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第2章 正体―アイデンティティ―
番外編 奈江島喜一郎 4
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あの後、綺瑠は疲れて眠りに就いた。
俺は血塗れのシーツを秋田と共に剥がしながらも話をしていた。
「会長…こんな事やめてください、綺瑠に悪いです。」
「君は黙ってこのシーツを保存するのを手伝って。」
俺は思わず眉を潜めてしまう。
秋田はそれを見て言った。
「それに綺瑠とは他人の様に振舞えと言ったろう?
君は綺瑠を『坊ちゃん』と呼び、綺瑠は君を『三森』と呼ばせる事に徹底しよう。」
俺は悔しく思った。
…何も反論ができない。
俺は秋田に怯えていた。
親がかつて秋田に追い詰められたように、逆らえば自分もそうなるのかと思った。
返事もできず俺が黙っていると、秋田は溜息をついて言う。
「まあいい機会だ、君に私と綺瑠の愛し合う姿を見せる事が出来て良かったよ。
どうだい?綺瑠の幸せそうな顔。綺瑠はやっぱり私の方がいいんだ。」
そう言うと、秋田はクスリと笑った。
本当に狂っている男だ。
あの暴力を、愛し合っていると言い切っている。
そしてそれを見せつけて、『綺瑠は君ではなく私が大好き』と言っている。
喜美姉の時もそうだった。
喜美姉は弟の俺を可愛がり、それを秋田は気に入らなかった。
今もそうだ。
綺瑠は俺を気に入っているようで、秋田はそれを気に入っていない。
だからこうして俺に見せしめている。
本当に汚い…だからこの男は嫌いなんだ…!
…片付けが終わり、俺は帰ろうとする所だった。
今日は本当に嫌なものを見た。
…すると、玄関の扉前に綺瑠が立っていた。
「坊ちゃん…?寝ていたのでは…?」
綺瑠は俺に向けて、不気味な笑みを向けていた。
俺は鳥肌が立った。
「なんだよ…あんなのを見せて、満足かい?」
「素敵な『愛』だったでしょ?
僕もね、きぃくんからホシイの…『愛』を。」
俺は顔を引きつってしまう。
綺瑠は俺に近寄ってきた。
「頂戴きぃくん、僕に愛を頂戴。」
咄嗟に怖いと感じた。
近くにいてはいけない気がした。
「無理……無理だよ…!」
「どうしてきぃくん、きぃくんは僕が嫌い?愛してくれないの?」
なぜそうなる?綺瑠にとっての愛って、暴力なのか?
俺は訳がわからなくなって、頭を抱えて何も答えられなかった。
綺瑠はそんな俺を心配している様子だった。
「きぃくん?具合悪い?」
俺は綺瑠の視線までしゃがむと言う。
「ごめん…。俺じゃ、綺瑠が欲しい物をあげられない。」
俺はそう言って立ち去った。
綺瑠は何も言わなかった。
俺は、今は心の整理をしたかった。
この救えない親子から離れて…
この日から、俺は度々秋田の虐待の後片付けを手伝わされたりした。
時には人が来ないように周囲を見張ったり…。
いつも綺瑠の声が、秋田の気持ち悪い声が聞こえた。
そんな日常とは別に、俺は定期的に綺瑠に呼び出されては、綺瑠の非行を止める事が多くなった。
綺瑠は非行を行う前には必ず俺に連絡し、俺が駆けつけた時に非行を行う。
そんな事ばかりを繰り返していた。
俺が叱る度、綺瑠は嬉しそうにしていた。
…本当に親子揃ってイカレてる…。
特別危険な事をしない限り、綺瑠の呼び出しに俺は応じない事にしていた。
俺はそんな生活に疲れながらも、それでも秋田の秘書を続けていた。
今日は中学生になった綺瑠の体育祭。
秋田はだいぶ過保護で、炎天下に置かれる綺瑠を心配していた。
そのせいか、綺瑠の席だけはなぜか立派なテントの中。
綺瑠は苦笑して言う。
「ちょ、ちょっと父さん。僕もみんなと同じ席でいいよ…!」
「ダメだ綺瑠!綺瑠も喜美子と同じで体が弱いかもしれないだろう!」
「もう、父さんより健康的な肌色なのに。失礼しちゃうなぁ。」
仲の良い親子の会話。
そこに、綺瑠のクラスメイトが綺瑠に言う。
「いいなぁ坊ちゃんは!よっ、生徒会長様~!」
それに対し、綺瑠は苦笑して言った。
「もう、大声で言わないでって。僕もみんなと同じ席に行くから。」
クラスメイトと普通に会話する綺瑠を見て、俺は目を丸くしていた。
普段の綺瑠は陽気で明るく、自由人ではあるが学校の模範となる男の子。
これは周囲の印象であるが、俺はそれを聞いてもしっくりこなかった。
俺の知っている綺瑠はそんなんじゃない。
もっと秋田みたいにドロドロしていて、歪んだ愛を渇望している狂気地味た男の子。
のはずなんだけど…。
やっぱりみんなの前の綺瑠は、狂気なんて一切感じないただの男の子だ。
綺瑠は俺と目が合う。
綺瑠は俺と目が合うと、すぐに視線を逸らした。
それともう一つ…。
綺瑠は俺と一緒にいる時は執着してくるが、みんなといる時はまるで素っ気ない。
俺をからかっているのか?子供に舐められるなんてダメな大人だな…。
俺は血塗れのシーツを秋田と共に剥がしながらも話をしていた。
「会長…こんな事やめてください、綺瑠に悪いです。」
「君は黙ってこのシーツを保存するのを手伝って。」
俺は思わず眉を潜めてしまう。
秋田はそれを見て言った。
「それに綺瑠とは他人の様に振舞えと言ったろう?
