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泥の中
仲間
しおりを挟む前話とは違う時系列の話です。
六本の糸よりも昔の話で計四話(登場人物含めず)になります。
「知っているか?ハンプス。蓮の花って、泥の中から綺麗な花を咲かせるらしい。」
マツ中尉は軍人にしては細い指を立てて笑った。
「色んな昔ばなしでも出てくる植物ですよね。」
「昔な、地球で見たことあったんだ。もうそんな場所は無いけど、ドームの外で見たんだ。」
昔を懐かしむマツ中尉は見たことのない真っすぐで綺麗な笑顔だった。なんの企みもない、それこそ、この泥というべきか、沼のような人から生まれる笑顔ではなかった。
「マツ中尉幾つですか?若いですよね。」
「俺は昔な、地球でもドームの外を探検するという物好きの1人だったんだ。」
相変わらず綺麗な笑顔だった。
「物好きか・・・」
「時代は変わってしまったな。もう地球はやすやすと外を回れるところでもない。それもこれも全て戦争のせいだろう。」
マツ中尉は怒っているのに、怒っていない顔をしていた。
「なんで軍に入ったんですか?」
昔のことを懐かしむ彼に、どうしても軍が似合わなかった。まして、彼は細身でどう考えても骨格的に戦闘向きじゃない。
ドールという兵器が出てきた今も肉弾戦は重視される。
「見たかったんだ。」
「見たかった?」
「蓮の花を・・・俺は、見たかったんだ。」
マツ中尉は羨ましそうに俺を見た。
地上主権主義連合国は火星に本国を置くゼウス共和国とほぼ戦争中であった。
お互いに地球の資源をめぐり争っていた。
そのほぼ戦争中が戦争中に変わった出来事があった。
それはドームと呼ばれる宇宙空間ないし汚染された地球で暮らすのに必要な施設が破壊されたことである。
地球の破壊ならば、汚染された空気を吸い込むが、避難や処置が早ければ命は助かる。
だが、宇宙空間でドームを破壊されたのならば、悲惨なものになる。
ゼウス共和国は、月のドーム『希望』を破壊した。
表向きは不慮の事故と主張しているが、ゼウス軍の仕業なのは明らかであり、犠牲も多かった。
続いてドームの破壊までとはいかないが月ドームの『天』が襲撃され、一時的に内部のいくつかの地域が廃墟となった。
この二度の襲撃により、地上主権主義連合国とゼウス共和国の対立は確固たるものとなった。
何で軍に入ったかというと、とにかく赦せない、憎いと思ったからだ。
何がというとゼウス共和国だ。
俺は地球で見ていたが『希望』の破壊とそれによる犠牲はどんな聖人君子でも怒りを覚える。
人一倍真面目で正義感が強かったのもあり、俺は抱えきれない怒りを昇華したいと強く思った。
いや、みんながみんな誰かを失っていた。
怒りと憎しみと義務感で俺と同じく軍に入ろうと思う輩は多かったはずだ。
「キース・ハンプスといいます。自分はゼウス共和国の人道から外れた行動に怒りを覚え、軍に志願しました。」
自己紹介の場だったか、そんなことを勢いよく言った。
そして、俺と同じようなことを言っている奴は沢山いた。
訓練や生活はきつかったが、みんな義務感、正義感の惰性でどうにか毎日過ごしていた。
なによりも、みんなが似たような目的だというのが大きく、仲間、同期との絆は強かった。
真面目な性格が幸いして、訓練はなかなかいい成績で終えた。
志願してから1年で任務に出た。
簡単な輸送船の警護だった。
そのはずが数体のゼウス共和国のドールに囲まれた。サブドールで参戦していたキースは戦った。キースは無事生き残れたが乗っていた戦艦と輸送船が破壊され、任務は失敗だった。
戻るはずの戦艦が破壊され、艦長も乗組員もみんな死んだ。守るべき輸送船も積荷もみんな宇宙の塵となった。
更に、ゼウス共和国のドールから逃げきり、地連のドームに帰る途中、ドールの操作ミスで仲間が一人死んだ。
覚えているのは通信が急につながらなくなったことと彼の乗っていたサブドールの残骸を見つけた時だ。油断していて浮遊物に衝突した。些細なミスだ。奇襲ということと新兵であったことからゼウス共和国への咎が大きくなっただけだった。
戻るはずの戦艦が破壊され、戦場には出なかったが命のやり取りを終えた後の仲間の死は、俺たちに大きな衝撃を与えた。
人があまりにも簡単に死んでしまったことに、今まで見ていなかった自分たちの役目を感じた。
襲撃を経験したことで、一気に前線が近くなった。補助のサブドール部隊であることから、奇襲されることがない分仲間が死ぬことも減った。だけど、無いわけではない。
皮肉なもので、誰かが死ぬほど、犠牲が増えるほど絆は深まる。
戦友が減っていく中、生き残っている者同士の絆は強い。
次の任務は地球だった。
軍本部のドーム周辺を定期的にパトロールする任務だ。
『天』襲撃直後から、地球にいるゼウス共和国の兵の動きが活発になっているらしく、油断できない状況だった。
この任務は、最初は緊張感があったが、襲撃などもなく、サブドールとはいえ、ちょうどいいドール操作の練習になった。
半年ほどこの任務に就いていたのち、自身専用のドールが与えられるドール部隊に配属しないかと誘いを受けた。
ドール部隊は戦場に出る者なら憧れる。
量産型の簡易的なサブドールと違い、ドールの威力は大きい。ドール部隊はドール操作能力の上位が配属されるいわば、エリート部隊だ。
「『希望』周辺でゼウス共和国の残党が見られた。『天』でのこともある。撃退はしたが、肝心の拠点が不明だ。」
偉そうな将校が大げさに言う。
「月のどこかのドームということはないのか?」
一人冷めた口調で言う男は目が血走っていた。
「どこかにドームを建設している可能性は否めない。瓦礫に混じって小惑星に憑りついていることも・・・・」
偉そうな将校は明らかに目が血走っている男に気を遣っていた。おそらく彼の方が地位が高いのだろう。
ドン
机を叩く音が響いた。
「違う!!どこかのドームが匿っている可能性だ!!」
目が血走った男は声を荒げた。息が乱れ、口元には怒りが滲んでいる。
「ウィンクラー大将・・・・・そんなこと」
偉そうな将校は明らかに委縮していた。先ほどまでの威勢は嘘のように弱弱しい。
「ウィンクラーと呼ぶな!!」
目が血走った男はどうやら大将らしい。
