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六本の糸~研究ドーム編~
41.爆走
しおりを挟む「よし。無事入れたな。」
キースはそう言うと船員たちの顔を見渡した。
モーガン、リリー、執事、テイリー、テイリーと共にフィーネに乗り込んだ衛生兵と機械整備士。
キースは頷いた。
「あの、自分は留守番していいですか?」
テイリーは周りの様子を見て遠慮するように手を挙げた。
「逃げないよな?」
「に・・・逃げません!!」
テイリーはむきになって叫んだ。
「わかった。お前らこいつと船を頼む。」
キースはテイリー共に来た衛生兵と機械整備士に命じた。
「わかりました!!」
二人は張り切った返事をした。
「なんでハンプス少佐に手懐けられているの!!」
テイリーは自分に対してよりはっきり返事をする道連れを恨めし気に見た。
キースはテイリーの様子を見て感心するように頷くと彼の肩を組んだ。
「何すんですか!?」
「お前がこの戦艦守れよ・・・元軍人だろ?」
キースは周りに聞こえないように言った。
テイリーは目つきを変えてキースを見た。
「何か?別に珍しくもないです。」
「肝も据わっているな。下手な演技はやめろよ。何が目的か知らんが・・・」
キースはテイリーの様子を見て溜息をついた。
好奇の目で見られていることに気付いてキースはテイリーの肩から手を離して
「じゃあ、頼んだぜ。」
と笑った。
「モーガンも行くの?大丈夫?」
リリーはモーガンを心配そうに見た。
「俺よりリリーは大丈夫なの?」
モーガンはリリーを心配そうに見た。
「あのね、私は軍の訓練受けているから。いちよう・・・」
「おれだって、整備士なだけで、訓練は受けているよ。だからフィーネに乗っていたんだし。」
「お前らも残ってていいぞ。俺がいればどうにかなるだろう。」
キースは二人を見て首を振った。
「行く!!俺はフィーネのメンバーですよ!!何か機械あったら整備して見せます!!ほら!!」
モーガンはキースに縋りつくように飛びついた。
「私も!!オペレータ―ですから・・・声が通ります!!発声には自信があります!!」
リリーもモーガンと同様に飛びついた。
「・・・危険だと思ったらすぐに逃げろよ。」
キースは二人に飛びつかれてよろめいていた。
「「はい!!」」
二人は思い切りのいい返事をした。
「それより執事さんだな。」
キースは執事を心配そうに見た。
執事はニコリと微笑んだ。
「止めても行きますよ。役にも立ちますよ。この施設のシステムを乗っ取ることもできます。」
執事はキースの目を挑発するように見た。
「いい執事さんだ。」
キースは苦笑いをした。
「執事さん無理しないでください。」
リリーは心配そうに言った。
「ありがとうございます。でも、私には届けなきゃいけない忘れ物と、迎えに行かなきゃいけない子がいるんですよ。」
執事は優しく微笑んだ。
「執事さんはモーガンとリリーの間にいてくれ。もし、操作できそうな機械やシステムがあれば言ってくれ。」
キースはそう言うと走り出した。
「わかりました。お気遣いありがとうございます。」執事はそう言うとキースの後に続いて走り出した。
「聞いてた!?執事さん!!」
モーガンとリリーは慌てて二人を追いかけた。
キースは三人の背中を見て呆れたように笑うと走り出そうとした。
「キース・ハンプス。」
後ろからテイリーが声をかけた。
「なんだ?」
キースは足を止めてテイリーを見た。
「自分の目的はあなたと同じだった。だが、昔の話だ。今は、自分はネイトラルの人間だ。」
テイリーは目を細めて羨ましそうにキースを見ていた。
「・・・・頼んだぜ。」
