シャ・ベ クル

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人間ドール開放編

第二十六話 日本での再開。

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 ロディオンと別れた後のニコライは、ヤクザの経営するスナックに足を運んでいた。
数時間前、スナック前で殺されそうになったニコライだがなんとか制圧した為、今は歓迎されている。
ロッキーはやってきたニコライに対して言う。

「終わったか?散歩。」

ニコライはカウンターに座ると

「さっき、弟に会った。」

と言うので、ロッキーは話に食いついた。

「ロディオンに会ったんか!?」

近くの本棚からニコライは『日本語入門』という教材を取り出すと、日本語の勉強を始める。

「んー、かくてるせっとください。」

ニコライは日本語を使いながらも、ロッキーの話を半分聞き流す様にスナックのマスターにカクテルセットを頼む。
するとロッキーはテーブルを強く拳で叩いて睨むので、ニコライは言った。

「話しして、ない。」

その言葉にロッキーは黙り込むと、ニコライの隣に座る。
ニコライの前にカクテルセットが置かれると、ニコライは近くに置いてある調味料から一つ取り出す。
それはなんと焼肉のたれだった。
ラベルにしっかり『焼肉のたれ』と書かれたその調味料。
ロッキーはまさかと思って見ていると、ニコライは焼肉のたれと酒を混ぜてカクテルを作る。

「嘘やろ…」

ロッキーは驚くべき光景に呟くと、ニコライは言った。

「”嘘じゃない。すぐ帰った。”」

ニコライはロディオンの話だと勘違いしたまま、話を続ける。
そしてお手製のカクテルを口にすると

「”おお!これは美味い!何の飲み物だ?”」

と焼肉のたれのラベルを読もうとするニコライ。
ロッキーは眉間にシワを寄せながらニコライを見つめていると、そこに一人の女性が歩いてきた。
この女性は先日ロッキーと会話していた女性だ。

