あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)

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六本の糸~地球編~

24.おくれ馳せ

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 黒銀のドールはハクト達の前に立つとすぐにかかってきた。

「くそ・・・・」

 ハクトは自分のエネルギー残量が少ないことを思い出した。

 どんなに神経接続ができていても限界はあった。ましてやハクトの神経疲労は大きかった。

『ハクト下がれ!!!私が相手する。』

 ディアはハクトに後援に回るように言った。

「わかった。」

 ハクトは言葉に甘えディアの後ろに回った。ディアは槍のような武器を構え、それを器用に回し赤銅色のドールと黒銀のドールの間に割って入って斬りかかった。

 2体のドールはディアの攻撃を躱した。

 ハクトは手を差し出しレーザーの狙いを定めた。ディアの動きに合わせて放つ。

 黒銀のドールに直撃した。

 だが、装甲が強いのか軽い傷しかつかなかった。

「・・・・ここもエネルギー不足か・・・・」

 ハクトはディア動きに合わせて狙いを変えていった。

『無理するな。エネルギー量は考えろ。』

 ふと視界に入っている赤銅色のドールが変な動きをした。

 一旦止まったと思ったら一瞬歪むように脱力し、次にはとてつもなく早く動き出す。

「・・・ディア、あのドールおかしいぞ。人が乗ってるにしては、動きがおかしい。」

 赤銅色のドールを見てハクトは言うと

『おそらく・・・私たちの知らない新たなプログラムを搭載した機体なのだろう・・・・』

 と冷静に答えた。ディアは黒銀のドールに向かって手を出し、レーザーを放った。

 黒銀のドールは飛び上がりかわした。

 それを見計らったようにディアは槍らしき武器を振り回しレーザーを放ち続けているのに関わらず黒銀のドールに向けた。

 ハクトは赤銅色のドールが動き出したことを確認すると足場を確認し向かい合った。

 ハクトは自分の操作するドールよりはるかに大きいドールに臆しなかった。

 赤銅色のドールはハクトに向かってきた。

 そのスピードは今までの比にならないくらいに速かった。集中力と対応力が落ちているため、予想外の速さに動き出すのが少し遅れた。

 一歩踏み出した時横にまで詰め寄られていた。

「くそ・・・・」

 ハクトはエネルギーが限界に近い機体を無理やり動かした。

 バキョン

 機械が壊れる音が響いた。

『ハクト!!』

 ディアの焦るような声が響いた。

 赤いドールのコックピットが凹んでいた。

『おい・・・ハクト!!』

「大丈夫だ・・・・少しコックピットが狭くなっただけだ。」

 ハクトは左肩から圧迫されたことにより血を流していた。

 そんなことにお構いなく赤銅色のドールは力強く攻撃してきた。

 ハクトの乗った赤いドールを弾き飛ばした。

『くそ!!』

 ディアはハクトが飛ばされた位置に先回りし、衝撃を和らげるように受け止めた。

「俺に構うな。隙ができる。」

 ハクトは黒銀のドールの足元に近くのドールであった残骸を投げつけた。

『敵味方無いな。あの二体のドール共にな・・・』

 ディアはハクトを下ろすと再び二体のドールに向き直った。







 レイラは幻を見ていた。

 目の前には自分の大切な親友たちがいた。

 リーダー的存在だった少年

「レイラ遊ぼうぜ。」

「なれなれしく話しかけないでよ。あんたがクロスに意地悪しないか見張っているのよ。」

 親友と言うのが照れくさくていつも憎まれ口を叩いていた。

 もっと優しくしておけばよかった。

 彼は私たちの繋がりそのものであった。



 レイラは意識を持っていなかった。

 レイラの周りでは変な音声が響いていた。

【アレスプログラム起動・・・・・神経逆接続開始・・・・】

「・・・・クロス・・・・」

 助けを求めるようにレイラは呟いた。



 赤銅色のドールは止まったと思ったら壊れかけているかのように激しく動き始めた。

 どう考えてもエネルギー量を考えない動きであった。

 両手からレーザーを放ちながら飛んだ。

 黒銀のドールと赤いドールと純白のドールと、遠く離れたサブドール以外はほとんどがレーザーを食らい壊れるか動けなくなるかしていた。

