シャ・ベ クル

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人間ドール開放編

第十八話 ニコライVSニコライ

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 ニコライは正実の倉庫まで来ると、善光は先程依頼をしてきた男性を指差して言った。

「”あの人が依頼してきたんだ。”」

依頼人の男性はニコライの姿を見るとギョッとして目を見開いた。
ニコライは

「”よお。俺の弟を倉庫に入れたって?”」

とフレンドリーに話しかける。
男性は焦って善光達に

「なぜ言ったんだ!彼はこの店の主とグルと…!」

と言うが、ニコライは言った。

「”先輩はお前等に渡さねえよ。”」

すると男性は視線をニコライから逸らし

「”おい!中にあの女がいるか探せ!!”」

と言い放つと、近隣の店からバラバラと人が出てくる。
出てきた十人ほどの男達は正実の店の近くまで来るが、ニコライが店の前に立った。

「”お前ら全員、業者の下っ端か。”」

ニコライが言うが、依頼主は

「”あの男など抑えろ!傷つけても構わない!”」

と言う。
依頼主の発言に善光は

「はぁ!?」

と驚き、ヴァルヴァラは流れが全く読めずに呆然としていた。
勿論瑠璃は見ているだけ。
男達はニコライに襲い掛かると、ニコライはガラスの槍を振り回し男達の進行を妨げる。
そしてニコライは言った。

「”おいお前達!中のロディオンを引っ張り出せ!!早く逃げろ!”」

そう言われた善光は

「”わかった!”」

と急いで店の中に入ろうとするが、店の前で誰かとぶつかる。
善光はぶつかった相手を見ると、それはニコライに変装したままのロディオン。
後ろには勿論、ニコライの先輩がいた。

「あ…?誰だ?俺のシルクロードを荒らす奴は。」

ロディオンの言葉に善光は無表情になると

「何がシルクロードだよ。ニコライはそんな発言しないだろ。」

と言い、ロディオンは笑って

「まずシルクロードを知らなさそ~う!」

と言ってニコライの横に来る。
ニコライはロディオンを二度見してから小声で「”あー驚いた。”」と言うと、ロディオンは言った。

「”ここの人追い払うなら俺も手伝うぜ?ニコライ。”『武道』”でイチバンのロディオンが!”」

ロディオンが笑顔を見せると、ニコライは

「ぶどう…?”『レーズン』パイだと?昼飯の話は後でにしてくれ。”」

と話が噛み合っていない。
善光は

「”『葡萄』じゃねぇよ!ニコライの頭には飯しかねぇのか!”」

とツッコミを入れる。
ロディオンはニコライを笑うと、ニコライに言った。

「”なあニコライ。キーホルダーの話しさ、もう一ついいか?赤い風見鶏も一つ追加しといてくれ。”」

ニコライは軽く溜息をつくと

「”仕方ねえな。”」

と言い、目の前の男達を指差す。

「”沢山倒した方が勝ち!お前が勝ったら赤ワイン色の風見鶏追加!俺が勝ったら昼飯を奢れ!”」

善光のツッコミは止まらず、遂にはニコライに向かってペンを指してしまう。

「”だからなんでお前の頭には飯しかねぇんだよ!”」

するとニコライは微笑んだ。

「”人の金で食う飯は最高だぜ。”」

「わかる…!」

善光は悔しそうな顔をして、もどかしい気分になりながらも同意。
ロディオンは

「”わかった。”」

と承諾した。
するとニコライは

「”よし、商談成立。…レーズンパイのいい香りがする未来が見えるぜ俺には!!”」

と意味のわからない事を棒を構えて言うので、善光は呆然とツッコミを入れるのも忘れてしまう。
そしてロディオンもカツラを外して言う。

「俺にもニコライとキャッキャウフフする未来が見えるぜぇ~!!」

「お前はまた妄想してんのか!」

善光はロディオンにならツッコミを入れる事ができるようだ。
相手の男性陣が襲いかかってくると、ニコライは先陣を切りガラスの槍の尖ってない部分で男の腹を殴る。
男は怯んでしまうと、ニコライはそのまま蹴飛ばして地面に倒してしまった。