キースは大将ほどのものがここまで取り乱すのは不思議に思った。だが別に珍しいことではなかった。
『希望』『天』の襲撃で親しいものを亡くし声を荒げる友人も多かった。おそらく彼もそうだろう。
キースのその考えは当たっていたようで
「・・・レイモンド大将・・・・気持ちはわかりますが・・・・」
「なぜレイが死ななければならないんだ。彼等だって・・・・何故あいつのことを調べない!!」
レイモンド・ウィンクラー大将を宥めるように、今はもはや偉そうでない将校は必死に話していた。
しばらくすると別の軍人が入ってきて、半ば強制的にレイモンド・ウィンクラー大将は退出されられた。
「え・・・・気を取り直して、今回の作戦だが・・・・先ほど言った通り、ゼウス共和国の残党がいる。それの殲滅だ。」
殲滅という言葉がキースの胸に響いた。人のことを指している。命を軽んじる言葉に感じるし、実際そうなのだろう。敵兵は軽んじる以前に消さなければならない。
「いくつかの部隊に分ける。戦艦は3つで行う。これから呼ぶものは今回の作戦でドールを与えられたものだ。」
作戦の説明を聞く軍人の中に、キースは知り合いを見つけた。
軍人にしては細身な体躯をした少し茶色のかかった髪。
キースに向こうも気付いたらしく、馴れ馴れしい笑い方をして見つめてきた。
予想通り、作戦の説明が終わった後、呼び止められた。
「ハンプス。お前ドール与えられたんだよな?」
この声の主をキースはあまり気に食わない。
だが、この声の主を無視するわけにはいかない。
彼は姿勢を正し、ゆっくりと声の主を見た。
「はい・・・・マツ中尉。」
キースはしぶしぶ先輩の名を呼んだ。
カズキ・マツ中尉。彼はキースの先輩である。
何かとキースに先輩風を吹かせたがる。話すにしても皮肉屋であり、一言多い。憎まれ口を叩くことも目に付く。
皮肉であっても軽口ととらえることもでき、話しかけてくれるのは後輩にとっても嬉しいことだ。
それもあり、実はいい先輩だとか、話しやすいとはよく聞く。努めて後輩と話そうとしている姿勢は尊敬できる部分であるのだろう。
だが、この男の本音がキースには見えてこない。話していて不安になってくる。軽口は義務なのだろうか。
深読みしてしまうのがキースの癖でもあり、それが原因で女に振られたこともあった。
そんな彼だからこそ、この他人からの評価が実はいい先輩を好きになれなかった。だが、兵士としての資質はあるのだろう。それがあるからこそ実はいい先輩という評価が存在するのだ。
なにより、キースの配属されたドール部隊の隊長などできない。
自分より小柄で細い上官を見てキースは身構えた。
「お前、俺の隊に所属らしいな。」
やはり、その話題だ。この男の尊大な話し方に気安さを滲ませる術は純粋に憧れる。
「はい。全力を尽くします。」
キースはあたりさわりのないことを言ったつもりだった。だが、キースの返答にマツ中尉は顔を顰めた。
「全力は出すな。」
「え?」
キースは予想外の反応に驚いた。いつもの軽口風な冗談かと思ったがマツ中尉の表情は真面目だった。
彼の冗談を言わない顔は久しぶりに見た。
「ハンプス。余力を残して戦え。生き残ることが大事だ。」
マツ中尉の言葉にキースは驚いた。
「俺は自分の部隊を全滅させたくない。それに・・・お前は惰性で軍に入った奴だろ?こんな作戦で死にたくはないだろ。」
マツ中尉はキースが何も返答しないことを気にせず、立ち去った。
キースはマツ中尉の言葉に震えたが何も言い返せなかった。
惰性・・・だと?俺は正義感と怒りと義務で・・・
そもそも作戦を「こんな」と言うなんて
でも反論が口から出なかった。マツ中尉はもうキースの視界から消えていた。
「それは揶揄われてんだよ。」
同期のマリオは笑いながら言った。
マリオとは同じ時期に軍に志願し、訓練を共に受けた言わば同じ釜の飯を食った間柄だ。なにより今はもう数少ない戦友だ。
「そうか?」
キースはマツ中尉の様子を思い出しながら首をひねった。もちろん「惰性」や「こんな作戦」と言われたことは黙っていた。
「お前は真面目過ぎんだよ。肩の力を抜けよ。」
マリオはかなり豪快な性格だ。体格も大柄であり、笑っているときは正直近付きたくないレベルで唾を飛ばす。
「真面目って・・・・悪いことじゃないだろ。」
キースは唾を飛ばして話すマリオを少し睨んだ。
マリオは口に手を当てて申し訳なさそうな顔をした。
「悪い悪い。どうしても飛ばすほど勢いがあるから・・・」
「気にしているならいいと思う。それより、お前も俺と同じ部隊だな。」
キースは目の前の同期を見た。
「ああ。ギリギリ食い込めた。シュミュレーションだが、ドール戦だとお前に敵わないからな。」
マリオは羨ましそうに目を細めてキースを見た。
マリオの言う通り、キースはドール戦での能力が高い。
「ただ運がいいだけだ。小回りはお前の方が効く。俺は大振りすぎるからな。それに、肉弾戦ならお前に負ける。」
マリオはキースの言葉に首を振った。
そのキースの言葉通りマリオは見た目に似合わずドール戦は小回りが得意だ。反対にキースは大振りで派手な戦い方をする。
「今のご時世ドール操作が戦局を左右する。肉弾戦が強くても機械の前じゃ、ほぼ無力だ。」
マリオは自嘲的に笑いながら自分の上腕二頭筋を見せ、それを叩いた。
「だけど、お前がいてくれてうれしい。」
キースは素直なことを言った。それは本当だ。これから戦うのに気心の知れた存在があるのは緊張感を和らげてくれる。
「お前はもっと社交的になれ。ドール操作は器用でできても、日常生活は真面目過ぎて不器用だろ。」
マリオの言うことは当たっている。実際キースは超が着くほどの真面目で、『希望』、『天』の襲撃が無ければ軍には志願しなかっただろう。人が人を殺す軍に対して自身の正義と大きくかけ離れたものを感じていたからだ。
キースは21歳で志願しているが、それまで大学に在籍していた。
2年では早いが、自身が取り掛かろうとしていた卒論にしても戦争の歴史と死生観を交えたものを選び、教授に指導を仰いでいた。
「俺は・・・・ずっと勉強をしていたから、軍に志願することは無いと思っていた。」
衝動的だった。怒りがこみ上げた。破壊活動とその犠牲を考えた時、自分の考えが空論であることを実感した。
