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六本の糸~地球編~
18.撤退
しおりを挟む個人所有と言われている観察対象のドームからぞろぞろとドールが出てきた。
ぱっと見でサブドール40体以上、ドールは2、30体が見えた。
ドールは以前戦ったダルトン達のゼウスドールとグレーの一般機がほとんどだ。
「見るからにゼウス共和国のドールだな。」
コウヤは舌打ち交じりで言った。
『無理するな。向こうは大群だ。』
キースの注意する声が響いた。だが、コウヤは聞く耳を持たなかった。
神経接続により適合率が高ければ高いほど思いのままに、強く動けることに楽しさを見出していた。
自分は強い。口元に笑みが自然に浮かんだ。
「まずは・・・・何体か消えろ・・・・」
コウヤは前に使った両手からのレーザー砲を撃った。荒々しい精度ながらも威力の強いレーザーが放たれた。
数体のドールが消えたが、想定していた動きの様にドール達は避けた。
「・・・・くそ・・・ずばしっこい。」
コウヤは歯ぎしりしながら、近づいてくるドールたちにまた両手を向けた。
すると通信が入った。
『あほ!!お前ドールのエネルギー量考えたことあるか!?』
キースの怒声が響いた。
「キ・・・・ハンプス少佐・・・・エネルギー量って・・・」
『大量の敵と戦うなら考えとけ。いくら適合率が高くてもエネルギー切れになれば明らかに不利だ。』
「そんなのどうやってわかるんですか?」
『ドール操縦は感性だけじゃない・・・・感覚だけでなく目の前の数値にも注目しろ。』
キースの指示された場所を見ると刻々と少なっていく数字があった。
「少佐・・・・これって減って行くものなんですか!?」
『無駄があれば常に減っていく。無駄が無くても減るが、明らかにエネルギーを使う技するんじゃねー。』
「無駄・・・」
コウヤは声を震わせながら言った。
『敵が来たハヤセ二等兵そこを離れろ!!』
キースが叫んだ。コウヤは近くに迫った敵を張り飛ばした。そのまま追撃して破壊しようとしたが、別のドールに阻まれる。しかも多少の打撃を受けてコックピットが揺れた。
揺れに気分が悪くなりながらコウヤはその場を素早く離れた。
少しのことだが息が切れていた。なによりも自分の労力に対して向こうにはダメージを与えられていない。
「・・・・少佐、これはどうして?何で当たらないんですか?」
『簡単だ。君がまだ完全にドールをものにしていないだけだ。・・・・・性能に甘えるな。』
キースはそう厳しく言った。
「・・・・俺が・・・甘えている・・・?」
コウヤはキースの言葉に少し苛立った。
どこが甘えているんだ・・・コウヤは挟み撃ちできたドールの頭を掴み他の敵ドールにぶつけた。
『ハヤセ二等兵。ドールを気にするのも大事だが・・・あのドームの様子を見ろ。』
「え?」
『俺は・・・嫌な予感しかしない。ゼウス共和国にとって・・・こいつらは捨て駒だ。』
キースが言い切ると同時にコウヤの横にレーザー砲が放たれた。
『!?』
とっさに避けたが、幸い狙いが逸れていた。敵のドールが壁になって見えないのだ。
「こいつら・・・味方を」
『お前に殺されるか、味方に殺されるかか・・・』
キースは冷たい口調で、鼻で笑った。
「これも気にしながら戦わないといけないのか・・・・」
『今回は様子見だ。撤退する選択があることを忘れるな。』
キースは撤退を強調するように言った。
「・・・・いや、ぶっ飛ばせばいいんだ。エネルギーが切れる前に」
コウヤは再び両手を出した。荒々しいレーザー砲が再び敵のドール群の中に飛び込んだ。
だが、今度は1体も倒せていなかった。
「・・・・・くそ・・・・」
