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六本の糸~「天」編~
38.撃場
しおりを挟むコウヤは周りを気にしながらロッド家まで来ていた。
「・・・・執事さん」
コウヤは屋敷をノックした。
だが、応答はなかった。
窓を見ても電気が消えていた。
「・・・まさか・・」
心配になり屋敷の扉を開いた。
人の気配は無く、暗い玄関に差す光が飾られている肖像画を照らし少し怖い。
「執事さん!!」
コウヤは執事を呼びながら屋敷に走り込んだ。
部屋が多く、もしかしたら何かが潜んでいるかもしれない。
自分は丸腰だが、心配でそれを気にするどころではなかった。
幾つもの部屋を見回り、その中で人がいた痕跡のように物が広がっている部屋があった。
一番立派な部屋であり、さっきまで人がいたように本が散らかっており、書きかけのメモの字がその人物の教養を彷彿させた。
「・・・あれ?」
人がいたように思ったが、メモのインクは変色するほど乾いている。
掃除はしているようだが、ある程度埃もたまっていた。
「ここの部屋、時間が止まっているみたいだ。」
コウヤの思った通り、この部屋はこのままを維持されていた。
気になるが、ここに執事はいないと結論づけて部屋を出ようとした。
急いでいるせいか、足元の本を引っかけて広げてしまった。
「あ!!すみません!!」
コウヤは慌てて落ちた本を元に戻そうと拾った。
「あれ?」
コウヤが広げた本はどうやら最近触られた形跡がある。念入りに触った後を磨いた痕跡があった。
「執事さんか?」
でも、この部屋になんで?
辺りの気配を気にしながらも本を開くとそれはアルバムだった。
沢山の少年が映っていた。
メインで映っている少年がこの屋敷の子供なのだろうと思い、無邪気な笑顔に驚いた。
茶色の髪をした少年と栗色の髪をしたひと際顔立ちの整った少年に、それの傍に付き添っているような緑の瞳が特徴的な少年。それから兄弟だろうか、似たような顔をした二人の少年がいた。
そして、その兄弟の兄の方であろうか、彼の横には口元を歪めたように笑っている異様な雰囲気の少年がいた。
幼いころの写真であり、どのような機会に取ったのかは分からないが、この写真の少年たちは時間を共に過ごしたことはわかった。
「あれ?この栗色の髪の子供・・・」
コウヤは写真の中の1人を注視した時
「それは、亡くなったレイ・ディ・ロッドの幼い時の写真だ。」
背後から声がした。
飛び上がりそうになり振り向くとそこにいたのは、かつて自分に説教をした作業着の少年だった。
「お前・・・」
少年は部屋の様子を見るとため息をついた。
「この部屋はあの時のままにやっぱりされているのだな・・・」
コウヤからアルバムを取り、元の場所に置いた。
その様子からこの部屋が亡くなったレスリーの父、レイ・ディ・ロッドの部屋だと分かった。
物を動かさないように配慮されており、部屋にだけでも存在を留めておきたいという思いが伝わった。
「安心しろ。お前の探している執事は身を隠しただけだ。」
少年はコウヤの方を見て言った。
近くで見ると自分より小柄なことに気付いた。
「まさか生きているとはな。」
溜息をついたが、落胆ではなく感心したようだった。
「お前は・・・」
「来い。ネイトラルの戦艦で行こうとするからダメなんだ。」
作業着の少年はどうやらコウヤの味方のようだ。
少年の後を追って、コウヤは屋敷の裏口から出た。
少年は業務用のような車に乗り、コウヤに助手席に乗る様に促した。
コウヤが乗るとすぐに車を走らせ、急いでいることが分かった。
「お前は何者だ?」
コウヤは目の前の少年が誰だかわからなかった。
「・・・・さあな。ただ、言えるのは俺はシンタロウの先生だ。」
少年は口に笑みを浮かべていた。
「シンタロウ・・・?シンタロウは今どこにいる?」
コウヤは少年につかみ掛かろうとした。
「彼は、ニシハラ大尉と同様に研究用ドームに向かった。彼は内側から手引きしてくれる。ニシハラ大尉とユイ・カワカミ、レイラ・ヘッセの救出のな。」
「レイラが?レイラも研究用ドームに?」
「今は静かに俺の後をついてこい。じき、すべてが逆転する。」
「逆転?」