「まあ、そう言うやつが多いだろうな。でも、お前は過酷な訓練を脱落せずに終え、ドール使いとして優秀な成績を収めた。なにより・・・・生き残っているだろ。社交性については、俺はずっとスポーツをやっていたからこういう集団行動の場所は慣れている。経験から言って、真面目なのはいいことだけど、真面目過ぎるのは自分の首を絞めるだけだ。」
マリオはそう言うと自分の首を絞めるしぐさをして苦しんだ顔をした。割り切れない感情を持ったキースをマリオはたしなめてくれる。いつも愚痴を聞いて諭してくれる。
「サンキューマリオ。」
本当にいい仲間であり、戦友であり、親友だ。
「いいって・・・・これからまた、よろしくな。」
マリオは驚いた顔をしたが、嬉しそうに目を細めて手を差し出した。
「よろしく。」
キースは差し出された手を握った。
少し年季の入った戦艦がキース達の部隊に割り当てられたものだった。
名前は「コーダ」
コーダにはドール部隊が3つ入っていた。
どうやらこの作戦に出された戦艦それぞれにドール部隊が3つ充てられているようだ。
キース達が乗る戦艦以外の名前は「セーニョ」、「ヴィーデ」
「えーと・・・・それぞれ自分の戦艦の前に並んでください。」
名簿を見ながら慣れない様子の女の軍人が言う。
見たところ、軍学校を出たばかりのようで初々しい。
何人かの隊員が彼女を微笑ましく見ていた。
「あの子・・・・タナ・リード少将の娘だよ。」
俺に耳打ちしたのはマリオだった。
「タナ・リード少将・・・・」
その名前は有名であった。
彼は『天』に滞在していた将校だ。ゼウス共和国の襲撃以来連絡が取れていない。襲撃の被害に遭ったのは貴族の屋敷や軍施設だった。連絡が取れないものは何人もいるが、身元不明の遺体も相当数あるはずだ。
「・・・・きっとゼウス共和国が憎いはずだ。」
マリオは同情するように彼女を見た。そんな彼もまた、ゼウス共和国との争いで身内を亡くしている。確か、弟だと言っていた。
「今回の作戦で戦艦に乗りこむのか?」
「そんなわけないだろ。」
キースの質問に答えたのはマリオではなく、前に並ぶマツ中尉だった。
「リード氏の娘を危険な作戦に登用するわけないだろ。」
マツ中尉の言葉にマリオは息を呑んだ。
「やっぱり危険なんですか・・・・」
マリオは不安を浮かべている。マリオもキースと同じ最初の任務に就いていた。そこで簡単に死んだ仲間を目の当たりにしている。
「危険じゃない作戦はない。ましてや、俺らは人を殺すんだ。」
マリオの問いにマツ中尉は当然のように答えた。
キースはその言葉に改めて自分のやることを実感した。
「だから、殺されるな。」
マツ中尉は二人を見て言った。そして、二人の更に後ろにいる隊員も見た。
殲滅作戦に登用されたのはドール部隊は隊長含め6人で一つ。それが3つずつ各戦艦に充てられる。そのほかに戦艦に乗っているオペレーター二人以上、機械整備士も二人以上、衛生兵も二人以上、艦長一人、副艦長一人等で合計78人以上である。
キースは自分の乗る戦艦以外のメンバー見渡した。
一人、かなり小さい少年のような男がいた。
「マリオ。あの小さいやつ誰だ?」
キースは大柄な男たちに囲まれた少年を顎で差した。
「ああ、あいつも有名人だ。レスリー・ディ・ロッドだ。落ち目だが、由緒ある名門貴族のロッド家の一人息子だ。」
「かなり若いぞ。この作戦に参加するのか?」
キースは一人顔を隠すように俯く少年を見てなにか恐ろしい気持ちがこみ上げてきた。
俯くロッドはシルエットからも幼さが漂う。
「士官学校途中で切り上げてとっとと戦場に出たいらしい。戦艦乗りになれば階級は保証されるからな。」
マリオはそう言うと、もったいねーと呟いた。
マリオの言葉通り、戦艦乗り、特に前線のドール操作者にはそれなりの地位が約束される。
それは、死亡率の高さゆえだろうが、生き残る者が多いのもあり、誰も触れない。
貴族の出なら学校中退しても本部でぬくぬくさせてもらえそうだが、違うようだ。
「まあ、『天』の襲撃で父親を失っているからゼウス軍が憎いのかもしれないな。」
マリオは同情のまなざしでロッドを見ていた。
そういえば、貴族の屋敷が襲撃されたと言っていた。その屋敷とは彼の家だったのか。
「それに、あいつ襲撃に巻き込まれたから顔に怪我を負っている。被害者であるからなおさらそういう気持ちが強いんだろうな。訓練でも噂になっていた。鬼気迫るようだと。実際かなり優秀らしいぞ。」
マリオは俺よりも成績いいらしい。と悔しそうにつぶやいた。
「へー・・・・・」
キースはロッドの評価を聞いて再び彼を見た。
新たな知識が入ると彼の見え方も変わる。
青臭い正義感よりも確かな憎しみの方が強いのかもしれない。
「戦艦コーダにようこそ。私は艦長のバング・キング大尉だ。」
真っ黒い髪と髭、そして真っ青な瞳、厳つい容貌でそれにピッタリな大きい男だ。他の隊員たちよりも一回り大きく、マリオも大柄だが、それを上回る。
「この戦艦所属の部隊の隊長はそれぞれ前へ出ろ。」
厳つい容貌にピッタリな話し方と声の響き方でバング大尉はマツ中尉他のドール部隊の隊長を呼んだ。
マツ中尉は黒髪で薄い眉が特徴的などこかアンバランスさを感じさせる容貌をした一般でいうと平均的だが、軍人では細身な体躯の男だ。
彼の横に並ぶのはマツ中尉よりも小柄だが手足が太く、筋肉質な四角い顔をした男だ。丸っとした目に愛嬌を感じる。彼はマリオット中尉と名乗った。マツ中尉と同様にこの戦艦所属のドール部隊隊長だ。
マリオット中尉の横に並ぶのは、彼やマツ中尉とは違い長身で手足の長いカマキリみたいな印象を受ける男だ。尖った顎には申し訳程度に髭が蓄えられており、体格と同様に目つきも尖っていた。彼はホルツ中尉と名乗った。マツ中尉とマリオット中尉と同様にドール部隊隊長だ。
その後、同じマツ隊の隊員たちと一通りの挨拶を済ませ、さっそく持ち場に着くようにと言われた。
ドール部隊は感覚と連携が大事であり、部隊配属が決まってから数日はお互いを知るために共同生活を取ることがある。
今回の作戦もそれに該当する。持ち場という戦艦内の定位置で数日間生活を送ってから出発する。緊急の作戦でないという証拠だ。
「作戦のことも大事だが、お互いを知らないとドールの連携がうまくいかない。これについては学校でも習っただろ?」
マツ中尉はまるで教鞭をとるようにキース達の前に立って話していた。
