あやとり

近江由

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六本の糸~「天」編~

32.不定

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1人、自室にいるライアン・ウィンクラー総統の元に、慌ただしく数人の軍人が来た。

 足音が聞こえたところでウィンクラー総統は少し嫌そうな顔をしたが、扉を見てノックがされる前に入る様にと言った。

 入ってきた軍人は息を切らしてウィンクラー総統を見ていた。

「ニシハラ大尉は両親に会いに行ったようです。」

「両親のもとに来客はあったか?」

 ウィンクラー総統は表情を崩さずに聞いた。

「はい。ボディーガードを連れた女がきました。おそらくディア・アスールでしょう。」

「大胆に出たな。そういえば、ネイトラル側が宇宙に放置されているフィーネに文句を言ってきたな。」

 ウィンクラー総統は思い出したように呟いた。

「回収して地連に届けるとか言ってましたね。どうするつもりですか?」

「ドールもサブドールも回収したのは確認した。確かニシハラ大尉がドームに入る際見た。」

「戦艦としての機能はまだありますよ。」

 ウィンクラー総統の話に補足するように軍人が言った。

「中身がないからな。フィーネに価値があったのは、ニシハラ大尉が乗っていたからだ。」

 少し面倒くさそうな顔をしてウィンクラー総統は軍人を見た。

「ではどうしますか?」

「知らんと言え。下手にネイトラルに借りを作りたくない。」

「わかりました。」

 もう片方の軍人がせわしなく会話が終わるのを待っていた。

 ウィンクラー総統はそれが目についたようで、顎でせわしない動きをする軍人を指した。

「お前は何だ?」

「失礼します。ニシハラ大尉がロッド家に入りました。どうします?」

 指された軍人は慌てて話し始めた。

 ウィンクラー総統はロッド家と聞いた途端、眉を顰めた。

「放っておけ。今更あの家になにができる?」

 彼は投げやりに言った。








 屋敷の玄関でハクトがコウヤと向かい合っていた。

「これからどうするんだ?コウは。」

 ハクトの問いにコウヤは考え込んだ。

「ロッド中佐について、もっと知ろうと思うんだ。あと、ユイを助けたい。」

 ハクトはその言葉に安心したようだ。

「お前、変わったな。」

「一度死にかけたからな。」

「このゾンビ野郎が。」

「ゾンビ言うな。リアルゾンビみたいだったくせに。」

 二人は笑った。

「ハクトはどうする?」

「俺は・・・・」

 ハクトは少し考え込んでいた。

「フィーネの奴らで軍をひっくり返すか?」

 コウヤは笑顔で言った。

「コウヤ、モーガンとリリーを連れてディアの元へ行ってくれ。」

 ハクトは真剣な表情だった。

「え?」

「ユイを助けるためにはディアの協力が必要だ。地連の軍は頼りにならない。」

「おいおい、待てよ。お前はどうするんだ。それこそ軍を抜けろよ。」

 ハクトは笑った。

「ユイの居所に心当たりがある。そこに乗り込む。」

「じゃあ、俺も・・・」

「お前はだめだ。」

 ハクトは真剣な表情だった。

「なんでだよ。お前に何かあるとディアが」

「それは知っている。けど、これの適任は俺だ。」

「ハクト、お前何考えている?」

 ハクトが何を言っているのかコウヤは理解できなかった。

「ロッド中佐の任務、中佐の力なら難なくこなせるものだった。」

「でも、戦力差がすごいって」

「あれは、そこだけに目を向けさせられてただけだ。あの任務のミソは、ロッド中佐以外の地連の小隊にあった。」

 ハクトは声を潜めた。

「まさか、地連とゼウス共和国が共謀して・・・・」

「あの人を知る者ならそう考えるだろう。ハンプス少佐が言っていたが、宇宙に上がる前のフィーネの任務。無謀ととれるが、もしかして俺の生け捕りが目的の消耗戦なのでは・・・と」

