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07 赤バラ:あなたを愛してます
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ガリーナはワレリーの住む家、もといパーヴェルの家にやってくる。
パーヴェルの家は小さく、物が少なく整理が行き届いていた。
(昨夜の場所じゃないな…。一体どこだったんだろう、あの場所。)
昨夜走り回った館の事を思い出すガリーナ。
ワレリーはキッチンの鍋の前に立つと言う。
「少し温めます。
味はどうしますか?あまり調味料を買っていないので、ジャムしかありませんが。」
「それ、ジャムしか入れる物ないじゃない。料理作らないの?」
ガリーナが言うと、ワレリーは笑った。
「申し訳ありません。
普段はパンだけで食事が済んでしまうので、何も作らないんです。」
鍋に火をかけ、鍋の中身をかき混ぜながら答えるワレリー。
それを聞いたガリーナはクスッと笑ってしまう。
「ワレリーさん、確かに昔からパンしか食べなかったなぁ。」
「どうしても味の強いものは苦手で…。
パーヴェルの家に住んだ当初は驚きました。
酒や味の濃い食べ物がいっぱいで…全部捨ててしまいました。」
ガリーナは苦笑した。
(逆にパーヴェルくんは沢山食べるもんなぁ…)
ワレリーは鍋を温め終えて、皿に盛り付けてガリーナに出す。
それはスープで、色的には葡萄のジャムが入っている。
「ありがとう、いただきます。」
ガリーナはスープを一口食べると、眉を潜めた。
「味薄い…」
「おや、沢山入れたつもりでしたが…」
ワレリーはそう言って棚のジャムをガリーナに出す。
「もう少し入れますか?」
ガリーナはジャムの蓋を開けて、ジャムをそのまま一口味見する。
「あの、この葡萄ジャム、すごく薄くないですか?」
それを聞いたワレリーは何かに気づいた顔をした。
「申し訳ありません。普通のジャムは味が濃いので、薄いものを購入しているんですよ。」
ニコライもガリーナのスプーンを使って一口食べると、黙り込んでしまう。
「みず!」
味がわからないのか、水と答えてしまうニコライ。
ガリーナもその気持ちがわかるのか、頷いてからワレリーに言った。
「にしても、食事分けても良かったの?
一人暮らしだし、一人分しか用意されてないでしょう?」
「いえいえ。ほぼ毎日客人がいらすので、予め食事を用意しているのですよ。」
「客人…?」
ガリーナは首を傾げると、玄関の方から女の子の声が聞こえる。
「パーヴェル、おはよう!」
ガリーナは廊下の扉を見ると、扉から一人の女性が顔を出した。
女性はガリーナによく似ている。
ガリーナと違って髪はストレートではなく、瞳もガリーナほど美しいわけではない。
しかしガリーナと比べたらスタイルがいい、そんな女性だ。
ガリーナは女性を見ると、目を見開いて驚いた。
「【レギーナ】…!」
するとレギーナもガリーナを見て驚く。
「ガリーナ…!なんでパーヴェルの家に…!
アンタはあの変な牧師と結婚したはずでしょ!」
敵意剥き出しで言うレギーナ。
その言葉を聞くと、ガリーナはついワレリーに視線を送ってしまった。
ワレリーは満面の笑みで黙っており、次に言う。
「おはようレギーナ。
今朝ガリーナと会いまして、息子のニコライに朝ご飯を食べられたんだと。はっはっは。」
ワレリーはパーヴェルを真似ているのかそう言うと、レギーナはワレリーの傍まで小走りでやってきた。
レギーナは背伸びしてワレリーに口づけをすると、見ていたガリーナは顔を真っ赤にする。
「だからって私以外の女を家に入れちゃダメでしょ!」
ムスっとしたレギーナ。
ガリーナはスープを飲み干すと席を立った。
「あ、お邪魔みたいなので私はこれで…」
「さっさと出てって!」
レギーナは突き放すように言うと、ワレリーは困った顔をする。
「せっかくお姉さんに会ったんですよ?もう少し話したらどうです?」
ガリーナとレギーナは姉妹で、ガリーナが姉だ。
レギーナは不機嫌な顔をしていたが、少し控えた様子で言う。
「でも…私話す事はないわ…。」
ガリーナは困った様子で言った。
「レギーナ、私の事あんまり好きじゃないみたいなの…。」
