば、土人形を魔法で操作する程度であって、このクマみたいに自分で好き勝手に動くというのは考えられないそうだ。
税務官は、俺がクマを操作して歩かせていると思ってるんだろう。
「はい、籠一つ分の鉱石を材料に、ゴーレムを作って、運搬を手伝わせてます。なにぶん、僕が非力なもので」
俺が答える。
アサカーさんはソワソワと落ち着かない。悪いことのできない人なんだなぁ。
「お、俺の籠と、ゴーレムの背負ってる籠と、あとゴーレム本体で、籠三つ分の税を払う。それでいいか?」
アサカーさんが税務官に向かって言う。税務官は少し考えたあと、ぽん、と手を叩いた。
「おお、なるほど、そういうことか! 掘り出した鉱石で作ったゴーレムに背負わせりゃ、相棒が非力でも籠三つ運べるってわけだな? アサカー」
「はは……そうみたいで」
なんかアサカーさんの乾いた笑いが気になるが、無事に税を納め、俺達は坑道を出た。出口のところでクマが振り返ってパタパタと手を振ると、税務官二人はデレッと笑い、手を振り返していた。
「上手くいきましたね」
「俺の家に着くまで気を抜かんでくれよ。どうにも、足もとがふわふわして落ち着かん」
アサカーさん、顔に似合わず、案外メンタルが弱いらしい。
前を歩くアサカーさんの服の裾を、クマがチョイチョイと引っ張る。
アサカーさんは俺に向かって「何だ?」と聞くが、俺は「俺じゃないっすよ?」と首を振り、クマを指差す。
するとクマがアサカーさんに手を差し出した。
「手を繋いでほしいんじゃないっすか?」
「バ、バカ言ってんじゃねぇ!」
顔を赤くして狼狽えるアサカーさん。
「いや、俺が言ってるわけじゃないっすよ」
アサカーさんはクマを見つめる。クマも、負けじとアサカーさんを見つめ返す。
アサカーさんは……呆気なく陥落した。
耳まで真っ赤にして言う。
「くっ! 町の入り口までだぞ!」
いかついおじさんとクマ……まるで親子のようだ。
軽く疎外感を覚えたので――。
「アサカーさん、俺も手を繋いでいいっすか?」
そう尋ねたら、また殴られた。
3 エンガル! 呪! ボインボイン!
山を下り、麓を流れる大きな川に架かる橋を渡って――エンガルの町に着いた。
意外と栄えている感じがする。
アサカーさんによると、この町は「アサヒカウ王国」に属するそうだが、王都から離れていて辺境という位置づけらしい。隣国のアバスリ国、タンノ国との国境近くにあるとのことで、町には王国騎士団が駐屯しているという。
でも隣国との戦争はもう何百年もやっていないみたいで、騎士団も「一応」配備されているだけなのだとか。
それでも軍隊には変わりなく、軍の駐屯地がある町にはお決まりの歓楽街が、このエンガルにもあるらしい。その辺りは、前世の日本の事情と同じかな。俺の住んでいた町もそうだったもんな。
そんな歓楽街に通じる商店街の片隅で、「アサカー鍛冶屋」は営業していた。店を覗かせてもらったけど、剣や盾から、フライパンやスコップまで、多岐にわたる品揃えだった。
とはいっても、大自然に囲まれた辺境の町だから獣やモンスターも出没するらしく、そういった危険生物駆除の専門家「ハンター」向けの武器や防具がメインのお店だそうだ。
店の裏手にあるアサカーさんの住居兼鍛冶精錬所の、さらに奥にある物置小屋を「自分で片づけるなら家賃無料で貸してやる」とアサカーさんは言った。
ただし、あくまで俺が自立するまで。
自立支援付き、ニートお断り物件というわけだ。
さて、俺とアサカーさんは店を出たあと、クマをインゴットに変えるために精錬所に向かった。
「さあクマくん、表面の土を剥がすから、くるっと回ってー!」
そう命令を出すとクマは、ごろりとでんぐり返しをしやがった。
アサカーさんはそれを見て、デレデレにとろけている。
あざといクマだ……。
俺は問答無用で変性魔法を使い、表面の土を落として、縞模様のクマに戻した。
「それじゃあアサカーさん、インゴットにしちゃいますよ? いいですか?」
「お、おう! ひと思いにやってくれ!」
クマから顔を背けるアサカーさん。そんなにクマが気に入ったのか……よし、せめてアサカーさんの思い出に残る演出をしてあげなきゃな!
「変性!」
俺がそう唱えると、クマの表皮がグズグズと崩れ始めた。立っていたクマは四つん這いになり、小刻みに震えながら頭をこちらに向ける。
縞模様の肉片をボトボト零しながら、クマは手を床に何度も叩きつけた。頭の肉片がすべて落ちると、残った頭蓋骨の額に彫り込まれた「呪」の文字がうっすら緑色に輝く。そしてその頭蓋骨もバラバラと砕け、地面に落ちた。
床の肉片と骨片がまるで生き物のように寄り合わさって、四角いインゴットを形づくっていき、最終的にそれが六つ――整然と三段に積み重なった。
アサカーさんは、目に涙をためて言った。
「てめえええイント! ワザとだな? ワザとだろ! 夢に見ちゃうだろうが! なんてことしやがんだ!」
「やだなぁ、アサカーさんの思い出に残るように演出しただけですよぅ」
「思い出どころか、完全にトラウマだよ! 心的外傷後ストレス障害だよ!」
「そんなことはさておき、アサカーさん、ダマスカス鉱のインゴットですよ!」
「そんなこと呼ばわりかよ!」
そう言いつつ、職人の意地なのか、悲しい別れをしたばかりなのにアサカーさんはインゴットを一つ手に取って調べ始めた。
「これはすごいな……世の中に金属と名のつく物質は数あれど、俺はダマスカス鉱が一番好きなんだ」
すっかり職人の目付きになったアサカーさんは、壁に掛けられた鍛冶仕事の予定表らしきものを見ながら、予定を調整し始めた。このダマスカス鉱の加工を優先したいのだろう。
そして、俺に向き直って言った。
「すまなかったな、イント。つい夢中になっちまった。そろそろ飯でも食うか?」
転生してから初めてベビーサラミ以外の食い物が食べられると思い、俺は何度も頷いた。
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