「それこそお前のやること無謀だろ。」

 コウヤは声を荒げた。

「俺は殺されない。利用価値があるからだ。地連の一部がゼウス共和国と通じている。それを利用する。」

「無謀だ。やめろ。俺が行く。」

 ハクトはコウヤの肩を掴んだ。

「お前はだめだ。お前にはできない。」

 コウヤはハクトがあまりにきっぱりと断言するのが少し悔しかった。

「お前こそ、ディアに言ったのか?」

「言えるはずないだろ。」

 ハクトは決心したような顔をしていた。

「ハクト、なんでそこまでして」

「約束しただろ?また、6人集まろうって」

 ハクトは子供のような表情をしていた。

「だからって、もっと他の作戦が」

 ハクトは首をふった。

「コウ・・・俺らは俺らしかいないんだ。」












「コウ・・・・死んじゃいやだ。」

 無機質な研究施設でユイの涙声が響いた。

 月のドーム「天」から離れたところに研究用ドームはあった。

 月の地上にあり、かなり大規模だ。

「不思議ね・・・・」

 ラッシュ博士は目の前のモニターを眺めていた。

「どうしました?」

 マックスはラッシュ博士の目線の先を見た。

「あの子・・・・大好きなコウヤ君のこと考えている方がシステムと相性がいいのよ。」

「え?」

「あくまで仮説よ。だって、コウヤ君の名前を呟いているときは必ずいい数値なの。」

 ラッシュ博士は考え込んでいた。

「でも、呟いていない時でもいい数字のときありますよね。」

「だから仮説よ。」

 ラッシュ博士は何かを考え込んでいた。

「ドールプログラムの目的・・・って」

 ラッシュ博士の呟きに

「今は完全に軍事利用ですけどね。」

 マックスは諦めたように言った。

「マーズ博士。ドールプログラムを駆使すれば何ができるかあなたはわかっているの?」

 ラッシュ博士は両手を広げた。

「洗脳ですね。どのような可能性があるかは分からないです。博士の方がどこまでの力があるかは分かっていると思います。」

 マックスはラッシュ博士を見て言った。

 ラッシュ博士をそれを聞き、嬉しそうに頷いた。

「ドールプログラムで神経接続をするでしょ?あれ、媒体なしでできるようにしたらどうなると思う?」

「難しい話ですね。媒体なしでは無理だと思いますが、できるとしたら、いろんなものが変わりますね。兵器にしろ、移動手段にしろ。」

 マックスは首を傾げていた。

「レイラちゃんを見てわかったと思うけど、逆接続っていうのがあったでしょ?プログラムから人に介入するもの・・・それが神経接続なしでできたら?」

「それこそ夢物語・・・いえ、危険ですね。」

 マックスは顔を青くした。

「あなただって、ドールプログラムが洗脳作用を持っている可能性は考えているでしょ?本来の目的はその通り、そっちよ。」

 ラッシュ博士は笑った。

「では、今の利用は・・・?」

「これは洗脳用のプログラムです。何ていうと、誰も使わないし、広まらない。広めるために便利な機能をつけたのよ。天才たちがね。」

 ラッシュ博士は得意げに笑った。

「なら、もし先ほどラッシュ博士の言ったことが目的なら・・・ドールプログラムの目的って・・・」

 ラッシュ博士はマックスの様子に嬉しそうに頷いた。

「人類お人形さん計画の一端よ。」









「ヘッセ少尉。お戻りでしたか。」

「ああ。どうした?」

 レイラとシンタロウは滞在先にもどると一般人に模した兵士に迎えられた。

「実は、研究用ドームに少尉が来るように・・・と」

「研究用ドーム?」

 レイラは初耳なのか眉を顰めた。

「はい、新たに月に作られたわが軍のドームです。」

「そんなもの、地連の許可なしに作れるのか?」

「大丈夫ですよ。」

 レイラはまだ兵士を睨んでいる。

 シンタロウも警戒した。

