あやとり

近江由

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六本の糸~地球編~

21.空いた場所

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 ハクトは久しぶりに身に付けるドール専用のスーツに緊張していた。



「でも、艦長がドールに乗るなんて・・・・いつ以来かしら・・・・」

 リリーは久しぶりに見るハクトのスーツ姿にうっとりしていた。



「うーん・・・結構長かったからな・・・・」

 モーガンはハクトの乗る赤いドールを整備していた。



「でも、なにと戦うの?」

 ソフィは首をかしげた。



「簡単だ。大きなドールの気配を追う。今更任務を全うする気は無い。・・・・俺に言うとおりに進め。」

 ハクトはそう言うと地図を見た。



 人数が少ないため全員が操舵室に集まり、ハクトはいつでも出れるようにドール用スーツを着ている。



「・・・・追う必要なんかない。とっととコンタクトを取ればいい。」

 キースは軍本部を差した。



「・・・・ここに向かいますか?」

 ソフィはハクトに確認するように訊いた。



「そうだな。任務を全うするにしては、敵軍の気配を知りたいな。・・・・気配を追うことに関したらロッド中佐が断トツだ・・・・」

 ハクトは皮肉を言うようににやけながら呟いた。



「お前、さっき任務を全うする気は無いって言ったばかりだろ?」

 キースも笑いながら言った。



「覚えていないですね。ですけど、向かう理由が出来ました。戦艦を本部へ向けろ。この軍備ならゼウス軍掃討は無理だ。」



「で、ロッド中佐と合流した後は、さっき話した通りネイトラルに協力要請するのか?」

 キースが確認するように訊いた。



「正直、今は地連よりもネイトラルが信用できる。」

 ハクトはふとディアを思い浮かべたのか、優しく微笑んだ。



「・・・よっぽど信頼してるみたいだな。」

 キースは冷やかすように笑っていた。



「そうですね。・・・みんな。時間まで自室で休んでていいぞ。何かあったら放送をかける。」

 ハクトは周りを見渡して言った。



「え?俺大丈夫ですよ。艦長!!」

 モーガンは満面の笑みで言ったが、服の襟をリリーに掴まれた。



「え?リリー何すんだよ!!」



「バカモーガン。にぶちん!!」

 リリーは怒鳴りながらモーガンを引きずって操舵室を出て行った。



 ソフィは苦笑いをしながら他の乗組員たちと出て行った。

 その様子を見てキースはため息をついた。



「別に濁す必要ないだろ?あいつらなら席外してくれでいいだろ。馬鹿正直なモーガンは気を遣ったつもりでああ言うだろうし。」

 キースは横目でハクトを見た。



「そうですね。いい部下というべきでしょうかね。モーガンって管轄はどこでしょうか?」



「部下でいいんじゃね?」



「じゃあ、部下で。」

 ハクトがあっさりと言うことにキースは声を上げて笑った。





「・・・コウに聞かれたんですよ。親友を失って苦しいのをどうやって耐えたか・・って」



「お前が言うなってやつだな。」

 キースが笑いながら言ったことにハクトも笑って頷いた。



「俺もそう言いそうでした。」



「お前は大丈夫か?」

 キースは表情を変えてハクトを心配そうに見た。



「・・・・大丈夫に見えますか?」

 ハクトは目を細めてキースを見た。



「いや、無理をしているだろ・・・・自分に無理やり役割を与えようとして誤魔化している。」

 キースは両手を広げてハクトに向いた。



「泣きたいなら貸すぜ。」

 ハクトは首を振りながら笑った。



「いえ。だいたい俺に貸すものじゃないです。」



「借りてくれる子がいなくて困っている。」

 キースは寂しそうなジェスチャーをしながら笑った。



「ハンプス少佐こそ、無理しないでください。」



「大丈夫だ。俺は慣れている。」

 キースはあっけらかんと笑ったが、ハクトは複雑そうな表情をした。





「・・・俺がついて来るって信じてくれて嬉しいぜ。」

 キースはハクトの艦長席に座るように示した。キースの示すまま座った。



「貴方のことは聞いていましたから。そちらもここに配属される前から俺に目をつけていたのでしょう?」

 ハクトはキースを探るような目で見た。