コウヤは向かってくるドール1体1体に思いのほかに苦戦を強いられた。
『俺は砲台の位置を確認しながら戦う。ドールの装備ではない。あのドームは戦艦だと思え。』
キースはそう言うと上空に大きく飛び上がった。
操舵室のモニターが映し出すのは周りの風景だった。遥か前方で戦う白銀のドールが見える。
「コウヤ、苦戦しています。前はすんなりと勝てたじゃないですか。・・・なんで今日は苦戦をしているんですか?」
アリアがモニターに映ったコウヤの様子を見て言った。
「簡単だ。今回の戦いは最初のレーザー砲でのエネルギー消費が激しすぎたのもあったが、もともと精神が未熟なコウヤは適合率だけで戦ってきたようなものだ。ドール戦は精神力・・・・いや、集中力の勝負だ。」
ハクトはモニターに目を移しながら言った。
「集中力・・・・?」
「レーザーの精度は素質もそうだが、集中力が必要だ。これが粗いままではいつまでも1流にはなれない・・・・」
ハクトは最後の言葉をはっきりと言った。
「・・・・艦長はできるんですか・・・?」
アリアはハクトを睨みつけるように訊いた。
「今は関係ない。ドームの様子をズームで写せ。」
ハクトはアリアの質問を流し、リリーにモニターの映像の操作を指示した。
「はい。・・・何か見えますのでそこ別画面に映します。」
リリーは画面を二つに分けて映し出した。
「アリアちゃん・・・・きちんと見ておきなさい・・・・・」
ソフィはむくれた表情のアリアに向かって叱るように言った。
「・・・・・見ていますよ・・・」
アリアは不満そうに言った。
「戦艦を常に動かせるようにしろ。ドームからの砲撃ができるようだ。」
様子を見ていたハクトはソフィに言った。
「わかりました。」
ソフィは頷いて舵を握った。
「砲撃も常に用意しろ。前の二人のサポートをする。」
ハクトは砲撃の操作をしている者達にも言った。
「艦長。私も砲撃の操作に加わりますか?」
リリーが周りの様子を見て訊いた。
「・・・そうだな。通信は全て俺に繋げるようにしろ。・・・いや、スピーカーになるように設定しろ。」
「はい。」
リリーはハクトの指示通り、通信が入ったらスピーカーで対応できるようにした。
「艦長。」
アリアが立ち上がった。
「どうした?今は臨戦態勢だ・・・」
「自分も砲撃に加わります。研修を受けましたので操作は分かります。」
アリアは必死な表情だった。
「指示通りできるか?」
「はい。少しでも・・・コウヤの助けになりたい。」
アリアはハクトの目を見て言った。
一瞬ためらったが、ハクトはため息をついた。
「・・・指示通りやれ。」
「はい!!」
アリアはそう言うとリリーを押しのけて砲撃の操作盤前に座った。リリーは驚いたが、直ぐに表情を戻して別の場所に座った。
予想外の疲労に目の前が霞んでいた。汗が流れる感覚がよくわかる。
「・・・・・やっと・・・・ここまで来た・・・・・」
コウヤは何とか10体倒すことができた。だが、レーザーではなく直接手を下している。つまりレーザー分は無駄なエネルギーとして消費している。
『集中しろ。そうすれば少しはどうにかなる。』
キースからの通信が入った。
「・・・・集中していますよ!!!」
コウヤは叫びながら敵に突っ込んだ。
戦い始めて30分が経過した。まだ、30分だ。
「くそ・・・・きりがない・・・・・」
コウヤはキースの方をちらっと見た。
上空からたまにドームの様子を観察しながら戦っている。
キースは動きの速さ、力ではコウヤに劣るが安定した戦い方をしていた。集中というのか、対応が速い。経験の差というものを実感した。
「・・・・なんで、あんなに動いているのに・・・・・」
コウヤは体力消耗も激しかった。
今まで長時間大量の敵と戦ったことのなかったコウヤはエネルギーも大量消費している。