 赤いドールは放ったレーザーの軌道を戦艦にあたらないように弱いレーザーを撃ちずらしていた。







 ハクトは肩から血が流れるのを感じていた。生ぬるく粘り気のある感覚がまとわりついていた。

 気持ちの悪いのと同時に体の力もそこから抜けていくような錯覚に陥った。

『ハクト!!』

 ディアの切迫したような声が聞えた。

 どうやらドール自体も崩れ落ちそうになっているようだ。

 体勢を保つように堪え、ふと感じた気配に大して働かない勘を働かせた。

「・・・・でかいドールだ。」

 登録機体でない、それは確認できた。ドールでも感知できる距離に何やら知らないドールがいるのが分かった。



『ハクト・・・君は下がれ。ここは私が食い止める。君はまだ戦艦に戻れる。』

 ディアから懇願するように言われた。

「駄目だ。準備ができているのなら、俺はここで守らないといけない。もう時間が無いんだ。」

 ハクトは瞼が重くなってきたのを感じた。

『準備だと?何を待っているんだ?時間っていったい・・・』

「・・・・俺は死なない。」

 ハクトは重い体を持ち上げるようにドールを動かした。

 さっき飛ばされた衝撃と変形したコックピットによりハクトの身体はボロボロであった。

 ハクトは意識が薄れていくのを感じていた。

 目の前の景色がおぼろになって行く。

 ハクトは限界が近づいていた。

 目の前が真っ白になっていく。

 体中が痛い。体の感覚は痛みと気持ちの悪い血の感触と鉄っぽい味を感じているだけであった。

 何も見えない聞こえない暗闇の中にいた。







「艦長!!!」

 戦艦フィーネでは悲鳴が響いた。

「落ち着け・・・簡単にハクトが死ぬはずないだろ・・・・」

 キースは自分に言い聞かせるようにリリーに言った。

 リリーはそれを聞くと表情を引き締め、砲撃を再開した。

「・・・・頑張らなくちゃ・・・・」

 ソフィも自分に言い聞かせるように言った。

『打ち上げの準備ができた。・・・・艦長にもそう言ってください。』

 モーガンから通信が入った。その通信でみんなは静まり返った。

「・・・・少佐・・・やっぱり置いて行けません・・・・」

 リリーが涙声で言った。

「・・・・ディア・アスールに任せれば・・・きっと大丈夫だ。あいつは」

 キースはなだめるように言った。何か変な音がした。

「少佐。大変です。もう1体登録していない機体が来ました。」

 ソフィが絶望したように言った。

「・・・・ハクト」

 キースは神に祈るような素振りをした。

「・・・よし、俺らは先にあがるぞ。」

 キースの言葉にリリーを始めとした乗組員たちは躊躇った。

 両手を叩き、乗組員たちの注目を集めた。

「おい。仲良しごっこじゃないんだ。」

 順番に顔を睨み、厳しい声をかけた。

 キースの表情の変わりように乗組員たちは怯んだ。

「無駄にするな。目的を忘れるなよ。」

 キースは躊躇う他の乗組員たちに宇宙にあがるよう促した。







 ディアはハクトの声が聞えなくなったことに気づいた。

 黒銀のドールを振り切りハクトの方を見た。

「・・・・ハクト・・・・」

 赤いドールはボロボロになっており中の人間が無傷であることなど考えらなかった。

 ディアは赤いドールに向かって行った。

 目の前の赤銅色のドールのことなど二の次だった。必死だった。

 赤いドールは遠くで見るより一層ひどく損傷していた。

「おい!!!」

 ディアは赤いドールを慎重に持ち上げた。どこからか大きな音が聞えた。

 どうやらシャトルが飛び立ったようであった。

 戦艦フィーネはこのために戦っていたのがわかった。

『・・・・よかった。これで・・・・』

 ハクトの声が聞えた。

「おい!!!しっかりしろ!」

 ディアは必死に話しかけた。

 ふと背後の黒銀のドールの動きを感じた。厭な予感がしてハクトを下ろし、飛び上がった。



 黒銀のドールは手を持ち上げ、レーザーを飛び立つシャトルに向けている。

 もし、これが落とされたらハクトが守っていたのは無駄になる。

「それを下ろせ!!」

 ディアは武器を持ち、黒銀のドールに飛び掛かった。

 両手を下ろし、黒銀のドールはディアを躱すことを優先しシャトルへの攻撃を断念した。だが、シャトルが完全に射程圏内から外れるまで油断はできない。残り数秒か数十秒か分からないが、シャトルとハクトを守らないといけない。