ワレリーはそれを既に知っているのか、あまり反応を見せない。
レギーナはワレリーをぎゅっと抱きしめ、ワレリーはレギーナに視線を落とす。
そしてワレリーはレギーナをそっと抱きしめると、レギーナはワレリーを見上げた。
「パーヴェル…」
レギーナがそう言うと、ワレリーは次にガリーナに視線を送る。
ガリーナは察したのか、ニコライを連れて部屋を出た。
「ごゆっくり…」
そう言い残して。
ガリーナはパーヴェルの家から出て行くと、ふとパーヴェルの家の方を振り返った。
(レギーナって昔からパーヴェルくんの事が好きだけど…
ワレリーさんと付き合っちゃって大丈夫なのかな…)
===================
その日の夕方、ガリーナはパーヴェルとニコライと共にいつも通り食事をしていた。
ニコライは懲りずに食材の名前を一つ一つ言いながら食べ、パーヴェルはいつも幸せそうに食事をしている。
ガリーナはパーヴェルに聞いた。
「ねえ」
「ん?」
ガリーナは少し躊躇うが思い切る。
「今日ね、事故で朝食がダメになって…そしたらパーヴェルくんがご馳走してくれるからって家に行ったの。」
「うん。」
「そうしたらね、妹のレギーナが家にやってきて…。
レギーナ、パーヴェルくんの家によく来るんですって。
…私達が結婚する前から、レギーナはパーヴェルくんの事を気にしている様子だったけど…結ばれている様子で良かった。」
ガリーナがそう言うと、パーヴェルは興味がないのか反応が薄い。
「ふ~ん。そうですね、幸せそうで良かったです。」
ガリーナは目を泳がせつつも更に言った。
「パーヴェルくんって昔はレギーナと全く関わらなかったから…今あんなに親しいと不思議よね。急になんでかしら。」
それを聞いたパーヴェルは反応し、ガリーナはそれを見逃さなかった。
次にパーヴェルは真面目な顔を見せる。
「パーヴェルは…
ガリーナ、あなたが好きだったんですよ。」
「え…」
パーヴェルは続ける。
「誰に対しても平等で優しく、天使の様な笑顔が素敵なんだと、パーヴェルは言っていました。
彼の愛は本物でした…
それは、兄である私によく聞かせるほどでした。」
ガリーナはそれに頬をピンクにすると、パーヴェルは微笑んでガリーナを見つめた。
パーヴェルはガリーナに手を伸ばし、ガリーナは無意識に手を前に出した。
パーヴェルはその手を強く握ると、目を深く閉じて言う。
「勿論同じく、私もガリーナを愛しています。」
「ぱ……ワレリーさん…!」
ガリーナが言うと、パーヴェルはガリーナの手を次は両手で力強く握った。
パーヴェルは目を瞑ったままだったが、真面目な表情を浮かべていた。
「ガリーナは…誰か好きな人がいましたか…?」
それを聞いたガリーナは目を見開くと、少し黙ってから言う。
「…勿論ワレリーさんが…
あなたが好き…!」
パーヴェルは深く頷くと微笑む。
「嬉しいです、ガリーナ…」
パーヴェルはガリーナの手を強く握ったまま、離さない。
ガリーナはパーヴェルに好きと言ったが、ちゃんと通じているか不安でモヤを抱える。
二人の沈黙は続いた。
するとニコライは急に叫んだ。
「むしぃーー!」
それを聞いたパーヴェルは顔色を変えて驚く。
「虫っ!?」
「むしぃーー!」
しかし、虫などどこにもいない。
「いないわよ。」
ガリーナがいない事を知らせると、パーヴェルは不機嫌な顔を浮かべた。
「嘘をつくなニコライ…!」
ニコライは気にせず、また言う。
「むしぃーー!」
相当その言葉が気に入ったのだろうか、パーヴェルは呆れて溜息をついた。
そしてガリーナは、そんな二人を見て苦笑するしかなかったのだ。
========================
その日の夜、パーヴェルとガリーナは家の窓から空一面の星空を見上げていた。
「夜は不吉な話が多いけど、夜空も月もとっても綺麗よね。」
ガリーナがそう言うと、パーヴェルは頷く。
「それはそうです。別の国では、月は神聖なものだと言われるほどですからね。」
「そうなの!?」
ガリーナは驚くと、パーヴェルは笑った。
それからパーヴェルは笑いを止めると、微笑んで言う。
「私の小さい頃の夢をお教えしましょう。
あの月をご覧なさい。」
(夢…?)