隊員たちはキースと同い年くらいでキース、マリオと隊長であるマツ中尉のほか
赤いくせ毛のそばかす顔が「赤毛のアン」風だと自分で言ったウォルト
他の隊員よりもかなり毛深く、臭いのケアが欠かせないとおどけて言ったソアレス
これは白髪でなくプラチナブロンドだと美しい銀髪をなびかせて神経質そうに言ったサリヤン
計6人の小隊だ。
「俺はお前らの記録を見ているからいいが、他のやつは知らないだろ?まあ、言わなくていいが・・・・記録なんか意外とあてにならない。」
マツ中尉の言葉にあからさまに安心を見せたのはソアレスだった。
「俺らはこれから生死を共にする。命を預け合うんだ。」
その言葉と同時に隊員たちはお互いの顔を慎重に見た。
「こんな茶番が何のためになるのか・・・・とっとと作戦開始した方がいいだろ。」
そう言ったのはサリヤンだった。
「そう思わないか?仲良くなりましょうって・・・・俺らは訓練を積んだ兵士だ。実際に緊急事態になるとどうにか動くもんだ。」
サリヤンはそう言うと近くにいたマリオに同意を求めた。
「うーん・・・・俺は作戦を共にする仲間を知りたいっていうタイプだからな・・・」
困ったようにマリオは言葉を濁した。
サリヤンはマリオの全身を見ると馬鹿にしたように笑った。
「なるほど・・・・見るからに脳ミソ筋肉タイプだな。」
「なんだと?」
サリヤンの言葉に反発したのはキースだった。
「優等生だと思っていたが、お前もこういうタイプか・・・?」
サリヤンは一瞬目を丸くしたがすぐに馬鹿にしたように笑った。
「よせ。サリヤン。」
低く、威厳のある声。それを発したのはソアレスだった。
「ここで喧嘩を起こすことの方が茶番だ。」
ソアレスはキースとサリヤンを交互に見て叱るように言った。
言葉の強さと彼から発せられる大人の風格にキースとサリヤンは恥ずかしくなった。
「・・・・ふん。そうだな。」
何故か悔しそうにサリヤンは言った。
「悪い。大人げなかった。」
キースはバツが悪そうに謝った。
キースの謝罪を見てサリヤンは気まずそうな顔をした。
「・・・・先に謝るなよ・・・・・」
拗ねたように言うサリヤンは、尊大な態度に対してかなり幼さを感じさせる。
「あ。終わった?バチバチ?」
サリヤンとキースの険悪な空気が収束したと見たウォルトは安心したように発言した。
どうやら彼は蚊帳の外が好きな性分のようだ。
呆れた顔をしたソアレスがマリオに笑いかけた。マリオも思わず笑顔になっていた。
「寝食を共にすると結束が強くなるというだろ?」
遅めの夕食を取りながらマツ中尉は言った。
「はあ・・・」
やる気のない返事をしたキースは、戦艦内の設備と説明を受け、作戦のスケジュールを確認するという丁寧なオリエンテーションで一日を費やし、毒気の抜かれたような気分だった。
「懇切丁寧な待遇だ。まるで学生だ。」
ソアレスは丁寧なのが嫌なのか、顔を顰めていた。
「そうだな。学生でも・・・・かなりの子供だ。馬鹿にされたものだ。」
サリヤンも同意した。
「まあ・・・心の準備とかあるし、出発まで余裕を貰えるのは嬉しいな。」
この隊でマリオはフォローをするような発言が目立つ。
「俺たち馬鹿じゃないよ。」
ウォルトはマリオの言葉を無視するように口を尖らせていた。
「他の艦は出発している。まあ、作戦通りと考えろ。」
そう言うとマツ中尉は黙々と食事を続けた。
説明を受ける中、隊員たちとは話したが、この人とは話していないな・・・とキースは思った。
いや、マツ中尉を全然見ていない。隊長はまた別のところで会議とかあるのかな?と考えた。いや、そうなのだろう。と自己完結をした。
「待機することも大事な仕事だ。」
マツ中尉は隊員たちの不満を感じ取っているのか、諭すように言った。
翌日は作戦の再説明と隊列のパターンの打ち合わせ。
丁寧すぎる指導と準備期間。準備をするのは大事なことだが、まるで子供に説明するような扱いにとうとうマリオまで困惑した。
「・・・・おかしい・・・・」
腕を組んでぼそりと呟いたマリオを見てサリヤンは笑った。
「どうして笑う?」
キースは思わず棘のある言い方をした。
「そう言うな。ただ、マリオもそう感じるほど不自然なのだなと改めて思ったわけだ。」
サリヤンは片手をひらひらとさせた。
「・・・・厳重すぎる準備、今回の作戦・・・・俺たちが聞いているもの以上に厄介なものかもしれないな。」
ソアレスは下を向いていた。
「厄介・・・・え?」
ウォルトはソアレスの発言に動揺していた。
キースもソアレスと同じようなものを思っていた。
厳重で丁寧な準備。
まるで、生存率をあげようとするようだ。
そんなことを考えたのち、すぐに否定した。
「お?みんないるな。」
隊員が集まっているのを確認するとマツ中尉が走ってきたt。
「隊長。」
ウォルトは不安そうな表情をしていた。
ウォルトの表情に一瞬顔を顰めたが、マツ中尉は全員に顔を向けて、目でこっちを向くようにと合図をした。
全員マツ中尉の方を見て彼が何を話すのか気になっていた。
「先ほど、先行したセーニョとヴィーデと連絡が取れた。明日、出港する。」
マツ中尉は全員の顔を順に見て頷いた。
戦艦内に充てられた部屋は5人一部屋だ。
隊員とはもちろん一緒だ。
作戦前なので消灯時間も規則正しい時間だ。だが、消灯時間を過ぎても落ち着かず、キースは一人廊下に出た。
「よう。」
廊下に出たキースに声をかけたのはマツ中尉だった。
「・・・マツ中・・・隊長。」
キースは呼び方を言い直した。
「怖いか?」
マツ中尉は冷やかすように言った。
「当然です。」
言い方にイラっとしてムキになった。
「お前、この前まで地球だったらしいな。どうだった?」
マツ中尉はキースの配属先を知っていた。上官だから当然だが、何となく気に食わなかった。
「何も無かったです。いい練習期間でした。」
キースは多少冷たく答えた。
「いいな。俺も地球に行きたかった。宇宙のパトロールより地面を歩きたい。」
懐かしむようにマツ中尉は目を細めた。
「・・・昔のように回りたいのですか?」
「昔のようにできるわけないだろ?」
マツ中尉はあの時のような真っすぐな笑顔だった。
「・・・そうですね。」
何となく申し訳ない気分になってキースはマツ中尉から目を逸らした。
「なあ、キースは今回の作戦をどう思う?」
単純な疑問を聞くようにマツ中尉はキースを見た。