「”チッ、素材にもならねえゴミだな。”」

ニコライはそう吐き捨てて次に向かった。

ロディオンは二人同時に襲われており、華麗に避ける。
ロディオンは男性二人が殴りかかった後の隙を見て、二人の顎をそれぞれ拳で殴った。
すると男性二人は目を回して気絶してしまい、倒れそうになる二人をロディオンは支えてあげる。

「”…ごめんな…”」

ロディオンは二人に謝ると、何かに気づいた。
一人の男性の体に顔を近づけると

「興奮するフェロモンだ…!」

と呟くので、善光は顔に手を当てて

「お前、本当に男でも女でもいいんだな…」

と呆れ顔。
瑠璃も顔を引き攣りながら

「かっこわるい。」

と感想を言うのであった。
ニコライは男達を一人一人倒しながら

「”コイツもゴミ、コイツも。素材にならねえなお前ら!”」

と言うので、善光は黙り込む。

(なんなんだこの兄弟…)

善光はそう思いながらも、戦いが終わるまで待つ事に。

ロディオンは男の臭いに夢中になっていたので、背後から近づく別の男に気付かなかった。
ロディオンは気配を感じて後ろを振り返ったが遅く、刃物を持った男性に刺されそうになる。
しかし、横槍を入れるようにニコライがその男性の手をガラスの槍で刺した。

「ウワァッ!!」

落ちる刃物、男性の手から滲み出る血。
ロディオンは顔を真っ青にして

「”ニコライ!何をしてるんだ!”」

と叱る。
ニコライは

「”あ?死にてえのかロディオン。”」

と冷静な様子を保ったまま。
ロディオンはニコライの方を見ると、ロディオンはニコライの肩を見て絶句した。
ニコライの肩からは血が滲んでおり、服は先程ニコライが刺した男性の刃物と似た形に破けている。
それだけではない。ニコライは幾つか殴られた形跡もあり、相手と接戦している事を匂わせる。

「”ニコライ!その肩…!”」

とロディオンは心配すると、ニコライは

「”あ?一回刺されただけだ。”」

と平気そうだ。
ロディオンはニコライの傷を見つめ、次に他の男性陣を軽く睨む。

「”すぐ終わらすからな。”」

ロディオンはそう呟くと、男性陣に勇ましく向かっていった。



 数分後、戦いは終わり、相手は二人の強さに圧倒されて逃げてしまった。
大きな勝因と言えば、怪我したニコライを見たロディオンが戦いに本気になった事だろう。

「”くっ…まさかロディオンに!次は絶対に勝つ!”」

ニコライは、ロディオンがほぼ全ての敵を倒した事を悔しく思っていた。
ロディオンはニコライを心配して

「”大丈夫…?怪我…早く手当に行こう…?”」

と聞くが、ニコライは勝負に負けた事を気にしていて何も答えてくれなかったとさ。



 こうしてロディオン達はガラス細工屋に戻り、ニコライからお求めの物を貰う事に。
ロディオンはニコライの肩の包帯が気になる。
先程の怪我は重症ではないものの、ロディオンにとっては大きな傷となったのだろう。
ロディオンはニコライの先輩に