キースは前を見て走り出した。
ディアとミゲルがいなくなった操舵室でコウヤは考え込んでいた。
《・・・父さんはなんでこんなものを作ったのだろう。》
記憶の中にいる父は、研究者としての顔よりも家族としての顔の方が強い。
《父さんは母さんや俺をすごく大事にしてくれた。母さんが大事だからこそ、ロッド家と繋がりを持って・・・》
コウヤはかつて蘇った父と母の最期を考えていた。
その場面は、コウヤを庇いゼウス軍の兵に殺害される父と母、そして自身はドールに乗って
「あれ?」
コウヤは気付いた。
「あの時・・・・手を握ってもらったり、話す余裕なんてなかった。」
コウヤは母親の最期の言葉と手の感触を思いだした。
それは、確かにあったもの。感情だけの記憶ではなく、感覚の記憶。
それに、白いシーツの色や、消毒液の匂い。
「・・・・まさか、改ざんされた記憶って。」
「コウ!!無事ドームに辿りついた。サブドールで出るぞ。」
ディアが操舵室に入ってきた。
「あ・・・ああ。わかった。」
コウヤはそう言うと、思考を中断し歩き出した。
そこで船が揺れた。
「わ!!」
「なんだ!!」
コウヤとディアは壁に寄りかかった。
「・・・・・ドールだ。」
コウヤは直感でそう思い操舵室のモニターを見た。
「・・・ドールだと?・・・・敵意は感じなかった。なんで。」
「・・・・あった!!ドールの出撃口にくっついている。」
コウヤはモニターに見えるドールを指さした。
「あれは・・・ゼウス共和国のドール。でもなんで・・・」
ディアが考え込んでいるとコウヤは出撃口を開く操作をしていた。
「コウ!!」
「大丈夫だって。敵意はないし・・・たぶん知っている奴だ。」
コウヤはそう言うと出撃口を開き、自身もその方向に走り出した。
「なにこれ。こんな大型車、何で選んだの?もっといいのが・・・」
イジーはシンタロウの車の選択にケチをつけていた。
数ある車のなかからなぜか、一番動きにくそうなのを選んだからだ。
選んだ車は大きくて破壊力はありそうだが、接続されている荷台部分がやたら大きく動きにくそうな車だ。それに、破壊力や頑丈さだと、さらに上の車もあるはずだ。
「たしかに、あの扉を破るだけなら他の車でも行けそうだ。ただ、俺が見たのは動きやすさじゃなく、積んでいるものだ。」
そう言うと、大型車の荷台部分を開いた。
「・・これは。」
「サブドールだ。3体ある。荷台も大きいからついでに武器もかっぱらって積もう。」
イジーは感心していた。
「あんた、これを狙っていたのね。サブドールに乗れればだいぶ違うものね。」
「あー・・・それもあるけど、イジーが一台運転して、俺がもう一台運転するというのを考えていた。」
「あんた、免許。」
「ほら・・・軍で免許は取らせてもらった。ペーパーだけど。それに、ここ関係ないだろ?」
「運転に自信がないから、大きい車を私に充てたわけね・・・」
イジーは呆れていた。
「まあ、そんな感じ。でも、それがいいだ・・・」
そこでシンタロウとイジーは目を見合わせた。
「隠れろ!!」
イジーとシンタロウはとっさにサブドールの積んである大型車に乗り込んだ。
ダンダンダン
銃声が響いた。
「まじかよ。さっきまで何もなかったのに・・・」
「あの、機械音が消えたからじゃない?」
「・・・・みたいだな。どうする?もうこの車から出ることは難しい。」
「動かす。あんた掴まってなさい。」
イジーはそう言うと運転席に座りエンジンをかけた。
大型の車のためエンジン音も大きく低く響いた。
二人が乗り込んだ車の周囲には警備の兵らしき者が銃を構えていた。
「イジー。飛ばせ。あいつら俺らを生かしておく気は絶対にない。」
