植物人間の子

うてな

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第3章 平穏―ピースフル―

031 復帰!石の巫女! 前半

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「いづれ死ぬのだな私は。」

クロマは呟いた。
砂田やサウザの表情が暗くなる中、クロマは溜息をついてから続けた。

「仕方のない事だ。死ぬ前に必ずミンスを見つけ出す。」

すると砂田はムスっとして、クロマを自分の方に向けた。

「バカ!つい最近ミンスよりも先に死なないって約束してたじゃない!ミンスとの約束を裏切る気なの!?死ぬなんて言わないで!」

砂田が言うので、クロマは眉を潜める。

「貴様がなぜそれを知っている。」

「聞いてたからに決まってんでしょ!」

クロマはまた黙り込むと、砂田の白衣のポケットに手を入れた。
砂田が何事かと思っていると、クロマは砂田のポケットの中にあったミニナイフを取り出した。

「おい。」

久坂が砂田のポケットにミニナイフがある事に反応をする。

「護身用!持ってて悪い!?」

「クロマ、それをどうするの?」

サウザが聞くと、クロマはナイフを見せる。

「私が早々に死んでしまうのならば、私が死ぬ前にミンスを殺そうかと思ってな。」

淡々とナイフを回して言うので、サウザは焦って止めた。

「ちょっと待ったぁ~っ!
そんな恐ろしい事やめて!別の解決方法があるはずだよ!」

そして砂田もクロマを止める。

「あなたヤンデレ!?」

「どうせ力が無ければどちらも死んでしまうのだろう。」

クロマが言うと、サウザも砂田も黙り込んでしまう。
そしてクロマは続けた。

「私は石の巫女の事も、国の事は愚か自分の事さえ知らない。
だが一つだけ言える、私やミンスさえいなければ全て丸く治まるという事だ。」

それを聞いて、サウザは拳を握る。
クロマは更に言う。

「私は勝ち目の無い勝負に出るほど愚かではない。ここは潔く、ミンスと共に死ぬ事を選ぼう。」

クロマの言葉に、久坂は鼻で笑った。

「てめぇ、ただの脳筋かと思ったら案外お利口さんなんだな。」

「馬鹿にするな。
しかし私にも未練というものがある。ミンスを見つけ出す、それまで死ぬにも死にきれん。」

クロマはそう言って外へ向かおうとすると、サウザはクロマの腕を掴んだ。
クロマはサウザに振り向くと、サウザは涙目になりながらも言った。

「情けない兄ちゃんでごめん…!俺…クロマに何もできない…!」

砂田が同情していると、クロマは淡々としながらもサウザの手を取った。

「共にミンスを探してくれ。…貴様には十分借りがあるが、返せそうにない。」

そう言ってから外へ出て行ってしまう。
サウザが呆然としていると、砂田は心配して話しかける。

「サウザ…?」

サウザは切り替えるように涙を拭き、みんなに真摯な表情を見せた。

「みんなもミンスを探すのに協力して欲しい!俺もミンスを見つけるまでは!国に帰れない!」

そう言ってサウザも出て行ってしまう。

「あー私も!」

砂田も出ると、サチも立ち上がった。

「あたしも。」

久坂や守は探そうとはしなかった。
シュンは赤子と寝ていて、他は不在だった。



ミンスは目が覚めた。
目覚めた場所はどこかの一室のようで、清楚で素朴な部屋にいた。

(わたくしは…)

ミンスが思い出そうとすると、首に首輪が付いている事に気づく。

「ん…!これは…?」

ミンスは外そうとしても外れないのでムスっとして、自分の頭の装飾品を見上げるとともに思った。

(なぜ、二つに拘束されなければならないのですか。)

「起きたかな?」

扉が開き、中に秋田が入ってきた。
秋田は何やら怪しい機械を持ち運んで来ており、大きい機械に付属する透明なカプセルの中に、鮮やかな青色をした光が入っていた。
ミンスはそれを見て目を見開くと、起こった事を思い出す。

「貴方…!わたくしを寝かせて、こんな物まで付けてどういうつもりですか…!」

ミンスの言葉に秋田は笑う。
そしてミンスに近づくと言った。

「君が逃げないようにだよ。
ほら、わかるだろう?君の求めていた物が今ここにある。どう思うかね?」

そう言われると、ミンスはそのカプセルの中の光を見つめた。
秋田は続ける。

「まさか君自ら私のところに来てくれるとは思わなかった…。目的は何かな?」

秋田に聞かれるので、ミンスはそのカプセルの光を見ながら言った。

「この…石の巫女の力で、わたくしの力の封印を解こうと考えました。」

秋田はニヤニヤしながら聴いているので、ミンスは更に言う。

「十一年も前、貴方は研究員を連れてわたくしの国の周りをうろちょろとしていた。貴方は母上を見つけて、その機械で力を吸い上げた。
…その力さえあれば、わたくしの封印を解く事など容易なのです。」

それを聞いて秋田は喜ぶと、ミンスの頭を撫でる。
ミンスはその手を退かすと、秋田は言った。

「懐かしい。君も覚えているだろう二十四年前を!
君は人間が憎かった…。その憎さを、何の罪もない女性へ向けた。」

ミンスは顔を逸らす。

「貴方の妻の事は、わたくしではなく母上に言うべきです。」

すると秋田は、無理矢理ミンスの顔を自分の方に向ける。

「変わらない…!だって君は…!」

そう言って秋田は機械のボタンを押し、カプセルを開けた。
カプセルの中の力はミンスの方へ向かい、ミンスは石の巫女の力を受ける。
光に包まれるミンス。

(これで…!わたくし…!)

