植物人間の子

うてな

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第1章 精神病質―サイコパシー―

010 フランスからの預かり物、アンジェルとミィシェル! 前半

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早朝、第二故郷病院。
数男は自分の部屋にて、夢にうなされている。
その夢とは…


数男は誰かの視点になっており、その視点は一人の男の子に向いていた。
男の子と手を繋ぎ、楽しそうに会話をしている夢だ。
男の子は片手にロボット人形を持っていて、こちらの手をしっかり握っていた。

「石っ子ちゃん!今度はあっちのアスレチックで遊ぼう!」

男の子の声を聞く度、数男は胸に熱を覚える。
温かい何かを、数男の知らない感情を。

(なんだこれは…!)


するとその瞬間、数男は目が覚めた。
数男は汗を流しており、思わず溜息。

(またこの夢だ…。ハジメに初めて会った日から毎日見ている。
石っ子……、まさか石の巫女の事か…?それにあのガキは一体…)

数男は頭を抱えた。

(その上、あの夢は変な感情を覚える。…私が私でなくなるようだ。)

数男は考えるのをやめ、起床した。





陽の下院の朝、ハジメは自室に秋菜を呼ぶと、恥ずかしそうに顔を赤くして秋菜に言った。

「秋菜…僕……お洒落してみたい…」

それを言われた秋菜はど肝を抜かれたような顔をして、幾秒立ち止まる。
ハジメはそんな様子の秋菜に動揺を始めると、秋菜は貧血を起こして倒れそうになる。

「秋菜!」

ハジメは秋菜を支えると、秋菜はハジメに笑みを見せて言った。

「大丈夫よハジメ、私は…もう…」

死にかけた様な顔な秋菜を見て動揺。

「何馬鹿な事を言っているんだ秋菜!僕がお洒落しちゃいけない理由なんてあるのかい!?」

すると秋菜は自力で立ってハジメに言う。

「まずは…お洋服からね。」

「あ、うん。」

と、ハジメは秋菜についていけないのである。



数分後、ハジメの部屋に訪ねてきたクロマは扉をノックする。

「ハジメ様、お時間よろしいでしょうか。」

「あらクロマ、いいわよ入ってらっしゃい。」

秋菜の嬉しそうな声が聞こえる。

「秋菜様もお出でで、それでは失礼する。」

クロマは扉を開けると、目の前の光景に唖然とした。

外の白い光が窓から差し込んで一瞬だけ見えなかったが、確かにハジメが白いワンピースを着てこちらを向いていた。
真っ白な部屋の壁に天使が舞い降りた…クロマにはそう見えた。
金髪で空のような青い目を持つハジメは、まるで天使のような容姿だからだ。



ハジメは顔を赤らめてクロマを見たが、クロマは唖然としたまま。
しかしクロマは何かに気づいて部屋を出ていってしまう。

「え!ちょっとクロマ感想は!」

秋菜が言うがクロマは扉を閉めてしまう。
ハジメはワンピースを下に引っ張りながらももじもじしている。

「秋菜…スカートはなんだか変な感じする…足が…」

「慣れれば平気ですわ!」

廊下にいるクロマ、クロマは扉に寄りかかって座り込んでいる。
その為、中にいる秋菜が出てこれない。

「開けなさいクロマ!」

微かに頬を赤くして俯くクロマ、そこにミンスが歩いてくる。

「どうしたのですかクロマ、恋でもしたような顔をして。」

クロマはバッと無言でミンスを見上げると言った。

「は…ハジメ様が…!ワンピースを…!」

動揺しているクロマに、ミンスはクスッと笑う。

「女の子がワンピースを着るのは別に変ではありませんよ。」

それを聞いてクロマは衝撃を受けたような顔をする。

「そうか…ハジメ様は女だったのか…!」

「目が節穴ですねえ。ハジメ様に惚れたのですか?」

「興奮した。」

ミンスは余裕な笑みを保ったままその場で硬直。
クロマは返事がないのを変に思ってミンスの顔を見ると、ミンスはそのまま倒れた。
クロマはすぐにミンスを起き上がらせると少し焦る。

「おいミンス!一体何が起こっている!?」

部屋から秋菜とハジメが出てくると、クロマは再びハジメを見つめたまま黙り込んでしまう。

「あらミンスどうしたの?って、クロマ聴いてますの!?」

秋菜が言うが、クロマはハジメをまじまじ見つめる。
ハジメはその目が怖く思い、少し移動してみる。
しかし、クロマの目はハジメを追っている。
全てを察した秋菜はハジメを庇うと、クロマを叱る。