「あらニコライ、お酒?血が止まらなくなっても知らないわよ。」

女性の言葉をマスターが翻訳してくれる。
ニコライは女性に気づくと

「”お前らがつけた傷だろ。”」

と言う。
ロッキーは頬杖をつくと言った。

「アンタには驚いたわ。まさかうち等を制圧するなんて。」

「ちょっとロッキー。あなたが人質に取られなかったらニコライを仕留められてたわ。」

女性とロッキーは会話をしていると、ニコライはマスターの翻訳を経て言う。

「”俺がこんな所で死ぬかよ。”」

更に翻訳を聞いた女性は笑ってしまうと、ニコライの隣に座る。

「素敵よ。」

そこでカウンターにいるマスターは女性に聞いた。

「『ラズベリー』、この兄さんはなんで歓迎される様になったんだい。ヤクザのスナックだぞここは。」

すると女性、ラズベリーが答える。

「彼面白いのよ?痛みを全く感じてないみたいなの。銃に撃たれても、ナイフで刺されても、平気そうな顔してるのよ。」

マスターは目を丸くすると言った。

「ほう。面白い兄さんだな。」

更にラズベリーは恍惚とした表情で続ける。

「人を傷つけるのにも躊躇いが無いの。片っ端から傷つけて、私達はそんな彼に惚れてしまったのよ…」

ニコライは焼肉のたれのカクテルを口にする。
ラズベリーは不穏な笑みを見せると言った。

「彼ならイイ『鉄砲玉』になれると思うの。迷子なんだし、ヤクザとして生かしてもいいと思わない?」

それを聞いたロッキーは微妙な表情。

「鉄砲玉って確か…ヤクザで言う使い捨ての下っ端ってところか?
不憫やなぁ…うちやったら殺し屋として育てるで。」

ロッキーの言葉に、ラズベリーはロッキーを睨んだ。

「ダメよ。こっちはサポートしてあげてるんだから、横から口挟まないでくれる?」

するとロッキーは面倒そうな表情をして言う。

「わかったわかった、好きにしい。」

マスターは言った。

「兄さんがいいなら、両方の世界を教えるって言うのもおもしろいねぇ。”殺し、やってみないか?”」

ニコライはマスターの顔を見ると言った。

「”俺は故郷に帰る。”」

そう言って席を立つと、店から立ち去ろうとする。

「待ってよニコライ。このまま帰すと思ってるの?」

とラズベリーは止めるが、ニコライは振り返らずに言った。

「”知り合いに会うだけだ。”」

ニコライはそう言うと、店を出て行ってしまう。
ラズベリーはロッキーに視線で合図を送ると、ロッキーはニコライの後をつけるのであった。



 正実の家では、ヴァルヴァラが自室で窓の外を眺めながらボーッとしていた。
すると、正実の屋敷に走ってくるロディオンの姿を見る。

「神様…!」

ヴァルヴァラはそう言って我に返ると、玄関へ走った。
相変わらず廊下にはリアルな人形達、ヴァルヴァラは人形と目を合わせないようにして走る。
玄関には既に正実の姿があり、ヴァルヴァラは正実に近づきたくないのか玄関に近寄れない様子。
正実はロディオンと話していた。

「やあロディオン!ねえちょっと一緒に遊ばない~?」

正実がロディオンに言うので、ロディオンは笑顔で答える。

「勿論!あとさ!さっきニコライ見たんだよ俺!」

「ニコライが!?」

と、言ったのはヴァルヴァラ。
正実とロディオンはヴァルヴァラの方を見ると、正実はニコニコ。

「来たんだね、彼も。」

ロディオンはヴァルヴァラに説明しづらい様子で慌てると、ヴァルヴァラは真面目な顔を見せた。

「ニコライが日本に来たって事でよろしいですか?私にも詳しく聞かせて欲しいですわ。」

「で、どこにいたんだい?ニコライは。」

正実が言うと、ロディオンは

「商店街の路地裏!住所教えたから近々来ると思うよ。」

と伝えた。正実は微笑むとロディオンに言う。

「じゃあ安心だ。彼は無意味な情報は受け取らない人間だからね。ヴァルヴァラちゃんも部屋で待っているといいよ。」

正実はそう言うと、ロディオンを連れて自分の部屋に連れ込んでしまう。
ヴァルヴァラは煮え切らないのか正実の部屋を覗いてやろうかと一歩踏み出すと、玄関からノック音が聞こえた。

(あら…?門にあるインターホンからじゃないって事は、敷地内に住んでる善光さんかしら?)

とヴァルヴァラは思いつつ、扉を開ける。
するとそこには、右目に市販の眼帯を付けたニコライがいた。
ヴァルヴァラは例え服装や姿が装飾されていようと、見誤る事はなかった。

「”ニコライ…!”」

ヴァルヴァラは言うと、ニコライは所持している『はじめてのことば』と表紙にある(赤ちゃん用)の教材を閉じて

「”ヴァルヴァラ、正実はどこだ。”」

と聞いてくる。

「”なんで日本にいるのよ!”」

ヴァルヴァラは聞くが、ニコライは言った。

「”こちとら何が起こってるかわかんねえんだよ。いいから教えろ。”」

それを聞いたヴァルヴァラは眉をピクリと動かしたが、素直に正実の部屋を教える。

「”三階の一番奥の部屋よ。部屋の扉の前にバラが活けられてるからすぐわかるわ。”」

「”ありがと。”」

ニコライはヴァルヴァラに微笑むと、正実の部屋に向かった。
ヴァルヴァラは一定の距離を置いてニコライを追いかける。
ニコライは屋敷に飾ってある人形に目もくれないので、ヴァルヴァラは聞いた。

「”ねえ、…ここの人形、お前も作ってるって本当…?”」

「”ああ。”」

とニコライは平然と答えるので、ヴァルヴァラは廊下に飾られた人形達を気味悪そうに見つめる。
そしてニコライは正実の部屋の前まで着くと、正実の声を聞く。

「可愛いねロディオン。ほら、下も。」

ニコライはその言葉に怪しさを感じつつも扉を開くと、部屋の真ん中でロディオンと正実が対面していた。
ロディオンは上半身だけ裸にされており、二人はニコライの方を呆然と見る。
ヴァルヴァラは部屋まで追いつくが、ニコライに部屋を閉められてしまった。
正実は部屋に入ってきたニコライにニコニコと笑顔を向けると、ニコライは怒った形相で正実に駆け寄って蹴り飛ばす。