 すると兵士の後ろから貫禄のある老人があらわれた。

「警戒するな。ヘッセ少尉。」

 その人物を確認したらレイラは姿勢を正した。

 おそらく地位の高い人物なのだろう。

「これは、准将どの。」レイラは敬礼をした。

「研究用ドームは私が地連の有志と作ったものなのだ。ゼウス共和国は地連と争っているが、研究や技術は人類のために必要なものという認識は共通だ。」

 シンタロウもレイラに倣い敬礼をしたが

 どうもこの准将は気に入らない。

 《この人・・・見たことある気がするけど・・・・》

 シンタロウは准将を見たことがあった気がした。



「ヘッセ少尉。そこの青年は何者だ?軍で見たことないが、君が最近共に行動しているらしいが・・・・」

 准将はシンタロウの方を見た。シンタロウは反射的に睨みつけてしまった。

「准将。私は父上を失ってさみしいのはご存知でしょう。私だって一人寝はさみしいのですよ。」

 シンタロウは絶句した。

 《何言ってんだこいつ・・・》

 だが、下手なことより説得力があった。

「ははは、私情を軍に持ち込むとは。だが、いい傾向だと思うぞ。」

 准将は陽気に笑いレイラの肩に手を置いた。

「クロス君のこと・・・少しでも和らいでくれれば」

「ご心配、身に余ります。」

「さて、君の名は何という?」

 准将はシンタロウを探る様に見た。

「彼はロウといいます。ロウ・タンシ軍曹です。」

「ロウ?珍しい名前だな。」

 レイラは准将に頭を下げた。

「実は、彼は私に仲間を殺された地連軍の兵士でした。」

「な!!」

 シンタロウと准将と兵士は驚いた。

「ただ、私の罪滅ぼしでございます。彼には、いつでも寝首をかいてもいいよう言っております。」

「きみ・・・恋人じゃ・・・」

「男女ですから。傷の舐め合いはしますよ。」

「・・・・まじで」

 兵士はシンタロウをじろじろ見た。羨望のまなざしがあった。

「このことは他人には内緒にしてください。准将だから言うのです。」

 レイラは准将に改めて頭を下げた。

 その言葉に嘘はなかった。ように聞こえた。

「レイラ君が言うなら・・・・」

 どうやらプライベートの付き合いもあったもののようだ。

「ありがとうございます。」

 准将はシンタロウに近寄った。

「彼女を頼む。だが、寝首をかくのは勘弁してくれ。」

 笑顔で言うと准将は上官の顔に戻った。

「では、ヘッセ少尉。研究所の件、明日にでも向かってくれ。」

 准将はそう言うとレイラは姿勢を正し敬礼した。

 シンタロウもそれに倣った。







「おい・・・さっきの」

「嘘には真実を交える。大きい事実があればほかの嘘など軽いものだ。」

 レイラは照れくさくないのか余裕の表情だった。

「お前は平気かもしれないが、俺は敵軍認定されたぞ。」

 レイラは余裕の表情のままだった。

「お前がいついなくなっても心配されないというわけだ。」

「あと恋人って」

「安心しろ。あれは嘘だが、私の情緒が不安定なのは有名だ。一番説得力のある嘘だ。」

 照れも焦りもレイラは全く見せなかった。

「お前に照れはないのか?」

「私はクロス一筋だ。なびくはずない。それにこんな嘘に照れる必要はない。」

「お前と俺は違うってのに・・・・」

 シンタロウは自分だけ照れているのが馬鹿らしくなってきた。

「お前にもいい人が現れるさ。保証はしないが、そんな気がする。」

「全然慰められてる気がしない。」










「ユッタ・・・私、あなたが羨ましかった。クロスさんの傍にいつもいて、そして、今もすごく羨ましい。」

 ユッタは何も答えてくれなかった。当然だ。

「また会いたいって思ってたけど、本心で言うとクロスさんの方に会いたかった。私って屑でしょ?」