「こら狼!ハジメはまだ初々しい乙女なのですわ!穢してはならないの!」

すると、クロマは取りつかれたようにハジメを見ながら呟いた。

「よく見ると柔らかそうな体をしている…」

秋菜は引いてしまい、ハジメを自分の後ろに行かせるとクロマを払おうとする。

「いけませんわ!穢れなき乙女に触れてはならぬと!前に居た教会で言われ続けてたでしょう!?クロマ目を覚ましなさい!」

すると今度は秋菜を見つめ始めるクロマ、しかも目は胸の方にいっている。
秋菜は視線に気づいて胸を庇った。
ちなみに秋菜は平均と比べれば胸が大きい方だ。

「いやっ…!ミンスどうにかしてぇ!」

ミンスは起き上がるとクロマに言った。

「貴方…、ママのと秋菜様の…どちらがお好きなのですか…」

あまりにもシリアスに言うので、秋菜は涙目。

「ミンスもおかしくなりましたわ~っ」

するとクロマは真剣に考え始めた。

「母上の…?わからん、わからんぞ。」

思い出せもしない過去を思い出そうとするクロマ。
ミンスはしくしくする素振りを見せながらもクロマに言った。

「あんなに美味しいとちゅぱちゅぱしていたではありませんか…」

その発言に一同顔を赤らめるとそれぞれ言う。

「ミンス!貴様言いがかりはよせ!」

とクロマは怒る。

「変な擬音語を使わないで下さる!」

と秋菜は鳥肌を感じている様子。

「ミンス…貴様がそんな奴だったとは…」

ハジメは呆然としていた。
するとミンスは余裕な微笑みを見せる。

「わたくしとクロマ、よく正反対に見えると言われます。
雄々しいクロマ、しかしどこか子供の様で可愛らしいクロマ。
わたくしがその真逆だとすれば、どうなるか皆さんわかりますよね?」

秋菜とハジメは少し間を空けるとふと思う。

(子供の対義語は親…!?)

二人はそう考えるが、クロマは何もわからない。

「ミンスまさか…!」

ハジメが言うと、ミンスは頷いて両腕を広げる。

「わたくし、体は男でも心は乙女なのです。女好きのクロマ、わたくしはいかがですか?」

と女宣言を始めたミンス。
するとクロマは急に大人しくなって、シリアスな表情を浮かべた。

「悪くはない。…が、萎えた。」

「悪くはないんだな。」

とハジメは冷静にツッコミを入れる。
秋菜は反応しづらい顔になりながらも呟いた。

「ミンス…ナイスですわ…」

するとハジメは何かに気づいた顔をし、目を輝かせた。

「ほう…!盛り上がらせての一気に鎮める…!全てミンスの計算の上だったんだな…!」



暫くして。

もみじ公園でゴミ拾い中の誠治と綺瑠。
そんな二人の近くの木陰には、サチに数男の血を飲ませたサイ子がいた。
どうやらサイ子は誠治を見ているようで、その視線に気付いている綺瑠に笑いが浮かぶ。

(誠治…すっごいモテるよな…なんでだろ。)

サイ子には数人子供が集まってきており、みんなサイ子に言う。

「妖精さん、遊ぼ!」

「河原で遊ぼ~よ~」

それに対し、サイ子は言った。

「ちょっとお待ちなさいっ」

すると誠治はサイ子に気づき、話しかけようとする。
しかしそこにハジメが来て呼び止められてしまう。

「誠治」

ハジメに言われて誠治は振り向く。
ハジメの女性らしい服装、思わず目を丸くした誠治と綺瑠。
その隙にサイ子は立ち去るので、綺瑠は満面の笑みで思う。

(本当に罪だよね誠治。)

「あ、あなたは先日の…ハジメですね。今日はクロマと一緒じゃないんですね。」

誠治が言うと、ハジメは頷く。
綺瑠は笑顔で言った。

「君女の子だったんだ。ハジメくんじゃなくてハジメちゃんだね。」

ハジメは綺瑠の話は置いて、誠治に照れながらも言った。

「クロマは公園より家の方が好きみたい。」

綺瑠は無視されたのがしっかり伝わったので、目を丸くしながらも一歩身を引いて二人の空間を作ってあげる。
誠治はそれに気づかずに続ける。

「そうですか。あ、今日は一段と可愛らしい服装で来たんですね。」

ハジメは自分の服装を見ると、とある事に気づく。

「あ、わざとじゃないんだ…大丈夫、これでもゴミ拾いの手伝いできるから…!」

すると逆に誠治は慌てた様子に。

「あ、そういう悪い意味で言ったわけではないんです…!
今日はせっかくのお洋服が汚れるかもなので、お手伝いはまた今度で結構ですよ。」

そう言われると、ハジメは自分の服を見て膨れてしまった。
そしてハジメは横目で誠治を見ながらも、なんだかうっとりしている様子。
更にそれを遠目で見ている綺瑠は思わず苦笑。

(誠治モテすぎじゃないか…?本当に女性と付き合った事ないの…?)

それから綺瑠は一つ、仮説を思いつく。

(誠治は鈍感なのかな?)
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