「地連にはたくさんの中佐の信者がいた。中佐がどんな罠に落ちたのか知ったらどうなる?」
少年は挑むようにコウヤを見た。
「・・・・やっぱり罠だったんだな。」
「もともとゼウス共和国を憎んでいる連中が多い。特に若いものはな。」
「ロッド中佐の力は畏れの象徴であったのか。それをどうやって知らせる!?」
「戦艦フィーネは晒されて落とされる。悪の象徴としてな。」
コウヤは少年の言葉に寒気がした。
「そんな・・・」
「そうなるように仕向けた。この思想を植え付けるためにハンプス少佐に協力してもらった。」
「どうすれば!?」
コウヤは叫んだ。
「お前とディア・アスールは黙ってテレビを見ていればいい。」
「・・・・テレビってフィーネが落とされるところをか?」
「時期にチャンスがくる。軍の若いやつが多い船には目をつけている。そして、そいつらが狂信的なロッド中佐の信者というのもな。」
「おまえは・・・」
「いいからお前はあそこにいるディア・アスールとテレビをみていろ。」
少年は車のトランクを指した。
「え?」
「彼女は目立つ。そこに入ってもらっている。」
少年はあっけらかんと言うと運転に集中し始めた。
港に着くと少年は作業用の車両ですと言い、何やら許可証を見せて軍用ではなく輸送関連の積み荷を整理するところに入った。
車から降りると少年はトランクを開けた。
彼の言った通り、中にはディアがいた。何やら不満そうな顔をしていた気がするが、文句を言わないため触れないようにした。
「じゃあ、後は二人で頑張れ。」
少年は笑みを浮かべるとその場から走り去ろうとした。
「待って!!おい!!」
「後でな。」
コウヤが止める声に対して少年はそれだけ叫んで去った。
不満そうな顔をしていたが、無事着いたことと逆転の兆しが見えたのだろうか、ディアは落ち着いていた。
「やあ、コウヤ。どうやらキース・ハンプスは味方だったようだ。」
ディアは笑っていた。だが、その目には強い怒りがあった。
「ディア?怒っているのか?」
「気にするな。お前やあの少年にじゃない。」
ディアはそう言うと頼もしく笑った。
「では、港の軍艦近くに車を拝借するか。」
ディアはそう言うとぐいぐいと進んで行った。未だに彼女は地連軍の制服の為、あまり違和感は無かった。
どちらかというとコウヤの方が目立ったので、ディアが仕方なさそうにこれを手に駆けろと何やら布を渡してきた。
「これは?」
「これを両手首の上に駆けると補導されているように見える。」
どうやらコウヤは軍人のディアに補導されている少年の設定で動けと言われているようだった。
「え?」
「それだと何も気にされずに車に乗れる。」
自信満々のディアの様子を見てコウヤは仕方なく指示に従った。
幾つかの軍用車が止まっている場所と戦艦が見える位置に着くとディアは選別するように車を眺め始めた。
「・・・これだな。不用心に鍵が開いているし、なんとテレビが見れるぞ。」
ディアはコウヤを見てわざとらしく嬉しそうな顔をした。
「わかった。これに乗ればいいんだろ。」
「ああ。さっきの少年が言っていた若い者が多い戦艦は丁度目の前にある奴だ。タイミングが整ったら乗り込む。」
変わらず自信満々なディアを見てコウヤは不安に思ったが、頼もしくも感じたので何も言わなかった。
同じ月のドームに行くには船でなく線路を使う。
やはり、宙より安定して進めるのが大きい。
ハクトは研究用ドームに向かう電車の中だった。
かなり豪勢な部屋に男と二人向かい合っていた。
「ニシハラ大尉。あなたはどうしてこの要望に応えたのか?」
ゼウス共和国の軍服を着た男はハクトに厭な聞き方をした。
「自分は・・・軍人です。」
《この男が黒幕か・・・?》
ハクトは思わず殴りたい衝動にかられた。だが、自分には手錠がされていた。
「こんな扱いされると、まるで犯罪者の気分ですよ。」
ハクトは目の前の男を睨んだ。
「ははは、そうだ。君に見せたいものがあるんだ。」
男は愉快そうに笑い更に厭なしゃべり方をした。
「見せたいもの?」
「戦艦フィーネの最期だ。」
男はそれこそ楽しそうであった。
「フィーネの・・・・」
「輸送船に乗っているときは警戒したが、どうやらハンプス少佐はディア・アスールと一緒に行けなかったようだ。そして、ネイトラルはこれから亡国になる。」