「”先輩はこれからどうするの?”」

と聞くと、ニコライの先輩は微笑んで言った。

「”ニコライに匿ってもらうのよ。昔からずっと匿ってもらってるから。”」

ロディオンは

「”そうなんだ!”」

と悔しいながらも無理に笑顔を見せると、そこにニコライがやってきた。

「”ほら、緑と青と橙と白と赤の風見鶏。”」

と、ニコライは五色のガラスのキーホルダーをロディオンに渡した。
ロディオンはその風見鶏に目を輝かせると

「ウラー!”ありがとうニコライ!!”」

と言ってから、善光達の元へ行く。
善光は

「上手いな。」

と風見鶏の出来栄えを褒めると、ロディオンは善光に橙色の風見鶏を渡した。

「え?」

善光は言うと、

「部員の印!ほら、瑠璃にもやるよ。」

とロディオンは瑠璃に青の風見鶏を渡す。
瑠璃はその風見鶏を持つと目を輝かせ

「綺麗だな。」

と感心、どうやら気に入った様子だ。
ロディオンは緑の風見鶏と白の風見鶏はポケットにしまう。

「白はセオーネの、緑は俺の。」

善光はロディオンの手にある赤い風見鶏を見て

「じゃあその赤いのは?」

と聞くと、ロディオンはニコライを見て言った。

「ニコライの!」

『はぁ!?』

と、一同は驚いた。善光は

「ニコライは部員じゃないだろ!」

と言うが、ロディオンは笑顔で言う。

「”ニコライ!日本に来いよ!”」

しかしニコライは即答で

「”ヤダ。”」

と言うので、ロディオンは詰め寄った。

「”なんで!”」

ニコライも詰め寄ると言う。

「”俺には仕事がある。お前らの遊びに付き合ってる暇はねえ。”」

「”ニコライ!”」

しかしニコライは

「”俺は言った事は曲げねえからな。”」

と言った。
ロディオンはムッとした顔を見せ、少しの間黙る。

「”…わかったぜニコライ。でも、これだけは受け取ってくれ。俺の気持ちだ。”」

と、風見鶏をニコライに渡す。
ニコライは風見鶏を受け取るとった。

「”仕方ねえ。”」

ロディオンは少し虚しそうな顔を見せながら

「”ありがと…ニコライ…”」

と呟く。

「”湿気た顔すんじゃねえよ、じれってえ。”」

ニコライは言い、無愛想な顔を見せた。
そんなニコライの顔にロディオンは笑ってしまうと、善光達に言う。

「さあ帰ろうぜ日本に!」

善光は

「おう。」

と言い、ヴァルヴァラは

「わかりました。」

と言いつつニコライが気になるのか顔を伺っていた。
ニコライは一同に微笑むと言う。

「”行ってらっしゃい、ロディオン、ヴァルヴァラ。”」

それを聞いたロディオンは陽気に答えた。

「”行ってきます!ニコライ!”」

ヴァルヴァラは無愛想な顔になると、若干ぎこちなく

「”行ってきます。”」

と言うのだった。



 日本に帰宅して空港にて、ロディオン達はバスを待っていた。
善光は

「暇だな。」

とメモ帳に化学式を書いており、ヴァルヴァラは初めての日本なのでキョロキョロ。
ロディオンは公衆電話にて誰かに電話をかけていた。

「ああ正実ぃ」

とロディオンが電話相手に言うと、近くで見守っていた善光は吹いて

「なんで正実に電話なんか…!」

と言う。
ロディオンは笑顔で

「ニコライの先輩見つけたよ。うん。ニコライと一緒に故郷に帰っていったよ。
…でさあ…」

と、急にロディオンの表情が変わる。

「先輩狙ってるんでしょ正実。
ならさ、日本に連れて行けばいいじゃん?方法はさ、後日一緒に考えよ?」

善光は顔を引き攣ると

(コイツまさか…)

と思うと、ロディオンは笑顔で言う。

「場所教える代わりと言ったらなんだけどさ!ニコライも連れてきていいかな?
ほら、ニコライが日本に居たら、人形沢山作ってもらえるかもよ?」

(コイツ策士だ…)

と善光は思いつつその電話の行方を見守る。

「ありがと~!!正実大好き!チュ!」

とロディオンが言うと同時に善光は大きな溜息をつき

「コイツの謀には負けるな…」

と呟きつつ、

(つーか、人形コレクターの正実にニコライの先輩預けて本当に大丈夫か…?)

と考えていた。
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