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マウレツェッペ
1-3 拒否反応
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「お兄ちゃん、ムサシが思うに、これはジョブクエストの一種だと思うんだよ、ゲームを始めて最初のジョブとレベル二十で取れるセカンドジョブ、そしてレベル六十で取れるサードジョブ、サードジョブを取る事によって統合される、上位ジョブのどれかを祝福し直さないといけないんだと思うんだよ……」
ムサシが短冊に書いた四つのジョブを小次郎に見せる。
ムサシがゲーム内で獲得したジョブは四つある。
ゲームを始めたばかりの頃、魔法少女にこだわるムサシが獲得した。「ウィザード」攻撃魔法主体のジョブである。
レベル二十で獲得したジョブが「プリースト」魔法主体であるが、ヒールや状態異常解除に重きを置いた回復職。
サードジョブが「エンチャンター」魔法主体であるが、主に自分や仲間に対する強化魔法と、敵に対する弱体化魔法を極めた魔法職。
そしてこの三つのジョブを極める事により、統合されたのが「大魔導師」と言う統合ジョブであり、前述した全ての魔法を使用する事の出来る上位ジョブである。
廃人プレイヤーは皆上位ジョブを目指してプレイしていると言っても過言ではない。
「でも初期のファーストジョブからブザーが鳴っていただろ? そろそろ現実を見ようなムサシ」
小次郎が書き記した短冊に書かれているのは「高校生」「会計士」「公務員」だった。
「お兄ちゃんは夢が無いよ……」
ムサシは大きく肩を下げて溜息をついた。
それからはムサシと小次郎の短冊との闘いが続き、そろそろ夕食を求めてお腹が減り始めた頃になり、小次郎が何度目かのトイレに向かった時であった。
神殿内では見張りの兵士が外れている事から、屋内の来賓用のトイレを使う事をモームから勧められていたので、来賓用の廊下を歩いているとボソボソと話し声が聞こえて来た。
小次郎は高校生ながら苦労人なので、自分達の置かれている微妙な立ち位置を理解していた。来賓用の廊下を使用している事で、咎められる危険を察知して、素早く廊下に飾られている装飾用の甲冑の影に身を潜めた。
「……まったくあんなひ弱そうなガキ共を当てにする位なら、農家のガキでも拾って来て、戦場で走らせておいた方がよっぽど役に立ちまする」
「祝福すらままならないとは、予想外であったな。さっさと殺して敵国の仕業にしてしまった方が、民衆の士気は高まるかもしれんのう、旗頭にする為に娘の方は、幼女趣味のある変態商人の嫁に出せば、資金の心配もなかろうて」
「神の止まり木を犠牲にして、あんな外れを引き当てるとはまったく……とんだ誤算でしたな」
「今夜からでも引き離して、娘の方はそっちの教育でも施した方が良かろうな」
「御意に」
カツカツと廊下を歩く音が響き、数人の気配が遠ざかった頃合いを見て、甲冑の影から顔色を真っ青にした小次郎が、足早に神殿へと向かって行った。
「ムサシ!」
小次郎がどうにもよろしくない情報を神殿に持ち帰り、ムサシを探す。
「お兄ちゃん、これって思うんだけど短冊を一枚づつ使うんじゃなくて、三枚一度に使えば良いんじゃないかな?」
「いや、それどころじゃないぞ、ここから逃げようムサシ」
小次郎が廊下で聞きかじった内容をムサシに告げると、ムサシは暫し考えこむと、短冊を白台に並べ始めた。
「ムサシ、そんな事をしている場合じゃない、早く逃げなきゃ」
小次郎が苛立ちながらムサシの手を引こうとすると、ムサシは振り向かずに小次郎の言葉を遮り、自分の考えを喋り始めた。
「逃げるって言ってもどこに? ここは王宮だよ? 騎士団の兵士も沢山いるんだよ、下手に逃亡をしたらそれこそ平気で殺されちゃうよ、ムサシ達はこの世界じゃ祝福をもらわなきゃ逃亡すら難しいんじゃないかな? だから、だから、生き残る為に今やらなきゃいけない事はジョブクエのエラーをなんとかするのが最善だと思うんだよ」