 ふと、もう一体のドールを思い出した。

 赤銅色のドールはディアの視界からいなくなっていた。

 いや、影が見えた。

 自分の上空に大きい何かがいる・・・・

 前の黒銀とシャトルに気を取られているうちに視界から外れていた様だ。

 殺される

 そう悟った







 自分は純白のドールに片手をあげていた。

 それを阻むように赤いドールが飛びだしてきた。

「え?」

 ひどい頭痛が襲った。

 だが、レイラはかまわずに片手を下ろすのを止め、後ろに下がった。



「う・・・痛い。」

 痛みに飲まれないように耐えた。

 さっきもし、手を下ろしていたら自分はとんでもないことをしていたのかもしれないと思った。何故かとても寒気がした。

「無理だ。もう、駄目だ。」

 周りの景色がぐるぐると回った。痛みではなく恐怖がレイラの心を占めた。

『おい!!レイラ!!動けよ!!』

 シンタロウの声が響いているが、レイラは震えることしか出来なかった。







 振り上げられた手が下ろされることなく下がった。

 だが、それよりも自分を庇うように動いた目の前の赤いドールにディアは驚いていた。

「・・・・君は・・・・」

 ボロボロの赤いドールは素早く動き赤銅色のドールの攻撃からディアを庇おうとした。

『・・・・やらせるか・・・・』

 ハクトの状態はわからないがドールは限界なことはわかった。

 ディアは表情を固めた。

「ハクト・・・・・君は・・・・」

 赤いドールは崩れるように倒れた。黒銀のドールは銃口を倒れたドールに向けた。

 ディアは唇を噛み締め武器を取り出し投げつけた。

 武器は黒銀のドールに直撃した。

「殺させるものか・・・・・絶対に」

 ディアは黒銀のドールに両手を向けた。そして、ハクトをボロボロにした赤銅色のドールを横目で睨んだ。

 途端に頭に血が上った。

 ディアはドールの中に音声が響いたのに気付いた。

【アテナプログラム起動・・・・・逆接続開始・・・・】

「・・・・これは」

 ディアは体の自由が一瞬奪われる感覚に陥った。

 だが、そのあとはドールが自分の身体以上に軽く感じた。

 一瞬で黒銀のドールに追いついた。

「・・・・私は今怒っているのだよ。」

 ディアはそう言うと黒銀のドールに刺さった自分の武器を引き抜いた。

 黒銀のドールはディアに手を挙げた。

「遅い・・・・」

 ディアは黒銀のドールの腕をすり抜けて背後からコックピットに武器を向けた。

「どうやら、私の方が上手の様だ。」

 ディアは目の前の黒銀のドールを睨みつけた。そして、動かない赤銅色のドールにも狙いを定めた。

 足元に何やら気配を感じた。

「・・?」

 視線を向けるとサブドールが一体いた。

「こいつ・・・」

 ドールとサブドールでは性能で差があるが、今ディアは全くサブドールを見ていなかった。

 飛ぶためのガス噴射口を狙われた。

「クソ。」

 足の方を庇うように体の向きを変えようとしたら、その隙に下に回り込まれた。

「ちょこまかと・・・」

 潰そうと思い、サブドールを捜すと黒銀のドールを盾にしてディアから距離を取っていた。

「こ・・・」

 ディアがサブドールに気を取られているうちに黒銀のドールはディアに向いていた。

「この野郎。」

 ディアは普段しない大きな舌打ちをした。









 レイラが動かなくなった。

 自分が必死に作った隙だが、まったく生かすことなく震えていた。

「おい!!レイラ!!」

 応答もない。黒銀のドールがやられるのも時間の問題だと思える。

 一瞬だが、純白のドールの動きに全くついて行っていなかった。

 もう庇うどうのこうのではなく、いかに早くレイラを撤退させるかだ。

 力も性能も劣るサブドールではレイラの巨大な赤銅色のドールを運ぶことは出来ない。ましてそんな余裕もない。

 頼ろうと味方ドールを見渡すと大体レイラか敵に潰されている。

「起きろ!!レイラ!!」

『う・・・クソ。』

 レイラの声が聞こえた。

「レイラ!!」

『クソ・・・・白い奴・・・潰す。』

 駄目だった。正気に戻っていないレイラは殺意のこもった呟きをした。

「駄目だ!!レイラ!!」

 動かなかった赤銅色のドールはシンタロウの声を無視して立ち上がり、黒銀のドールにかかる純白のドールに構えた。

「待て!!」

 止める声を聞かず、レイラは走り出した。

 シンタロウは赤いドールの方に視線を走らせた。

 中のパイロットが無事か分からないが、このままだと黒銀のドールかレイラに潰される。

 サブドールでは何をするにしても限界がある。せめてレイラを引っ張れるドールであれば



「おい。聞こえているんだろ?」

 シンタロウは仕方ないと思い、話し始めた。



『あら。頑張っているわね。でも、レイラちゃんを守ってね。』

 思った通り答えた。

「お前たち今どこにいる?近くだろ?」

『ちょっとロウ君。敬語、敬語よ。』

「急ぎだ。数分で迎える位置にいるならそこに向かう。」

『あら?どうしたの?』

「ドールを用意しろ。俺が乗ってレイラを引っ張って帰る。」

 シンタロウは女が乗っているであろう戦艦を探した。

『あははは。何言って・・・』

「早くしろ。時間が無い。殺されるぞ。」

 女が高らかに笑いかけたが、シンタロウの剣幕に圧され黙った。



『・・・5分で用意するわ。そこからそのドールだと10分かかる位置にいるわ。』

 女の声に笑みは混じってなかった。

「助かる。」

 シンタロウは女から送られてきた位置に向かい、走り出した。







 ディアは手が震えた。

 自分が初めてここまでの怒りを覚えたのだからだ・・・

「・・・・・」

 黒銀のドールは動かなかった・・・・いや動けなかった。

 ディアの突きつけた武器は黒銀のドールの動きを制限させていた。

 本当ならここで黒銀のドールを壊したかった。

 だが、背後に憎い赤銅色のドールの気配を感じ振り返った。

 予想通り、いた。そして、ディアに向かって剣を取り出した。

 黒銀のドールを開放することになるが、突き立てた武器を取り、向けられた剣を防いだ。



 武器と武器がぶつかり合う音が響く。ふと、近くのハクトが気にかかった。

 あまりにも近い場合、衝撃が響くかもしれない。

 そんなことを考えたが、そんな余裕がないことはすぐに分かった。

 黒銀のドールとは違う。この赤銅色のドールは何かが違って、何かが自分と同じだった。

「お前・・・何者だ?」

 ドールに音声が響いていた時のように頭に血が上った。

 今度は激しい頭痛がディアを襲った。



「ぐっ・・・・」

 思わず武器を振り、赤銅色のドールと距離を取った。

 直接痛みを加えられるような頭痛にディアは歯を食いしばった。

「だめだ。ハクトがやられる。」

 どうにか二体のドールの様子を見て、ハクトの方を見た。

 変わらず赤いドールはぐったりとしたように地面にある。そして、とてもボロボロだ。

 向かい合う赤銅色のドールは変わらずかかってきた。

 痛みに耐えながらも武器を取り攻撃を防ぐ。

 ハクトの赤いドールと目の前の赤銅色のドール、そして動きを止めたが動き出しそうな黒銀のドールを順に見ながらどれを潰すべきか考えていた。

「違う。赤いドールはダメだ。」

 頭に浮かんだ凶暴な考えをディアは押し込めようとした。

 額に汗が伝う。

 完全な個人行動であるためネイトラルの船は呼べない。

 ネイトラルのお飾りであることを思い出して笑った。

 赤いドールと赤黒い赤銅色のドールはディアの記憶を擽った。



 額に伝った汗が頬を伝う。コックピット内の空気に触れて汗の水分が冷える。

 赤と黒と嫌な水分の感覚。

 黒銀のドールは光を反射する銀の刃物を思い出した。

 再び襲う頭痛に思わず目を強く閉じた。



 閉じた瞼の中には暗闇でなく徐々に黒くなる赤があった。

「ひっ・・・!!」

 ぬめり気を感じる手には神経接続したコードが見えるはずなのに、見えるのは銀色の刃物と粘性のある輝きをする赤い液体だった。

 目は開いていたはずだ。閉じて開くと景色が違う。

 今までの戦いは夢だったのか?

