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六本の糸~研究ドーム編~
40.共鳴
しおりを挟む「コウ」
ユイの声が聞こえた。
俺は顔を上げた。そこには悲しそうだけどこらえたユイの顔があった。
「ユイ・・・」
俺の声は掠れるようだった。頬は濡れていた。喉や鼻には不思議な疲れがあった。
「・・・・・」
ユイは俺の顔を見ると何も言わずに横に座った。
俺はユイが隣にいるにも関わらず涙が止められなかった。
ふと自分の右手に目を落とした。
そこには何かの感触が残っていた。
その感触を思い出すたびに涙は勢いを増した。
悲しい、苦しい。
逃げることができない何かがあった。
吐き出すことも飲み込むこともできない何かは、俺の胸や喉に存在を感じさせた。
俺は誰かに縋りつきたかった。その、苦しみを共有し縋りつきたい誰かは俺の視線の先で叫んでいた。
誰かは、泣いているのか、喚いているのか、笑っているのかわからない声をずっと上げていた。
それを見て更に悲しくなった。
「お父さん・・・・」
俺は誰かを呼んでいた。
「リリー、モーガン。二人に言わないといけないことがある。」
キースは二人を呼び、ひどく追い詰められた表情をしていた。
「ハンプス少佐どうしたんですか?そんならしくない表情して。」
「そうですよ。俺と話すときはいつも三段階抜けてるのに。」
二人はキースの言いたいことが悟れず、いつもの軽口を叩いた。
「あのな・・・ハクトはスパイがいることを疑っていたのは察しているよな。」
キースの言葉に二人は恐ろし気に頷いた。
「そりゃ・・・・コウヤ君が生きているのを黙ってほしいって言われましたし」
「ハンプス少佐の様子をみると、誰かわかっているんだね。」
「最初はハクトもあいつも俺を疑っていたらしい。全く悲しい限りだ。・・・まあ、悲しいけどな。」
キースは誰かを思い浮かべて笑った。
「正直、私もニシハラ大尉が疑っていた通りハンプス少佐だと思っていました。なので、味方と分かってとてもうれしかったのは本心です。」
「ありがとな、リリーちゃん。」
「少佐はその人物にいつ気づいたのですか?」
モーガンは何かを察したようであった。
「それは、俺が上層部にハクトのドーム入りの手引きを持ちかけた時だった。」
「その人物が現れたんですか?」
リリーはまだつかめていないようできょとんとしている。
「いや、ハクトの利用価値の話だ。ハクトはアスールさんの最高の人質となる。・・・その表現が変な感じがした。」
「どうしてですか?実際・・・・そうですし。だって、ハンプス少佐も知っていますよね。『天』に上がるときディアさんが助けに来てくれたし」
リリーはキョトンとしていた。
「軍の方もハクトがアスールさんをかばって大けがをしたのは知っている。そう、ハクトがアスールさんを大切に思っているのはな。助けに来てくれたのは恩があるから。そう考えられるだろ。実際アスールさんは淡々と話す人だ。」
「でも、それでも両想いって察せるんじゃ。・・・」
リリーは何か感づいたのか青い顔をしていた。
「・・・・もう気づいたんだろ?そもそも、「天」襲撃を軍が見逃したと分かった時点で怪しむべきだった。」
キースは二人とも気付いたのを察したのか、言葉に勢いがなくなっていた。
「・・・・あのとき一緒にいた誰か、そして襲撃に関係する・・・・ですね。」
「・・・・・嘘だ。」
リリーとモーガンは信じたくないという顔をしていた。
「そうだ。スパイは・・・・ソフィ・リード副艦長だ。」
キースの言葉に過剰反応したのはテイリーだった。
「・・・リード・・?リード少将の子供ですか?彼が生きていたのか!?」
「・・・お前詳しいな。」
キースはテイリーを見た。
「危険な国の将校は覚えているものです。」
「危険な・・・ね。」
キースは自嘲的に笑った。
「確かに地連は危険ですよね。今思えばそうです。」
リリーは強く同意していた。モーガンもだ。
二人とも一時的に軍に追われる身となったため、実感したようだ。
