植物人間の子

うてな

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第2章 正体―アイデンティティ―

015 さようなら。からの復活、九重誠治 後半

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守は人通りのない帰り道、赤いコンタクトレンズを外す。
ナイフで自分の顔を見ても赤い目は変わらず。
守は顔を空に上げて思う。

(人間狩り…もうやめよっかな…。
これからどうしよ…家に帰る理由も見つかんないし…)

そして誠治の事を思い出す守。
守は眉を困らせて思う。

(あんな懇願されちゃ人間の力、食べるに食べれないよ…)

守はその場で黙って涙を流す。
そこに一台の車が通り、守の前で止まる。
助手席の窓が開くと、サチが顔を出した。

「守君!」

守は呆然とサチを見つめており、サチは守の涙に気づく。
すると守は、少し黙ってから言った。

「人間…もう食べない…から…」

「え…?」

サチは目を丸くすると、守は顔を少し赤くして言った。

「もう人間食べないから!真渕さんとか食べようとした事、ごめんなさい!!
だから…だから…!」

守は泣きじゃくる。

「もう一回…病院に帰りたいよ…!」

サチは目を丸くした。
サチは一瞬迷ったが、微笑んだ。

「守君が悪い事しないってなら、あたしは大歓迎よ。」

「サチさん…!」

守はそう言うと、サチに抱きつく。
サチは頭を撫でてあげると、運転席にいた数男は言った。

「もう人を食わないって、お前もカニバリズムだったのか?」

すると守は、数男相手だと睨みつける。

「違うわい!!」

その時だ。
数男の車を、複数の車が囲む。
ワゴン車や普通車まで、全て秋田宇宙生物研究所のエンブレムが記されていた。
それを見た数男は目を剥く。

「来たか…!守、乗れ!」

「え?」

守が目を丸くすると、サチは急かす。

「いいから!」

守はゆっくりと一歩下がる。
車に乗っていた研究員も、数男達も、その守のスローペースに見入ってしまう。
そして守が車に乗り込むと、守は言った。

「どうぞ。」

すると相手の車からは研究員が出てきて、謎の噴射機を持っている。
それから白い煙を噴射してくるので、サチは急いで窓を閉めた。

「クッソ!前が見えない!」

数男はそう言いつつも、車を発進させた。
サチは驚いて言う。

「ちょっと!ぶつけたりでもしたらどうするんですか!これ久坂さんの車ですよ!?」

「相手がやったって言えばいいんだよ!」

数男はそう言って運転を続け、抜け出して病院へと向かった。
サチは言う。

「相手も私達の病院わかりますよね…?」

「先回りされてないといいんだがな。」

「何が起こってるのー?」

と呑気に聞く守。
すると守は急に気づいた顔をして言う。

「オトコオトメ守ちゃんの可愛さに気づいちゃったのみんな…!?」

それを聞いたサチは微妙な反応。

「違います。
守君は彼等が研究してきた自我を持った植物人間なの。
今まで人間だと思っていたから放置されてたけど、植物人間であるってわかった途端、研究所に入れようと考え始めたのよ。」

「あーっそ。
はあ、いつでも子供は大人の事情に振り回されますなー。」

と守。
サチは微妙な反応を隠せなかった。

(何もわかってないこの子…!)

