1 / 4
一話
しおりを挟む
思えば誤魔化しの多い人生だった、何処から自分を誤魔化し始めたのだろうかと考えてみたが恐らくは最愛の女房と娘が乗った乗り合い馬車が山賊に襲われたと聞き襲撃現場に向かう馬の背中の上から始まったのでは、無いだろうか……現地に着いたら俺に抱き着きどれだけ怖かったか、どれだけ危なかったかをいつもみたいに舌ったらずな口調で堰を切ったように喋り出す女房をどうやって宥めるようか、恐ろしい体験をしたまだ乳飲み子の娘は今夜寝付けるのだろうか、などと現実から逃避して自分を誤魔化しながら貸馬の背中に乗り手綱を握り締めていた。
現地に着いた俺は道路一面に広がるどす黒い染みを視界に捉えながらも自分を誤魔化し女房と娘を探していた。
道路一面に広がるどす黒い染みは凄まじい血臭を放ち辺り一帯の虫やそれを狙う小動物まで誘き寄せていた。
ズタズタに裂かれた馬車と大型モンスターに内蔵を綺麗に食べ尽くされた馬の死骸とびっしりと虫の集った赤黒い何かの塊、俺は必死に女房と娘を探し続けるが現地の処理に当たっていた騎士団の連中は首を横に振るだけで何も言わなかった。
それでも諦めずに探し続ける俺を見兼ねた騎士団の一人が俺を殴りつけ赤黒い虫の塊の前に引きずって行き引き倒した、倒された衝撃で集っていた虫が一斉に空を飛んだ、何処までも澄んだ青い空に虫達が集っているようだった、誰かの慟哭が遠くに聞こえた気がしたが虫の羽音のせいで誰の慟哭かは解らなかった。
襲撃現場はエンガルと言う田舎町からほど近い商業道路だった筈だ、心配してくれた騎士団の若い兵士にこのままキタミスの町に帰ると告げてエンガルの町の近くにある森の中で一晩中泣いていた記憶がある。
何故女房が、何故娘が、何故俺だけが、答えの出ない問いがぐるぐると頭の中に張り付き離れない、疲れ果てて横になると虫の羽音が頭の中に木霊してまた誰かの慟哭が遠くに聞こえた。
次の日の夕方近くまで、いや、数日間森の中に居たのかもしれない、女房と娘を探す為に街道に出ると田舎町の風景が眼下に広がっていた、恐らくエンガルの町だろう、女房と娘に呼ばれた先に向かうと町外れの一軒家に二人の笑い声が聞こえた。
薄暗い家屋に入り込み二人の名を呼ぶとあんなに愛した女房は俺の知らない顔と声で俺を拒否した、どれだけ心配したのか、どれだけ探したのかを力説しても女房は俺の知らない顔で出て行って欲しいと懇願した。
俺の知らない女房はそのうち虫の羽音を立て始めまだ乳飲み子の娘を自分の懐に抱え出したので娘を救う為に仕方なく持っていた斧で女房の羽音を止めた。
娘を救い出し森の中に戻り娘の顔見ると寝息を立てているようだった、月明かりに照らされスヤスヤと眠る娘の顔を見ているうちに後悔のせいか、恐ろしさのせいか、涙が溢れて止まらなくなっていた。
こんなに可愛い娘が虫の羽音を出すのが怖くて音が出る前に首を締めた時、溢れた涙が娘の柔らかい頬に落ちて娘が目を覚ました、月明かりの下ニコニコと笑う娘の産着には赤い文字で「エリー、君の笑顔の為に」と刺繍が施してあった、赤黒く汚れた俺の手の中で天使の様な笑顔を見た途端、あれだけ煩かった虫の羽音がぴたりと止んで、自分の犯した恐ろしい行為に嘔吐した。
泣きながら蹲る俺の頬を優しく柔らかい手が触れ、立ち上がる力をくれた気がした。
これは全て誤魔化しだったのだろう。
「君の笑顔の為に……」
エリーを連れ帰った俺は自分の子供としてエリーを育て、自分の知るべには孤児院からのもらい子として誤魔化した。
エリーの笑顔の為に俺は何でもやった、ハンター登録をして日帰りの距離だけの限定依頼を山の様にこなした、エリーを寂しがらせぬ様に。
エリーが五才になった頃ギルドの緊急依頼で仕方なく一泊二日の依頼を受けた、近所の知り合いの奧さんに預け行った先は、エンガルだった。
エンガルギルド合同の依頼だったのでそれとなく探りを入れるとアレックスと言う男が女房と娘を当時暴れ回っていた山賊に殺され、あの一軒家に一人で住んでいるらしかった。
全てを打ち明け謝罪をして命を差し出したかった、家に帰り着きエリーが俺の胸に縋り付き留守番の報告と笑顔を俺に見せるまでは、エリーの笑顔の為、俺は地獄の門番すら誤魔化す気でいた。
エリーに片親故の不憫さを感じさせない為に日帰り限定ならば、どんな地獄にでも足を踏み入れた。
エリーが十六歳になった時俺は毒蛇の群れに襲われ致死量である毒を食らった、成人の祝いを贈る為に無理をしたのか、油断したのか、地獄の門番を誤魔化しきれなかった様だ。