「地連は兵器で兵士の命を捨てます。あなたたちだってわかっているはずです。」
テイリーは、平時は見せない冷たい表情をして呟いた。
「特に・・・ハンプス少佐。あなたは・・・」
テイリーはキースを尊敬する者のように見た。
「そうだな。長く生き残っていればそうなるわ。」
重い空気のフィーネは研究用ドームに着々と近付いていた。
その後ろには地連軍の戦艦が一つ連なっていた。
ドーム「天」の軍本部は、熱気に包まれていた。
「お前らの好きにはさせない。」
「中佐が戻ってきたんだ。」
「ニシハラ大尉の待遇改善を」
「ゼウス共和国と手を結ぶな。」
若い兵たちは、年老いた上官や、軍を仕切っていた役職のものを弾圧し始めた。
「謀略の上層部はいらない。力のある者が立つべきだ。」
彼らの熱は「天」全体に及んでいた。
彼らの状況は電波に乗り、地球にも伝わっていた。
『古い軍はいらない。若い犠牲を強いるな。』
テレビの向こうから熱い声が聞こえる。
「この前まで、あのドームにいたのにね・・・」
ミヤコ・ハヤセは片手に持ったマグカップを傾け、もの憂いげに呟いた。
「レイモンドさんは軍に行かなくていいんですか?」
ミヤコは今滞在するドームの主に近いものを呼んだ。
「私はほぼ隠居です。それに、前の連中に煙たがられていましたから、宇宙でのポジションはないんですよ。」
レイモンドは笑いながらテレビを見ていた。
「さっきからのテレビの流れが茶番みたいですね。総統のスピーチや、ネイトラル新総裁の主張が前座で最後にロッド中佐でしたっけ?持っていきましたね。一番画面映えしましたよ。」
「彼も役者だからね。」
レイモンドは悲しそうに言った。
「役者?」
「そう。恐怖、尊敬をまとった畏怖の対象である強者という役のだ。誰も理解してくれない。」
レイモンドは悲しそうに呟いた。
「・・・・悲しい役ですね。」
「悲しい。味方も共に戦う仲間もいない。孤独な男だ。・・・皮肉なことに、それと同じようになった男を一人知っている。もう死んだが、似てしまうものなのか。」
レイモンドは嘲るような笑みを浮かべていた。
「・・・・彼は、何のためにそんな苦しい選択をしたのですか?」
レイモンドはミヤコの問いに微笑みながら頷いた。
「私にもわかりません。ただ・・・・私の、私たちのせいでもあるんです。」
レイモンドはそう言うと悲しそうな表情をした。
研究用ドームを警備しているはずのドールたちは、青と黒のハデスドールを見逃し、中に招き入れた。
警備のドールだけではない。
宇宙空間にいるドールすべてが、彼に対する戦意を持っていなかった。
「いい心がけだ。軍の教育の賜物だな。」
ハデスドールのパイロットは皮肉気に笑い研究用ドームに突入した。
『警備システム、侵入者。』
ドームに無理に入ったせいかやたらと機械音がうるさい。
彼は息を落ち着かせていた。
「・・・・うるさいな。」
『システム停止、干渉あり。プログラム変更。』
機械音が静まった。
「・・・・ふう」
パイロットは先ほどより疲れた顔をしていた。だが、彼は慣れた手つきでコックピットから降り、研究用ドームに降り立った。
「どうやら、先ほどの警備しかここはされていないようだな。なんとおざなりな。」
パイロットはそう言うと、何か考え込んでから進み始めた。
「・・・ドールはダメだな。変な物が飛んでいる。」
辺りを見渡しながらも歩みは早く、警戒しながらも動ける最速のようだ。
「あれ?」
シンタロウは周りに響いていた、かすかな機械音が消えたことに気付いた。
「どうしたの?」
前を歩くイジーはシンタロウが何かに気付いたことが気になるようだ。
「機械音。消えた。」
「え?機械音?」
「ああ。高音の機械音が消えた。何かのシステムが停まったのかもしれない。」
警戒するように見渡すシンタロウにつられ、イジーも周りを見渡した。
「もしそうなら、外の人たちが来たのかしら。」
「なら、急いで助けよう。」
「そうね。」
二人は作業員の気配を探していた。人の気配あるところは手掛かりか使えるものがある。