ムサシは「ウィザード」「プリースト」「エンチャンター」の短冊が並んだ白台に手を叩きつける様に置いた。
「ブブー……」
「今ので祝福が貰えていたら最高にカッコ良かったなムサシ……」
ムサシの顔はみるみる真っ赤に染まって行った。
「ぐぬぬ……ま、まあ逃亡は朝のおっちゃん達を頼ろうと思ってたんだよ」
「妥当な線だな、俺もそう思ってた」
小次郎が脱力して白台に寄り掛かる様に手をついた瞬間、白台が光り始め「ピンポーン」と言う音が鳴り響き、続いて音声ガイドが鳴り始めた。
「サードジョブの最適化とジョブの統合化を開始します」
「え?」
ムサシは呆然として小次郎を見ている。
小次郎は予期せぬ事態と、体の中と頭の中身が作り替えられる様な奇妙な感覚にブルブルと震えていた。
小次郎の時間間隔で十分、実際には二分程で最適化が完了したらしく、白台からまた機械音声で「ジョブの統合化が正常に完了しました。統合ジョブは大魔導師となりました」と言う音声が流れた後に小次郎が膝から崩れ落ちた。
「お兄ちゃん? お兄ちゃん大丈夫?」
ムサシが小次郎に駆け寄り、小次郎の体を揺さぶる。
「あ、ああ平気だけど、ジョブエラーが直ったのはいいけど……」
「なんでお兄ちゃんが魔法少女に……」
「お兄ちゃんは少女じゃないぞ」
小次郎が少し考えこんで、ゆっくりと話しだす。
「ムサシ、お兄ちゃん考えたんだけどな……」
「聞きたくない」
ムサシが頬を膨らませ、ぷいっと背中を向ける。
「こっちに転移をした時にひょっとして、俺とムサシが入れ替わったんじゃないかと」
ムサシが耳を塞いでうずくまる。
「お兄ちゃんと私が、入れ替わるって……そんなそんな」
うずくまっていたムサシががばりと立ち上がり、スカートの中に手を突っ込み呟いた。
「ついてない……」
「お兄ちゃん、そう言う下品な冗談は嫌いだな、現実を見ようなムサシ」
小次郎が掌からふわりと光の玉を飛ばすと、短冊が散乱している書台の上に固定させた。
散乱している短冊の中から小次郎が拾い上げたのは、小次郎のゲームキャラが修めていたジョブだった。
ファーストジョブ「ウォリアー」魔法は使えないが類稀な防御力と生命力を持つガチファイター、ムサシがウィザードと言う物理防御が全く無いジョブに就いた為に、しょうがないので小次郎が選んだジョブである。
セカンドジョブ「ワイルドナイト」魔法は全く使えないが、類稀な攻撃力とスピードを誇るガチファイター、ムサシがプリーストと言う防御力の無いセカンドジョブに就いた癖に、広範囲魔法での無差別攻撃に酔いしれる困った悪癖の為に、しょうがないので小次郎が選んだジョブである。
サードジョブ「バーバリアン」これまた魔法は使えないのだが、類稀な武器防具との相性を持ち、手に持てるアイテムは全て武器に変える非常に雑なガチファイター、ムサシがエンチャンターと言う身体強化魔法を使えるジョブに就いてくれたのはいいが、ドラゴン退治に行きたいと言い出して、武器破壊属性魔法を持つドラゴンに対抗出来うる唯一のジョブがこれだったので、しょうがないので小次郎が選んだジョブである。
そして統合された上位ジョブが「重戦士」上記の特徴を全て持ち合わせた非常に雑なガチファイターである。
ちなみにレベル六五からボーナスとして、周りを明るく照らす「ライト」と、最後に立ち寄った町に戻る「帰還」の魔法はおまけで付いてきたので、魔法使いと言えば魔法使いである。
「ムサシ……」
「や!」
「ほら、その体格でデカイ武器使うとかってある意味魔法じゃないかな? ってお兄ちゃんは思うんだ」
「や!」
「日曜の朝にやってたアニメにも、なんか鈍器を持った魔法少女がいたような」
「いない!」
「ムサシ?」
「お兄ちゃんはこの可愛い妹がガチムチの筋肉ダルマになってもいいの? おで、おで、人間じゃなぐなっだ。とか言ってもお兄ちゃんはご飯作ってくれるの? 十歳の妹がドラゴンフラッグをやっていても優しく接してくれるの?」