「・・・・ディアが・・・?」
ハクトはディアの脱走に失敗したと知り愕然とした。
いや、おそらくディアの顔が割れているのをキースは分かっていた。
だから、時間稼ぎで・・
《じゃあ、ディアはまだ「天」にいる・・・》
「ハンプス少佐は優れた軍人だった。非常に残念だ。」
男のその言い方にハクトは腹が立った。
「その言い方だとよく知っているようですね。あなたのスパイにでも聞きましたか?」
ハクトは男を睨んだ。
「ほう・・・私がスパイと・・・・?」
「・・・・あなたの顔を見たことがあります。あなた、元地連の軍属ですよね。」
男は黙った。
「「天」の襲撃を握りつぶし、ゼウス共和国に亡命した。なぜか知らないですがそこで准将になるなんて、よっぽどの手土産を差し出したんですね。レイラですか?」
ハクトの言葉に男は不敵に笑った。
「なんだい?君の楽しい推理か?だが、君がそれを知ってるからといって私にどう影響する?」
「別に私があなたを軽蔑するだけですよ。でも、ゼウス共和国を乗っ取ってしまうのは驚きでした。」
「君の話は面白いな。」
「そろそろ本名でも明かしたらどうですか?襲撃で死んだはずのタナ・リード元地連少将どの」
ハクトは男を睨んだ。男はその時初めて驚いた顔をした。
「あなた、ソフィの父親ですね。」
「・・・・ほう」
男、もといリード氏はハクトを見て感心していた。
「いつ分かったんですか?」
部屋にソフィが入ってきた。
「お前も一緒だったか。」
ハクトの言葉にソフィはゆっくりと頷いた。そして、彼を見て微笑んだ。
「ニシハラ大尉はいい上司でした。いつも強い、ドールも使えて、優しくて」
「娘に好かれている君に嫉妬してしまいそうだな。」
タナ・リード元少将は笑っていた。
「お前は悲しくないのか?フィーネを潰すことに。」
ハクトは訴えるようにソフィに言ったが彼女はゆっくりと頷いて笑っていた。
「フィーネは楽しかった。みんな大好きだった。・・・・でもそれは私の大切な思い出。人って、出会うと必ず別れるものよ。」
ソフィは懐かしむように目を細めた。
「ニシハラ大尉は素晴らしい上司だった。」
ソフィは特別なことのように呟いてハクトをうっとりと見た。
「俺が何をした?」
「なんにも。ただ、あなたは私の中で可愛い艦長さんであればよかったの。」
「ソフィ。そんなにこの男を好いていたのか?」
タナ・リードは罪悪感を覚えているように申し訳なさそうにしていた。
「大丈夫よ。父上。だって彼はいつまでも可愛い艦長さんだから。」
《・・・・やばいな。ソフィはかなりいかれている。》
ハクトはソフィの異常性に初めて気づいた。
「あ・・・・そろそろフィーネが沈むんじゃないかしら?」
ソフィはかつて自分の船だったものが沈められるのに楽しそうに言った。
「フィーネを沈めてどうするのですか?」
「これからはネイトラルをひたすら叩く。もちろん、君の愛しいディア君も、こそこそしているクロス君も捕まえてからな。」
「クロス?・・・・あいつはどこにいる?」
「どうやらロッド中佐の周りをウロチョロしていた少年がそう名乗っていた。」
「・・・・クロスが生きて・・・」
親友の名前を聞いて嬉しく思ったが、そんなことに浸れない状況のため、直ぐに目の前の親子を睨んだ。
「悪の象徴としてフィーネは沈み、ネイトラルは亡国となる。それからは、地連とゼウス共和国の共存だ。」
「お芝居の戦争をしながらですか?」
ハクトは辛らつに言った。
「何のことだ?」
タナ・リードは愉快そうだった。
「おっと、これから全宇宙で放送予定なのだよ。悪の象徴フィーネの撃墜。そして、新たな敵。ネイトラル打倒への・・・」
「・・・パフォーマンス重視ですか?ヘッセ総統のようなやり方ですね。」
ハクトはタナ・リードを睨んで言った。
「彼とは古い馴染みでな・・・昔からの知り合いなのだよ。別に彼のようなやり方をしても何も不自然ではない。」
タナ・リードは両手を広げて笑った。
「あなたがテレビに出るわけじゃないんですね。」
ハクトはタナ・リードに冷たい視線を向けた。
「私の顔を知っている者がいるかもしれないからね。まあ、兄と違い、あの臆病者は目立つのが好きな役者だからこういうのにはもってこいなんだ。」