 ユッタは何も答えてくれない。でも、きっと笑っているはず。

「そういえば、私の上官あなたのこと好きだったって聞いたけど?あの人の昔ってどんな人だったの?」

 ユッタの墓石は黒く光り、話しかけるイジーの姿を映していた。

「あの人、死んじゃった。」

 墓地に生ぬるい風が吹いてくる。

「この前までクロスさんクロスさんだったのに、今は中佐、中佐って私って駄目だね。」

『そんなことないよ。イジーは変わらないよ。』

「ユッタ?」

 幻聴だったのだろうか、人の声が聞こえた気がした。きっと記憶の中にある彼女を自分が勝手に喋らせているのだろう。

 綺麗なフルートのように澄んだ声、弾むような軽やかな、消えそうで儚い。

「私、あなたと大人になりたかった。」

 イジーはクロスやロッドのためじゃなくユッタのために泣いた。

「なんで、私が生きているんだろう。」

 ユッタは何も答えてくれなかった。当然だ。









 レイラはシンタロウを見て考え付いたように頷いた。

「どうした?」

「お前このドームではなるべく顔を隠した方がいいだろう。」

 レイラはシンタロウの顔を指差して言った。

「それは思った。もっと早く取り組むべきだったな。」

 シンタロウは前髪を触りながら言った。

 二人が滞在する部屋は別々と決まっていたが、レイラとシンタロウは同じ部屋に案内された。

「お前が変なこと言うからこんな部屋に通された。」

 シンタロウは悪意のあるとしか思えない部屋のチョイスにすねていた。

「私が床で寝よう。戦艦のなかの寝床など床と大差ない。」

「それって一般的に考えてよくないだろ。俺が床で寝る。」

 レイラは驚いた表情をした。

「何言っている。お前より私の方がドール使いとして優れている。」

「強さの問題かよ。」

「そういうものだろ?それに、私は下手な男よりずっと強い。」

 レイラはなぜか誇らしげだった。

「あーめんどくさい。俺が床だからな!!これは譲らない。」

「わかった。では本題に戻ろう。お前変装しろ。」

 レイラはあっさりと譲るとベッドの上にドカッと座った。

「簡単に言うな。どうする?」

「髪型変えて眼鏡でもかければいいだろう。」

 そういうとレイラは部屋を見渡し、自分のカバンから整髪料と、大きい黒縁眼鏡を取り出した。

「サングラスとかの方がかっこよかったのに・・・」

「それはだめだ。」

 レイラはシンタロウの言葉をすぐに切った。

「そうむきになるなよ。」

 シンタロウはレイラの剣幕に驚いていた。すぐに整髪料で髪型を変え眼鏡をかけた。

「どうだ?」

 ぺとぺとに付けて七三分けにし、眼鏡をかけると優等生みたいだった。

「整髪料くさい」

「ふざけるな。」

「悪い悪い。だが、誰かわからなくなるからいいな。」

「どうも。でもどうしてお前サングラス嫌なんだ?」

 シンタロウは眼鏡を取りレイラの方を見た。

「・・・黒いドールの男がサングラスだった。ただそれだけだ。」

 レイラは開き直ったようにあっけらかんとしていた。

「レスリーだっけ?対峙したことあるんだよな。どんな奴だった?」

「・・・・」

 レイラは黙っていた。

「あ・・・悪い。辛いこと思い出させるようで」

「いや、思い出していたところだ。」

「あ、そう。」

「ドール使いとしては化け物だな。私はこの軍のエースとかトップと言われているが、歯が立たなかった。あれほど強いドール使いは会ったことがなかった。」

「そうなのか。補佐の人と話していたけど肉弾戦で負けたって」

 レイラは自嘲的に笑った。

「よく覚えていたな。そうだ。あの男は父上のボディーガード含め大量の軍人に単身で挑んだ。忍び込むような形と混乱もあったからかもしれないが、ほぼ無傷だ。あと、肉弾戦は私も腕に覚えがある。それでも気絶されられた。歯が立たなかった。」