二人はそう決めて、動いていた。
「・・・どうやら、停まったのは警備システムみたい。」
「警備システム?でも入ったときは何も。」
「ここ・・・」
シンタロウは目の前の扉を指さした。
今までいた場所や、電車が止まった場所とは違い、無機質な印象を受ける頑丈そうな扉があった。
さっきまでいたところは倉庫や工場のようなところであり、研究施設とは思えなかった。
「じゃあ、さっきいたところは・・・」
「研究用ドームの中だけど、研究施設ではないみたいだ。」
「この扉開ける?」
「システムが作動してなければ力ずくで行けるな。」
シンタロウはドアを叩きながら笑った。
イジーもそれを見て笑ったが
「ちなみにその扉を開ける力ある?」
「ない。けど、イジーの得意分野があるだろ?」
シンタロウはポケットから何かの車両のカギを取り出した。
「車か!」
ただし、シンタロウの持っているカギは大型車両であった。
「私大型もっていない。シンタロウは?」
「ここで免許気にするのか?別にここはどこの法律が適用されるのかもわからない場所だ。だいたい動力があれば動くし、なんか踏めば加速する。」
シンタロウはそう言うと車の心当たりに歩き出した。
「私、あなたの運転する車に絶対乗らない。」
頭が痛い。何かが響いている。
ハクトは異様な頭痛で目を覚ました。
「おはよう。早い目覚めだったね。」
ハクトの目の前にはタナ・リードがいた。
ただし、ガラス一枚隔ててだ。
「リード氏・・・何か盛りましたか?何も覚えがないのですが・・・・」
ハクトは起き上がろうとすると手足が拘束されていることに気付いた。
「悪いな。君は身体能力が高い上に男だ。レイラ君でさえ大男数人で抑えなければならなかった。君はそれ以上だろ?」
「レイラが?・・・・あいつもここにいるのか?」
タナ・リードはハクトの言葉に笑った。
「敬語じゃなくなっているな。まあ、いい。ここはドールプログラムを研究する施設。彼女がいて当然だろ?」
タナ・リードはハクトににやにやと笑いかけた。
「お前はドールプログラムが開かれると状況が有利になると睨んでいるようだが、何が起きる?」
「それは、君は知る由もないことだ。開くころには意識はないのだからな。」
「意識が?どういう・・・」
言いかけた時ハクトは目の前が徐々に白くなっていることに気付いた。
白いのではなく、ハクトの意識がなくなってきているのだ。
慣れた感覚なのか、今までドールで行う神経接続がされていることに気付かなかった。
「・・・お前らの・・・・思い通りには・・させ」
そこでハクトの意識は途切れた。
現実の意識はだ。
眠りにつくような、気絶するような感覚。
そこからハクトの認識する風景は白くなった。
「くそ!!・・・・これはなんだ?」
ハクトは周りを見渡した。果たして自分は見渡しているのか、これは幻覚なのか夢なのかわからなかった。見渡したつもりでも、景色は白いまま。自分が動いているのかわからなかった。
《くそ・・・いそいでユイを説得しないといけない。しかも、ここにレイラまでいるのか・・・》
ハクトは予定外の事態に焦っていた。
《ディアが言っていた。プログラム内での会話とは、どうやるんだ?だいたい、開くプログラムとはなんだ。》
ハクトは知らなかった。自分が今見ているものこそがプログラムの中の景色であり、自身の開くプログラムがどんなものかを。
「なんだ?この感覚・・・」
コウヤは身震いをした。ただし、寒気だけではなかった。何か、武者震いのような感覚だった。
「コウもか・・・私もだ。」
ディアも顔を青くしていた。ただし、表情は何かを期待しているようであった。
「大丈夫ですか?」
一人の戦艦の乗組員が声をかけてきた。どうやら他の軍人が出て行く中残ったようだ。
「あ・・・大丈夫です。でも、あなたは付いてきて大丈夫なのですか?」
コウヤは戦艦の船員、地連の一人の兵士に尋ねた。見たところ年上のようだった。
「大丈夫です。それに、お二人がドームにいくのなら、留守番が必要なはずです。」