 耳元に声が響いた。

『飾りもの』『家を利用してそこまでして頂点に立ちたいか?』

「黙れ!!」

 声を払うように首を振ると足元に温度を感じた。

「こうするしかなかったんだ!!」

 ディアは足元を恐る恐る見た。

 幾つもの手が、自分の足を掴んでいた。全て、見覚えのあるものだ。

 全て、自分がこの若さで上に立つために蹴落とした者達だ。



「消えろ。消えろ!!消えてくれ!!」

 ディアは足元の手を踏み潰すように地団太を踏んだ。



 全てを踏み潰したとき、視界が明るくなった。

 暗かった視界は光に満ち、手には神経接続のコードがあった。

 そして、目の前のモニターに映るのは赤銅色のドールだ。



「・・・・消えろ。」

 ディアは目の前の敵に冷たく呟き、赤銅色のドールに斬りかかった。







 目の前の純白のドールは明らかにレイラを敵と認定しており、殺す気でかかってきている。

「そう来なくちゃね。」

 レイラはむき出しにされた敵意に笑った。

 自信も剣を構え、純白のドールに示すように敵意を露わにした。

 かかってきて武器をぶつからせる。衝撃で辺りが振動する。

 ドールの大きさはこっちの方が大きい。しかし、小回りは純白のドールの方が利く。躱してはぶつかり、避けては躱され、何度それを繰り返しただろうか。

 視界の端で黒銀のドールが動いた。

「邪魔!!」

 レイラは黒銀のドールにレーザーを放った。

 それを避けたが、黒銀のドールはレイラと純白のドールの戦いに入れずにいる。

 息を切らせて純白のドールを見た。向こうも同じであろう。

 お互い集中力を切らしたときが負けだ。

 絶え間ない頭痛も、流れる汗も関係ない。

 レイラは目の前の敵を観察し、自分がどう動いて敵を殺すかを考えた。



「考えても無駄ね。・・・潰せばいい。」

 レイラは本能に任せて武器を振るい続けた。







 目の前の赤銅色のドールは大きさに関わらず自分の速さについてきていることに敵ながら感心した。

 だが、目の前のドールは潰さなければならないものとディアは結論づけた。

 戦い、武器を振るうほどに厭な声も温度もぬめり気も消えていく。

「潰す・・・」

 何度目になるか分からないが、再び武器を振り上げた。

 赤銅色のドールも同じく武器を振り上げた。何度目になるか分からないが、武器をぶつからせ、衝撃を響かせた。

 最早黒銀のドールはかかってこない。

 いや、黒銀のドールはいてはいけない所にいる。

 ディアは赤銅色のドールを振り払い、黒銀のドールが向かう先にいる赤いドールを見た。



「止めろ!!」

 手に持っている武器を鋭く投げた。

 黒銀のドールの足のつけ根に刺さり、地面にめり込んだ。

 これで動けないだろう。息を切らせてディアは満足した。

 だが、直ぐに思考は冷めた。

 近付く影が見えたからだ。そして、それは先ほどまで武器をぶつからせていた赤銅色のドールだった。

 赤銅色のドールは、待っていたと言わんばかりに武器を構えて突進していた。

 受け流そうと思っていても武器が手元にない。

 体を捻らせて避けたが、目の前のドールは反撃を許してくれるほど甘くなかった。

 武器が無い分、攻撃は一方的なものになった。

 避けるので精一杯であり、黒銀のドールを抑えつけたとはいえ、完全に無力化したとは言えなかった。

 心配事があって戦える相手ではない。レーザーを放つための時間もくれない。

 更に、何か近づいてくる。しかも2体だ。

 味方か敵かわからない今、彼女は確信のないものすべて脅威に感じた。

「全部潰す。」

 ディアは赤銅色のドールに突進した。

 だが、わかっていたことのように武器で距離を取られそうになった。

 こちらもそれは分かっている。だから、思いっきり武器を掴んだ。ドールの大きさはこっちの方が小さいが、小回りの融通はこっちの方が利く。が、それは過信だったようだ。



 赤銅色のドールは掴まれても武器を持つ手を緩めることなくディアの動きに集中していた。

 そして、ゆっくりと拳をコックピットめがけた。

 だが、何かに気付いたようにディアを振り振り払うように武器を振り、その場から離れた。



 振り払われた時に地面に衝突したが、コックピットを潰されるよりはましだった。しかし、衝撃が頭痛に追加され、ディアの頭を痛めつけた。

「った・・・・」

 痛みに呻くと目の前にレーザーが通り、先ほどまでいた場所を貫いた。

 近づいていた気配の一つがすぐそばにあった。

 遠くの気配の元にはディアの見たこともない黒と青のドールがいた。そして、そのドールはディアに手を向けてレーザーが撃てるという威嚇をしていた。だが、かなり遠くにいる。

「・・・・・敵か」

 そう言うとディアは赤銅色のドールを横目で見た。赤銅色のドールは攻撃だけ認識したようで、一瞬動きを止め、壊れたように動き始めた。

 つまり暴れ始めたのだ。武器を持っているため、距離を置こうと離れた。

 距離を置くと同時に、黒銀のドールに差した武器を取った。レーザーを放った青と黒のドールが来るまで時間は少しある。

 それまでにこのドールを片付けて、迎撃できるようにしよう。

 ディアはそう考え、暴れ始めた赤銅色のドールに上空から飛びかかろうとした。

 そのとき、地面の方から一体のドールが飛んできた。

「!?」

 ディアは後ろに下がり、ドールを見据えた。

 灰色の機体だ。一般的なドールだろう。確か、ゼウス共和国の一般機がこんなやつだった。そんなことを考え、邪魔されたことに苛立った。

 ディアに追い打ちをかけることもせず、一般機は赤銅色のドールの後ろに回った。

「ちょこまかと・・・」

 暴れる赤銅色のドールを叩き潰そうとディアは武器を振り上げた。

 また、一般機がディアの視界に入り、今度は振り上げた武器のせいで空いた胴体を狙って潜り込んできた。しかし、ディアの動きが止まりかけるとすぐに引いて、赤銅色のドールをサポートできる位置にいた。