 シンタロウはレイラの話に聞き入っていた。

「レイラ、それ人間か?」

「さあな。化け物なのはわかっている。」

「・・・・外見はどうだった?」

「外見?そうだな。サングラスをしていて口元と体つきしかわからなかったが、整っていたな。細身で長身だな。あと若い。いい家の男のような雰囲気があった。」

「俺とは違うな。」

「確かに。」

 レイラは納得した。

「即答するなよ。」

 シンタロウは少しトイレに行きたくなった。

 トイレついでにいろいろ探ろうとも考えた。

「ちょっとトイレ行ってくる。」

「わかった。ついでにこの建物の見取り図持ってきてくれ。無理なら記憶してくれ。」

「無理ならの方が俺には無理そうだ。」

 シンタロウはそう捨て台詞のように言うと部屋を出て行った。



「あの准将・・・どうして見たことあるって・・・」

 シンタロウは会ったこともない人物を見たことある気がしていた。

 《これってまさか俺の中の隠れた記憶とかか?》

「ってなわけないよな。」

 《コウヤじゃあるまいし・・・・》

 シンタロウはそこでまたコウヤのことを考えていた。

 レイラと一緒にいるとひっきりなしに話すうえに考えることも多い。だが、一人になると浮上してくる。

 《アリア・・・きっとすごくショックだっただろうな》

 シンタロウは一人の親友のことを心配した。

 トイレの場所を探していると准将の姿が見えた。とっさに隠れてしまった。とくに悪いことはしていないが

 准将はどうやら人と会っているようであった。

 シンタロウは悪いと分かりながらも覗いた。もはや覗き見が性分になりつつあった。



 准将の他に二人いた。片方は私服の様だが、もう片方は白衣だった。

「もうすぐ合流できそうだ。そっちは大丈夫か?」

 准将は気を遣うように二人に言った。

「心配はいらないって。いい感じだから、ラッシュ博士に手土産持っていけそう。ねえ。」

「はい。・・・本当はハヤセ君を連れて行きたかったのですが・・・」

 白衣のものが寂しそうに言った。

「仕方ないだろう。君は何度も診ていたようだから余計寂しいだろう。」

 准将は白衣のものを元気づけるように肩を叩いた。

 《ハヤセ・・・》

 シンタロウは警戒した。

 何故なら、声に聞き覚えがあったからだ。



「ニシハラ大尉は軍から抜けそうだと聞いたが・・・」

「そんなことさせないためにいろんな餌を用意しているって。あの砲撃の的確な指示と勘の鋭さは最高のサンプルになるって・・・・ラッシュ博士の受け売りだけど」

 シンタロウはその話を聞いて驚いた。

 こんなことしている場合じゃない。ハクトが危ない。

 サンプルって、しかもこれってゼウス共和国に引き渡す話じゃないのか。

「悪いな。ここまで来てもらって。」

 准将は申し訳なさそうに言った。

「ここだったら、ゼウス軍ばっかりだから安心でしょ?」

 シンタロウは声の主を思い出した。

 《そんな・・・・そんな》

 物陰に隠れ、その可能性を否定した。だが、頭の中では納得し始めていた。

「じゃあ、またね。」

「ああ。今度は合流して堂々と会おう。」

 准将はその二人と別れの挨拶をしていた。

 シンタロウは自分の中の疑惑を否定するために出ていく者の顔を確認することにした。

 立ち上がり、何事もなかったかのようにトイレを探すふりをした。

 出ていく人物たちはシンタロウの存在を確認したようだが、彼の顔の判別はしていないようだった。

 対するシンタロウは確認してしまった。



 何事もないようにトイレに到着し一人崩れ落ちた。

「あの人が・・・・」

 シンタロウはコウヤの死を悲しんでいる余裕などなかった。

「もう、どこも安全じゃない。ハクトに知らせないと・・・・」

 だが知らせようとしても、もうどこに目があるのかわからない。誰に知らせればいいのかわからなかった。

 ふと、墓地にいたイジーという軍人を思い出した。

 彼女は「希望」の関係者だ。
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