ガリーナは目を丸くして、満月を見つめる。
パーヴェルは幼い頃のワレリーを思い出して言った。
「月の模様が兎に見えませんか?」
「えー?…ああ、確かに!」
ガリーナが言うと、パーヴェルは過去の自分とガリーナの声を重ねながら思い出す。
――幼いワレリーは月夜を見つめて言った。
「身を滅ぼしてまでも善行を尽くしたウサギを、神が称えて月にウサギを映したという話があります。
素敵でしょう?」
「なんか可哀想。」
パーヴェルが言うと、ワレリーは笑う。
「ですが、称えるに相応しいウサギだと私は思います。」
パーヴェルはそれを聞くと、微妙な反応を見せた。
「俺は嫌だなあ」
ワレリーは満天の星空を眺めて言う。
「この村はまるで、夜空です。
夜空の星の様に多くの美しい花が咲き誇る。
そして村人は希望を求める小さな天使…つまり夜空の星なのです。
ほら!星が今、煌めいた。」
パーヴェルは煌めいた星を見つけると、ワレリーは続けた。
「今のは星の蕾が咲いたのですよ?ほんの、ほんの一瞬だけなのです、星の花が咲くのは。
でもあれをご覧なさい。」
ワレリーの指した先は、輝き続ける一等星。
「あの花はずっと咲いています。枯れる事もなく、蕾になる事もなく…。」
パーヴェルはワレリーの世界に入り込めずにいると、ワレリーは星を見上げる。
「地上の花の栄養は太陽。ですが、星空の花の栄養は月なのですよ。
月は星の花畑を育てる太陽なのです。」
「ほんとに?」
半分飽きた顔をしてパーヴェルが聞くと、ワレリーは深く頷いた。
そしてワレリーは遠い目で月を見つめると呟く。
「私は…私はあのウサギの様に、月になりたい…
夜空をもっと…輝きに満ちた花畑にしたいのです…」――
その話を聞くと、ガリーナは目を輝かせる。
「凄い…星空を花畑に例えるなんて、私は考えた事もなかった。
ワレリーさんは夜空の月になりたくて、村を導く牧師様になったんだね。」
するとパーヴェルは微笑んだ。
「そういう事です。わかってくれたのなら、良かったです。」
ガリーナは月を見上げた。
(今のワレリーさんはどう思っているんだろう…)
パーヴェルも月に映る兎を見上げて思う。
(兄様、そのせいで身体壊したりしないといいんだけどな。)
パーヴェルの家は小さく、物が少なく整理が行き届いていた。
(昨夜の場所じゃないな…。一体どこだったんだろう、あの場所。)
昨夜走り回った館の事を思い出すガリーナ。
ワレリーはキッチンの鍋の前に立つと言う。
「少し温めます。
味はどうしますか?あまり調味料を買っていないので、ジャムしかありませんが。」
「それ、ジャムしか入れる物ないじゃない。料理作らないの?」
ガリーナが言うと、ワレリーは笑った。
「申し訳ありません。
普段はパンだけで食事が済んでしまうので、何も作らないんです。」
鍋に火をかけ、鍋の中身をかき混ぜながら答えるワレリー。
それを聞いたガリーナはクスッと笑ってしまう。
「ワレリーさん、確かに昔からパンしか食べなかったなぁ。」
「どうしても味の強いものは苦手で…。
パーヴェルの家に住んだ当初は驚きました。
酒や味の濃い食べ物がいっぱいで…全部捨ててしまいました。」
ガリーナは苦笑した。
(逆にパーヴェルくんは沢山食べるもんなぁ…)
ワレリーは鍋を温め終えて、皿に盛り付けてガリーナに出す。
それはスープで、色的には葡萄のジャムが入っている。
「ありがとう、いただきます。」
ガリーナはスープを一口食べると、眉を潜めた。
「味薄い…」
「おや、沢山入れたつもりでしたが…」
ワレリーはそう言って棚のジャムをガリーナに出す。
「もう少し入れますか?」
ガリーナはジャムの蓋を開けて、ジャムをそのまま一口味見する。
「あの、この葡萄ジャム、すごく薄くないですか?」
それを聞いたワレリーは何かに気づいた顔をした。
「申し訳ありません。普通のジャムは味が濃いので、薄いものを購入しているんですよ。」
ニコライもガリーナのスプーンを使って一口食べると、黙り込んでしまう。
「みず!」
味がわからないのか、水と答えてしまうニコライ。
ガリーナもその気持ちがわかるのか、頷いてからワレリーに言った。
「にしても、食事分けても良かったの?
