植物人間の子

うてな

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第3章 平穏―ピースフル―

027 クロマが第二故郷病院にやってきた 後半

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その日の夜。
会議室に並ぶテントの中。
クロマはつい目が覚めて隣を見ると、ミンスがいない事に気づいた。

(ミンス…)

クロマはテントを出て窓を覗き、少ない街明かりに照らされる巨大植物を見つめていた。
そして急に思い立って、屋上まで向かうのであった。

屋上に出るとそこには、ミンスが一人で流れ星が見える夜空を見上げていた。
クロマはミンスに近づいた。

「夜更しか。」

ミンスはクスクス笑ってクロマを見る。

「お星様を見ているのですよ。」

「星?殆ど植物で見えないだろう。
…そうだな、街の灯りが少なくなって、少しばかりは見えやすくなったのだろうな。」

クロマが言うと、ミンスはクロマに寄り添った。

「石の巫女、もといわたくしは…地球上の生き物ではないのですが、どうやってここに来たかご存知ですか?」

「知るか。」

クロマが即答すると、ミンスはクロマの胸に耳を当てて言った。



「流れ星です。
わたくしは石の塊だった…。それが地球に触れた時、石のエネルギーがわたくしとなった…。」

ミンスはクロマの服を強く握り、ゆっくり目を閉じると言った。

「焦がれる身、傷を作る大地、炎の粉、生き物は陽を失い凍え死にます。
長い時を経て陽がやっと見えて、もっともっと耐えて…わたくし達は生まれる事が出来たのですよ。」

クロマはよくわからないでいるが、とりあえず長い月日である事だけはわかった。

「そうか。」

そしてなんとなくではあるが、ミンスを撫でてあげた。
するとミンスは手を緩め、ゆっくりと目を開けてクロマを見つめた。

「クロマがこうして傍にいると、あの時からずっと共にいた気がして恐怖心が消えます…。」

「それほど恐ろしいものだったのか?」

「わかりません。わたくし、石の巫女の生まれ変わりではありますが少し違うようです。それを思い出して、恐怖しています。」

クロマが黙って聞いていると、ミンスは笑顔になって言った。

「しかしそれらが過ぎ去った後、綺麗な野原ができました。あの素晴らしい大自然を…クロマにも見せてあげたい…
二人なら…」

「二人なら…何だ?」

クロマは聞く。
しかしミンスは何も言う事もなくクロマに微笑んだ。

「部屋に戻りましょうか。わたくし、眠くなってきました。」

それを聞いたクロマも目をこする。

「私もだ。」

クロマは特に気にする事もなく、二人で会議室に帰るのであった。



その日の秋田宇宙生物研究所にて。
綺瑠は第四研究グループの研究室にいた。
第四研究グループのリーダーは綺瑠に言った。

「これが完成した機械です。
…とは言え、殆ど高倉が設計したものですが…。」

「うん、みんなご苦労様。ありがとう。」

綺瑠はそう言って、とある機械を手に取る。
銃の様な形をした、謎の機械。
綺瑠は近くにいた、女性の研究員に微笑んだ。

「感謝するよ、高倉。」

設計図を見て、綺瑠は目を輝かせる。

「にしても僕が考えたのと結構変わったね。
えぇっと?こうしたらこうなって…おお~全部直してくれてる!凄いよ高倉!
ありがと~機械には疎くてさ!」

高倉と言われた女性は、ムスっとしてしまう。

「代表は生物研究以外はからっきし駄目、才能の欠片も感じない。
最初から設計しようとしないで欲しいわ、直すこっちが混乱する。」

高倉の発言に、周囲の研究員は焦った様子に。
そうである、代表に口答えをしてしまうのだから。
綺瑠はそう言われても、眉を困らせて笑う。

「ホントホント、高倉の言う通り!
今度は気をつけまーす!」

敬礼までしてしまう綺瑠。
高倉は呆れた顔をしたが、やがて淡々とした様子で言う。

「試し撃ちもしたんでバッチシ。
安全装置は二つ、名前は『奥村薫子』!」

機械に命名をしていた高倉。
高倉の発言に笑ってしまう者、咳払いする者。
気にせず綺瑠は頷くと、急に安心した顔で欠伸。
ついつい口に手を当てて言った。

「うぅ…これでやっと眠れる…
明日からちゃんと仕事しなきゃ…」

綺瑠はそう言って、近くの椅子に座ってそのまま眠る体制に入ってしまう。
綺瑠は寝言のように呟く。

「あとは父さん捕まえて…あの子を探すだけ……
あとあとエンジェルスネイティブの会議と大阪まで出張…」

そして眠ってしまうので、高倉は言った。

「こりゃ明日からもちゃんと眠れないな。」

その言葉に、他の研究員も深く頷くのであった。





次の日。
陽の下院にて。
陽の下院には病院から解放された誠治が、ハジメと秋菜の方まで訪ねてきていた。
ハジメと秋菜は誠治を説得していた。

「安心してくれ誠治。クロマもミンスも今は無力だ。ミンスも特に人間から力を得る理由もなくなった。
ミンスの兄上が、週に一度クロマに力を与えに来てくれるんだとさ。」

しかし誠治は、あまり表情は明るくせず言った。

