連載だよ! 魔法少女ムサシちゃん

八田若忠

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マウレツェッペ

1-4 殺し合い

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「このだだっ広い城壁の外に出ちまえば何とでもなる。騎士団正規兵は城下町には降りて来ないからな」

 オックスは小次郎達を連れて傭兵詰所へと向かい、詰所手前の藪の中で小次郎達を潜ませた後に、詰所へと入って行く。

「ねぇ、お兄ちゃん」

 藪の中でムサシが小声で小次郎に話しかけて来るので、小次郎が振り向くと。

「コソコソしているけど、チート解放状態なんだから、俺tueeeって堂々と出て行けば良いんじゃ無いかな?」

 ムサシが疑問を投げかけると、小次郎が腕を組んで座り込む。

「派手に動くと沢山の人を呼び寄せる事になるし、強いからと言って暴力に物を言わせていると、きっとロクでも無い事になると思うんだ。それに出来るだけ人は殺したくないよ俺は……」

 ムサシは小次郎を見てニヤニヤと笑うと、腕に抱きついた。

「お兄ちゃんは乙女ですにゃー、しょうがないからムサシが守ってあげるよ」

 小次郎が一瞬顔を赤らめて反論する。

「乙女ってなんだよそれ! ムサシにだって出来るだけ人殺しはさせたくないよ、それに人を殺さなくたって、あんなに良い人達と出会えるんだから」

 小次郎が指差した先には、木で出来た傭兵詰所から顔を出し、必死に手招きをしているオックスが居た。

「そだね、だけどお兄ちゃんが死ぬか、誰かを殺すかってなるとムサシは迷わないよ」

「その時は俺も迷わず殺すさ……」

 現代日本における高校生と、小学生には重過ぎる誓いを交わした二人は、オックスが手招きする詰所へと低い姿勢のまま移動した。

「汚い所だが取り敢えず入ってくれ」

 オックスに促され二人が中に入ると、数十人いる傭兵達が皆、鼻の頭を真っ赤に染めて涙をこぼしていた。

「兄さん、よう頑張ったな!」

「ヒョロイ癖に男だな兄さん!」

「俺達に任せておけ、兄さん!」

 口々に兄さん呼ばわりする傭兵達は、どう見ても三十路を数年前に迎えている見た目だが、小次郎は突っ込めずに困惑するばかりだった。

「どんな説明をしたんですかオックスさん?」

「全部だよ、わかってる! 何も言うな!」

 オックスは涙ぐみながら小次郎の肩を叩く。

「城下町で数日は大丈夫だと思うが、問題はその後だな……追っ手がかかる筈だ。町からは出た方が良いな、旅装とかも揃えて、後は用心棒を雇わねぇとお前らだけじゃ心配だな」

 オックスが心当たりに考えを巡らせるが、溜息しか出ない。

「おっちゃん、用心棒は平気だよ、ムサシは魔法少女だからね」

「なに?」

「え?」

 オックスと小次郎が同時に驚く。

「ムサシちゃんは魔法が使えるのか?」

「ん、んーまーね、ほとんど使えるって言っても過言ではないかな?」

 ムサシの視線がキョドキョドと忙しなく動き出す。

 小次郎は知っていたが、ムサシが嘘をついた時に出る癖であった。

「ほほう……じゃあ何か、おじさんにも見せてもらおうかな?」

 子供の虚言に慣れているらしいオックスが、ムサシの視線の高さまでかがみ込んで視線を合わせる。

「ひ、ひーーーーーる?」

 ムサシが小次郎に向かって、パチパチとウインクをしながら、オックスの傷だらけの顔に手を当てる。

 小次郎は溜息を吐きながらも、オックスの顔に向かって小声でヒールを唱える。

「わはは……は、は?」

 すっかり子供特有の可愛い虚言だと思い込んでいたオックスが、ムサシの手が離れた瞬間に、目を見開き呆然とする。

「目が……右目が見えやがる」

 オックスが自分の手のひらを睨みつけ、ワナワナと震えだし、傭兵達もざわざわとし始めた。

「あ、えーと、オックスさんの目は深い傷が入って見えなかっただけで、欠損してた訳じゃ無かったから、容易に直せたんじゃないかな?」

 小次郎が空気を読んで傭兵達を落ち着かせた。

「俺達傭兵はな、兄さん」

「小次郎です……」

「俺達傭兵は身体の一部が使えなくなったら、次の戦争は生き残れる確率ががくりと減るもんなんだ。それが目や耳となると絶望的だ。それをいとも簡単に治しちまうなんて……王族に囲われた高位治療師並の腕だ……ありがとう、ムサシちゃん、命の恩人だ」