「・・・厄介な奴だ。」

 ディアは舌打ちをした。

 素質や適合率は劣るが、この一般機は相手の隙をよくわかっている。

「邪魔だ。全部潰す。」

 ディアは舌打ちをして三体のドールを視野に入れた







 やはり純白のドールは厄介だった。せめての救いはレイラが暴れていることだ。先ほどのように動かない状態でない。しかし、厄介なことに変わらない

「くそ!!正気に戻れ!!レイラ!!」

 シンタロウは赤銅色のドールを見渡した。頭はメインカメラがあるからだめだ。

 暴れているが、動き方が一定だった。何かから逃げるように暴れていた。

 動き方を観察していると、純白のドールが近づいていることに気が付いた。

 先ほど遠くからレーザーを撃った青と黒のドールが来る前にレイラを正気に戻し、撤退できればいい。

 そのためには、この純白のドールをやり過ごし必要がある。

 武器が下ろされるときは避けるのに間に合わない。適合率やら素質でこっちは劣る。

 動き出しが見えたらレイラには悪いが、回避に全力を注ぐ。



「レイラ!!おい!!」

 確か、このドールには武器が格納されているはずだ。そんなことを言っていた気がしたが、適合率うんたらかんたらとも言っていた。



「どこにある?」

『サーベルって表示を出せば、わかるわよ。』

 通信の向こうから白衣の女の声が聞こえた。

「わかった。っと。」

 距離を置く必要がある。純白のドールの視線を悪いがレイラに向けさせてもらう。

 白衣の女に言われた表示を探し、とっさに操作した。

 背中に収納された武器が出てきた。それを取り、武器を構え、レイラの方を見た。

 一心不乱に武器を振っているように見えるが、与えられる攻撃には敏感のようだ。

 純白のドールの攻撃を受け止めている。



 空からではなく、地面を滑るようにしてシンタロウはレイラに近付いた。

 レイラの背後に回り込むと、レイラだけでなく純白のドールも警戒した。だが、シンタロウに気を取られ、レイラに生じた一瞬の隙を見逃さず、純白のドールはコックピットを狙い叩いた。