どこか神経質そうな顔をしていたが、兵士は胸を張って答えた。
「軍本部に行かなくてよかったのか?」
ディアは兵士の顔を覗き込んだ。
「はい。自分はいろいろと研究施設に行かれた方々と接点があったので、といっても数回お話しただけですが。」
「そうか。名前は何という?」
ディアは探る様に軍人を見た。
「はい。・・・ミゲル・ウィンクラーです。」
軍人は緊張しているのか息を吸って、間をおいてから答えた。
「ウィンクラーってことはレイモンド大将の・・・」
コウヤは自分の命の恩人を思い浮かべた。
「レイモンド大将とはおそらく親戚ですが、あまり縁はありません。」
「軍にウィンクラー姓が複数いるからレイモンド大将は名の方で名乗っているのか。」
コウヤはずっと疑問にあったことを言った。
「たぶん、そうです。ちなみに今はどうだか知らないですが、先ほどの地連の総統もウィンクラー姓です。」
「へ?あ、そう言えば・・・・レイモンドさんの弟だっけ?」
「お前は、自分の国の実質トップをそんな曖昧でいいのか?」
ディアはコウヤに嫌味のように言った。
「そういうネイトラルだって、テイリーさんがトップって、気軽すぎるだろ?」
「ネイトラルは実質国ではない。後から避難してきたものは別だが、元は財団の私兵だ。」
「まじかよ。」
「まじですか?」
驚く二人に笑いかけ
「これを知ったら、お前はもう戻れないからな。ミゲル君。」
ディアはミゲルに脅すように言った。
「わ・・・わかりました。」
「なあ、ディア。さっきの身震いっていう感覚はなんだ?」
ディアは少し考えて
「これから行く施設に全員いる。まさかレイラまで揃うとは思わなかったからな。」
「なんだ?これの感覚は」
「さあな。いわば共鳴みたいなものだろ?私たちはお互いを察知できる。ハクトレベルまでいくと私たち同士でなくてもわかるらしいがな。」
「ハクトはすごいな。あいつはいつも物静かだけど、なんでも俺よりできる。」
コウヤは懐かしそうに笑った。
「そうだな。お前はいつも目立とうとしてたが、勉強も運動もハクトに負けてたからな。」
ディアは懐かしむように笑った。
「うっせー。・・・・・なあディア。何で「天」の襲撃の時、クロスは連れ去られなかったんだ?」
ディアはコウヤの問いに考え込んだ。
「・・・・・成績・・・成績だ!!私たちの成績を見て判断していたんだ。」
「成績?」
「ああ。実際、レイラ、ユイは運動音痴だったくせに急に運動神経抜群になっている。ただ、クロスはいつも控えめで身体能力を測定する機会では常に抑えていた。だから、省かれたんだ。」
ディアは納得したように言った。
「運動神経が急に伸びたレイラとユイはすぐに狙われたんだな。」
「学校のか。そしたら、それを見れた人が・・・・」
「多すぎる。それにそれは、クロスが攫われなかった理由なだけであって内通者特定とはいかない。」
コウヤは誰が父の研究をゼウス共和国に教えたのか、近付いた手掛かりが急に無くなった気がした。
「気落ちするな。真実は変わらない。それに、内通者はおそらく手掛かりを沢山残している。たぶん、今の私たちに近い。昔の内通者より、今の内通者だ。おそらく昔の内通者は私たちの記憶にはない、大人だろう。だが、今の内通者は・・・・」
ディアはそこで思考を止めた。
「どうしたディア?」
「いや、研究用ドームに入る方が先だな。サブドールを使うか。」
「地連の一般的なドールならあります。サブよりそっちの方がいいのでは?」
そこで初めてミゲルが会話に入ってきた。
「そうだな。コウはいけるか?」
「・・・・俺はサブドールにするよ。」
コウヤは何か嫌な感じがした。
「・・・そうだな。お前はそれがいい。」
ディアは頷きミゲルにドールの場所を聞いた。
「ドールはサブドールと一緒に置いてます。」
「そうか、少し確認したいことがある。案内してくれるか?」
「わ・・・・わかりました。」
ディアとミゲルは二人ドールを見に行った。
コウヤは二人が操舵室から出て行くのを見て
「誰が船操作すんだよ!!」