ドールの破損状態等は、常に戦艦に発信されるようになっていた。
「艦長。コウヤ君のエネルギー消費が激しいです。このままだと持ちません。」
リリーが叫ぶと
「仕方ない。撤退する。・・・・戦艦は徐々に下がる。ドールも下がりながら戦うように言え。」
ハクトは予想していたことのように言った。
「わかりました。」
「あとモーガンに連絡してくれ。サブドールを一つ出せる状態にしろと言ってくれ。」
ハクトは付け加えるように言った。
「え・・・はい。」
リリーはぽかんとしたが、直ぐにモーガンへの連絡を始めた。
「どういうことですか?」
アリアが不思議そうな顔をしていた。
「何があるか分からない。」
ハクトはモニターに映る景色を見ながら言った。
「・・・・何があるか?」
アリアもモニターを見た。
「・・・・前言撤回だ。迎えに行く。ハヤセ二等兵の近くに止められるようにしろ。」
ハクトはソフィに指示した。
「え?はい。どうして?」
「動きが悪い。体力が無くなっているのもあるが、集中力が切れている可能性がある。あの距離なら近付いても大丈夫だ。」
ハクトの指示通りフィーネはコウヤの元に向かった。
やっと15体倒してところでコウヤは動きを止めた。
「・・・・これが・・・・俺の今の力・・・・」
コウヤは倒したドールのことなんか考えずに自分の実力のことだけ考えていた。
動こうと思ってもドールが重い。体力が限界なのがよくわかる。
通信が入った。
『コウヤ君戻って。撤退よ。近くに戦艦を寄せるわ。』
リリーからであった。
「俺は・・・・・まだ・・・」
『コウヤ君・・・・今日は撤退だ。』
念を押すようにキースからも通信が入った。
『ここで力を使い果たす必要はない。』
「まだ、戦えます。ほら。」
コウヤは前進を始めた。
『それ以上進むな。ハヤセ二等兵。ドールがいることを分かっただけでも報告できる。何をするべきかは自分がよくわかっているはずだ。』
ハクトがコウヤに戻るように言った。
「まだドールはいます。」
『ハヤセ二等兵。これは命令です。』
リリーが毅然とした声でハクトの助け舟を出した。
コウヤは不満そうにしながらも
「・・・・わかりました・・・・」
といい敵の攻撃を避け先に撤退したキースの後を追おうとした。戦艦が前進を始めており、徐々に近くに見え始めていた。
「くそ。重いな」
コウヤは自分のドールが思っている以上に重いことに気付いた。近づいてきてくれているが、戻る戦艦はかなり遠く感じた。
戦いの場から離れようとして気付いたが、かなりの汗をかいていたようだ。
流れる汗の気持ち悪さにさらに苛立ちが募った。
ある一定の位置より戦艦が近づいた時、辺りの様子が変わった。
「?」
寒気がしてドームの方を振り向いた。
『・・・は?』
ハクトの間抜けな声が聞こえた。いや、ハクトだけでない。
ドームから急に大量のドールが出てきた。しかも一直線に向かってくる。狙いが何か丸わかりなほどまとまってくる。
『退け!!ハクト。フィーネが狙いだ。ドームから離れろ!!』
キースの叫ぶ声が聞こえた。
キースの言う通りであろう。一定距離を置いて見ていたフィーネはコウヤが戻りやすいようにやや近寄った。そこを狙ってきたのが一目瞭然だ。
一斉に湧いた敵に焦ったのは、フィーネよりもドーム寄りにいるコウヤとキースだった。
「こいつら・・・」
コウヤは疲れているのを忘れて向かってくるドールを睨んだ。
『無茶するな。撤退を念頭に置いて戦え。』
「こいつらが来るからですよ!!」
コウヤはキースの言葉を無視して手を奮いドールを潰しにかかり始めた。
一つ一つ潰せはいいのだ。まとめて片付けようとするからダメだったのだ。
コウヤは自分にそう言い聞かせて一つ一つドールを丁寧に屠った。