 攻撃に一足遅く気づいたレイラは回避が間に合わず、直撃は避けたが、胴体部分を大きく掠らせた。

 あれだとコックピットの衝撃も大きい。

 よろめいたレイラを追うように純白のドールは止めを刺そうとした。

 振り上げたところにシンタロウは自身の武器を投げつけた。



 回避に動いたため、止めは刺せないはず。と予想し、レイラのコックピットをよろめいているうちに殴った。

「レイラ!!とっとと戻れ。戻るぞ!!」

 シンタロウはレイラに叫んだ。







 赤銅色のドールの中で、レイラは何度目になるかわからない幻覚の中にいた。



 レイラは何かが来るのを感じた。彼女は友人たちに囲まれていた。

 一人足りない・・・・

 レイラは周りを捜した。

「クロス・・・・クロス!!」

 叫んだ。ひたすら叫んだ。声は思うように出なかった。

 気が付くと周りの親友たちは消えていた。孤独感が彼女を襲った。

 それでもレイラはクロスの姿を捜した。

 後ろに人の気配がした。

「お前は私に敵わない・・・・何も知らない幸せ者だからな・・・」

 聞き覚えのある声だった。忘れもしない父を殺した男

「・・・レスリー・ディ・ロッド・・・・・お前・・・」

 レイラは銃口を向け睨みつけた。

 その時頭によぎった。

「天」、「レスリー」その単語が繋がった。

「あんた・・・・クロスがいた家のあのお坊ちゃん・・・・?」

 大切な人の後ろに一人の少年の姿が浮かんだ。

「天」で会っている。そして、彼は自分と同じであった・・・・

 その途端レイラは目の前の憎い相手を直視できなくなった。

「どうした?・・・・殺さないのか?」

 憎い男はレイラを見て口元を歪めた。

「・・・・うるさい。お前も私と同じだったのか・・・・」

 レイラは銃を下した。

「・・・・教えろ・・・お前は・・・・」

 レイラは目の前の憎い相手に話しかけた。すると男はサングラスに手をかけていた。

「真実を見極めろ・・・・そして、銃口を向けるべき相手を確認しろ。」

 そういうと男はサングラスを外した。

 顔を見る前にレイラは目を開いた。





 衝撃が頭に走った。体にもだ。自分のいるコックピットが揺さぶられている。

 レイラは驚いて辺りを見渡した。

『レイラ!!しっかりしろ!!』

 シンタロウの声がずっと響いていることに、そして、純白のドールが自分と近くにいる味方のドールを排除するために動こうとしているのに気付いた。

「危ない!!」

 味方の一般機を手でどかし、向かって来た純白のドール攻撃を武器で受け止めた。

『退くんだ。レイラ。味方はやられた。』

 通信が入った。どうやら味方の一般機はシンタロウの様だ。

「いや、やらないと・・・敵だ。」

『あほか!!味方をぶっ殺しておいて今更敵もあるか!?』

 シンタロウの呆れた声が響いた。



 ふと頭の中に言葉が浮かんだ。

【真実を見極めろ。銃口を向けるべき相手を確認しろ。】

 憎い相手から言われた言葉なのにレイラの心に深く刺さった。

 純白のドールは変わらずレイラに武器を向けていた。









「とんだ邪魔ものだ。」

 ディアは目の前の一般機と赤銅色のドール両方を睨んだ。



「・・・潰す。殺す。」

 耳元に不快な吐息を感じた。

 ディアはそれを振り払うように首を振った。

「・・・私にはこの手段しかないんだ!!」

 ディアは武器を振るい二体のドールに向かった。

 赤銅色のドールは予想通り避けた、だが、彼女の狙いはそこじゃない。横の一般機だ。

 一般機はどうやらディアが動き出した時点で回避に入っていたようで離れていた。

「能力を理解したいい戦い方だ。だが、圧倒的な差には・・・」

 ディアは一般機に狙いを定めて突進をした。それを阻むように赤銅色のドールが飛びだしてきた。

 再び武器がぶつかる。

「邪魔だ。うるさい!!」

 耳元には変わらず不快な囁きがあった。

「利用してやるんだよ。全て、全てだ!!家もプログラムも。」

 横目で動かない赤いドールを見た。

「私は、全部あのひと時のために生きているんだ!!」

 力づくで武器を振るい、赤銅色のドールを払った。かなりドールに負荷を与えたようで体が軋んだ。

 動き出すのが速い一般機はディアが向かう場所から離れており、再び同じだけ動かなければいけなかった。

「小賢しい。・・・私を決めるのは、あの5人だけだ。」

 ディアは昔に見た虹色の光を思い出していた。そして、それと同時に足元に広がる赤と黒も。

