植物人間の子

うてな

文字の大きさ
上 下
45 / 131
第2章 正体―アイデンティティ―

023 植物人間の石が消えた? 前半

しおりを挟む
第二故郷病院五階会議室。
シュンと三笠が、久坂を医療用ベッドで中に運び入れる。

「大変だ!今すぐ麻酔を!」

三笠は言い、シュンは胡椒を三笠に渡す。
三笠は胡椒を久坂の顔にかけると、久坂は見事にくしゃみをする。

「っざっけんなよ鼻くそ飛んだらどうすんだよ」

久坂が言うので、三笠は満面の笑み。
数男は呆れ、サチは久坂に近づく。

「なにかあったんですか?」

「そうだ!」

久坂が起き上がる。
そしてバッグを確認するが、肩に力が抜けるように溜息をつく。

「なで肩。」

シュンが久坂のなで肩を指摘すると、久坂は冷静に言った。

「聞け。」

「え?」

シュンが言うと、数男は黙らせる。

「静かに。」

皆が黙ると久坂は言った。

「植物人間から出来た種が、何者かによって奪われた。」

数男が信じられないような顔を見せる。

「誰がそんなもの必要とするんだ?」

久坂は首を横に振って考え始めた。

「ローブみたいな足まで隠れる服着て、フード被って口元も隠れてて…でも日本の犯罪者の服装にしてはなんか違う。
もっと民族っぽい衣装で…なんなんだアイツ…」

「男か?女か?」

「声的に男だな。」

「声聞いたんかい」

数男がツッコミを入れると久坂は頷いた。

「『ごめんね』とか言ってからの花の香りで眠らされた。今思えば植物人間か…?」

三笠は首を傾げる。

「自我のある植物人間?五島先生やハジメだけじゃなかったんだ。」

「根無しの植物人間にも、最近自我のある植物人間が現れ始めたらしいな。」

一同はそれに驚く。
久坂は続けた。

「植物人間にしちゃ、植物生えてない様に見えたがな。でも力を使っているからな…」

久坂がブツブツ言っていると、三笠は笑う。

「植物人間のくせに随分冷静で優しい事するんだね。隠れてこそこそ奪うくらいなら殺せば良かったのに。」

久坂は頷いた。

「同感だ。
まあ、種は研究所のヤツ等が既に調べてる。アレはエネルギーの塊らしいが、今の研究所の技術じゃ抽出もできない代物だ。」

「ますます誰が盗むんだって話になってきたぞ。」

「ま、犯人は後々探すとして、今はあの宗教組織の懐に入らねぇと。
暇だし今から行ってこようかな。」

「行ってこい。」

数男が言うと、久坂は続けてアンジェルに言った。

「アンジェルは今日俺と一緒に説得に来てくれ。きっとアンジェルだけだ、力がバレてないの。もしもの為に。」

「んー」

アンジェルは言い少し黙ると「いいよ。」と返事をするのだった。



久坂とアンジェルは陽の下院に到着。
久坂が塀の前のインターホンを押すと、秋菜の声が聞こえた。

『はい。』

「陽の下院の方ですか?オレ、秋田宇宙生物研究所の研究員、そして第二故郷病院の医者である久坂といいます。」

久坂が言うと相手は黙り込んだ。
久坂は続ける。

「今、街が大変な事になっているのは知っていますよね。それをどうにかする為に、あなた方の力が必要なんです。」

『信じられませんわ。』

「事態は一刻を争う…オレはそう思っています。
植物人間が増えていく。これを止めるには、石の巫女に直接会いに行くしかないとオレは思っています。」

『お引き取りください。』

すると久坂は眉を潜めた。
同時に、久坂は数男と綺瑠を思い出す。


数男の植物が生えた姿。

植物人間の研究に溺れる綺瑠の姿。


久坂は拳を強く握ってしまう。
そしてマイクに近づき、久坂は力強くも言った。

「オレは確かにあの研究所の一員だ。でも、オレが抱く植物人間と研究所への恨みは計り知れねぇ…。
研究所はオレの大親友を植物人間にし、植物人間はオレの友達とその親…両方を狂わせた。
今度はもっともっと多くの人間が犠牲者だ。もう…こんな事やめにしてぇんだよ…!」

久坂にしては、随分と熱のこもった言い方だった。
それを聞くと、秋菜は眉を潜めて躊躇う。
そして言った。

『お入りくださいませ。』

すると、柵が自動で開く。

「ありがとうございます。」

久坂は言い、アンジェルと共に入るのであった。

秋菜は廊下を早歩きしながら呼びかける。

「クロマ!クロマはどこですの!」

そこに風呂上りのミンスとミィシェルが出てくると、ミンスは秋菜に言った。

「クロマなら、さっき風呂から上がって買い物に出かけましたよ。」

「なんですって!」

秋菜は驚く。
それから冷静になる。

(いざとなったら私が…)