「不安要素を取り除くことは市民の平和な生活にも・・・・」
「建前じゃねえよ。」
キースの発言にマツ中尉は呆れたように言った。
「なんて聞けばいいんだ・・・・」
頭を掻きながらマツ中尉は考えているようだ。
「マツ中尉には自分も訊きたいことがあります。」
「何だ?」
「俺たちは死地に行くのですか?」
キースの質問にマツ中尉はキョトンとした。
「なんで?」
「いえ・・・・作戦の変更があったのかな・・・・と」
マツ中尉がキースの質問に回答するような反応をしなかったので、キースは急に恥ずかしくなり誤魔化すように言った。
「変更はない。・・・・ハンプス。お前はそう思うんだな。」
マツ中尉は、いつもの呼び方でキースを呼んだ。
「・・・・いえ、ただ、準備が長かったから・・・・」
キースは自分の考えがひどく直感的なものに思えて口に出せなかった。
マツ中尉は細い目を更に細めてキースを見ていた。
部屋に戻るとソアレスとサリヤンが何やら話し込んでいる。
ウォルトはマリオに一方的に話しかけている。
みんな消灯時間関係なしに起きていることにキースは呆れた。
「キース。」
サリヤンはキースの顔を見ると何かに気付いたような顔をして手招きをした。
「何だ?」
「お前隊長と何話したんだ?」
サリヤンは言ってもいないのにキースがマツ中尉と話していたと知っていた様だ。
「え?なんで・・・・」
キースはどこかで見られていたのかと動揺したが、ソアレスが笑い出した。
「本当だ。言うとおりだな。」
ソアレスが笑いながら言ったが、何を言っているのかさっぱりわからないキースは、眉をハの字にして首を傾げた。
「何のこと?」
耳ざといのか、ウォルトが興味津々で寄ってきた。
「いや、キースはマツ中尉と絡んだ後はいつも考え込むような顔をしている。深刻そうなな。」
サリヤンはそう言うと自分の眉間に指さした。
「ここの深さが違う。表情に反抗的なものも見えるから、苦手だろ?」
思った以上にサリヤンの言っていることが合っていてキースは驚いたが、認めるわけにはいかない。
「そんなことない。」
口を引き縛るようにして言うとウォルトが楽しそうに見ていた。
「今のは嘘だってわかった。」
ケラケラ笑うウォルトを見ると無性にマツ中尉に腹が立ってきた。だが、これはすごく子供なことだから頭から払おうとした。
マツ中尉の言った通り、翌朝出発する旨と時間が伝えらえた。
慣れない戦艦は落ち着かない。周りを見ると他の隊員もそのようでそわそわしていた。
「宙に出る。油断すると転ぶぞ。」
そんなキース達を叱咤するようにマツ中尉は叫んだ。
戦艦は今、月に作られた軍事ドームに滞在している。地連は月の地上と周辺空域に複数の軍事ドームを持っている。その中の一つである。最初は『希望』の残骸を片付けるために作られたが、『天』の襲撃やゼウス共和国の邪魔もあり、拠点が必要になったためだ。
「宙に出るのは初めてだろうから言っとくが、生身だと死ぬ。それはよくわかっているはずだが、実感はしていないだろう。」
マツ中尉は緊張する隊員を見渡しながら言った。
「実感するときは死ぬ時だ。だから実感しなくていい。ただ、生身で出るな。それを肝に銘じろ。」
死というワードを聞くとなぜか震えあがる。安定しない宙だからか、戦艦が棺のように感じている。いや、それはドールのことか・・・
詩的なことを考え、何かを紛らわそうとしていた。
「要は死ぬな・・・ってことだ。うまくいけば何事もなくおいしく階級だけをいただいて帰還ってこともありうる。」
マツ中尉は一変して人懐こい笑顔で言った。その顔は他の隊員たちを安心させるのに大きく役に立った。
「・・・だよな・・・・」
「緊張して死んだら元も子もないよな・・・・」
隊員たちのそんな声がちらほら聞こえた。
『戦艦コーダ宙に出る。揺れに備えるように。』
艦内アナウンスが入った。
「宙に出て揺れが落ち着いたら、各々自分のドールを調整しろ。全員の調整が終わったら、隊列や作戦の打ち合わせをする。」
マツ中尉はそう言うと足早に立ち去った。
「マツ中尉は宇宙経験あるんだもんな。流石頼りになる。」
マリオはそう言うとキースに同意を求めた。
「・・・・あ・・・・ああ。」
キースは同意したが、何かが気になった。
「どうした?調整行こうぜ。専用ドールの醍醐味だ。」
マリオは楽しそうに言うとキースの腕を引っ張った。
マリオと同じように他の隊員たちも楽しさと嬉しさが隠せないようだ。
専用ドールの調整とは、自分のドールの証明みたいなものであり、サブドールばかり扱っていた者にとっては憧れだ。
今回の作戦は三方向から『希望』を目指す。未だ周辺に飛散する瓦礫に注意しながらも残党がいないことを確認する作業だ。殲滅作戦などちょっと大げさすぎるのではないのかと思うが、敵兵の姿が確認されたらしい。瓦礫を間違えて観測したのかもしれないが、それを確認するのも任務だ。
「ヴィーデ」、「セーニョ」、「コーダ」という順で出発し、別方向を探索する。出発時間については一日ほど間を開ける。先に出発した戦艦の無事を一日後に把握できれば出発する。
今回の作戦の出発地点は月周辺の軍事ドームと言っても月の地上にあるわけでない。それこそ、月が地球の衛星であるように月に張り付いている宇宙空間上のドームだ。月と一緒に地球の周りをまわることで張り付くことができている。このドームも地球の衛星のようなものだ。
キース達の乗る「コーダ」は最後の出発である。「ヴィーデ」「セーニョ」の無事が確認されてから出発をする。もし確認されない場合は出発延期か作戦を変更するようだが、無事が確認され、当初の予定通り作戦は進んでいる。そのはずだ。
調整を終え、マツ隊に割り当てらえた部屋でテーブルを囲んでキース達は、隊員の様子を窺っているマツ中尉を見ていた。
全員とアイコンタクトを取れるとマツ中尉は頷いて打ち合わせを始めた。
「他の隊とは違う動き方をしようと思っている。」
作戦や隊列の打ち合わせの時にマツ中尉は最初にこう言い、目的地までの大まかな宙図を広げた。
「他の隊は瓦礫の確認をし、付近の浮遊物を確認する。だが、俺たちの隊は軍事ドームを点検しようと思う。」
マツ中尉の言葉に辺りがざわついた。
「軍事ドームって地連の所有物じゃないですか?そんな無駄な作戦・・・・」