「・・・だから・・・」

 向かってくる気配に全力の敵意と殺意を向けた。

 赤銅色のドールと一般機は撤退に入った。

 潰せなかった。あの青と黒のドールのせいだ。

 ディアは武器を構え、向かってくるドールを睨んだ。

「・・・・邪魔するなら殺す。」

 歯ぎしりをし、絞り出すような声で言った。










 純白のドールがシンタロウに標的を定めた時はどうなるかと思ったが、予想以上に動き出すのが速い補佐にレイラは安心していた。

 まだ軽く頭は痛むが、そんなことを気にしていられなかった。

 純白のドールは次の標的を定めたようで、後ろから来るあのレーザーを放ったドールだろう。

 寒気がした。前を見た。

「あのドールは何者だ?」

『白ドールを庇ってレーザーを放ったのは分かったが、白い奴は敵意満々だ。』

 レイラは前に見えてきた凄まじい勢いで飛んでくるドールを調べた。

『仲間か?』

「違う・・・・避けるぞ。」

 レイラはそう言い少しずつ道をずれていった。飛んでくるドールは速かった。

 せずにすれ違ったドールは、見たことのない青と黒のドールであった。

 すれ違いざまに攻撃されることを恐れ、かなり距離を置いていた。

 青と黒のドールはレイラたちの方を一瞥したがそのまま飛んで行った。

『・・・・・あのドールは』

 シンタロウは冷ややかな声だった。得体の知れない者に対しての観察に徹しているようだ。

「・・・・わからない」

 レイラは妙にあのドールが気になった。

 だが、今は帰ることが先決であった。



「・・・・・撤退する。」

 レイラはシンタロウを庇うように飛びながら辺りを見渡した。

 シンタロウの言った通り、味方はほとんどいなかった。黒銀のドールが味方らしいが、回収する余裕もない。

『気にしてないで行こう。』

 レイラのことを察したのか、シンタロウから通信が入った。

「悪いな・・・し、」

『通信は全て傍受されている。あの白衣の女がBGMとして聞いているらしいぞ。』

 レイラがシンタロウの名を呼ぼうとしたときに言葉を阻まれた。

「そうか・・・。お前ずっとタメ口だな。」

『少尉、大丈夫ですか?』

 シンタロウは事務的な口調だった。

「今更だな。暴言も吐いていただろ?」

 レイラは落ち着いた様子で笑った。







 シンタロウの言葉通り、二人の会話をBGMとして聞いていたラッシュ博士とマックスは撤退できたことに安心していた。

「残念だけど、鍵はまた今度ね。」

 ラッシュ博士はマックスを残念そうに見た。マックスは気にする様子もなくモニターを見ていた。

「別にいいですよ。それよりもあの青と黒のドールは?」

「わからないわ。だいたいあのネイトラルのクソガキが来たせいで全て台無しよ。」

 ラッシュ博士はタバコを取り出し、火をつけた。

「・・・補佐として置いて正解でしたね。タンシ軍曹。彼でなければ、ヘッセ少尉は死んでましたね。」

 マックスは少しだけ頼もしそうにモニターに映るシンタロウを見た。

「そうね。まあ、身元とかは気になるけど、あの様子だと簡単に明かさないだろうから泳がすかしらね。」

「しかし、もし白い奴がディア・アスールであるなら、相当凶暴な奴ですね。」

 マックスは少し怯える表情をした。

「ドールプログラムのせいね。どんなトラウマがあるか知らないけど、あの子も振り回されているというわけね。」

 ラッシュ博士は手元の端末を眺めうっとりとしていた。

「ムラサメ博士はこんな素晴らしいものを残してくれて、本当に尊敬しているわ。」

 端末の画面を指で撫でながらラッシュ博士は口元笑みを浮かべた。

「ラッシュ博士・・・ドールプログラムってただの兵器に活用できるプログラムなんじゃないですか?」

 マックスはラッシュ博士の様子を見て不思議そうな顔をした。

「・・・違うわよ。マーズ博士。」

 ラッシュ博士はマックスに近寄った。思わずマックスは後ずさりした。

「人の意識に介入できるプログラムよ。そして、これは生きているのよ。」

 ラッシュ博士は目をキラキラと輝かせた







 コウヤは戦艦フィーネを発見し、その近くで戦う赤いドール達を発見した。

 赤いドールはもう戦えないほどボロボロだったが、それを庇うように純白のドールが戦い、対するのはあの黒銀のドールと赤黒い赤銅色のドールだった。

 ほとんどが純白のドールと赤銅色のドールとの戦いだった。途中で灰色の一般機が乱入してきて、先ほど赤銅色のドールと一般機の撤退とすれ違った。