 オックスが地面に手を付けて、真面目な面持ちで礼を言って来た。

 そもそもムサシ達がプレイしていたゲームにおける、回復魔法とは「全快」をさせる為の回復魔法である。「全快」させるまでにMPをどれだけ使用するかが、回復魔法の使い手の腕の見せ所であるので、部位欠損も含まれているどころか、「リザレクション」と言う死んだ人間を一定時間内に限り、生き返らせる魔法も小次郎は使用する事も出来るのだ。ゲーム内では使用頻度の少ない魔法であるが、現実世界に当てはめると出鱈目すぎるゲーム魔法に小次郎はぶるりと身震いをした。

「え? えへ、うえへへへ」

 デレデレに照れたムサシがくねくねと体をよじらせて、小次郎の手を引いて椅子に座らせると、小次郎の膝の上にチョコンと座ると手を振り上げた。

「さあ! 魔法少女ムサシに癒されたいおじさんは並ぶんだよ!」

「お、おいムサシ……」

 何かを言いかけた小次郎の膝のお皿を、ムサシがガリっと掴み上げる。

「何でも無いです」

 つやつやテカテカのご機嫌ムサシの尻に敷かれた小次郎は、周りに悟られぬ様にブツブツと回復呪文を唱える機械になった。

「耳が聞こえる!」

「腕が上がるぞ!」

「膝が曲がるぞ!」

 傭兵達は解雇を恐れて、普段から身体の不調を悟られ無い様に振る舞っていたが、殆どの者が満身創痍だった。

 故に次の戦争では死を覚悟していたのだが、思わぬ所で命を拾った彼等は、飛び上がらんばかりに喜んだ。

「おい、お前ら! ムサシちゃん達はこれから国を跨ぐ様な旅に出る。魔物対策や盗賊対策はムサシちゃんに任せておけば良いが、取り敢えず城の外までは俺達の力が必要だ。協力してくれ!」

 オックスがタイミングを見計らい、最高のタイミングで傭兵達を焚きつけた。

「俺達傭兵の軽い命を救ってくれた聖女様の逃避行だ! ここで命を張らなきゃ男じゃねぇぜ!」

 盛り上がりを見せる傭兵達とムサシの横で一人小次郎が「城壁に小さく穴を開けて、そっと出て行きたいなあ」と考えていたが、空気を読んで黙っていた。


***************************************************************************




「殺してやる……殺してやるよ!」

 傭兵詰め所の中で荒くれ達に見守られた傭兵二人が、武器を持ち出し一触即発の緊張感を振りまいていた。この二人は城を脱出する作戦の役割について、お互いに譲らない姿勢から殺し合いにまで発展している状態であった。

 歴戦の勇姿である二人の殺し合いは熾烈を極め、彼らの人生におけるベストバウトに数えられる程の闘いにまで発展していた。

「仲間内で殺し合うのはしのびねぇが……これだけは譲れねぇ、譲れねぇんだ!」

 傭兵団で一番と名高い怪力の持ち主ベフが、静かな闘志を漲らせて巨大な斧を構える。
「お前と本気でやり合うのはいつ以来だったかな……いつも手加減してやっていたから覚えてねぇや、今回は手加減は出来ねえぜ」

 傭兵団で一番の斥候暗殺術の達人ビルクが両手でダガーを構えた。

「あばよ、お前と飲むのは結構楽しかったぜ」

「お前のボトルは俺が頂いておくぜ」

 二人の剛の者は目を血走らせ、ジリジリと二人の間合いを詰める。

「もー! ムサシは誰でも良いんだよ! 早くして欲しいかな!」

 大ぶりで、丈夫そうなリュックサックの口から顔を出したムサシが、不満そうな顔で怒っている。

「まったく、何してやがる置いて行くぞ!」

 オックスがムサシの入ったリュックサックを軽々と背負い、その背中に背負う。

「うおわ! 高い、高いんだよこれは!」

 オックスの背中でムサシがはしゃぎ出す。

「お頭! それは無いぜ! ムサシちゃんを担ぐのなら、命をかけた決闘が先だ!」

「いくらお頭でもそのリュックサックは譲れねえな、暗闇は俺のフィールドだ。いつでも首を落とす事は出来るんだぜ、それを覚悟しての狼藉かい?」

 二人の殺気を一身に受けてオックスは猛獣の笑みを携え、更に濃い殺気を振りまく。

「ムサシちゃんに嫌われる覚悟の有る奴は、いつでもかかってきな、俺はいつでも受けて立つぜ……なぁ? ムサシちゃん? あんなバカなおっちゃん達は放っておいて、オックスおじさんと一緒がいいもんな? さあさあ、出発だあ!」

 オックスはスキップ混じりの足取りで、傭兵詰め所のドアを蹴破り表に出て行った。

「ムサシちゃんに嫌われるのは、嫌だな……」

「お、おう……行こうぜお兄さん」

「は、はい小次郎です……」

 先程まで火花を散らすような殺し合いをしていた二人と、殺気に充てられて足下がふらふらになった小次郎は、留守番を言い渡された残りの傭兵達に見送られ、傭兵詰め所を後にする。

 留守番の傭兵達は全員揃って顔を大きく腫らしていたが、留守番を決める際にも一悶着あったのだが、ここでは割愛しておこう。
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