「当然だろ。気が付いたらお前が地連第二のドール使いっていわれているからな。」



「それだけではないはずです。・・・中佐と手を組む話には乗ってくると思ってました。」



「お前と手を組むから乗っただけだ。俺はあいつと仲良しこよしじゃない。」

 キースは困ったように笑った。



「たった二人だけの戦友ですよね。」



「俺の知っているのはドール越しでのやり取りだけだ。」

 キースは口元から笑みを失くした。



 明らかにキースの顔から表情が消えた。



「・・・そうですか。」

 ハクトはキースからそっと視線を外した。これ以上触れてはいけない話だと感じた。



「まあ、俺はあいつの力は信じている。お前の言う通り、ひっくり返すならあいつを味方に付けるのが一番だ。」

 キースは真面目な顔をしていた。彼の言葉に嘘はなった。



「そうですね。」

 ハクトは出来るだけ気を遣った声で頷いた。



 キースはオペレーターの椅子に座ってモニターを見ていた。



「リリーちゃんもまだまだ若いのによくやっているな。モーガンも二人ともお前より年下だろ。」



「そうですね。副艦長であるソフィが保護者の様にしてくれているので、本当に助かっています。」

 ハクトは頼もしそうに頷いた。



「きっとまたあの二人・・・で女子会か?いや、なんかたまにモーガンも混じっているよな?モーガンもだが、それにしてもあいつ等ってタフだよな。」



「それは俺らも見習いたいところですね。」

 ハクトは苦笑いした。



「軍もひどいよな。散々軍に貢献してきたハクトを殺すような作戦を指示するなんて」



「殺されませんよ。」

 ハクトがそう言うと、キースはハクトに近寄り



「戦力を削いでお前を捕まえるのが目的だとも考えられる。」

 と囁いた。



「え」

 ハクトは目を丸くした。



「なーんて・・・考えすぎか」

 キースはにこりと笑った。











「でも、艦内が寂しくなると不思議ですね・・・」

 リリーは自室で転がっていた。



「・・・・早いわね・・・・もうコウヤ君がいなくなって・・・・1週間よ。」

 ソフィはため息をついた。



「時間が経つのは早いです。この前まで何も考えずに過ごしまし。・・早く終わればいいのにって」

 リリーは何かを思い返すように言った。



「リリー・・・・どんな結果でも私はこの船に付いて行ったことは後悔しないわ。」

 ソフィはそう言った。



 リリーはそれを聞き



「私もです。もしかしたら、私たちはすごいことができそうですから。」

 リリーは目を輝かせていた。



「この船の最初の目的ってなんだったと思う?」

 ソフィはリリーを試すように見た。



「え?・・・・なんかの武器を運んでいたんですよね・・・?」

 リリーは首を傾げながら言った。



「そうね。そうらしいのよ。実はこっそり聞いたんだけど、鍵といわれる何かが運ばれていたとか」

 ソフィは外を見渡し、誰もいないことを確認していた。



「モーガンなら格納庫ですよ。大丈夫です!!」

 リリーは興味津々で急かすように訊いてきた。



「それは・・・・・」

 ソフィが言いかけた時





『緊急事態!!今すぐ戦闘態勢だ。すぐに持ち場に戻れ。』

 キースの声で艦内放送が響いた。







「艦長。整備はばっちりです。」

 モーガンが親指を立ててハクトに笑いかけた。



「悪いな。せっかくの休み時間だっただろ?」



「女子室で女子会されたら俺混ざれないので、それに、仕事っすよ。」

 モーガンは馴れ馴れしくハクトの肩を叩いた。



「ありがとう。モーガン。」

 ハクトはモーガンに背中を押されるように、自分の赤いドールに向かった。



 ドールに乗り込むまでのハクトの歩みは速かった。



 だが、その間にたくさんのことを考えていた。



 もし、あの時コウヤでなく自分がドールに乗っていたら

 もし、あの時キースでなく自分がドールに乗っていたら

 もし、コウヤが言ってくる前に自分から昔のことを言いだしていれば・・・・



 ハクトは覚悟を決めていた。

 力強い足取りでドールに乗り込んだ。





 ハクトは近くにドールの気配を感じていた。そのドールはどうやら相当な規模だった。



『悪いな・・・どうやら小規模な戦艦で動いているらしい・・・・まだ見えないな・・・』

 キースから通信が入った。