視界の脇でキースが苦戦している。どうやらこちらに加勢することを考えているようだ。
「キースさん。大丈夫です。そちらの敵に専念してください。」
『あほ!!大丈夫じゃないだろ!!』
怒鳴りながら戦っているが、余裕が無いようだ。
キースに大きなことを言ったが、コウヤも倒しても湧いてくるドールに不安が募った。
『飛べ。』
「え?」
『飛べ!!』
ハクトからの指示に疑問を覚えながらもコウヤは取り合えず飛んだ。
すると、足元にレーザーが通った。
「は?」
その隙間時間がほぼなかったことに寒気を覚えた。
『艦長命令だ。逃げることを念頭に置け。』
有無を言わせない口調だった。先ほどの芸当の後でこの口調は反則だと思ったが、先ほどのレーザー砲で確かに敵は複数倒されていた。
「命令って・・・・強制か?」
『当然だ。断れる命令なんて、命令ではない。ハヤセ二等兵。』
厳しい口調だった。話している間にも戦艦から砲撃は放たれた。
横目で見るとキースの方の援護もしているようだ。当然のことだが感心していた。
珍しくハクトが強制的なことを言うので、コウヤは、本当はここでドールを破壊したいと思っていたが、戻る準備をしようとした。
目の前を見るとエネルギーは確実に減っていた。
「・・・こりゃ、やばいな・・・・」
通信が再び入った。
『早く逃げろ!!!』
今度は怒声に近い通信だった。慌てるように声を荒げていた。
何事かと思い、コウヤは後ろを振り向いた。
すると後ろにいたはずの敵が全て潰されていた。砲撃ではない。
どこかで見たことのある気がする1体のドールによってだ。
「でかい・・・・このドール」
コウヤは後ろに立つ黒銀のドールを見つめた。寒気がした。
すると前方にいる戦艦から砲撃が放たれた。
黒銀のドールは素早くその場から離れた。放たれたレーザー砲はむなしく通り過ぎた。
だが、砲撃は精度がよく、黒銀のドールが動かなければあたっていたほどだ。
『早く逃げろ!!!そいつはヤバい!!』
ハクトが通信の向こうで叫んでいた。もちろんコウヤも直感的にわかった。
『早く逃げろ。敵を見るな。』
「わかっている・・・・」
コウヤはそう言い飛び立とうとした。
すると、黒銀のドールはコウヤのすぐそばにいた。コウヤは息を呑んだ。
「くそ!!!」
重いドールを動かすほどコウヤの体力は残っていなかった。
だが、動かさなければ死ぬ。
選択肢は一つだけ、コウヤは手を出し最後のエネルギーをレーザーに使おうとした。
コウヤが手を出すのと同時に黒銀のドールも手を出した。
「・・・・な・・・」
コウヤは直感的に撃たれるとわかった。
前方から砲撃が放たれ、黒銀のドールはそれを避けるために手を下げ、攻撃を断念した。
『逃げろ!!援護する。』
ハクトが指示したようだ。相変わらずドンピシャだ。それを避ける黒銀のドールもすごい。
『そのドールから離れろ。』
コウヤはハクトの言う通り離れた。
『だが、目を離すな。』
フィーネからの砲撃は絶え間なく続く。それを避ける続ける黒銀のドールは今までの奴らと違った。
砲撃のパターンを掴んだのか、避けながらコウヤへの攻撃を試み始めた。
キースの援護は期待できない。いや、来ても無駄だった。
両手を構え、避けながらレーザーを撃とうとする姿にこの前会った紫のドールが重なった。
「・・・こいつ、あの時の?」
『避けろ!!』
ハクトの声が響くと同時に黒銀のドールからレーザーが放たれた。
とっさに、コックピットを少しずらし装甲は破壊されても体のダメージだけは最小限にしようとコウヤは力を振り絞った。
コウヤのレーザーは黒銀のドールのレーザーを少しずらし直撃は避けた。
装甲の剥げたコウヤの白銀のドールはコックピットのコウヤを外気にさらした。