と叫んだ。
「ディアさん。あの人誰ですか?」
ミゲルはコウヤの軍人らしくない空気だが、関係者みたいな話し方をしているのが気になった。
「彼は、いずれわかる。今はそれどころじゃない。」
「そうですか。あ、ここです。」
ミゲルはサブドールなどの兵器を格納している部屋を指さした。
「ここか、ドールを見せてくれ。」
「これです。」
ミゲルはディアにドールを差しだした。
差しだされたドールをディアは眺めしばらく目を瞑っていた。
眉を顰めてからドールに触れた。
「ディアさん。どうしました?」
ディアはしばらく黙っていた。
「ディアさん?」
「ああ。悪いな。これからどうしようか考えていた。コウの前だとなかなかゆっくり考えられないからな。」
ディアはミゲルに微笑みかけた。
「彼とは特別なのですか?てっきり自分はニシハラ大尉と特別なのかと。」
「ハクトはもっと特別に決まっているだろ。」
ディアはむきになった。
ミゲルはそんなディアを見て目を丸くした。
しょっちゅう研究施設に忍び込んでいた六人は、とうとう施設に鍵を取り付けられてしまって困っていた。
「ねえ、鍵って大丈夫なの?」レイラが恐る恐る訊いてきた。
彼女はいつもは強気だが、いざというときは少し弱気になる。
「大丈夫だよ。コウがお父さんの指持ってきたからそれで指紋認証するよ」
クロスはレイラに優しく説明した。
「クロス何言ってるんだ?そんな恐ろしいことするはずないだろ!!」
ハクトは大声で言った。彼はどうやら怖かったらしい。
「ハクト、声がでかい。クロスのいう冗談にいちいち怖がるな。」
ディアが冷静に言った。
「ハクトは真面目で純粋だからすぐ怖がってくれてうれしいよ。」
クロスは悪戯っぽくわらった。
「お前絶対いい大人にならないな。」
コウヤは片手に何かを持ってやってきた。
「コウは何を持っている?」
「・・・・ほら、研究施設に入るには父さんの指が必要だろ。」
そう言ってコウヤは片手に持っていた紙袋を持ち上げた。
「ひゃああ!!」
情けない声を出したハクトがディアに抱き着いた。
「・・・・指のわけないだろ。落ち着けハクト。」
ディアは少し照れながらハクトをたしなめた。
「指紋とれたんだね。でも、どうやって承認させるの?」
クロスはハクトの様子に笑いをこらえながら言った。
「え?指じゃないの!!・・・・よかった。コウが残虐殺人の快楽狂人になるのかと思った。」
レイラはクロスの指を引きちぎるかんばかり握り安心していた。
「痛いよレイラ。」
クロスは笑顔でレイラの指を外した。
「レイラ、なんてむちゃくちゃな言葉使ってんだ?残虐殺人の快楽狂人って・・・」
ハクトはレイラの発言に気が向いたようだった。
「昨日見た映画で覚えたらしい。覚えた言葉使いたくてうずうずしてたからね。」
「そうだそうだ。どうやって入るの?」
レイラはクロスの横から飛び出しコウヤの持つ袋を覗き込んだ。
「ふ、ふ、ふー」
コウヤの後ろから笑い声が聞こえた。
「この声はユイ!!」
レイラは大げさに叫んだ。
「レイラ~おバカさんはどっちだ。これを指につけて認証させるんだよ。生きていないと反応してくれないからね。」
ユイは上から目線でレイラに教えた。どうやら、前に自分の方がレイラよりバカと言われたのを根に持っているようだ。
「へー。スパイ映画みたい。」
クロスは目をキラキラさせていた。
「クロスはなんらかんら大人っぽいこと言いながら、一番冒険したがりだよな。おれより子供じゃないか?」
コウヤはクロスの様子を見て呆れた。
「童心を忘れないのはいいことだよ。人は冒険に憧れるものだからね。未知のものに触れたいとか思うでしょ?」
クロスは馬鹿にされたとは思っていないのかやたらと余裕だった。
「見てよーこれ、ユイが考えたんだよ。」
とユイは指にコウヤの父親の指紋が付いたフィルムを貼って騒いだ。
「すごいね。ユイ」
コウヤはなだめるようにユイを褒めた。
「ふははは、どうだレイラ。」
ユイは得意げにレイラを見た。
「うー」