「ドールの規模が大きいです。」



『わかるか?』



「わかります。出ますよ。手は抜きません・・・・」

 静かに久しぶりの神経接続をする。呼吸を整えて出撃口を見た。












 レイラは小規模な戦艦を指揮し軍本部の近くまで来ていた。



「少尉・・・・くれぐれも殺さないでください」

 シンタロウはレイラを見て言った。



 レイラはその言葉に

「・・・・なるべく気を付けるわ。」と簡単に返した。

 レイラの乗った赤銅色のドールが動き出した。



 レイラはシンタロウに通信を繋げた。



『どうしても気になるなら通信をしたまま戦うわ。』

 レイラはそう言った。



「少尉。自分も出ます。」

 シンタロウは用意されたサブドールに乗り込んだ。



『敵より・・・私に注意しろ。』

 シンタロウは出撃するドールを見送りながら近くのスピーカーから聞こえるレイラの声に注意していた。



 レイラと距離を置き、シンタロウも出撃した。



 思った以上にサブドールの操作が楽で驚いたが、威力が大きく劣ることはすぐに分かった。



 とにかくレイラから目を離さないように移動スピードを自分の出来る最大で動いた。

 レイラは予定通り目の前にある要塞のようなドームに向って行った。



 そこは地連の軍本部である。実際にシンタロウが目にするのは初めてだった。



 レイラは速かった。おそらくかなり離されているが、モニターで確認できる位置であるため、慌てなかった。



 シンタロウはモニターに映るレイラの動きを見ていた。どこかに隙が無いかとも思ったが、コウヤ以上の操縦技術に見とれていた。適合率だけではなく訓練の成果だと思った。



 だが、途中動きに不自然なところがあった。



 シンタロウは通信からレイラに話をかけた。



「少尉?・・・・どうかしました?」

 シンタロウは嫌な予感がしていた。







 前回同様ドールはレイラの思う通り以上の速さで動いた。



 レイラはうれしくなったが心を落ち着かせた。



 この前のようにしてはいけない、深呼吸をした。

 大丈夫と言い聞かせ、自分を落ち着かせようとしたとき、突如あの時と同じような頭痛に襲われた。

 頭に直接働きかけて来る痛みで、操縦どころではない。

 レイラは必死に自分のすることを考えた。



 わからなくなっていた。



「頭が・・・・・痛い・・・・・」

 レイラは記憶が再生された。





 父が死ぬ瞬間を、そして、炎の壁によってはばまれ助けられなかった人

 揺れる炎と同じ彼の赤い瞳。





『少尉!!大丈夫ですか!!』

 向こうからの声が響いている。そんなものレイラにとっては雑音でしかなかった。



 痛みに目をつむってしまったが、目を開くと世界が違うものに見えた。



 痛みで思考を手放した瞬間、彼女には考える力はなかった。





「そうだ・・・・私は・・・・」

 レイラは両手を差し出した。



 いかにこのドームを壊すか・・・・このドームの中の敵を倒すか・・・・



 レイラはそれしか考えていなかった。







 シンタロウはレイラの異変に気付いた。



「少尉!!少尉!!」

 シンタロウが叫んでも無駄だった。



 赤銅色のドールは両手を広げ要塞のようなドームに向けていた。



 シンタロウはわかった。

「だめです・・・少尉!!!」

 シンタロウは叫んだ



 ドールの手からレーザー砲が放たれた。



 ドームに直撃し轟音を立てた。



「少尉!!!」

 シンタロウは舌打ちをしてサブドールを走らせた。だが、元の性能もあり、簡単に距離を縮められない。シンタロウは必死であった。



 レイラがおかしくなってからずっと止めようと声をかけ続けていた。



 一向にこっちの声を聞いてくれる気配はない。



 シンタロウは不審に思った。意志の弱い人ではない、むしろ強い人だと思っている。



 そんな人が約束したことを簡単に覆すだろうか・・・・



 シンタロウの乗るサブドールはレイラの影を追うのに必死だ。



「・・・・ヤバいな・・・・」

 シンタロウは後ろにあるかつて大きな要塞であったドームを思った。



 あそこまでの規模のドームが簡単に壊せるほどの力、レイラは間違いなく自分の知っている時のコウヤ以上のドール使いである。そして、あのレイラの乗っているドールは性能がすごくいい。