どうやら彼はお飾りのトップに対してとくに何も感情は抱いていないようだった。
「地連のトップはお飾りか・・・」
ハクトは臆病な男の姿を思い浮かべていた。
「ハンプス少佐!!」
モーガンは息を切らして操舵室に駆け込んできた。
「どうした?モーガン」
「地連とゼウス共和国のドールが大量に・・・・フィーネに・・・」
「そうだろうな。テレビ中継でフィーネが沈むところを放送するみたいだ。」
「え?」
リリーは顔を真っ青にした。
「さて、フィーネにいるテイリーさんと対面しますか。」
キースは余裕そうに言った。
「モーガン・・・・」
リリーは怯えていた。
「大丈夫だ。それに、ここまで来たんだ。俺らはフィーネに乗る。」
モーガンは覚悟をしたようだった。
リリーはそれを聞くと強い表情を持って頷いた。
コウヤとディアは変わらず車の中で待機していた。そして目の前の軍艦を観察していた。作業着の少年が若い軍人のしかも、ロッド中佐の信者が多いと言っていた戦艦だが、それがどう生きるのかコウヤにはわからなかった。
「ロッド中佐を堂々と謀殺できなかったのって、信者が多かったからですか?」
「そのようだな。ゼウス共和国から見たら憎しみの対象だが、地連では何人もの恩人だ。」
「あ・・・はじまりました。」
テレビは急に軍服を着た一人の男を映した。
「・・・・あの臆病そうな軍人が化けるのだな。」
ディアは冷たく笑った。
テレビの向こうの軍人は何やら病み上がりのような姿をしている。
彼の名はライアン・ウィンクラー、地連の現総統だ。
『地上主権主義連合国の皆の者。私は軍の総統である。このけがは本日の会談でネイトラルの代表によってつけられたものだ。』
「無傷のくせに」
ディアは笑った。
『聞いてほしい。軍事力を持ったネイトラルの危険性を。彼らは、我々のもつドールプログラムをいくつも中立国という立場を利用しかっ攫っていった。それにより、戦争は白熱することになる。われわれはゼウス共和国と争わされていたのだ。事実、ネイトラルはわが軍の戦艦フィーネを強奪しこれから混乱を起こそうとしている。』
ウィンクラー総統は堂々と強く主張した。
「彼は役者のようだな。言っていることはすべて真逆だ。」
「俺もわかっている。ただ、ほかのみんながどう思うかは分からない。」
ディアは頷いたが笑った。
「保険はかけてある。」
「保険?」
『今見ていただくのは、「天」の近くを飛ぶフィーネだ。このフィーネはかつてわが軍のものだった。だが、ネイトラルに奪われた。稀代の悪女だ。ディア・アスールは。』
「名指しされてしまった。」
ディアは愉快そうに笑った。
画面は切り替わりテレビは戦艦フィーネを映した。
「近くに輸送船が浮いている・・・キースさんたちはフィーネに乗ったみたいだ。」
「そうだな。」
『フィーネはこれから、わが軍とゼウス共和国の共同戦線で沈める。』
軍人は力強く拳を握り、迫力のある顔をした。
「これが狙いか・・・」
『われわれは争わされていただけだ!!憎むべきは争いを激化させる。中立国を騙ったネイトラル!!』
「冷静になってみるとこの男の言っていることは意味不明だ。」
ディアは冷めた表情をしていた。
「どうするディア。このままだと。」
「保険はある。」
画面が切り替わった。
『な・・・なんだ!!』
さっきまで話していた総統の慌てる声が聞こえた。
画面は変わりフィーネの内部のようだ。
『こんにちは。先ほど中立国を騙ったと言われたネイトラルの現総裁、テイリー・ベリです。』
「テイリーさん?彼が現総裁・・・?」
コウヤはディアの方を見た。
「いいから見ろ。」
ディアはコウヤの視線を顔ごとテレビに戻した。
『先ほどの地上主権主義連合国の主張にはいくつか誤りがあるので訂正させていただきます。まず、ドールプログラムはもともと我々ネイトラルが宇宙活動用に作ったものだったのです。証拠に我々は他国にないプログラムの発明経緯をしっています。それを奪われた経緯は「希望」の・・・』
画面が切り替わった。
『声を聴いてはいけません。彼らは詐欺師です。フィーネは沈みます。今すぐに!!』
総統は激昂しているのか声を荒げた。