 倒れている黒銀のドールと、殺気を発している純白のドールが武器を構えていた。

 間違いなくこの純白のドールは、コウヤに対して敵意を持っている。

「止めろ。俺は戦う気はない!!」

 コウヤの叫びに構わず、純白のドールは武器を振った。

「聞いてくれ!!おい!!」

 通信をどれかに繋げようとしたが、まったく聞いてくれる気配が無かった。

 もう、力づくで止めるしかない。

 純白のドールはコウヤに斬りかかってきた。

 向こうが下から斬りかかっているに関わらず、力が強かった。

 衝撃音が辺りを響かせる。

 なれない武器に躱しながらしか、受けれず、反撃ができなかった。

「・・・・・くそ・・・」

 コウヤは刃を重ねるたびに相手が強いことを感じた。

 1本の槍のような武器で戦っているのだが、動きが早く攻撃も重かった。

 自分が強くなったことを感じてもこんな強敵に遭うとは考えていなかった。

 倒そうと考えたがコウヤは決めていた。



 片手を通信の機械に伸ばした。

「・・・・・聞こえるか・・・・」

 相手側に慎重に言った。

「俺はあなたを殺したくない・・・・」

 すると

『・・・・君はどっちの味方だ?』

 聞き覚えのある声が息を切らせながら返ってきた。

「戦艦フィーネの味方だ・・・・」

 コウヤは断言した。それが一番だった。

 コウヤの意図を読み取ったのか、目の前の敵は武器を下した。

『・・・・同じだ・・・・』

 その時どこかで機械が動く音が聞えた。



 黒銀のドールが動き始めていた。どうやら意地でも敵を倒したいようであった。

 足の付け根に大きな損傷があり、それ以外にも小さな傷があった。

 中のパイロットは相当な痛みに苦しんだはずだ。だが、動き続けることにコウヤは警戒した。



『・・・・まだやるか・・・・』

 そう言うと純白のドールは武器を黒銀のドールに向け、走り出した。

「待って!!・・・・殺さないでくれ!!」

 コウヤはユイがかつて乗っていたことを思い出した。

 純白のドールと黒銀のドールの間に入り、振り上げた武器を掴み抑えた。

『お前は、味方か・・・?敵では・・・?』

「俺は、味方だ!!聞けよ!!ディア!!」

 コウヤは直感で思った人物の名前を叫んだ。

 力が抜けたように純白のドールは手を下ろした。

「・・・・どうした?」

『・・・はははは。ははは・・・そうだったな。』

 通信の向こうで純白のドールのパイロットが笑っていた。

 笑い声がひと段落したと思ったら、純白のドールは黒銀のドールの残った腕と足を切り落とした。

『私も殺すつもりはない・・・・はずだ』

 彼女は呼吸が荒くなっていた。だが呼吸を整えるように深呼吸した。

 純白のドールは黒銀のドールのコックピットを開いた。

「何するんですか?」

『コックピットから出してドールのみ破壊する。』

 冷静な声が返ってきた。

 コウヤは神経接続を外し、外気用マスクをつけた。

「外から手伝います。」

 とコックピットから急いで出た。

 前はユイが乗っていた機体、もしかしたらと考えていた。

 コウヤは黒銀のドールのコックピットまで登った。

 そこには一人の少女が機械を頭に付けて気を失っていた。

「・・・・ユイじゃない。」

 コウヤはがっかりしたが少女をドールから引きずり出した。

 それを確認すると純白のドールは黒銀のドールを切り裂いた。

 コウヤはもう1体のドールの元に走った。

 近づくと間違いなくフィーネに乗っていたドールであることが分かった。

「誰だ・・・誰が乗っているんだ?」

 コウヤは急いでコックピットを開こうとした。

 するとそれを制するように純白のドールが手を出した。

「何で止める!!」

 コウヤは手を出してきた純白のドールに叫んだ。すると純白のドールのコックピットが開いた。

「外気は汚い・・・・どこか安全な綺麗な空気のところで手当てをしたい。」

 そう言ったのは見覚えのあるプラチナブロンドの髪をした精巧な作りの人形のような顔をした少女であった。

 思った通りの人物でコウヤは安心した。

「・・・・ディア・・・」

「やっぱり生きていたか・・・・コウ」

 彼女は微笑んだ。

「・・・もっと早く来て欲しかった。・・・遅いぞ。」

 ディアは縋るようにコウヤを見た。
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