レイラは自分よりバカだと思っていたユイの活躍に言葉が出なかったようだった。
「単純だが、なかなかできない発想だな。」
ディアは馬鹿にしているのか褒めているのかわからない言葉をかけた。
「どこかのスパイ映画で見たことあるきがする。」
ハクトはどうやら見たことのある手口だったのか考え込んでいた。
「すごいよ。ユイ。馬鹿と天才は紙一重っていうけどこれは紙一重で天才だよ。」
クロスも馬鹿にしているのか褒めているのかわからない言葉をかけた。
「天才だって。どうだ。わたしだって賢いんだよ。」
ユイは得意げになっていた。
「天才=賢いではないよ。」
ディアが訂正するように言った。
「もおーみんなしていつも私を馬鹿にする!!」
ユイは怒った。叫んだ。だが、声が出たのかはわからない。
「あれ?」
ユイは周りを見渡した。
「頭に変な声が響いてどうしたんだっけ?」
ユイは考え込んでいたがやがて諦めた。
「ここどこだろ?何もない。・・・・もしかして死んだのかな?」
ユイは変わらない景色を見て不安になった。だが、その不安もやがて消えた。
「まあ、いっか。コウはいないし、みんなとも会えなさそうだし。」
ユイは自分の人生を考えた。
「あーあ、私ってなにやっていたんだろ。ほとんどあのタバコ女と研究して、されてだったな。そういえば、ハクト達はどうしたんだろ?コウのことしか考えていなかったけど」
ユイは親友たちとの日々を振り返っていた。
「あのネックレスも写真も、お父さんに預けたままだし・・・。」
ユイは自分の宝物の場所を考えた。
「ま、いっか。お父さんに返して貰えば。」
ユイは結論を出すと歩き出した。いや、歩いているのかわからないが、ユイはそのつもりだった。
「みんなに会いたいな。」
ユイはそう呟いた。
「そういえば、さっき頭の中で響いた言葉ってなんだろ?」
頭が痛い。そういえば昔は頭が痛いと言ったら悪いの間違いではないかと馬鹿にされたな。
そんなことを思い出しながらレイラは目を開けた。
「私だってもうバカじゃないんだから。」
レイラは誰が聞いているわけでもないが口を尖らせた。
自分は確かに昔は馬鹿だった。そう、バカだった。
小さいころは頭が残念と友達にからかわれた。
無邪気なのか馬鹿なのかと笑われたがそれはいい思い出であり、そのときは馬鹿でよかった。
「ほんと、バカだった。」
レイラは自分の馬鹿だったという時代を思い出していた。
「なんで、クロス達のことを考えずに父上について行ったんだろう。頼れるものがなくても縋りつくものじゃなかった。」
自分がゼウス共和国に行ってからの日々を思い出していた。
毎日訓練、でもそれは父親に必要とされるために必要なもの。
レイラは他の兵士よりずっと能力が高かった。
「早く目を覚ますべきだった。」
幸運なのは、今こうやって後悔できることだ。
何もなければ自分はあのまま父親の復讐に囚われてさらなる破壊を繰り返していただろう。
「シンタロウに感謝だな。」
そう呟いた時レイラは大事なことを思い出した。
「あいつ、大丈夫か・・・」
自分が連れ去られてシンタロウがどうなったのかわからなかった。
運よく逃げてくれればいいが、最悪は殺されてしまう。
簡単に殺されるような奴ではないが、対策は絶対に取られている。
「なんてことだ。あいつは、私に何を話したかったのだろう。」
彼が何かを話したがっていたのは知っていた。
だが「天」についてからそれどころじゃなかったのは分かっていた。
「私は、あいつに救われたのに、あいつを助けることすらできないのか。」
その時彼女の頭に声というべきか、音が響いた。
『該当者接続。ヘルメスプログラム起動。』
「なんだ?」
レイラは周りを見渡した。
どこから聞こえている声なのか、どこにスピーカーがあるのか。
『アレスプログラム起動済み』
「・・・プログラム?ドールプログラムのなにかか。」
レイラは警戒した。
自分はかつてこのプログラムに操られた。
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