一人暮らしだし、一人分しか用意されてないでしょう?」
「いえいえ。ほぼ毎日客人がいらすので、予め食事を用意しているのですよ。」
「客人…?」
ガリーナは首を傾げると、玄関の方から女の子の声が聞こえる。
「パーヴェル、おはよう!」
ガリーナは廊下の扉を見ると、扉から一人の女性が顔を出した。
女性はガリーナによく似ている。
ガリーナと違って髪はストレートではなく、瞳もガリーナほど美しいわけではない。
しかしガリーナと比べたらスタイルがいい、そんな女性だ。
ガリーナは女性を見ると、目を見開いて驚いた。
「【レギーナ】…!」
するとレギーナもガリーナを見て驚く。
「ガリーナ…!なんでパーヴェルの家に…!
アンタはあの変な牧師と結婚したはずでしょ!」
敵意剥き出しで言うレギーナ。
その言葉を聞くと、ガリーナはついワレリーに視線を送ってしまった。
ワレリーは満面の笑みで黙っており、次に言う。
「おはようレギーナ。
今朝ガリーナと会いまして、息子のニコライに朝ご飯を食べられたんだと。はっはっは。」
ワレリーはパーヴェルを真似ているのかそう言うと、レギーナはワレリーの傍まで小走りでやってきた。
レギーナは背伸びしてワレリーに口づけをすると、見ていたガリーナは顔を真っ赤にする。
「だからって私以外の女を家に入れちゃダメでしょ!」
ムスっとしたレギーナ。
ガリーナはスープを飲み干すと席を立った。
「あ、お邪魔みたいなので私はこれで…」
「さっさと出てって!」
レギーナは突き放すように言うと、ワレリーは困った顔をする。
「せっかくお姉さんに会ったんですよ?もう少し話したらどうです?」
ガリーナとレギーナは姉妹で、ガリーナが姉だ。
レギーナは不機嫌な顔をしていたが、少し控えた様子で言う。
「でも…私話す事はないわ…。」
ガリーナは困った様子で言った。
「レギーナ、私の事あんまり好きじゃないみたいなの…。」
ワレリーはそれを既に知っているのか、あまり反応を見せない。
レギーナはワレリーをぎゅっと抱きしめ、ワレリーはレギーナに視線を落とす。
そしてワレリーはレギーナをそっと抱きしめると、レギーナはワレリーを見上げた。
「パーヴェル…」
レギーナがそう言うと、ワレリーは次にガリーナに視線を送る。
ガリーナは察したのか、ニコライを連れて部屋を出た。
「ごゆっくり…」
そう言い残して。
ガリーナはパーヴェルの家から出て行くと、ふとパーヴェルの家の方を振り返った。
(レギーナって昔からパーヴェルくんの事が好きだけど…
ワレリーさんと付き合っちゃって大丈夫なのかな…)
===================
その日の夕方、ガリーナはパーヴェルとニコライと共にいつも通り食事をしていた。
ニコライは懲りずに食材の名前を一つ一つ言いながら食べ、パーヴェルはいつも幸せそうに食事をしている。
ガリーナはパーヴェルに聞いた。
「ねえ」
「ん?」
ガリーナは少し躊躇うが思い切る。
「今日ね、事故で朝食がダメになって…そしたらパーヴェルくんがご馳走してくれるからって家に行ったの。」
「うん。」
「そうしたらね、妹のレギーナが家にやってきて…。
レギーナ、パーヴェルくんの家によく来るんですって。
…私達が結婚する前から、レギーナはパーヴェルくんの事を気にしている様子だったけど…結ばれている様子で良かった。」
ガリーナがそう言うと、パーヴェルは興味がないのか反応が薄い。
「ふ~ん。そうですね、幸せそうで良かったです。」
ガリーナは目を泳がせつつも更に言った。
「パーヴェルくんって昔はレギーナと全く関わらなかったから…今あんなに親しいと不思議よね。急になんでかしら。」
それを聞いたパーヴェルは反応し、ガリーナはそれを見逃さなかった。
次にパーヴェルは真面目な顔を見せる。
「パーヴェルは…
ガリーナ、あなたが好きだったんですよ。」
「え…」
パーヴェルは続ける。
「誰に対しても平等で優しく、天使の様な笑顔が素敵なんだと、パーヴェルは言っていました。
彼の愛は本物でした…
それは、兄である私によく聞かせるほどでした。」
ガリーナはそれに頬をピンクにすると、パーヴェルは微笑んでガリーナを見つめた。