汚い空気がコウヤを覆った。思わず咳き込んだ。
操舵室のモニターに映る光景にアリアは悲鳴を上げた。
「いやあ!!コウヤが・・・・」
一心不乱になりながら砲撃操作をしている。
「近くに撃つな。上空を掠らせる。」
ハクトはアリアを宥めるように言うと砲撃指示を始めた。
「ハンプス少佐は大丈夫か?」
「はい。ドールに囲まれていますが、ドールの状態は安定しています。ですが、ハヤセ二等兵の救助は期待しない方がいいです。」
リリーは困ったように眉を寄せていた。
ハクトは頭をフル回転させていた。
今サブドールで向かうべきだが、乗り込む間まで砲撃指示を出来ない、今攻撃の手を緩めるといけないのはわかる。
「・・・ハンプス少佐は今どこだ?」
「今は・・・だいぶ近くまで戻ってますが、ドールを撒きながら向かっているので余裕がないと思われます。」
リリーの言う通りであった。でかい黒銀のドールも厄介だが、キースは大量のドールを避けながら戦っている。
普通に考えるとキースもかなりのドールパイロットであった。
「あれを撃たないとコウヤが・・・・」
アリアが手元の操作盤を動かそうとした。
「止めろ!!今は外気に晒された状態だ。下手に近くに撃つと衝撃波で死ぬ。」
ハクトは慌ててアリアを止めようとした。
コウヤはフィーネからたくさんの砲撃が来るのがわかった。
不思議とコウヤには全く当たらなかった。
コウヤはその時にハクトの能力の高さを思い知った。
「すごいな、ハクト。」
コウヤはそう呟いた。キースさんも言っていたけど、やっぱりすごい。
そう言えば、昔もハクトがすごいことしていたなと思った。
緑がたくさんある公園で6人の少年と少女がいた。
大きなメガネをかけた少女が一人で木の上で本を読んでいた。
「おーい!!ディア!!!遊ぼう!!」
下で叫んでいる少女がいた。赤毛のショートカットだからユイだ。
それにコウヤは近寄った。
「どうした?ユイ」
ユイはコウヤの方を見ると困ったような顔をした。
「・・・・ディアがね、本に夢中になって降りてこないの。」
コウヤはそれを聞くと
「聞こえていないんじゃないか?・・・・誰かが木に登って呼べばいいんだ。」
そう言うとコウヤは気に手をかけた。
「・・・・コウまさか君が登るの?」
少女のような顔のクロスは不安そうな表情をした。
「当然!!!」
コウヤは木にしがみついた。
「コウってバカだね。」
近くにいた綺麗に髪を結ったレイラが大声で言った。
「ダメだよ!!レイラ!!そんな本当のことを言っちゃ・・・・」
クロスがレイラに注意した。
「頑張ってコウ!!!」
まだ少ししか登っていないがコウヤを見上げてユイは懸命に応援していた。
コウヤは少し照れくさく笑い
「おう!!」
と片手でガッツポーズを作り笑った。
もちろん子供に片手で自分の体重を支えるだけの力はない。
落ちた。
「バカだね。」
「バカね・・・」
レイラとクロス落ちたコウヤを見下ろしながら言った。
「・・・・うるさい・・・」
コウヤは少しむくれながら再び気に手をかけた。
すると後ろから
「見てらんねーな・・・・」
といい、ずっと見ていたハクトがコウヤを退かした。
「っと・・・・ハクト!?」
「・・・・頭使えよ。」
ハクトはそう言い縄を木の枝に投げた。
縄を枝に絡ませハクトはすいすいと登って行った。
それを見ていたコウヤは感心した。
「ハクトすごいなー」
「文明人だね。」
「ぶんめいじんって?」
「お猿さんじゃない人だ。」
「コウはお猿さん?」
「それは僕からは言えない。」
と親友達が好き勝手に言っていた。
コウヤも心の底からすごいと思った。
だが、それよりも少し悔しさが勝っていた。
あの時はどうしようもない木登りだった。だが、今もそれに似た感情を思い出した。