「取り乱しているのがわかる。これで士気はある程度下がるな。」
「ディア。保険ってテイリーさんか?」
「もう少しで出てくる。」
『こちらをご覧ください。』
テイリーの声が響き画面が切り替わった。
映し出したのはフィーネで撮影した映像のようだった。
映ったのは黒いドール
『これは、かつて地連の最強と言われた黒いドールです。彼はこのゼウス共和国の大群を見てください。こんな小隊で殲滅を言い渡されました。』
黒いドールの後ろには小隊レベルの数のドールがいた。
「中佐はこんな任務に・・・?」
コウヤは驚いた。どう考えても無謀。
『な・・・・』
ウィンクラー総統の音声だけ響いた。
『こんな任務に兵を向かわせる国は信頼できますか?地連の軍人の皆さん・・・・どう思います?』
『こ・・・これは作りものだ!!』
ウィンクラー総統のほうに画面が切り替わった。
『では、この後をご覧ください。』
『やめろ・・・・』
総統の音声だけ響いた。
画面は黒いドールの映像に替わり彼らの戦闘シーンを映していた。
『強いですよね。この黒いドール・・・・』
テイリーは感激するように呟いた。
そこで急に黒いドールが背後から味方に攻撃されたシーンになった。
後ろの小隊が黒いドールを襲う。敵だったゼウス共和国の軍も襲う。協力しているように見えた。
『これが、どういうことだかわかりますか?命を懸けて軍を守ってきた者にたいする・・・』
画面は切り替わりテイリーの声は聞こえなくなった。
『今のは加工された画像です。こんな映像に騙されないでください。』
ウィンクラー総統の必死な声が目立った。
「・・・・さあ、どう出る・・・」
ディアとコウヤは見守るようにテレビを見た。
「この映像でロッド中佐の信者を取り込むんだな。」
コウヤは画面から視線を外し、協力を求める予定の戦艦を見た。
この放送は民間人ではなく、軍人に訴えかけるものだったようだ。
「コウヤ、まだだ。」
ディアはコウヤをたしなめるように言った。
テレビの映像は再び戦艦フィーネを映した。
『戦艦フィーネは沈みます。船に乗るネイトラルの総裁とともに』
フィーネには地連とゼウス共和国のドールが大量に迫っていた。
先ほどの映像のことがあり、相当慌てているようだ。
「ディア!!こいつは何を言ってもフィーネを沈めるつもりだ!!」
「大丈夫だ。総統が乗っている手前砲撃でドカンは無いはずだ。」
ディアは断言するがコウヤはそれどころではない。
「それでもこの大量のドールはキースさんでは・・」
「・・・そうみたいだな。」
「早くしないとキースさんたちが」
ディアは変わらずコウヤの顔を画面に向けさせていた。
用意された舞台に登場するようにフィーネから一つのドールが出てきた。
そのドールは、コウヤが乗っていた青と黒のドールだった。
『そのドールはわが船のものだったのではないか?なんと卑怯な!!』
ウィンクラー総統の芝居がかった声が聞こえた。
「無茶だ・・・・キースさんでもこの数は無理だ。」
走り出そうとした。
「コウ。まだだ。」
「でも!!」
コウヤはディアに抑えられた。
『全軍、敵を殲滅せよ!!』
ドールの軍勢はフィーネに向かっていった。
そこで音声が切り替わった。
『残念だ。』
落胆した声が響いた。
聞き覚えのある声。体震える。恐怖を感じる声。
コウヤは久しぶりに訊く声に画面を二度見した。
青と黒のドールは軍勢に向かっていった。
速い。
すれ違うドールの手足だけ切り戦闘不能にしていった。
「・・・強い・・・」
コウヤはドールの動きに見惚れてしまった。
かつてこんなことがあった気がした。
混乱する地連とゼウス共和国のドールたち
青と黒のドールは一体の敵の手足をバラバラにした。その速さと言ったらすれ違う一瞬のことで見えないものもいるのかもしれないほどだった。
1体のドールが青と黒のドールに向かってきた。来る勢いを利用し、足をもいでそのまま大群のものに投げる。
「まさか・・・」
コウヤはもうフィーネの心配はしていなかった。
『なんだ・・・・と』
テレビの中ではウィンクラー総統の声が響いた。
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