「安心するのはまだ早いと私は思います。」

それに対し、ついついハジメは眉を潜める。

「随分懐疑的になったなぁ。どうしたんだ誠治、前はもっとミンスと仲良くしてたろ?」

「それとこれとは話は別です。彼が犯人なら、恐ろしい者である事は変わりないのですから。」

誠治の言葉にハジメと秋菜は顔を見合わす。
誠治は話が通用しないと感じたのか、そのまま出て行く事に。

「失礼します。」

誠治が出て行くと、二人は話す。

「誠治が何かやらかさないか心配だ。」

ハジメが言うと、秋菜も頷く。

「私もですわ…」



クロマとミンスはもみじ公園に来ている。
ミンスはベンチに逆向きに座って自然を観察中、クロマは落ち着かずそこらでうろちょろしていた。

「クロマ、落ち着きがありませんよ。」

「何のために来たのだ。」

不機嫌そうにクロマは言った。

「あら、噴水を見に来たのですよ。あ、ほら、ミィシェルも来てます。」

と指差すミンス。
ちなみにミンスは噴水を見るどころか背を向けている。
クロマがその方向を見ると、ミィシェルが噴水の水を被って遊んでいた。
それを近くから眺めている兄のアンジェルの姿もあった。

「Anjel兄!Michelハ水になるです!」

「コミュン家に泥を塗るようなはしたない行為は外でやんなよ。」

アンジェルは冷たくそう言って、ミィシェルを蹴飛ばす。
ミィシェルは噴水の中に落ち、それでも楽しそうにしていた。

「こんなヤツが弟でなんだか恥かしいや。」

アンジェルが呟くと、頭上でとあるヘリコプターを発見。
ヘリコプターに記されたエンブレムを見たアンジェルは真面目な顔をし始め、ミィシェルをトイレまで連れて行った。

「なんだあれは、秋田の研究所ではなさそうだな。」

クロマがヘリコプターを見て言った。
あまりに近くを飛んでいたので、クロマは珍しく思ったようだ。

そして更に近くの木陰。
木陰ではなんと誠治が、コソコソとミンス達の様子を見ていた。

(この公園に今日は何の用だろうか…)

誠治は考えながらも難しい顔で二人を見つめていると、急に誰かに背中を叩かれる。

「ゴミ拾いのにーちゃ~ん」

そう言って誠治の背中を叩いたのは、守であった。
誠治は守を見ると驚いた顔を見せたが、すぐに微笑んだ。

「あ、守。遊びに来たの?」

それを聞いて守はムスっとした顔をした。

「誠治さん、ミンス達の監視?」

「…はい。どうしても、彼等が怪しく見えてしまって。」

守は誠治をじっと見つめている。
誠治はそれを見て、首を軽く横に振った。

「いや、わからなくてもいいんだよ。私が勝手にそう思っているだけだから。」

すると守は誠治に一歩近づいた。
誠治がビックリすると守は言った。

「僕も怪しいと思うよ。」

誠治は目を見開く。

「本当!?」

「う~っむ!」

と守は頷くと、誠治は同士がいて安心するのであった。
そうしていると、クロマ達の方から何やら会話が聞こえてきた。
二人はそれを見る。

クロマとミンスの前にはミィシェルの服を着たアンジェルがいた。

「これで親ヘリから逃げられるかな。」

アンジェルが言うと、クロマはアンジェルを睨む。

「どういう事だ。」

「さっきのヘリ、親が寄越してきたものなんだ。逃げる為に、ミィシェルを囮に使ったの。」

アンジェルは平然と言うので、クロマはアンジェルを睨んだまま言った。

「何?よくも平然と…!」

クロマは珍しく怒っている様子で、アンジェルの胸ぐらを掴んだ。

「クロマ…!落ち着きなさい。」

ミンスは驚くが、アンジェルは平気そうだ。

「別に戻ってくるよ、犬なんだからさアイツ。ていうかお前自分が弱くなってる事、自覚して胸ぐら掴んじゃってんの?」

「知った事か…!」

クロマが言うと、アンジェルはクロマの腕を凍らそうと力を使う。
クロマは凍てつく手がキリキリと痛み始めたので、反射的に離してしまう。

「殺人マリモの名が聞いて呆れるね。」

「誰がそんな名をつけた。」

しかしアンジェルは無視して言う。

「ボクの能力、存分に発揮した事ないんだよね~。ミンスの植物凍らせて遊ぼっかな。」

その挑発に、クロマが一歩前に出る。
するとミンスはクロマを止めた。

「クロマ、おやめなさい。」

「ミンス!」

ミンスは前に出て、アンジェルに言った。

「どうぞ。わたくしもわたくしの植物も、寒さなど平気です。」

「は!?」

アンジェルが面白くないような顔で言うと、ミンスは微笑んだ。

「普通の植物とは違いますから。試してもよろしいですよ。」

しかしアンジェルはムスっとすると、ミンスに言った。

「キミ案外肝が据わってるじゃん。そういうヤツはつまんない。」

「あら悲しいですねぇ」

煽るようにミンスは言うが、アンジェルはそのまま立ち去ってしまった。

「あらあら、気が短い事。」

ミンスがそう言ってクロマの方を見ると、クロマは空を見上げてミィシェルの行方を探していた。
それを横目で見たミンスは、モヤモヤして自分の胸の辺りを撫でるのであった。

(クロマは…お友達の事ばかり…)
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