そんなことを思い出しているとコウヤはあることに気づいた。
このドール・・・・・動きが止まった。
どこからか通信が繋がった
『・・・・・コ・・・・・逃げ・・・・』
コウヤは何が起こっているのかわからなかった。
目の前のドールの動きが止まっていることしかわからなかった。
黒銀のドールの手がコウヤの装甲の剥げた白銀のドールに伸びた。
「くそ・・・・」
コウヤはドールを動かそうとした。
すると黒銀のドールがコウヤのドールごとコウヤを張り飛ばした。
地面にドールごと叩きつけられた。
ガシャン
「ぐっ・・・・」
大きな怪我はしなかったが、生身がさらけ出されている状態だ。衝撃に頭が揺れた。
コウヤは黒銀のドールの方を見た。
頭をぶつけたせいだろうか、視界が揺れてチカチカしていた。
轟音が響いた。
フィーネから放たれた砲撃が黒銀のドールに直撃した。
あの場所にいたら少ないが衝撃を受けていた。しかも、今は生身だ。
一瞬寒気がしたが、コウヤはそう考えた。
《だが・・・・なぜ・・・?》
コウヤはかろうじて動くドールを動かしフィーネに近づこうとした。
だが、黒銀のドールが気になった。
あの時戦ったドール、そして、今助けてくれたドール・・・・
コウヤは後ろを振り向いた。
黒銀のドールは砲撃が直撃したらしく装甲が無残に壊されてコックピットの中にまで被害が及んでいるようであった。
『早く逃げろ!!』
ハクトからの通信が入った。
コウヤは動けなかった。
何も言えなかった。
黒銀のドールにはたくさんのコードのついた機械を頭に付けた見覚えのある少女が血を流しぐったりしている。
コウヤは思うように動かなかったドールの足を動かした。
「そんなはずはない・・・」
そう言い聞かせながらも足は黒銀のドールの方に向っていた。
「・・・・そんな・・・・・」
黒銀のドールの中で機械を頭に付け血を流している少女は赤毛の可愛らしい少女・・・・
「・・・・ユイ・・・・」
操作盤の近くでハクトはアリアを抑えていた。
「早く逃げろ!!」
ハクトは黒銀のドールに近づいていくコウヤに叫んだ。
抑えられているアリアは手を震わせた。
「コウヤ!!!!早く逃げてよ!!!」
艦内は悲鳴に近い声に包まれた。
「今のうちにサブドールを出す!!ハンプス少佐には戦艦に戻ってもらったらここで指示を頼むよう言ってくれ。」
ハクトはリリーにアリアを抑えるように引き渡すと操舵室から出て行こうとした。あのままだとアリアは砲撃を続けかねない。
だが、ハクトにも見えていた。
あのドールが砲撃の衝撃からコウヤを守るように突き飛ばしたことを、砲撃指示を止めたのも理由があった。むき出しの黒銀のドールから見えるパイロットだ。
今のうちにサブドールでコウヤを回収し、キースに戦艦を任せる。
「艦長!!ドールがまた出てきました。砲撃に移ります。」
リリーの声でドームからまたドールが出てきたことが分かった。
「・・・際限ない。」
ハクトは舌打ちをし、砲撃指示を始めた。
『・・・・やめろ・・・・』
掠れる声の通信が響いた。コウヤであった。
「ハヤセ二等兵か!?早く逃げ・・・」
『撃つな!!ハクト!!』
コウヤはすがるように叫んでいた。部屋の中が静まり返った。
「・・・・・どうした?」
ハクトは声が震えていた。
「艦長!!砲撃再開します。ハヤセ二等兵には当たらない遠くのドールに定めます。」
リリーが砲撃再開の内容を知らせたが、ハクトはそんな声、頭に入っていなかった。
「・・・・二等兵?・・・・・どうかしたのか・・・・」
ハクトは絞り出すような声で言った。ハクトの異変に部屋の中は気づいた。
「・・・・・艦長?」
ハクトはコウヤが自分のことをハクトと呼んだことに震えた。
