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二人の罪人~ライラック王国編~

確認する青年

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 宿の廊下には何も異常はなかった。

 “廊下には”異常はなかった。



 追われている身であるマルコムとシューラはわかったのだ。



 この建物の外に兵士がいるのを…



 建物自体が囲まれているのを…



 マルコムとシューラは舌打ちをしてミナミの部屋に向かった。



「君が姫様を連れて行って。俺が餌になる。」

 マルコムはシューラに横目で言った。



「わかった。」

 シューラは頷くとミナミの部屋の扉を乱暴に開けた。



 何やらルーイが騒ぐ声が聞こえるが、シューラが何かを話すと大人しくなった。



 暫くすると、少しだけ荷物を持ったミナミとルーイが出てきた。



「じゃあ、あとで会おう。」

 マルコムはシューラを見て頷いた。



 ミナミはそれを見て顔を青くした。



「え?…何があったの?…アロウさんは…?」



「囲まれている。早く行きな。」

 マルコムは顎で急かすように指した。



「お前は?」

 ルーイはマルコムを見ていた。



「いいから逃げろ。俺の邪魔になる。」

 マルコムはルーイに対してあからさまに舌打ちをして苛立ちを示した。



「彼が正しい。行こう。」

 シューラは溜息をついてルーイの腕を引いた。



「モニエルさん…」

 ミナミは心配そうにマルコムを見ていた。



『マルコム…』

 そのミナミの目が、マルコムの記憶の中にある、同じグレーの目と被った。



 その目を見てマルコムは思い出した。



 そういえば…“彼女”と会ったのは、お互い15歳の時だったな…



 ミナミを見てマルコムの中の時が不思議な時間を刻んだ。



 いつもなら咄嗟に振り払う幻想だった。

 だが、嫌な夢を見たうえに近付きつつある“死神”の気配にマルコムは咄嗟ができなかった。



「鬱陶しいよ…まったく…」

 癖でマルコムは呆れたように笑って、くしゃ…っと、ミナミの頭を撫でていた。



「え…」

 ミナミは驚いていた。



 ルーイもシューラもだ。



 マルコムは自分が何をやったのか気付いて慌ててミナミから手を放した。



 ミナミはポカンとしている。



「早く…行きなよ。」

 マルコムは苦々しい顔をしていた。

 それは、他人に対する苛立ちではなく、自分の取った行動に対しての表情だった。



「…早く行こう。」

 シューラはチラリとマルコムを睨んでからミナミとルーイを急かすように言った。



「あんた…」

 ルーイはマルコムとシューラを見比べて不思議そうな顔をして居る。



「早く!!」

 マルコムはいつもの苛立ちを叫んだ。

「判断の出来ない弱者はとっとと行けよ。邪魔だ…」

 マルコムは槍を振り、ルーイとミナミを睨んだ。



「…」

 ミナミは自分の頭に手を当てて未だポカンとしている。



「行こう。」

 ルーイは慌ててミナミの腕を取って走り出した。



 走り出した二人とは別にシューラはマルコムに駆け、彼の顔に鼻がくっつくまで近寄った。



「君を理解できるのは…僕だけだからね。」

 シューラは赤い目を鋭く光らせてマルコムに言った。



「知っている。」

 マルコムはシューラに対して強く頷いた。



 シューラの言っていることは事実だ。

 彼は今のマルコムの唯一の理解者だ。



 マルコムの様子を見てシューラは頷いた。



「…じゃあ。後でね。」

 シューラは自分の腰に差して刀に手をかけて言った。



「うん。後でね。」

 マルコムも手に持った槍を掲げて言った。



 走り出したはいいが、シューラを待って立ち止まっていたミナミは二人のやり取りを見て何やら不思議そうに首を傾げている。

 ルーイは気まずそうに目をそらしている。



「行くよ。」

 シューラはマルコムから離れ、ミナミとルーイの方向に走った。



 わけが分からないような顔をしているが、ミナミとルーイはシューラに従って、また、走り出した。









 アロウの仕事柄、宿にも武器屋にも抜け道はある。

 三人はそちらに先に向かい、町からの脱出に臨む。

 マルコムは少しでも時間を稼いでから町の脱出に臨む。



 捕まらない自信は勿論マルコムにはある。



 ただ、間違いなく手を汚す手段だ。



 建物に踏み込まれ捜索をされたら、直ぐに抜け道は見つかり、ミナミたちは捕まる可能性が高い。



 シューラがいる限りその可能性は低いが、ゼロではない。



 ただ、その低い可能性も抜け道を把握されている場合は変わってくる。





「…どの道、俺が暴れるしかないよね…」

 マルコムはミナミたちが無事抜け道に向かったのを確認すると、廊下に出てきた他の宿泊客たちを見た。



 マルコムと同じように異変に気付いたのだ。

 普通の客ではなく、全員が全員後ろ暗いことのあるうえに、善悪感覚がやや大雑把だ。



 彼等が状況を察することがあれば、それこそ危険だ。



 そのためには、外にいる兵士たちを落ち着ける必要がある。



 マルコムは宿のロビーに出て、無人のカウンターを一瞥してから一つだけの玄関に向かった。



 外には10~20人程度の兵士がいるだろう。

 建物自体ならもっと囲んでいるかもしれないが、マルコムに勝てる人間はいないだろう。



 そう確信して勢いよく玄関を開けようとした。



 が、マルコムは直ぐに足を止め、槍を構えた。



 バタン…と、外から勢いよく扉が開かれたのだ。



「ルーイはいるか!!?」

 勢いよく一人の青年が飛び込んできた。



「?」

 マルコムは槍を構えるのを止めた。

 ただ、手には持っていつでも攻撃は出来るようにしている。



「…君は?」

 マルコムは警戒だけは解かずに、飛び込んできた人物を見ていた。



「…お前は…誰だ?」

 勢いよく飛び込んできたのは、マルコムの知らない青年だった。

 ただ、兵士と言うには身なりが良く、顔立ちが整ったいわゆる美青年だった。



 彼の金髪とグレーに瞳はどこかで見たことのある色だった。

 そして、慌てているのか彼は周りに不思議な魔力の光を帯びていた。

 その光はミナミと同じだった。



「…オリオン王子…?」



 マルコムの言葉に青年は周りを警戒しつつも、頷いた。



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