 シンタロウは声をかけ続けながらレイラを追った。



「少尉!!どうしたんですか!?・・・・おかしいですよ。」

 シンタロウは必死にレイラの耳に声を入れようとしていた。







 レイラは音を立てて壊れ始めるドームを見ていた。



「・・・・あら・・・」

 レイラはドームの中から続々と出てきたドールに目を移した。



 レイラは笑った。



「敵うはずないじゃない・・・・」

 そう言い、かつて地連軍の訓練施設を破壊した剣を抜いた。



『少尉!!!もういいです・・・・退散しましょう!!!』

 誰かの声が聞こえていた。レイラにとっては雑音、無いことに等しい。



 声を無視し剣を振った。



 軍本部は黒いドールがいないとあっさりと落ちた。レイラは煙を立てて壊れていく要塞のようなドームを見ていた。









『・・・・このドール・・・今まで以上に私の思うとおりに動くわ・・・』

 レイラはやっと答えた。



 だが答えた声はレイラのものとは思えないほど狂気に満ちていた。



「・・・・少尉・・・?」

 シンタロウは不安になった。



 するとレイラの様子が変わった。



『何か来る・・・・敵かしら・・・・』

 そう言うとレイラはさらに加速して行った。



 シンタロウは不安が増した。



 どうするべきなのかわからないから、とりあえずレイラを追うことにした。



 進む先にはどうやらドールがいるようだった。



 シンタロウはサブドールのモニターを拡大して遠くを見た。どうやらドールは1体のようだ。



 そのドールはレイラのドールに比べると小さくて頼りない気がした。



 だが、大きさとは関係ないが、ドールの色は強そうな真っ赤であった。

 シンタロウはレイラが向かっている先にいるドールの色をみて懐かしくなった。



 もう自分が戦艦を出てどれ位経ったのだろう。



 頭に友人の顔が浮かんだ。二人のかけがえのない友人・・・・・

 考え事をしているうちにドールがはっきりと見えた。

 そして、その後ろにある戦艦も見えた。



「少尉!!やめてください!!!」

 シンタロウは叫び、圧倒的に力不足だと分かっていても間に入ることを考え飛び出した。



 レイラは目の前のドールに向かっていた。



 目の前の真っ赤なドールはレイラには気づいているようであったが



 全く動かなかった。



 レイラは突撃を試みている自分を前にしても動かない赤いドールになぜか腹が立った。

 どう見ても自分のドールの方が大きく性能もよいはずなのに



「あんた・・・・なめてんの!?」

 レイラは激昂し赤いドールに斬りかかった。



 赤いドールはそれを待っていたようにレイラの懐に入って行った。



 赤いドールのパイロットはどうやら武術に精通しているようであった。



 レイラの振り上げた腕を根元から抑えた。



 レイラは気づいた。

「もしかして・・・・あの時の第1ドームの奴・・・・」

 レイラは同じように抑えられたことを思い出した。そして、次にどんな攻撃が来るのかを考えた。



 いかに早くこの腕から逃れるか



 どう見てもドールの力はレイラの方が強かった。

 腕を無理やり動かしレイラは自分を押さえつけていたドールを投げ飛ばした。

 赤いドールは受け身を取るわけでもなく飛ばされた勢いを生かしそのまま遠くに行った。



「・・・・な!!・・・・待て!!」

 レイラは赤いドールを追った。



 赤いドールが向かう方向にはゼウス軍のサブドールが飛んでいた。



「あのバカ・・・こんな近くまで・・・」

 舌打ちしたときに頭痛も襲った。



「相手はこっちだ!!!」

 だが、赤いドールはサブドールを無視しそのまま進んだ。



「待て!!」

 レイラは自分を無視して進む赤いドールに叫んだが







 シンタロウは再びレイラに説得を試みた

「少尉!!!もう下がりましょう!!!」



『シンタロウか?大丈夫か?』

 レイラからやっとまともな声での返答があった。



「少尉!!もう下がりましょう・・・やりすぎです・・・・」

 シンタロウはレイラを説得するように言った。



『・・・やりすぎ・・・・?』

 レイラは何を言われているのかわからないようであった。



「少尉は軍本部に殴り込みに行くと言ってもドーム破壊はやりすぎです。」

 シンタロウはレイラのやったことをすべて話した。



 するとレイラはしばらく間をおいて



『・・・そんなことを、嘘・・・』

 と言い出した。



「何言っているんです?・・・少尉・・・・・」

 シンタロウはレイラがしらばっくれているようにしか思えなかった。



『・・・・またなの・・・・』



「・・・・また?」

 シンタロウは聞き返した。



『・・・いや・・・なんでもない・・・・』

 そう言うとレイラは赤いドールを追うことなく自分の戦艦に戻って行った。









 ハクトは途中で敵に遭遇しながらも自身の目的地に着くことを優先にしていた。



 何としても軍本部についてロッド中佐とコンタクトを取らなければ・・・・



 ハクトはもう少しで本部のドームに着くであろうと気になにか違和感を覚えた。



