俺と彼女とタイムスリップと

淳平

文字の大きさ
45 / 54

30話「修学旅行」中編

しおりを挟む
ホテルの一階にあるロビーに着くと唯の姿があった。
 唯もまだシャワーを浴びていないらしく、私服姿だ。
 唯の元へと近づくと唯は俺に気づいたようで俺の方を見た。
 何だか唯の様子がいつもと違う。 なんとなくだが。

「よう、先生にバレないかヒヤヒヤしたぜ」
「ん、お疲れ様」

 唯は何故か俯き答える。

「それで……どうしたんだいきなりこんなとこに呼び出してさ」

 俺が問いても唯は相変わらず俯いたまま答えようとしない。
 うーん、これはどうしたものか。

 二人の間に沈黙が流れた。

 最初に口火を切ったのは俺だった。

「何もないなら俺……部屋に戻るわ。 先生に見つかるとやばいし」
「待って」

 唯はそう言って俺の服の裾をつかんだ。

「あのね、淳一」

 * 

 きっと淳一は明日が自分の誕生日だと気付いていないと思う。
 去年の誕生日もそうだったし。
 多分きっとこれからもそんな気がする。
 修学旅行と被ってしまっているから余計に気付かないんじゃないかって思う。
 だからってわけじゃないけど私は淳一の誕生日をちゃんと祝おうと思ったのだ。

 淳一が私の誕生日を祝ってくれた時のように。
 あの時は本当に嬉しかった。
 淳一にもらったおもちゃの指輪はちゃんと机の引き出しに大事にしまってある。
 我ながら単純だと思う。
 だって私は淳一のことが好きだから。
 何で好きなのかと聞かれたら答えには困るけど。
 きっとそういうものは理屈じゃないのかもしれない。
 強いて言うならありふれてる言い方だけれどなんだかんだ優しいとこかな。

 最近あるテレビドラマを観た。
 幼馴染の二人はお互い好きあっていたものの肝心な告白をせずにすれちがったまま三十路を超えた後、お互い違う人と結婚していった。
 そんな内容なのでドラマ自体は全く面白くないし視聴率もかなり低いらしい。
 でも何だか私の中で引っかかるものがあった。
 魚の骨が喉に引っかかったような感じ。

 淳一のことが好きだと気付いたあの時から何年経っただろうか。
 あの時から一度でも淳一に対して素直になれただろうか。

 ……私はあのテレビドラマの主人公たちのようになりたくない。
 たとえ私の片思いだとしてもこの気持ちは伝えなければいけないと思う。
 ……この修学旅行で少しでもきっかけをつかめれば……
 二日目の自由行動で一緒に回れれば……
 それができなければ私たちの仲はずっと平行線のままな気がする。
 だからきっと……私はきっと……この修学旅行できっかけをつかむんだ。

 *

 真剣な目で唯に見つめられ、俺は思わずドキッとしてしまった。
 心臓が高鳴るのを感じる。
 ああ、俺は唯のことが好きなんだなって思い知らされる。

「あの……ね」
「お、おう……」

 俺がそう言うと同時にボーンボーンと時計が鳴った。
 どうやら0時になったらしい。
 時計から唯に視線を戻すと唯は一瞬ハッとした顔をし、再び視線を俺に戻した。

「……自由行動」
「……自由行動?」

 声が小さくてよく聞こえなかったが多分自由行動と言っていた気がする。

「……うん。 淳一がその……もしよかったら……一緒に回ってほしいの」

 唯は今にも泣きだしそうな声でそんなことを言った。
 ……? というか今のはなんだ? 唯が俺を誘ってる?

「え……今なんて?」
「だから……明日の自由行動、一緒に回ってって言ってるの! ……二度も言わせるなバカ淳一」

 全身の毛穴がブワーッと開くような、そんな感覚がした。
 実際、鳥肌は立ちまくってるだろう。
 俺は確かに唯に誘われているんだ。
 めちゃくちゃ嬉しい。
 自然と口角が上がる。
 それと同時に恥ずかしくなって顔が熱くなった。

 そして、由夏との約束を思い出していた。
 自分に素直になる。 でも唯に先手を取られて誘われてしまった。
 いや、めちゃくちゃ嬉しいのだけれども。

「唯、俺からも頼む。 明日の自由行動、俺と一緒に回ってくれ」

 唯は俺の言葉に驚いたようでしばらく俯き、黙ってしまった。
 そして、

「はい」

 と微笑んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ニュクスの眠りに野花を添えて

獅子座文庫
恋愛
過去のトラウマで人前で声が出せなくなった伯爵令嬢ラニエラ・アンシルヴィアは辺境の男爵、オルテガ・ルファンフォーレとの政略結婚が決まってしまった。 「ーーあなたの幸せが此処にない事を、俺は知っています」 初めて会った美しい教会で、自身の為に一番美しく着飾った妻になる女の、真っ白なヴェールを捲る男は言う。 「それでもあなたには此処にいてもらうしかない」 誓いの口づけを拒んだその口で、そんな残酷なことを囁くオルテガ。 そしてラニエラの憂鬱な結婚生活が始まったーーーー。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...