ソアレスが抗議した。それに同意するように数人の隊員も頷いた。
「隊長。自分たちの任務は浮遊物を確認し、『希望』付近に潜伏しているゼウス軍を殲滅することです。自分たちのドームを点検するなんて・・・・」
「これは命令だ。」
キースの言葉を断ち切るようにマツ中尉は言った。
他の隊員たちは動揺を隠せない様子だ。
「いいか、軍事ドームを見るのは必要なことだ。何も無ければ他の隊と同じ動きをする。」
マツ中尉は念を押すように言った。
隊長の命令は軍規に違反しなければ絶対である。断れるはずもない。
「この先にある軍事ドームから順にみる。隊列は、俺が先頭で行く。最後尾はキース。基本はこの形だ。これは覚えてろ。だが、万一逃げるときは隊列を気にするな。次にドームに何かあったときのことだが・・・・」
マツ中尉の意向で、部隊内で呼び合うときは姓でなく名で呼ぶ。これはとっさに反応することができるとのことだ。
「ですが・・・・納得できません。この作戦は上からの指示とは全く無関係です。なによりこれが無駄だとそれに費やした労力が・・・・」
キースはなお食いついた。
「お前は作戦の内容に対して納得していないわけじゃないだろ?」
マツ中尉はキースの言いたいことがわかっているようだ。何度も頷いていた。
その様子にキースはどうしよもなくイラついた。
「隊長。俺の納得とかはどうでもいいんです。上からの・・・・」
「変なところまで真面目だな。夢想家の癖に頭が固くて想像力が無い。」
マツ中尉は呆れたようにキースを見た。
他の隊員たちは不安そうにキースとマツ中尉を見ている。
「!?」
「お前は作戦に納得はしているんだろ?」
マツ中尉はそれこそお前のことは分かっていると言わんばかりの顔でキースを見た。
「だから・・・俺の納得とか」
「命令だ。では、隊列についての打ち合わせをする。」
マツ中尉はキースを突っぱねた。
「キース・・・・・別にいいだろ?」
マリオがキースを宥めるように肩を叩いた。
マリオに宥められ、それ以上の発言はしなかったが、キースは何かを訴えるようにマツ中尉を見つめていた。
それが睨んでいるように見えたのか、ウォルトは目を泳がせ困った顔をしており、サリヤンは我知らずという顔をしていた。ソアレスは観察するようにキースを見ていた。
マツ中尉はキースの視線を無視し、打ち合わせを進めた。
全員が腑に落ちない表情で打ち合わせは終わった。
「次の空域に入ったら出動する。それまでイメージトレーニングでもしていろ。」
マツ中尉はそう言うと隊員たちの顔を見て微笑んだ。
「俺は昔、地球のドームの探検するもの好きだったんだ。その時、動くにあたって大事なのは拠点だ。」
隊員たちはマツ中尉に顔を見た。さっきまでの表情ではなく何かを期待する目だ。
「ひと手間多いかもしれないが、より安全に作戦を遂行したい。俺は誰も死なせたくないんだ。俺の我儘だと思ってくれ。」
懇願するような表情で隊員に語るマツ中尉を見てキースは何かが腑に落ちた。だが、納得まではいかない。
いつもの皮肉を言い、軽口を叩くときと同じようにマツ中尉は笑い
「作戦まできっちりできることをやれよ。」
と言い立ちあがった。
去り際にキースの横を通り過ぎるとき
「納得しない作戦で死にたくない。」
とキースにだけ聞こえるように呟いて去って行った。
言葉の意味がとっさに飲み込めず、何も言い返せなかった。
言い返そうとしたとき、マツ中尉はいなくなっていた。
先ほどまでの表情と違い隊員はマツ中尉を頼るような表情をしていた。
「・・・・・まあ、安全策を練りながら行くのは大事だな・・・・軍事ドームは万一の時の避難場所だしな。だから・・・キースもそう突っかかるなよ。」
マリオはそう言うとキースに同意を求めた。
「そうだな・・・・」
キースは作戦に対して命令なら聞くつもりだった。
だが、マツ中尉の真意が見えそうで見えないでいるのが気に食わない。彼がどういう考えで作戦を立てたのか、それを言わずに命令するのが気に食わないでいた。
先ほどのキースへの言葉でわかるとあの人は思っているだろう。
自分はその期待に応えられず分からないでいるのに、向こうはキースのことを分かっている素振りをする。いや、実際にわかっているのだろう。
『探索地点到着。ドール部隊準備。』
オペレーターのアナウンスが響いた。
キースは腰かけていたベンチから立ち上がり、ドール専用のスーツのチャックを締めた。
「宇宙空間用のヘルメット被れよ。」
後ろからマツ中尉がキースの頭を掴んだ。
「いま被ろうと思っていたんです。」
なぜか反抗するように言った。
打ち合わせ時の言い合いが印象に残っているせいで、他の隊員は心配そうに二人のやり取りを見ていた。
そんなに心配しなくても俺は喧嘩するつもりはない。
内心そんなことを叫んだ。
キースの態度に驚くことも気にかけることもせず、マツ中尉はそうかと笑って他の隊員にも声をかけ始めた。
「・・・・緊張するな・・・・・」
マリオは大きい体格に似合わず、縮こまっていた。それを見てキースは思わず笑った。笑われたことに対してマリオは非難するようにキースを睨んだが、直ぐに笑顔になった。
「キース。また会おうぜ。」
キースはマリオに拳を突き出した。それを見てマリオはキョトンとしたがすぐに頷き自身の拳を突き出しキースの拳にぶつけた。
「物騒なこと言うなよ。当然だ。」
マリオは笑った。
自分たちの様子を横目で見ていたマツ中尉が寂し気に笑うのが何となく視界に入った。
「では、ドールに乗り込め。」
隊員全員がスーツを着用したのを確認するとマツ中尉はドールに乗り込んだ。
隊員たちもそれに倣い、ドールに乗り込んだ。
隊長であるマツ中尉のドールは胴体の色が違う。他のドールは全身紺色なのに対して、隊長のドールは胴体部分だけ赤い。目立つが、その分強度がある。
ちなみに、「セーニョ」のドール隊の隊長は胴体が黄色。「ヴィーデ」は白である。
他の隊員のドールも実は微かに違いがある。人の手を模したドールの指部分の色が違う。
キースは緑、マリオは赤、ウォルトは黄色、ソアレスは青、サリヤンは白となっている。
『乗り込んだか?』
神経接続を始めたキースに通信が繋がった。マツ中尉は接続が終わったようだ。流石早い。
「今接続中です。」
キースは経験の差があるから仕方ないが、彼より遅いことに何故か悔しい気がした。