君は綺瑠を『坊ちゃん』と呼び、綺瑠は君を『三森』と呼ばせる事に徹底しよう。」
俺は悔しく思った。
…何も反論ができない。
俺は秋田に怯えていた。
親がかつて秋田に追い詰められたように、逆らえば自分もそうなるのかと思った。
返事もできず俺が黙っていると、秋田は溜息をついて言う。
「まあいい機会だ、君に私と綺瑠の愛し合う姿を見せる事が出来て良かったよ。
どうだい?綺瑠の幸せそうな顔。綺瑠はやっぱり私の方がいいんだ。」
そう言うと、秋田はクスリと笑った。
本当に狂っている男だ。
あの暴力を、愛し合っていると言い切っている。
そしてそれを見せつけて、『綺瑠は君ではなく私が大好き』と言っている。
喜美姉の時もそうだった。
喜美姉は弟の俺を可愛がり、それを秋田は気に入らなかった。
今もそうだ。
綺瑠は俺を気に入っているようで、秋田はそれを気に入っていない。
だからこうして俺に見せしめている。
本当に汚い…だからこの男は嫌いなんだ…!
…片付けが終わり、俺は帰ろうとする所だった。
今日は本当に嫌なものを見た。
…すると、玄関の扉前に綺瑠が立っていた。
「坊ちゃん…?寝ていたのでは…?」
綺瑠は俺に向けて、不気味な笑みを向けていた。
俺は鳥肌が立った。
「なんだよ…あんなのを見せて、満足かい?」
「素敵な『愛』だったでしょ?
僕もね、きぃくんからホシイの…『愛』を。」
俺は顔を引きつってしまう。
綺瑠は俺に近寄ってきた。
「頂戴きぃくん、僕に愛を頂戴。」
咄嗟に怖いと感じた。
近くにいてはいけない気がした。
「無理……無理だよ…!」
「どうしてきぃくん、きぃくんは僕が嫌い?愛してくれないの?」
なぜそうなる?綺瑠にとっての愛って、暴力なのか?
俺は訳がわからなくなって、頭を抱えて何も答えられなかった。
綺瑠はそんな俺を心配している様子だった。
「きぃくん?具合悪い?」
俺は綺瑠の視線までしゃがむと言う。
「ごめん…。俺じゃ、綺瑠が欲しい物をあげられない。」
俺はそう言って立ち去った。
綺瑠は何も言わなかった。
俺は、今は心の整理をしたかった。
この救えない親子から離れて…
この日から、俺は度々秋田の虐待の後片付けを手伝わされたりした。
時には人が来ないように周囲を見張ったり…。
いつも綺瑠の声が、秋田の気持ち悪い声が聞こえた。
そんな日常とは別に、俺は定期的に綺瑠に呼び出されては、綺瑠の非行を止める事が多くなった。
綺瑠は非行を行う前には必ず俺に連絡し、俺が駆けつけた時に非行を行う。
そんな事ばかりを繰り返していた。
俺が叱る度、綺瑠は嬉しそうにしていた。
…本当に親子揃ってイカレてる…。
特別危険な事をしない限り、綺瑠の呼び出しに俺は応じない事にしていた。
俺はそんな生活に疲れながらも、それでも秋田の秘書を続けていた。
今日は中学生になった綺瑠の体育祭。
秋田はだいぶ過保護で、炎天下に置かれる綺瑠を心配していた。
そのせいか、綺瑠の席だけはなぜか立派なテントの中。
綺瑠は苦笑して言う。
「ちょ、ちょっと父さん。僕もみんなと同じ席でいいよ…!」
「ダメだ綺瑠!綺瑠も喜美子と同じで体が弱いかもしれないだろう!」
「もう、父さんより健康的な肌色なのに。失礼しちゃうなぁ。」
仲の良い親子の会話。
そこに、綺瑠のクラスメイトが綺瑠に言う。
「いいなぁ坊ちゃんは!よっ、生徒会長様~!」
それに対し、綺瑠は苦笑して言った。
「もう、大声で言わないでって。僕もみんなと同じ席に行くから。」
クラスメイトと普通に会話する綺瑠を見て、俺は目を丸くしていた。
普段の綺瑠は陽気で明るく、自由人ではあるが学校の模範となる男の子。
これは周囲の印象であるが、俺はそれを聞いてもしっくりこなかった。
俺の知っている綺瑠はそんなんじゃない。
もっと秋田みたいにドロドロしていて、歪んだ愛を渇望している狂気地味た男の子。
のはずなんだけど…。
やっぱりみんなの前の綺瑠は、狂気なんて一切感じないただの男の子だ。
綺瑠は俺と目が合う。
綺瑠は俺と目が合うと、すぐに視線を逸らした。
それともう一つ…。
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