「お前お兄ちゃんのキャラをどんな目で見てたんだ?」
凄い拒否反応を見せるムサシに困り果てた小次郎は、筋肉職三枚の短冊を並べながら溜息を吐いた。
丁度その時神殿の外からどかどかと荒い足音が響き、バタンと神殿のドアが開いた。
ムサシが短冊に書いた四つのジョブを小次郎に見せる。
ムサシがゲーム内で獲得したジョブは四つある。
ゲームを始めたばかりの頃、魔法少女にこだわるムサシが獲得した。「ウィザード」攻撃魔法主体のジョブである。
レベル二十で獲得したジョブが「プリースト」魔法主体であるが、ヒールや状態異常解除に重きを置いた回復職。
サードジョブが「エンチャンター」魔法主体であるが、主に自分や仲間に対する強化魔法と、敵に対する弱体化魔法を極めた魔法職。
そしてこの三つのジョブを極める事により、統合されたのが「大魔導師」と言う統合ジョブであり、前述した全ての魔法を使用する事の出来る上位ジョブである。
廃人プレイヤーは皆上位ジョブを目指してプレイしていると言っても過言ではない。
「でも初期のファーストジョブからブザーが鳴っていただろ? そろそろ現実を見ようなムサシ」
小次郎が書き記した短冊に書かれているのは「高校生」「会計士」「公務員」だった。
「お兄ちゃんは夢が無いよ……」
ムサシは大きく肩を下げて溜息をついた。
それからはムサシと小次郎の短冊との闘いが続き、そろそろ夕食を求めてお腹が減り始めた頃になり、小次郎が何度目かのトイレに向かった時であった。
神殿内では見張りの兵士が外れている事から、屋内の来賓用のトイレを使う事をモームから勧められていたので、来賓用の廊下を歩いているとボソボソと話し声が聞こえて来た。
小次郎は高校生ながら苦労人なので、自分達の置かれている微妙な立ち位置を理解していた。来賓用の廊下を使用している事で、咎められる危険を察知して、素早く廊下に飾られている装飾用の甲冑の影に身を潜めた。
「……まったくあんなひ弱そうなガキ共を当てにする位なら、農家のガキでも拾って来て、戦場で走らせておいた方がよっぽど役に立ちまする」
「祝福すらままならないとは、予想外であったな。さっさと殺して敵国の仕業にしてしまった方が、民衆の士気は高まるかもしれんのう、旗頭にする為に娘の方は、幼女趣味のある変態商人の嫁に出せば、資金の心配もなかろうて」
「神の止まり木を犠牲にして、あんな外れを引き当てるとはまったく……とんだ誤算でしたな」
「今夜からでも引き離して、娘の方はそっちの教育でも施した方が良かろうな」
「御意に」
カツカツと廊下を歩く音が響き、数人の気配が遠ざかった頃合いを見て、甲冑の影から顔色を真っ青にした小次郎が、足早に神殿へと向かって行った。
「ムサシ!」
小次郎がどうにもよろしくない情報を神殿に持ち帰り、ムサシを探す。
「お兄ちゃん、これって思うんだけど短冊を一枚づつ使うんじゃなくて、三枚一度に使えば良いんじゃないかな?」
「いや、それどころじゃないぞ、ここから逃げようムサシ」
小次郎が廊下で聞きかじった内容をムサシに告げると、ムサシは暫し考えこむと、短冊を白台に並べ始めた。
「ムサシ、そんな事をしている場合じゃない、早く逃げなきゃ」
小次郎が苛立ちながらムサシの手を引こうとすると、ムサシは振り向かずに小次郎の言葉を遮り、自分の考えを喋り始めた。
「逃げるって言ってもどこに? ここは王宮だよ? 騎士団の兵士も沢山いるんだよ、下手に逃亡をしたらそれこそ平気で殺されちゃうよ、ムサシ達はこの世界じゃ祝福をもらわなきゃ逃亡すら難しいんじゃないかな? だから、だから、生き残る為に今やらなきゃいけない事はジョブクエのエラーをなんとかするのが最善だと思うんだよ」
ムサシは「ウィザード」「プリースト」「エンチャンター」の短冊が並んだ白台に手を叩きつける様に置いた。
「ブブー……」
「今ので祝福が貰えていたら最高にカッコ良かったなムサシ……」
ムサシの顔はみるみる真っ赤に染まって行った。
「ぐぬぬ……ま、まあ逃亡は朝のおっちゃん達を頼ろうと思ってたんだよ」