更にハクトに追い打ちをかける通信が入った。
『・・・・あのドールのパイロットはユイだ!!ダメだ!!ハクト!!!』
コウヤの言葉にハクトは膝をついた。
よろめきながら崩れるハクトにリリーが駆け寄った。
「艦長!!大丈夫ですか?」
リリーはハクトの蒼白の表情を見て驚愕した。そして、ハクトは震える口で言った。
「お前、記憶が・・・・」
ハクトの記憶という言葉にアリアが目を向けた。
『撃つな!!!忘れたとは言わせない。ハクト・・・・』
コウヤは凛とした声で言った。
「撃たない。だから・・・撤退しろ・・・」
ハクトはそういうと
『ダメだ・・・・ユイを助ける。』
コウヤはそう言い通信を切った。
その言葉にハクトは
「やめろ!!早く逃げろ。近づいてきている・・・・他のドールが・・・・」
と必死に通信を繋げようと叫んでいた。
「艦長!!!ドール部隊と思われる集団が、また基地の中から出てきました。」
ソフィが固まった声で言った。
「俺が出る!!!できるだけ砲撃で時間を・・・・」
とハクトがその場を離れた瞬間
「・・・・あのドールを殺せば・・・・・コウヤは・・・・」
アリアが砲撃のスイッチに手をかけていた。
「止めろ!!!」
そう言った時は遅かった。
コウヤはドールを動かしユイの元に向かっていた。
「ユイ!!ユイ!!」
コウヤは機械に繋がれたユイをドールごと引っ張ろうとした。
ユイは片手を震わせながら
「コウ。だめ。・・・この基地の奴はあたしたちを・・・・あなたを・・・・」
ユイはコウヤに戻るように言った。
「お前を置いてはいけない。ユイ。・・・・思い出したんだ。」
コウヤはそう優しくユイに言った。
「コウヤ・・・・」
ユイは嬉しそうに笑った。
どこからか大きな音がした。何かが放たれたようであった。
それはユイに向かっていた。
そう、戦艦フィーネから砲撃が放たれた。
「やめろおおおお!!!」
コウヤは叫んだ。
限界を迎えたはずのドールは思い通りに動いた。
コウヤはドールが初めて自分に応えてくれたと感じた。
今までよりずっとドールを綺麗に動かした気がした。
過去の感覚が蘇った。何かに包まれてきた、コウヤの体を覆う何かに包まれていた。
「だめだ・・・・ハクト」
コウヤは最後に通信を繋げた。
大きな爆発が起きた。
何か強力な兵器が壊れたときのような音であった。
暫く砂煙が舞い、辺りの視界を奪っていた。
徐々にはっきりとする風景の中に壊れかけたドールがあった。壊れかけた黒銀のドールはかろうじて動き出した。
白銀のドールはどこにもなかった。
黒銀のドールの中に叫び声が響いた。
「いやあああああああああああ」
同じような悲鳴が戦艦フィーネに響いた。
「ああああ・・・あああああああ」
手を震わせるアリアは狂ったように叫んだ。その場で他の乗組員に抑えられ、操作盤から引きはがされた。
ハクトは震えた。
「・・・・・コウ?」
昔のあだ名で呼んだ。だが、答えが返ってくるはずない
「コーーーウ」
ハクトの叫び声は部屋に響いた。
『ハンプス戻った。ハクトはもう出たか?』
船に戻ってきたキースの通信がハクトの叫びの余韻を残した部屋に響いた。
キースは異変を感じ操舵室に走り込んできた。
モニターと部屋の状況を見たキースは悲しそうな顔をしたが
「撤退する。戦艦を動かせ。」
と毅然と指示した。乗組員たちははっと我に戻り仕事に入った。
ただ、ハクトとアリアを除いては。
戦艦フィーネは目の前のドーム視察を断念し、撤退した。
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
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