「”ニコライ!何やってるんだ!”」

とロディオンは止めるが、ニコライは倒れ込んだ正実を踏みつけようと足を上げた。
振り下ろされた足は正実にキャッチされると、正実は笑う。

「あれっニコライ?”可愛い顔してるじゃん。”」

正実はニコライの容姿を褒めるが、ニコライは正実を睨んだまま流暢なロシア語で言った。

「”お前はまだセクハラ続けてたのか!俺の弟に触れんじゃねえ!”」

「ははは!」と正実は更に笑うとニコライの足を持ち上げた為、ニコライはバランスを崩す。
転んでしまったニコライを正実は拘束すると、ニコライの眼帯を取った。

「”畜生!”」

とニコライは言うと、正実はニコライの右眼を見て

「おお…黄金だね…」

と感嘆の声をあげた。
正実もロシア語を話せるようで、ニコライと会話する上では問題無いようだ。
それから正実はニコライの耳元で囁く。

「”ロディオンも可愛いけど、こんな綺麗なニコライならもっと愛せちゃうね。”」

「”このセクハラ!”」

ニコライはそう言って正実に抵抗するが、正実の方が力が強いのか勝てていない。
正実は高笑いしてしまうと、ニコライの首に触れる。
指の腹で優しくなぞり、指は胸へと向かう。

「”久しぶりニコライ。顔合わせるの何年ぶり?”」

正実は囁き、ニコライは抵抗できないなりに睨みつけて相手を威嚇しようとする。
正実の指はニコライのワイシャツのボタンへ、すると咄嗟にロディオンが止めた。

「ダメ正実!!」

ロディオンはそう言って正実とニコライを引き剥がし、ニコライを優しく抱える。
ロディオンの真剣な眼差しに、正実はつまらなそうな顔をすると

「あっそう。」

とニコライにちょっかいを出すのをやめた。

「”ニコライ、大丈夫か?”」

ロディオンは聞くと、ニコライはロディオンに言う。

「”お前もセクハラの相手するな!こんなヤツ相手したって何の得にもならねえんだからな!”」

「”ごめん…”」

とロディオンは謝罪すると、ニコライは「フン!」とそっぽ向く。
すると正実はニコライに言う。

「”で、何か用かな?”」

「”俺が日本に連れてこられた理由…お前なら知ってんだろ。それだけじゃない、お前先輩も連れて行ったろ。”」

ニコライが言うと、正実は言った。

「”どちらも心当たりがないね。”」

「”なんだと!?”」

更に正実は答える。

「”ま、何があったか調べてやるくらいならできるよ?どうせ業者の仕業だろうけどね。”」

それを聞いたニコライも難しそうな顔をして黙り込むと、急に立ち上がって正実に言う。

「”ここまで来ると…正実、お前だけが頼りなんだ。…お願いだ!先輩の居場所を見つけてくれ…!”」

頭を下げるニコライ。
正実は驚いた顔をすると、次にいつものニコニコした表情に戻った。

「”いーよ、可愛いニコライの頼みは断れないからね。…その代わり…”」

正実はニコライが顔を上げるのを待ち、ニコライと目が合うと言う。

「”ニコライは僕のお人形になってよ。ふふ。”」

「正実ぃ!」

とロディオンがなぜか焦った様子で言うと、ニコライは真摯な表情になって言った。

「”先輩の居場所がわかるんなら。”」

ロディオンはそれを聞くと顔を真っ青にする。

(正実のお人形さんになったらニコライの純潔が危ない…!俺が守らないと…!)

正実は微笑むと呟く。

「”よろしくね。”」

廊下にいたヴァルヴァラは何の話かとずっと聞いていたが、やがてニコライもロディオンも部屋から出てきたのであった。



 ニコライは帰宅するようで、正実の家の門をくぐって外に出ると、そこにはロッキーが待機していた。

「ロッキー。」

とニコライは呼ぶと、ロッキーは言う。

「用事は終わったか?」

ロッキーが聞くと、ニコライは「んー…」と言ってから口に出す。

「仕事、する。」

それに対しロッキーは目を見開いて驚くと

「Why!?ついさっきまで嫌がっとったのに…!」

と言った。
ニコライは頷くと、ロッキーと共にヤクザのスナックまで帰るのであった。
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