「妥当な線だな、俺もそう思ってた」
小次郎が脱力して白台に寄り掛かる様に手をついた瞬間、白台が光り始め「ピンポーン」と言う音が鳴り響き、続いて音声ガイドが鳴り始めた。
「サードジョブの最適化とジョブの統合化を開始します」
「え?」
ムサシは呆然として小次郎を見ている。
小次郎は予期せぬ事態と、体の中と頭の中身が作り替えられる様な奇妙な感覚にブルブルと震えていた。
小次郎の時間間隔で十分、実際には二分程で最適化が完了したらしく、白台からまた機械音声で「ジョブの統合化が正常に完了しました。統合ジョブは大魔導師となりました」と言う音声が流れた後に小次郎が膝から崩れ落ちた。
「お兄ちゃん? お兄ちゃん大丈夫?」
ムサシが小次郎に駆け寄り、小次郎の体を揺さぶる。
「あ、ああ平気だけど、ジョブエラーが直ったのはいいけど……」
「なんでお兄ちゃんが魔法少女に……」
「お兄ちゃんは少女じゃないぞ」
小次郎が少し考えこんで、ゆっくりと話しだす。
「ムサシ、お兄ちゃん考えたんだけどな……」
「聞きたくない」
ムサシが頬を膨らませ、ぷいっと背中を向ける。
「こっちに転移をした時にひょっとして、俺とムサシが入れ替わったんじゃないかと」
ムサシが耳を塞いでうずくまる。
「お兄ちゃんと私が、入れ替わるって……そんなそんな」
うずくまっていたムサシががばりと立ち上がり、スカートの中に手を突っ込み呟いた。
「ついてない……」
「お兄ちゃん、そう言う下品な冗談は嫌いだな、現実を見ようなムサシ」
小次郎が掌からふわりと光の玉を飛ばすと、短冊が散乱している書台の上に固定させた。
散乱している短冊の中から小次郎が拾い上げたのは、小次郎のゲームキャラが修めていたジョブだった。
ファーストジョブ「ウォリアー」魔法は使えないが類稀な防御力と生命力を持つガチファイター、ムサシがウィザードと言う物理防御が全く無いジョブに就いた為に、しょうがないので小次郎が選んだジョブである。
セカンドジョブ「ワイルドナイト」魔法は全く使えないが、類稀な攻撃力とスピードを誇るガチファイター、ムサシがプリーストと言う防御力の無いセカンドジョブに就いた癖に、広範囲魔法での無差別攻撃に酔いしれる困った悪癖の為に、しょうがないので小次郎が選んだジョブである。
サードジョブ「バーバリアン」これまた魔法は使えないのだが、類稀な武器防具との相性を持ち、手に持てるアイテムは全て武器に変える非常に雑なガチファイター、ムサシがエンチャンターと言う身体強化魔法を使えるジョブに就いてくれたのはいいが、ドラゴン退治に行きたいと言い出して、武器破壊属性魔法を持つドラゴンに対抗出来うる唯一のジョブがこれだったので、しょうがないので小次郎が選んだジョブである。
そして統合された上位ジョブが「重戦士」上記の特徴を全て持ち合わせた非常に雑なガチファイターである。
ちなみにレベル六五からボーナスとして、周りを明るく照らす「ライト」と、最後に立ち寄った町に戻る「帰還」の魔法はおまけで付いてきたので、魔法使いと言えば魔法使いである。
「ムサシ……」
「や!」
「ほら、その体格でデカイ武器使うとかってある意味魔法じゃないかな? ってお兄ちゃんは思うんだ」
「や!」
「日曜の朝にやってたアニメにも、なんか鈍器を持った魔法少女がいたような」
「いない!」
「ムサシ?」
「お兄ちゃんはこの可愛い妹がガチムチの筋肉ダルマになってもいいの? おで、おで、人間じゃなぐなっだ。とか言ってもお兄ちゃんはご飯作ってくれるの? 十歳の妹がドラゴンフラッグをやっていても優しく接してくれるの?」
「お前お兄ちゃんのキャラをどんな目で見てたんだ?」
凄い拒否反応を見せるムサシに困り果てた小次郎は、筋肉職三枚の短冊を並べながら溜息を吐いた。
丁度その時神殿の外からどかどかと荒い足音が響き、バタンと神殿のドアが開いた。
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