「わかってるわよ。そんなことくらい。」
イジーはニヤっと笑うと目いっぱいアクセルを踏んだ。
レバーはバックに入れて。
「ちょ・・・イジー」
車は荷台を押し重そうに動いた。
「方向転換よ。」
イジーはハンドルを思いっきり回しタイヤの向きを強引に変えた。
レバーをバックから戻し思いっきりアクセルを踏んだ。
「うわ!!」
「ここって広いから飛ばしやすい!!!」
イジーはそう言うとためらいなく加速し始めた。
「イジーどうするんだ!!」
「たぶん車の荷台に部分にしがみつかれている気がする!!」
「まじか!!そこまで見ていたのか!!」
「気がする!!スパイ映画だと王道よ。」
「映画の知識かよ!!!」
「そう。でも、もしもを考えて運転するようにって免許取得時に習わなかった?」
「そのもしもと違うだろ。」
シンタロウは楽しそうに笑った。そして窓から外の様子をうかがった。
「・・・・いけるな。俺、荷台に移ってサブドールに乗る。万一の時は助手席から突っ込め」
シンタロウはそう言うと窓から身を乗り出そうとした。
「待って!!そんな無茶な。」
「映画の王道だろ?爆走する車の上を移動する・・・」
「さっきのとはちが・・・っと」
イジーは障害物を見つけ急いでハンドルを切った。
「っぶねー。お前は運転に集中してろ。俺はサブドールに乗る。そしてさっきのドアにこの車を突っ込ませる。直前にお前をサブドールで抱える。」
「なにその怖い作戦!?」
「アクション映画みたいでかっこいいじゃん。誰も見てないけど」
「サブドールで速度についていけなかったら即却下だから。」
「了解。」
そう言うとシンタロウは窓の淵に手をしっかりとひっかけて外に身を投げた。
「死なないでよ!!」
イジーはシンタロウに叫んだ。
だが、シンタロウはもうイジーの声を聞こえるところにいなかった。
「あー!!命知らずな奴!!」
そう言うとイジーはハンドルを握り直し、前を見た。
「これは、困ったな。」
サングラスをかけた長身の男は頑丈な扉の前にいた。
足音と殺気、人の気配が湧いて出てきた。
「警備システムが解除されたからか・・・」
男は気配の方向と逆に走り始めた。
「ドールプログラムに頼り切りすぎは脆い。もっと別ものを信用すればいいものを・・・」
そこで男は足を止めた。
人の気配の方を振り向き笑った。
「頼れるな。」
殺気と共に湧いてきた人の気配。
その気配の中に殺気を感じないものがあった。
「ひー」
警備の兵にビビりモーガンは物陰に飛び込んだ。
「あー!!モーガン!!」
それを見てリリーは怒った。
「だって俺弾切れ!!リリーはまだあるよね!!」
「あんたが無駄弾撃ちまくるせいでしょ!!へったくそ!!」
そう言うリリーも外してばかりだった。
「リリーちゃん。足元狙え。撃ちたくないんだろ?だから外しまくっている。モーガンもだ。」
冷静な声でキースは警備兵に引き金を引いた。
「ハンプス少佐。」
リリーとモーガンは顔を引きつらせながらも頷いた。
「前は俺が守る。こう見えても俺は優秀な軍人なんでね。」
キースはいつものおちゃらけた様子がなく、冷たい目をしていた。
「援護します。」
キースの後ろについていた執事がポケットから何かを取り出し遥か前方の物陰向かって投げた。
カラン
音を立てて落下し
ドゴン
大きな爆音が響いた。
「・・・・・・」
キースとモーガンとリリーは固まっていた。
そんな三人を見て執事は
「手りゅう弾です。範囲と威力は弱いですが、物陰に潜むものにはいいかと・・・・」
「そんな物騒なもの持ち歩いていたのか!!」
キースは執事のポケットを指さして叫んだ。
「これは小さめです。爆音で人は来ると思うかもしれませんが、銃をぶっぱなし続けているので気にしないかと思いました。」