『ムキになるな。初めてのドールでの作戦だ。』
ムキになっていると指摘されたことにも悔しい気がした。
・・・・適合率・・・15%・・・・
機械音が響いた。
『おお・・・・キースすげーな・・・』
ソアレスが感嘆の声を上げた。
『すげー・・・くそっ』
悔しそうにサリヤンが呟いた。
『やっぱり最後尾はお前で正解だな。』
マツ中尉は納得した様子だった。
ドール接続が2桁というのは相当なものであり、キースはその2桁を出せる数少ない者だ。今回の作戦に投入されたドール使いだと、あと一人いるかいないかではないだろうか。
『接続終わったものは名前と終わったことを言え。』
マツ中尉の言葉に
「キース接続終わりました。」
とキースはムキになって言った。
クスリと笑う声が聞こえたが気にしないようにした。
マリオ、サリヤン、ウォルト、ソアレスの順に接続は終わった。
『艦長。マツ隊出る。』
マツ中尉の呼び掛けに応えるように出撃口が開いた。そこから見える景色は、訓練で何度か見たことがあったにも関わらず、吸い込まれそうなほどの魔力と奈落のような暗さと深さを感じる。
不意に初めての任務を思い出した。
・・・・・・・・
『出るぞ。続け。』
マツ中尉の声で我に返った。
作戦通りマツ中尉、その後ろにソアレス、マリオ、サリヤン、ウォルトそしてキースの順番で出た。目的地までもその並びで進む。
慣れないのか前のウォルトが不安定だ。一瞬操作ミスで死んだ仲間を思い出した。
『大丈夫か?』
キースはいてもたってもいられなくなった。
『ああ。思ったよりふわふわして・・・・設定が少し合っていないのかもしれないが、もうすぐ慣れるから大丈夫だ。』
ウォルトは、どうやらドール自体の調整が思わしくなかったようだ。だが、それでも進んで行く中順応するのは彼の能力の高さが現れている。やはりドール部隊に選ばれるだけあって能力の高い者だ。
『軍事ドーム直線上に見えてきた。作戦通り別れるぞ。無理はするな。三人の無線は常につないだ状態でいろ。俺への連絡を怠るな。何かあったらすぐに連絡しろ。幸い遠くに瓦礫が漂っているぞ。』
マツ中尉の声が聞こえた。彼の言う通り、作戦は軍事ドームに二手で向かうこと。
マツ中尉、ソアレス、マリオが先行して、それから少し遅れて逆方面からサリヤンを先頭としてウォルト、キースと行く。連絡が取れればそれでよし。取れなければ無理やりでも入って内部の様子を確認すること。
近付く際には浮遊物に紛れるか、月の表面まで降下して這い、逃げやすい体勢で臨むこと。
おそらく他の隊員も気付いていると思う。
この作戦はまるでレイモンド・ウィンクラー大将が危惧していたことを確認している。
キース達はマツ中尉の言った通り、上空に漂うゴミの群れに会えたからそれに紛れることにした。
だいぶ距離がある。宇宙の視界は障害物が少ない分遠くまで見れる。距離を見誤るなと最初に教わる。
『キース。何でこの作戦気に入らない?』
会話を切り出したのはサリヤンだ。神経質そうな話し方をする。
「気に入らないわけじゃない。」
そうだ、気に入らないわけじゃない。納得していないわけでない。
『違うよサリヤン。どう見ても隊長のことが気に入ってないかんじでしょ?』
面白がるようにウォルトは言った。蚊帳の外が好きだと思ったが、それに加えてこいつはどうやら他人の裏面の話を面白がる質のようだ。
「あの人は嫌いじゃない。」
キースはまたしてもマツ中尉に対してイラついてきた。子供らしいが、彼とのやり取りで自分がお子様にみられている気がして、裏面を見られた気がして、薄っぺらい人間な気がして。
『ならいい。俺はこの作戦を終えたら階級だけを貰って本部に戻って安定した生活を得るんだ。』
サリヤンの言葉に対してキースはまあ当然かと思った。だが
「無責任だな。階級の意味がないだろ。」
出た言葉は違った。
『は?なんだと?』
サリヤンは先ほどまで他人事だった態度から一変して、怒りの声を上げた。
「命を懸けているから階級が与えられるんだろ。懸けなくなったら階級なんて意味ないだろ。」
そうだ、命を懸けているものに対しての敬意で与えられる階級だ。建前はそうだ。実際は階級欲しさに集まる。戦力欲しさの制度だ。
『マツ中尉の言ったことがわかった。お前は夢想家だな。変に頭が固い。あの人はお前のことをよくわかっている。』
サリヤンは早口で叫んだ。きっと唾を飛ばしながら言っているだろう。そんな気がする。
あの人はお前のことをよくわかっている
そのフレーズがキースを嫌に腹立たせた。
「わかるはずないだろ。あの人は俺じゃないんだ!!」
思わず感情的になった。
キースの勢いにサリヤンとウォルトは言葉を失ったようだ。
「・・・・悪い。初めての専属ドールだから頭に血が上りやすいのかもな。」
二人が何も言わなくなったことに対してキースは慌てた。
『・・・・・キース。俺は隊長の言うことはあっていると思う。お前は夢想家だ。真面目と義務と綺麗ごとを免罪符として、馬鹿なこのご時世を直視しない。俺はお前にどう思われようと階級が欲しい。直視してないのはお前だと言われるかもしれないが、このご時世で自分の命以上に大事なものがあるか?』
サリヤンはキースが思った以上に取り乱したことで冷静になっていた。諭すように言った。
「お前はなかなか文学的なことを言うな・・・・サリヤン。」
諭すようなサリヤンの言葉にキースは気まずさを感じながらも冷静になった。
『キース。お前は自分ではないから隊長は自分のことがわかるはずないと言ったな。』
完全に落ち着いたサリヤンは続けてキースに諭すように話しかけた。
「そうだが・・・・」
『人間っていうのは、意外に自分より他人の方が自分のことを分かっているものだ。』
「・・・・・」
『なにより、お前は自分のことを自分で理解していないだろ?』
サリヤンの言うことは図星であった。
惰性のような怒りと正義感で真面目に軍に志願した。
果たして真面目なのか、青臭いだけなのではないのか。
事実、憎しみがある方が戦場では活躍できる。
『二人の会話は難しくてわからないけど・・・・これだけはわかるな。』
会話に入っていなかったウォルトがしみじみと呟いた。
「わかる?」
『なにがだ?』
サリヤンとキースの問いにウォルトはクスリと笑い
『ゼウス共和国を滅ぼさないといけないことだよ。』
当然だろ?