ミンスはその力で自分の頭に付いている装飾品、自分の封印を解いた。
眩いくらいの光が部屋を包み込み、秋田は感心の眼差しでミンスを見ていた。

しかしミンスは自分に戻るはずの力に触れると、なぜか全身に電撃が走った。
ミンスは慌てて自分の力を全て、植物を介してクロマの方へ送ってしまう。

ミンスは息を切らせて愕然としていると、秋田はせせら笑った。
封印の解けたミンスの姿は、男の体だったものが女になっており、更には青い髪がオーロラの様に煌く青いような緑のような髪になっていた。



それを見ると秋田は、ミンスの体に触れた。

「どうだい?その首輪は君が一定の力以上持つと、君の苦手なプラズマを発する素晴らしい首輪だよ?
研究とデータを重ねて重ねて…やっと完成したんだ…。」

ミンスは秋田を睨んだ。

「わたくしに触れないでください…!」

秋田は笑いながら、ミンスを見つめると言った。

「変わらない、石の巫女だ…!私の妻を取り入れた彼女と全く似ている…!
その上、喜美子の面影が強く残っている…!!」

秋田の熱い視線に、狂った視線にミンスは恐怖を覚える。

「君は喜美子なのかい?そうなんだろう?
ダメだ、興奮が抑えられないよ…!」

ミンスはその秋田の狂った様な表情に顔を引き攣ると、秋田はミンスを拘束して身動きがとれないようにする。

「な!何をする気です!」

ミンスが言うと、秋田は笑いを堪えられないでいる。

「やっと手に入れた…!やっと妻をこの手に…!
やったぞ…!やったぞ綺瑠…!!」

秋田はそう言うと、ミンスの胸に顔を埋める。

「ひっ!」

ミンスはビックリすると、秋田は切なく呟いた。

「やり直そう…喜美子……三人で…」





――二十四年前。

お洒落な高級レストランにて。
店には、男女と一人の幼児が食事をしていた。

「他に調べていない場所は?」

優しげな女性が男性に聞く。
男性は微笑む。

「えっと、B班はアジアの砂漠地帯かな。なかなか広くて調べるのは大変そうだ…。まあ、喜美子も一緒だから最後まで粘れるかな!」

「総作さん、本当に熱心ですね。わたくしがいなくても粘れそうです。
そうですね、砂漠の地層を調べ上げたら、今度は何を調べるのでしょうか。」

と女性。
男性は首を傾げる。

「う~ん…その頃には綺瑠も大きくなっているだろうし、綺瑠の将来の夢のお手伝いでもしようかな。」

そう言って男性は笑った。

この男女は、つい数ヵ月前に離婚してしまった元夫婦。
今はお互いに落ち着くまで距離を取り、復縁を望んでいる。

男性の名前は『秋田 総作(あきた そうさく)』。
財閥の御曹司であるが、地質学者で世界中の地層を調べて回ったりもしている。

女性の名前は『奈江島 喜美子(なえじま きみこ)』、同じく地質学者でシングルマザー。
彼女はとても穏やかな性格をしている。



そして二人の間に座る男の子は『奈江島 綺瑠(なえじま きる)』。
二人の間にできた、たった一人の愛息子。

「ロボットで宇宙を旅する!
我等の綺羅星、ダイナスペース号!発進~!」

綺瑠は言い出す。
もうすぐ四歳という事もあり、まだまだ夢のある子供。
二人はつい笑いってしまい、総作は綺瑠に言った。

「よし!じゃあお父さんがロボット作ってあげようか?」

「ほんと!?」

綺瑠が目を輝かせると、総作は頷いた。

「お父さん、いっぱいロボットの勉強するよ。」

喜美子は心配した顔を見せる。

「いいのでしょうか…できるかわからないですし…事業も…」

「ノープロブレム」

総作はそう言ってワインを一口。

「綺瑠の為ならお父さんは何でもできちゃう!お父さんは無敵だよ。」

喜美子は上品に笑った。

「あら、志が相変わらず高いですこと。」

綺瑠は机に乗り出して喜ぶ。

「父さん無敵!?すごーい!」

二人は笑顔で綺瑠を見ていた。

「あ、そうだそうだ。」

総作は落ち着きを取り戻すと、喜美子に提案をした。

「なあ喜美子、素晴らしい断層を日本で見つけたんだ。今度三人で見に行こう、綺瑠の誕生日の日に。
綺瑠も喜美子も、自然が大好きだろう?」

「あら素敵、勿論です。綺瑠も賛成?」

「うん!みんなで行こう!!」

綺瑠は陽気に答えるのであった。



その日の帰りだ。
総作はタクシーを呼んで二人を家の前まで送ってくれた。

喜美子と綺瑠は、家までの僅かな距離を歩いていた。
そこで綺瑠は喜美子に言った。

「母さん、父さんとまた一緒に住めるって本当?」

「本当です。でも今はお仕事で忙しいので、カレンダーを二回めくるまで一緒に住めません。」

すると綺瑠は少ししょんぼり。

「僕…次のカレンダーの二日、お誕生日なのに…一緒に居れないの?」

「…ごめんなさい綺瑠。でもそれを超えたらずっと、誕生日の日は三人で過ごせますよ?」

喜美子が言うと、綺瑠は喜んだ。

「本当!?やったー!」

跳ねて喜ぶ綺瑠を見て、喜美子は微笑んだ。
それから綺瑠を抱き上げ、家へ帰るのであった。
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