 もちろん戦って倒れたドール達は目に付いていた。だが、何かが足りない・・・



 そう思った。



 近づくと嫌でも自分が感じた違和感の理由がわかった。



 そこにはあるはずのモノがなかった。いや、壊れていた。

 軍本部があった要塞のようなドームは破壊されていた。



「・・・・こんなことは。」

 ハクトは唖然とした。



 とにかく中に入って生存者を捜した。ドームの中の状況を見ると、ドーム中には戦ったのかたくさんのドールが転がっていた。



「・・・・ひどいな・・・・」

 ハクトは建物の中をのぞいてみた。



 どうやら戦ったもの以外はもうすでに逃げ出したようだった。民間人もだ。

 町に人影はない。安心するが、何かおかしい。



「・・・・どうしてだ・・・?」

 軍本部の建物は綺麗に外気に晒されていた。



 ハクトはあることに気づいた。



 どこに何があるか分からないため、ドールの中から覗き込んでみたが、おかしいのは変わらない。

 それは、軍のお偉方が使っていた部屋で損傷の少ない部屋を見ると何もなかった。

 どう見ても準備していなくなったようであった。

 ドームが壊されたときに急いで逃げたようには見えなかった。



 そもそも、さっきのドールがこのドームを破壊したのは分かった。だが、戦ったドール以外の人の気配がない。



「・・・ここは、もう本部の役割を果たしてなかったのか。いや、誰もいなかったんだ。」

 守りのドール隊以外は、ハクトはそう判断した。



 おそらくロッド中佐ももうここにはいないであろう。ハクトはそう考えた。



 彼がいたならこのドームが壊されるはずない。

 ハクトはフィーネに連絡した。



「軍本部は完全に破壊されている・・・・だが、どうやらそのまえからここは本部の役割を果たしていなかったようです。」



『・・・・へー・・・・お偉方は皆いないのか・・・俺らの任務はなんだったんだろうな。』

 キースは嘲るように呟いていた。



「わからないです。ただいえることは、部屋がドームを壊されたから急いで荷物をまとめた感じではないです。もっときちんと支度する時間を取っていなくなったようです。死者も守りについていたドール隊だけです。」

 ハクトはあたりを見渡していた。



『ハクト、戻ってきていいぞ・・・・何か用事でもあるのか?』



「はい・・・・とりあえず、前まで本部だったんです。データが何か残っていないか捜しています。フィーネはドームの前で待ってください。何かあったら連絡お願いします。」

 ハクトは外気用マスクをつけて、フィーネと連絡を取れるように通信機を持ってドールから出た。

 軽い足取りで着地し情報を扱っていた部屋を目指した。



 この建物は大きい損傷は無いようで、すんなりと進めた。



 途中で少し気になる部屋の前に止まった。そこはロッド中佐の部屋であったところであった。幸い損傷もない。



 ハクトはためらいもなく部屋に入った。

 重みもなくドアは開いた。

 主がいないせいか、部屋の空気もいつもより軽かった。

 この部屋も他の部屋と同様に何も残っていないようであった。



 ハクトは予想はしていたが少しがっかりした。

 淡い期待を持って机の中を探った。だが、何も出てこなかった。



「・・・そうだよな・・・・」

 ハクトは机の上に乗っかり天井を捜した。中佐がいたら絶対に出来ないことだ。



 ある筈もないことを知っていながら捜した。



「・・・・ないよな・・・・」

 ハクトは部屋の天井を見渡した。すると変なことに気づいた。



 壁のつなぎ目が少しずれていた。ハクトは壁に向かった。



 叩くと他の壁より空洞音がした。

 脇を締め肘を曲げ壁を殴った。

 壁は簡単に壊れた。



 そして、その先にはどこかに通じている道があった。

 気が付いたら進んでいた。道に足を踏み入れていた。



 いや、あちこちの部屋の壁の横を通り、話を盗み聞きするにはうってつけの造りだ。

 ハクトはこれを何のためにロッドが使っていたのか考えた。いや、彼が使っているとは思えなかった。



 この道は誰が通っていたのだろう・・・

 そんなことを考えながらハクトは進んだ。

 進んでいくと一つの空間に出られた。



 その空間は何も残っていなかったが、不思議と生活感を感じる空間であった。



「何で・・・・こんなところが・・・・」

 更に進むと生活ができるように生活設備が整っていた。ここで誰かが生活していたことを確信した。



「・・・誰が何のために」

 ハクトはロッドが何を考えているのかわからなかった。





 生活設備の一つである机の下に何かが張り付けられているのを見つけた。



 あからさますぎて思わず笑ってしまったが、見つけて欲しいものだと思いそれを取った。

 数枚のメモ書きのようなものだった。どうやら盗み聞きした会話をメモした者の様だ。



 それは細かく書かれており、どの部屋で誰が話していたかもある。



「・・・これは・・・」



 その内容にハクトはこのメモの意味が分かった。

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