と付け加えてあっけらかんとウォルトは言った。
無言の冷え冷えとした中でキースは確かに憎しみがあることを感じた。
青臭い理想より確かな憎しみの方が強い。
この三人の会話に於いても理想と現実を戦わせているサリヤンとキース
それに対してのウォルトの言葉が一番力のあるものだった。
無言の空気の中、三体のドールは当初の目的通り、浮遊物を確認できる位置まで近づいた。
『後方組は上空に浮遊物を確認しました。それに紛れる形で近付きます。』
サリヤンは他の二人の意見を聞かずにマツ中尉に報告すると一人先に飛び出した。
だからと言って反抗するわけではない。
おそらく最善ではないか。キースとウォルトはそう考えたからこそサリヤンと同じように飛び出した。
しかし、本当に運がよかった。いくら希望付近のゴミが多いとはいえなかなかここまでの大群には会えない。ましてや、ドール数体が紛れれるほどのゴミは・・・・
ゴミ・・・・
キースは慌ててマツ中尉に通信を繋げた。
「隊長!!!マツ中尉!!」
キースは叫んだ。漂う宇宙のごみ。紛れて飛んでいる。漂うゴミ。こんなにたくさん・・・・
『・・・・・あ・・・・うわー!!!!』
サリヤンが叫んだ。どうやら気付いたようだ。
『どうした!!サリヤン!!キース!!ウォルト!!そっちに向かった方がいいか!?』
ただ事でない様子を察知したマツ中尉は進むのを止めた。
『う・・・・ぉえ・・・・うあ・・・・』
ウォルトが吐き気をこらえている。
漂うゴミ、それはドールが紛れることができる。なにせドールの残骸だ。散らばるコード。これは神経接続をするものだ。漂うドールの色もキース達と同じ紺色であるから紛れることができる。そして、そのうちの一体は胴体が白い。そして・・・・・見えるのは人型の・・・・
『マツ中・・・・隊長。すぐにコーダと連絡を取ってください。ヴィーデのドール部隊のものと思われる残骸に遭遇しました。』
キースはこみ上げてくる吐き気を抑えながら、カタカタ震える顎を強制的に動かした。
通信のむこうで誰かがえずいた。
『そのゴミに紛れて浮遊していろ!!今確認する。俺だけ通信を切るが無理はするな。』
マツ中尉は通信を切りコーダとの連絡に動いた。
漂うドールは無残に壊されていた。コックピットを狙って破壊されているのが多く、手足を破壊する意図が感じられない。そして・・・・
「おい・・・・みんな、気付いたか?」
キースは目を逸らしたくなるほどのドールの残骸を凝視した。目が離せなかった。
『気付くって・・・・直視できるわけないだろ・・・・』
嗚咽交じりのウォルトの声が聞こえた。
『どうしたキース。俺は見てないから分からないが、何に気付いた?』
マリオが落ち着いた声で訊いてきた。この光景を見ているサリヤンとウォルトは相当参っているようで、本当に漂うだけの状態になっていた。
「このドールたち・・・・全部背後から攻撃されている。しかもコックピットを狙ってる。」
キースの言葉にサリヤンが息を呑む音が聞こえた。鼻水をすすったのは誰だったか。
『キース。それが本当なら、奇襲されたと考えるべきだ。』
ソアレスの声は落ち着いていた。光景を目撃していないのもあるが、冷静でいるソアレスはどうやら戦場経験者だとキースは感じた。
『どこで奇襲されたと思う?背後という感覚か、それともどこかに潜伏していたか・・・・』
声に落ち着きを取り戻したサリヤンが呟くように言った。
「・・・・・軍事ドーム・・・・」
キースは呟いた。そうだ、それなら気付くはずない。だが、軍事ドームを敵が占領したのならば気づくだろう。そう考えられるからマツ中尉の作戦に対して俺たちは反論した。
もし、それが崩された場合、この任務が全く違うものになる。
キースの呟きにみんな黙った。おそらくキースと同様に考えているのだろう。だが、どこの軍事ドームに潜伏しているのかわからないのが現状だ。『希望』破壊時に周辺の空域を掃除するために造ったのが始まりだ。そこからゼウス共和国との戦場ができるたびに造られる。
『・・・・人が造った者を横取りするなんて・・・・キタネえ・・・・あんな国滅べばいいんだ。』
ウォルトは先ほどまで嗚咽まじりで弱弱しかった口調とは一変して、強い意志を感じる話し方をした。その意志というのが生まれる瞬間をキースは何度か見たことがある。
『・・・・・希望での蛮行は忘れない。』
先ほどの発言といい、ウォルトはどうやら『希望』の破壊で誰かを亡くしているようだ。
『おい、みんな。コーダと連絡を取れた。落ち着いて聞け。』
マツ中尉が通信を再び繋いだ。
彼の声色に微かに怯えと驚きが混じっていることにキースは気付いた。
『ヴィーデが沈んだ。戦艦含めドール部隊は全滅だ。これは先ほどセーニョのドール部隊が確認した。』
マツ中尉の知らせは予想以上だった。
一つの戦艦が破壊された。先ほど共に並び、作戦を聞いた者たちが宇宙の塵に、今自分たちの周りを漂うゴミになっている。
「・・・・セーニョのドール部隊はなぜ確認できたんですか?」
キースは引っかかったことを質問した。そうだ、あとから追いかける形で出発するとはいえ、進む方向は別々だ。戦艦などドールと違い宇宙を漂っているわけではないだろう。
『詳しくは知らんが・・・・ドール部隊の誰かが軍事ドームを見ると・・・俺たちと同じ動きをすると聞かなかったようだ。ドール部隊の動きが変わると作戦も変わるのではないかと不安に思ったセーニョの艦長が先行しているヴィーデに連絡を取って、連絡がつかなかったのがきっかけだ。だが、そのおかげで作戦が変わった。』
マツ中尉はそう言うと口調を切り替えた。
『空中の漂流物も探索対象だが、軍事ドームも対象にする。』
もう誰もマツ中尉に反論はしなかった。
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