数男は第二故郷病院前に車を止める。
病院前には既に数人の研究員がいるのだ。

「やっぱいる。サチ、お前の箒で四階まで突っ込むぞ。」

「え、はい。」

「箒?」

守は不思議に思うが、サチの魔法の箒を見た瞬間驚きの顔。

「まあ可愛い!イラつく!」

「なぜ!?」

サチはツッコミを入れるが、守はそれ以上答えてくれなかった。
サチは数男と守を乗せようとするが、守はサチの前に座った。

「こらこら、前が見えないでしょ。」

「だって数男の後ろか前になんて座りたくないもん…」

守がブツブツ言うと、数男は守を睨みつける。

「我儘言うなガキ。」

守は数男の睨みに一瞬怯むが、食うように言った。

「喧嘩するかぁ!?おぉん!?」

それに対し、サチは言った。

「わかったわかったから…前に座っていいから…」

「わーい。」

こうして、三人は第二故郷病院の四階へと向かった。
研究員はそれを見上げ、焦って院内に入ろうとするが…
病院の職員によってお断りされていた。

サチ達は久坂の部屋の窓まで来ると、守がノック。
窓際にいた綺瑠がそれに気づき、窓を開いた。
綺瑠は三人を見ると目を輝かせる。

「おお!魔法少女さんだ!」

「魔法少女守君だぞい!」

守はそう言うが、サチは言う。

「セーラー服でそう言われてもね…」

そして三人は部屋に入ると、久坂が丁度部屋に入ってくる。
久坂は三人を見ると一瞬驚いて言った。

「うっわチビる所だったわ…」

「汚いな。」

と即答する数男。
久坂は悪びれず、サチに言った。

「んで、結局普通に説得できたんだ。」

「説得というか、守君がいつの間にか改心してました。」

すると守は久坂の前に来て、頭を下げて言う。

「人間食って、ごめんなさい。」

「オレに謝る事じゃねぇだろ。」

「だって、誰に謝ればいいかわからないもん。みんな、知らない子供だったんだもん。」

久坂は「ふぅ~っ」と溜息をつくと、守に言った。

「ま、てめぇがいつそういう事を始めたとか、そういうの聞かせてくんろ。
てめぇの贖罪は、後でたっぷり奈江島が聞いてくれっから。」

「えぇ!?僕!?」

綺瑠が驚くと、守は綺瑠を見る。

「ゴミ拾いのお兄さんのオマケ。」

すると綺瑠は更に苦笑。

「オマケで覚えられてるの僕?そこまで影薄いなんて思ってもいなかったよ!サイ子ちゃん!?」

「気づいてたんだ、僕が姉ちゃんの服来て公園で遊んでたって。」

守の言葉に、綺瑠は微笑む。

「誠治が言ってたからね、「あの子は子供達と沢山遊んでくれる、いい『男の子』です」って。最初聞いた時驚いたけどねぇ。」

守はギクッとすると、久坂は言った。

「奈江島は無視でいいからオレが聞いた事答えて。」

「え、はい。」

と守。
綺瑠は再び苦笑してしまうのであった。
守は近くの椅子に座ると、話を始めた。

「自分が植物人間だって気づいたのは、小学校低学年かな。
姉ちゃんと一緒に河原で遊んでて、その時に僕に生えるガラスに気づかれて。」

守の言葉に、綺瑠は顎に手を当てて言う。

「ふむ…。植物が生えてきたわけじゃないんだね。
つまり、あの実験がされる前から君は人間じゃなかったと…」

「植物が生えてきたのは六年前くらいかな。」

それを聞いた瞬間、数男は綺瑠を睨みつけた。
綺瑠は苦笑してしまう。
守は続けた。

「最初はガラスが生やしたりできて、それだけだったけど、植物が生えるようになってからは人から栄養を奪える事に気づいたんだ。
僕は体が弱いし、栄養を奪う事で元気になれたから、姉ちゃんは沢山子供を連れてきてくれたよ。」

「香奈子は何ともなかったのか?」

数男の質問に、守は頷く。

「姉ちゃんは普通の人間だった。姉ちゃんはいつも僕の為に子供を連れてきてくれて、沢山栄養を貰った。」

「つまり…その時から人を殺していた…?」

サチが恐る恐る聞くと、守は首を横に振った。

「確かに栄養は摂ってたけど、殺してはいないし。」

「え、でも行方不明になった子供は、親元に帰っていないのよ?」

サチの言葉に、守は首を傾げた。

「姉ちゃんが全員送り届けてたけど。まさか送り先間違えた…?」

それに対し、数男は言った。

「香奈子は植物人間になる前からカニバリズムだったりな。あの女は一応サイコパスって診断も出てる。」

サチは顔を真っ青にし、久坂も頷く。
守も信じられないような顔をしたが、久坂は言った。

「どう隠してるかは知らねぇが、守が殺してねぇってんならその可能性も考えられるわな。
それとも、どっかに売り飛ばしたとか。」

「やっ、やめてよ久坂さん!姉ちゃんがそんな事する訳ないじゃん!」

と言ったのは守。
数男は言った。

「救えない双子だな。」

それを言われると、眉を潜める守。
そして守は言った。

「一緒に考えて欲しい事があるんだけど…」

一同は守の事を見ると、守は真剣な顔をして言う。

「姉ちゃんが植物人間になっちゃった時、見た目が数男みたいだったんだ!
でも、自我のない植物人間で…!姉ちゃん、なんで自我のない植物人間になっちゃったんだろ!」

それを聞いた久坂と綺瑠は眉を潜める。
数男は言った。

「確かにそうだったな。なぜ容姿がああなっていたんだ?私の植物人間ならば、自我は持てるはず。
守が植物人間にした線は考えられないのか?」

「植物人間は親の言う事には忠実だ。もし守の力を受けた植物人間なら、守が指示すれば暴れたりはしない。
きっと守の事だから一度は止めたはずだ。それでも香奈子は暴れ続けたんだろうよ。」

久坂の言葉に対し、守は静かに頷いた。
すると綺瑠は言う。

「じゃあ一つしかないね、研究員がイタズラをしたんだろう。
実験が失敗して、自我を失った植物人間になってしまったと考えるのが自然かな。」

それを聞いた守は悔しそうな顔をした。

「実験…?実験とやらで、姉ちゃんは死ななきゃなんなかったの…!?」

数男以外の一同は虚しそうな表情をすると、守はその場で頭を抱えた。
守は感情が溢れているせいか、周囲にガラスや植物を生やしてしまう。
一同はそれを避けながらも、守の言葉を聞いていた。

「なんだよなんだよ…!
僕の大事な…!大事なたった一人の姉ちゃんだったのにぃ…!クッソ…!」

それに同情した様子で、綺瑠は守の背中を摩ってあげた。
サチも顔を下げてしまうと、そこに扉のノック音。
久坂は扉の方を見ると、そこから砂田とシュンが顔を出してきた。
砂田は小声で言う。

「あのー…、大物のお客様おりますがー…」

「大物?」

久坂が首を傾げると、扉が大きく開いた。
すると部屋の中に、なんと秋田が入ってきた。
その後ろには秘書の三森まで。

一同は驚くと、秋田は言った。

「やあ第二故郷病院の諸君。
私はこの病院の院長、且つ秋田宇宙生物研究所の代表、秋田だ。」

それを聞いた途端、真っ先に秋田を睨んだのは守だった。
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