「急ぎでしたらわたくしとミィシェルが探しに行きますが。」

「あら、助かるわ。ミィシェルもよろしくね、ミンスは方向音痴だから。」

秋菜はミィシェルに言うと、ミィシェルは笑顔で言った。

「ウィ[はい]!必ずミンス と 帰るです!」



久坂たちは秋菜に連れられ、ハジメのいる一室へと呼ばれた。
机のない椅子に座らされ、四人が対面する形で秋菜は言った。

「初めまして、上郷秋菜です。こちら妹のハジメ。」

「第二故郷病院の精神科医、久坂と申します。隣はアンジェル、迷子の弟を探している少年。」

するとアンジェルは言う。

「初めまして、アンジェル・コミュンと言います。つかぬことお伺いますが、ここにミィシェルという男の子来てませんか?」

すると二人は驚いた。

「あら、最近ここにずっといるわよ。ミンスやクロマにくっついてばかりで…」

秋菜が言うとアンジェルは笑顔になる。

「そうですか。場所がわかって良かった、彼ボクの弟なんです。」

それを聞くと二人は呆然。
久坂は言った。

「本題入っていいでしょうか。」

二人はそれを聞き、すぐに切り替えて久坂の方を見た。

「まず一つ。石の巫女に会いに行くと言ったが、本当に石の巫女が生きているとは限らない。
もしかしたら石の巫女に似た何かかもしれない。」

「…石の巫女はクロマが殺したって僕達は聞いている。」

ハジメが言うと、久坂は考える。
そして納得した。

「なるほど、母親を殺したあのプラズマはマリモのだったのか…。」

「あなた達は石の巫女の居場所に心当たりはありますの?」

秋菜の質問に、久坂は頷いた。

「クロマ達の故郷だ。あの故郷は、砂漠のど真ん中にある。
砂漠のど真ん中なのに、植物や水に溢れている。普通は考えられないんだがな。」

「…植物人間は不可思議な力を持っていると聞いた。もしかしたら、その力で植物や水を作り出した…とか?」

ハジメが聞くと、久坂は言う。

「可能性はある。」

「クロマ達の故郷は砂漠にあるのか…僕達は知らないから、少し驚いたな。」

それを聞いた久坂は目を丸くした。

「クロマ達とはどこで会ったんだ?」

「二人はね、海外の教会にいた孤児なの。
ミンスは孤立気味で、クロマは普通の男の子だったわ。傷ついた子犬を拾って育ててあげるくらい良い子だったのよ?」

「ミンスが?」

久坂が言うと、秋菜は首を横に振った。

「クロマよ。でも、子犬は弱っていたから程なくして亡くなってしまったんだけどね…。」

「あの殺人マリモが命を大事にするって意外だな。」

久坂は目を丸くして言った。
するとハジメは言う。

「その教会にも、秋田宇宙生物研究所の研究員が来ていた。
クロマとミンスがいる場所には決まって、巨大植物が生えたからすぐバレるんだ。
研究員が来てるのを聞いた僕の叔父は、僕達に彼等を保護するように頼んできたんだ。去年辺りだったかな。
叔父は教会の牧師様とは友人だったから、クロマ達の事を色々聞かされていたのかもしれない。」

「上郷が…。
そうだな…クロマ達は、友人の子供だもんな。」

久坂は呟いた。
しかしハジメは溜息。

「でも今度はここに巨大植物が生えるようになって、研究所には相変わらず狙われていたけど、陽の下院には全然来ないな。
なんでだろう。」

それに対し、久坂は言った。

「もしかしたら、上郷が代表に掛け合ってた可能性がある。
研究員もクロマ達には直接手を出さず、遠目で見ておく事を原則としていたみたいだからな。」

二人はそれを聞くと、ハジメと秋菜は理解したのか黙り込む。
久坂も考え事をしていると、ハジメは咳払いをしてから言う。

「で、僕達に頼みたい事って?」

「…クロマとミンスを、その故郷に連れて行きたい。
そしてそこで、ヤツ等の親が本当にいるか知りたい。」

「なぜ二人を連れて行く必要が?」

「もし石の巫女が生きていたらどうする?…人間を侵攻しているヤツなんだ、オレ達だけで突っ込んでも殺されるだけ。
だからこそ二人を連れてって、言い方は悪いが盾にしたい。」

それを聞いた二人は真剣な顔。
険しいともとれるその表情を、久坂も真摯に見つめた。

するとハジメは言う。

「僕も行く。」

久坂は静かに頷くと、秋菜も少し考えてから言った。

「私も行きます…。彼等の保護者は私達ですからね。」

「決まりだぜ…」

久坂が勝利の笑みを見せ、アンジェルと軽くハイタッチをした。
しおりを挟む

処理中です...