家に帰りつき心配顔のエリーに成人の祝いである首飾りと、震える手で書いたこの手記と、産着を託す。
「エリー、笑っておくれ、俺は君の笑顔の為に……」
現地に着いた俺は道路一面に広がるどす黒い染みを視界に捉えながらも自分を誤魔化し女房と娘を探していた。
道路一面に広がるどす黒い染みは凄まじい血臭を放ち辺り一帯の虫やそれを狙う小動物まで誘き寄せていた。
ズタズタに裂かれた馬車と大型モンスターに内蔵を綺麗に食べ尽くされた馬の死骸とびっしりと虫の集った赤黒い何かの塊、俺は必死に女房と娘を探し続けるが現地の処理に当たっていた騎士団の連中は首を横に振るだけで何も言わなかった。
それでも諦めずに探し続ける俺を見兼ねた騎士団の一人が俺を殴りつけ赤黒い虫の塊の前に引きずって行き引き倒した、倒された衝撃で集っていた虫が一斉に空を飛んだ、何処までも澄んだ青い空に虫達が集っているようだった、誰かの慟哭が遠くに聞こえた気がしたが虫の羽音のせいで誰の慟哭かは解らなかった。
襲撃現場はエンガルと言う田舎町からほど近い商業道路だった筈だ、心配してくれた騎士団の若い兵士にこのままキタミスの町に帰ると告げてエンガルの町の近くにある森の中で一晩中泣いていた記憶がある。
何故女房が、何故娘が、何故俺だけが、答えの出ない問いがぐるぐると頭の中に張り付き離れない、疲れ果てて横になると虫の羽音が頭の中に木霊してまた誰かの慟哭が遠くに聞こえた。
次の日の夕方近くまで、いや、数日間森の中に居たのかもしれない、女房と娘を探す為に街道に出ると田舎町の風景が眼下に広がっていた、恐らくエンガルの町だろう、女房と娘に呼ばれた先に向かうと町外れの一軒家に二人の笑い声が聞こえた。
薄暗い家屋に入り込み二人の名を呼ぶとあんなに愛した女房は俺の知らない顔と声で俺を拒否した、どれだけ心配したのか、どれだけ探したのかを力説しても女房は俺の知らない顔で出て行って欲しいと懇願した。
俺の知らない女房はそのうち虫の羽音を立て始めまだ乳飲み子の娘を自分の懐に抱え出したので娘を救う為に仕方なく持っていた斧で女房の羽音を止めた。
娘を救い出し森の中に戻り娘の顔見ると寝息を立てているようだった、月明かりに照らされスヤスヤと眠る娘の顔を見ているうちに後悔のせいか、恐ろしさのせいか、涙が溢れて止まらなくなっていた。
こんなに可愛い娘が虫の羽音を出すのが怖くて音が出る前に首を締めた時、溢れた涙が娘の柔らかい頬に落ちて娘が目を覚ました、月明かりの下ニコニコと笑う娘の産着には赤い文字で「エリー、君の笑顔の為に」と刺繍が施してあった、赤黒く汚れた俺の手の中で天使の様な笑顔を見た途端、あれだけ煩かった虫の羽音がぴたりと止んで、自分の犯した恐ろしい行為に嘔吐した。
泣きながら蹲る俺の頬を優しく柔らかい手が触れ、立ち上がる力をくれた気がした。
これは全て誤魔化しだったのだろう。
「君の笑顔の為に……」
エリーを連れ帰った俺は自分の子供としてエリーを育て、自分の知るべには孤児院からのもらい子として誤魔化した。
エリーの笑顔の為に俺は何でもやった、ハンター登録をして日帰りの距離だけの限定依頼を山の様にこなした、エリーを寂しがらせぬ様に。
エリーが五才になった頃ギルドの緊急依頼で仕方なく一泊二日の依頼を受けた、近所の知り合いの奧さんに預け行った先は、エンガルだった。
エンガルギルド合同の依頼だったのでそれとなく探りを入れるとアレックスと言う男が女房と娘を当時暴れ回っていた山賊に殺され、あの一軒家に一人で住んでいるらしかった。
全てを打ち明け謝罪をして命を差し出したかった、家に帰り着きエリーが俺の胸に縋り付き留守番の報告と笑顔を俺に見せるまでは、エリーの笑顔の為、俺は地獄の門番すら誤魔化す気でいた。
エリーに片親故の不憫さを感じさせない為に日帰り限定ならば、どんな地獄にでも足を踏み入れた。
エリーが十六歳になった時俺は毒蛇の群れに襲われ致死量である毒を食らった、成人の祝いを贈る為に無理をしたのか、油断したのか、地獄の門番を誤魔化しきれなかった様だ。
家に帰りつき心配顔のエリーに成人の祝いである首飾りと、震える手で書いたこの手記と、産着を託す。
「エリー、笑っておくれ、俺は君の笑顔の為に……」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる