植物人間の子

うてな

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第2章 正体―アイデンティティ―

026 ミンスと石の巫女 前半

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久坂の言葉に、一同は驚く。
久坂は言った。

「ロケットが打ち上げられた日なら、オレも心当たりがある。
オレもその日、補欠要員でついてってたんだ。ヤツ等、薄気味悪ぃ機械を運んでてな。
そこで…石の巫女が死ぬ所を見た。」

その言葉に、ミンスは悲しそうな表情を見せながらも頷いた。

「石の巫女が他の者を国に入れないのはそのためです。
石の巫女が人間ではない、不思議な力を持った者だと皆さんは既におわかりでしょう?石の巫女は…地球の生物ではないのです。
…それを調べようとする人間を拒むためです。」

電話の外で、誠治は腑に落ちない表情をしていた。
守は随分と雰囲気の変わった誠治を見て、胸騒ぎを覚えていた。
ミンスは続けた。

「石の巫女は、力が命の源です。力が無くなれば枯れてしまいます。
…石の巫女は倒れ、力を失いかけたのですが、クロマが人間を追い払ったのです。」

その時だった、ずっと黙って聞いていたクロマが目を見開き、何かを思い出したかのように口をぽっかり開ける。

「クロマ…」

ミンスはクロマの異変に気づき、傍に寄る。
するとクロマは俯いて言った。

「倒れた母上を電気ショックで起こそうとした。」

久坂は眉を潜めてクロマを見つめた。

「電気ショック?雷の間違いな気がするが。」

それに対し、クロマは頷いた。

「加減を知らなかったのだ。全く反応を見せない母上が恐ろしく、雷を落とすのをやめたら終わりだと思った。」

その罪の告白のように、淡々と語るクロマを悲しげに見るミンス。

「クロマは…そんなにあの女の事…」

ミンスが呟くと、クロマは悔しそうな顔を上げミンスに言った。

「違う!私はそのような事で苦しんでいるのではない!」

周囲が首を傾げると、クロマはミンスの両肩を掴む。

「正気でなくなった私は…母上を殺した後、止めに入ったミンスを…貴様にも雷を落として…大怪我をさせてしまった…。」

ミンスは目を見開くと、クロマは掴む強さを強めて更に言う。

「その時、血の気が引いた。力が暴走するほど…頭の中がおかしくなったのだ。」



――十一年前、サウザは十一歳、クロマは六歳、ミンスは五歳の時だ。
国の王宮の中、サウザはクロマとミンスに笑顔で言った。

「三人で!父上と母上の結婚祝いしよう!街まで買い物に行こうよ!」

「あら、素敵な考えですね。わたくし賛成です。」

しかし、クロマは不機嫌な顔。

「結婚祝いなど下らない!母上と父上の事を、この私が祝うとでも思っているのか!
…母上の誕生日なら考えてやらんでもない。」

どうやらクロマは、母は好きでも父が嫌いのようだ。

そこに一人の男性が参上。
髪型がクロマやサウザによく似ている男性だ。
男性はニコニコしながら三人を抱きしめた。

「なんだなんだ~?俺と瑠璃の結婚祝い買ってくれるの?楽しみだな~」

そう、彼は三人の父親。

「う~聞かれちゃたよ~」

サウザは泣き言を吐くかのように言うと、クロマは父の腕を振り払って怒った。

「誰が貴様と母上の結婚祝いなどするものか!貴様は旅にでも出かけていればいいだろう!」

「酷いなクロマは。まあそこが可愛いんだけど。」

父は嫌われているのを、あまり気にしていない様子。

「クロマ、わたくしは祝った方がいいと思いますよ?きっと母上は喜んでくださいます。」

ミンスも微笑んで言った。
クロマはそれを聞くと下を向いて、それから立ち去る。

「母上が…父上との思い出で喜ぶなど…私は気に入らん。」

クロマが立ち去った後の三人は顔を合わせると、サウザは言った。

「ねえねえ、いつになったら父上とクロマは仲良くなるの?」

「さあねぇ。マザコン困っちゃうねぇ。」

父は口を尖らせて言うので、ミンスは苦笑。
それからミンスは言った。

「そうです。
明日、母上とわたくしとクロマで、ロケットを見に行くんですよ?楽しみです。」

それを聞くと、サウザは羨ましい顔。

「いいな~!俺も行きたい!クロマは父上と俺をあんま好いてないから、来て欲しくないんだろうけど…」

「まあまあサウザ。俺とサウザは二人でラブラブしてよーねー!」

父が言って、サウザに抱きつく。
するとサウザは笑った。



次の日。
クロマとミンス、そして二人の親である瑠璃は国の外へ出ていた。
砂漠の熱の中、ミンスと瑠璃は汗を拭った。

「ミンス、大丈夫か?…うぅ、ここは相変わらず熱いな…」

瑠璃が言うと、ミンスは限界なのかクロマに寄りかかる。
クロマは言った。

「母上もミンスも軟弱だぞ!」

「そう言われましても…」

ミンスが呟くと、クロマは何かに気づく。
クロマは足を止めたので、二人も足を止めた。

「人の気配だ。外の人間かもしれん。」

クロマが言うので、瑠璃は警戒をした表情を見せた。
クロマとミンスを優しく抱きしめ、周囲を見渡した。

すると、三人の真後ろに怪しい人影が見えた。
その怪しい人影は大きな機械を持ち運び、白衣の人間が数人。
白衣の人間の胸には、秋田宇宙生物研究所のエンブレムバッジが。
それを見ると、瑠璃は酷く驚いた表情を見せた。
瑠璃は二人に言った。

「逃げるぞ…!」

しかし瑠璃の行動は遅く、研究員は機械のスイッチを押す。
すると謎の光線が発せられ、瑠璃に当たった。
瑠璃は光線に当たると、苦しそうな表情を見せる。

「ぐっ…!」

「母上!?」

クロマが言うと、ミンスはクロマの腕を引っ張った。

「逃げますよクロマ!」

しかしクロマは動かない。
クロマは怒りに満ちた表情を見せると、クロマの周囲にプラズマが走った。

「貴様等…!母上に何をするッ!」

クロマがそう言うと、空が黒雲に包まれる。
空が真っ暗になると、空から雷が降ってきた。
研究員は猛攻に驚くと、そそくさと退散を始めた。

クロマは退散させたと同時に、瑠璃の様子を見る。
しかし瑠璃はその場で倒れていて、顔色が悪い。
それを見たクロマは青ざめる。

「…母上…?母上!!」

クロマは瑠璃を揺するが、瑠璃は目覚めなかった。
動揺したクロマは、ある事を思いつく。

「そうだ、電気を与えると人は起きるって…!」

クロマはそう信じて、雷を瑠璃に落とした。
それを見て驚いたのはミンス。

「クロマ!おやめなさい!クロマのプラズマは…!」

「起きろ…!起きろ母上!!」

何度も雷を当てるクロマ。
ミンスは見ていられなくなり、顔を隠して怯えていた。

「クロマ…!やめて…!」

すると、一つの雷が偶然にもミンスに当たってしまう。

「キャーッ!!」

ミンスの悲鳴が聞こえると、クロマは目を剥いた。
クロマはミンスを凝視すると、ミンスはプラズマのショックで倒れた。

クロマはその瞬間、心臓の乱れを感じた。
非常に強い焦りと、恐怖を覚える。
するとクロマは思い出すのだ、ミンスが自分の実の母である事を。

クロマはトボトボとミンスの前に歩くと、呟いた。

「ママ…?」

目を覚まさないミンス。
クロマはそれを見ると、自棄糞になり叫んだ。

「ママーーッ!!」

そしてクロマの力は暴走する。
天から雷が落ち続け、クロマからも強大なプラズマが強く放たれ続ける。
少しでも喰らえばひとたまりもないだろう。



そんな事も知らず、国でゆっくりしているサウザと父。
二人は国の外で強力な力を感じると、二人は窓を覗いた。

近くの空から伸びてくる、夥しい量の雷雲。
それを見るとサウザは言う。

「なぁにあれ!?」

「雷雲だ!サウザ、あの先には瑠璃達がいる!」

「母上達が!?」

そう言って父は窓から外に出てしまうので、サウザも急いで追いかけた。
父はサウザが一緒に出ている事を知ると、微笑んでサウザを抱き上げた。

「さ、風になるぞ~!」

そう言って父はウインク。
すると二人は形を失くし、風となって宙を走った。

あっという間に現場に着き、二人は風から元の姿へ戻った。
父はサウザを下ろしたが、その先はプラズマばかりが走っていてとても進めなかった。
父は言う。

「サウザ、能力をクロマに使うんだ。」

「う、うん!」

サウザは返事をすると、両手を遠くに見えるクロマに向けた。
サウザは深呼吸し、両手に念を込める。

見えない波がクロマに届き、クロマの力は一気に消された。
それと同時に、クロマは意識を失って倒れる。
すると周囲のプラズマは消え、雷雲も散っていった。

父とサウザはクロマに駆け寄るが、そこには無残な光景が広がっていた。
ミンスはほぼ無傷であったが、瑠璃だけは固まったように動かない。
瑠璃は石の色のように変色し、目を閉じたまま死んでいた。

父はそれを見て呆然とし、思わず膝を崩した。
サウザも驚きながらも、信じられずに父の後ろに隠れる。

「父上…母上は…」

すると父は頭を抱え、首を横に振った。
サウザはそれを知ると目に涙を溜める。

「え…」

未だに信じられない様子だった。
父は立ち上がり、瑠璃を抱き上げた。
続いてクロマを肩で担ぐ父。

「帰るか…サウザ。ミンスは頼んだぞ。」

父は随分落ち着いた様子になっていた。
サウザはミンスを抱き上げると、涙を拭いて真剣な表情で言う。

「う、うん!」

サウザは父の隣まで走ると、父は優しくサウザの頭を撫でた。――
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