パーヴェルはガリーナに手を伸ばし、ガリーナは無意識に手を前に出した。
パーヴェルはその手を強く握ると、目を深く閉じて言う。
「勿論同じく、私もガリーナを愛しています。」
「ぱ……ワレリーさん…!」
ガリーナが言うと、パーヴェルはガリーナの手を次は両手で力強く握った。
パーヴェルは目を瞑ったままだったが、真面目な表情を浮かべていた。
「ガリーナは…誰か好きな人がいましたか…?」
それを聞いたガリーナは目を見開くと、少し黙ってから言う。
「…勿論ワレリーさんが…
あなたが好き…!」
パーヴェルは深く頷くと微笑む。
「嬉しいです、ガリーナ…」
パーヴェルはガリーナの手を強く握ったまま、離さない。
ガリーナはパーヴェルに好きと言ったが、ちゃんと通じているか不安でモヤを抱える。
二人の沈黙は続いた。
するとニコライは急に叫んだ。
「むしぃーー!」
それを聞いたパーヴェルは顔色を変えて驚く。
「虫っ!?」
「むしぃーー!」
しかし、虫などどこにもいない。
「いないわよ。」
ガリーナがいない事を知らせると、パーヴェルは不機嫌な顔を浮かべた。
「嘘をつくなニコライ…!」
ニコライは気にせず、また言う。
「むしぃーー!」
相当その言葉が気に入ったのだろうか、パーヴェルは呆れて溜息をついた。
そしてガリーナは、そんな二人を見て苦笑するしかなかったのだ。
========================
その日の夜、パーヴェルとガリーナは家の窓から空一面の星空を見上げていた。
「夜は不吉な話が多いけど、夜空も月もとっても綺麗よね。」
ガリーナがそう言うと、パーヴェルは頷く。
「それはそうです。別の国では、月は神聖なものだと言われるほどですからね。」
「そうなの!?」
ガリーナは驚くと、パーヴェルは笑った。
それからパーヴェルは笑いを止めると、微笑んで言う。
「私の小さい頃の夢をお教えしましょう。
あの月をご覧なさい。」
(夢…?)
ガリーナは目を丸くして、満月を見つめる。
パーヴェルは幼い頃のワレリーを思い出して言った。
「月の模様が兎に見えませんか?」
「えー?…ああ、確かに!」
ガリーナが言うと、パーヴェルは過去の自分とガリーナの声を重ねながら思い出す。
――幼いワレリーは月夜を見つめて言った。
「身を滅ぼしてまでも善行を尽くしたウサギを、神が称えて月にウサギを映したという話があります。
素敵でしょう?」
「なんか可哀想。」
パーヴェルが言うと、ワレリーは笑う。
「ですが、称えるに相応しいウサギだと私は思います。」
パーヴェルはそれを聞くと、微妙な反応を見せた。
「俺は嫌だなあ」
ワレリーは満天の星空を眺めて言う。
「この村はまるで、夜空です。
夜空の星の様に多くの美しい花が咲き誇る。
そして村人は希望を求める小さな天使…つまり夜空の星なのです。
ほら!星が今、煌めいた。」
パーヴェルは煌めいた星を見つけると、ワレリーは続けた。
「今のは星の蕾が咲いたのですよ?ほんの、ほんの一瞬だけなのです、星の花が咲くのは。
でもあれをご覧なさい。」
ワレリーの指した先は、輝き続ける一等星。
「あの花はずっと咲いています。枯れる事もなく、蕾になる事もなく…。」
パーヴェルはワレリーの世界に入り込めずにいると、ワレリーは星を見上げる。
「地上の花の栄養は太陽。ですが、星空の花の栄養は月なのですよ。
月は星の花畑を育てる太陽なのです。」
「ほんとに?」
半分飽きた顔をしてパーヴェルが聞くと、ワレリーは深く頷いた。
そしてワレリーは遠い目で月を見つめると呟く。
「私は…私はあのウサギの様に、月になりたい…
夜空をもっと…輝きに満ちた花畑にしたいのです…」――
その話を聞くと、ガリーナは目を輝かせる。
「凄い…星空を花畑に例えるなんて、私は考えた事もなかった。
ワレリーさんは夜空の月になりたくて、村を導く牧師様になったんだね。」
するとパーヴェルは微笑んだ。
「そういう事です。わかってくれたのなら、良かったです。」
ガリーナは月を見上げた。
(今のワレリーさんはどう思っているんだろう…)
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