「投げる前に一言言ってくれ。あと、ほかには持っているのか?」
キースは困った顔をしていた。
「遠隔操作タイプを一つと、こちらは・・・火薬が古いのでたぶん不発するやつです。」
「遠隔操作タイプは取っていてくれ。その不発は使えるか知らないが、万一は投げてくれ。あと、取り扱い気をつけろよ。っと」
ダンダン
キースは近づいてきた警備を撃った。
「湧いてきやがる。どこにこんな兵たちを隠していたのか・・・・いや、隠せるか。」
キースは周りを見渡していた。
「走りましょう。」
執事の言葉にうなずきキースは走り出した。
「待って!!」
モーガンが叫んだ。
その声にキース、執事、リリーは立ち止まった。
「・・・兵の動きがおかしい。俺たちのところに来ているけど・・・俺らの向こうの何かを目指している。」
「何か?」
キースは兵士たちの動きを思い出した。
「・・・・たしかに・・・前からしか来ないのはおかしいです。潜める場所も、もしくは隠している出入り口もありうるのに、何かをめがけている。」
執事はそう言うと後方を見た。
「後ろは倉庫だろ。たぶん施設の入り口付近だから車庫か移動手段の機械が置いているだろ。これだけ大きい施設と造り的に、移動手段として車があってもおかしくない。」
キースはあたりを見渡して言った。
「そしたら、後ろから来てもおかしくないはず。」
モーガンが後ろを見て身構えた。
「待て、モーガン。前からも来て・・・・」
キースは言葉を止めた。
「・・・・やべーぞ・・・・」
モーガンは固まった。
「と・・・とりあえず。直線上から離脱しましょう。」
「早く避けましょう。」
4人の遥か後ろから猛スピードの大型車が走ってきた。
「避けろ!!!」
キースが叫んだ。
4人は車の直線上から大慌てで逃げた。
先頭に大型車、後ろに小型の小回りが利きそうな車が数台。並んですさまじい勢いで4人の前を走り抜けていった。
「なんだ・・・・」
キースは走り去った車の方を呆然と見ていた。
「俺らなんかに目もくれずに行きましたね・・・あの先に何かあるのでしょうか?」
モーガンは腰を抜かしてしまい座り込んでしまった。
「・・・・いえ、兵たちはおそらくあの車を追ってたのでしょう。」
執事は目を細めて車が走り去った方向を見つめていた。
「だれか知らないが、味方か・・・・コウヤ達にしては早いし、アスールさんがあんな暴走するはず・・・・あるけど考えられないな・・・・」
キースは考えていた。
「小型の車に乗っていた者は銃を構えてました。あの二人相手なら生け捕りにするはず。」
執事はそう言うとモーガンに手を差し伸ばした。
「ありがとうございます。」
モーガンはそう言うとその手をとり立ち上がった。
「じゃあ、誰なの?」
リリーは不安そうにしていた。
「わからねーが、大型車の荷台にはサブドールが乗っていた。そして、そのサブドールに人が乗っていた。」
キースはそう言うと歩き出した。
警戒はしつつ、考えているようだ。
「人?・・・サブドールを操縦できる人物・・・・」
「間違っても中佐ではないな。あの人だったら追ってくる敵が生きているはずない。」
キースはそう断言した。
「サブドールでもやっぱり中佐は強いんですか?」
リリーは拳銃を構えながら訊いた。
「リリーちゃん。中佐は強い。あの人は異常なんだ。ありとあらゆる戦闘能力が高い。身体能力が桁違いなんだ。勘も鋭くて軍本部も手を焼いていた。」
「へー・・・・何か大尉たちみたいですね。ディアさんとかコウヤ君とか大尉。三人も勘が鋭くて戦闘能力が高い。三人のいいところを取った感じですね。」
「そうだな。だが、それにしちゃ強すぎるし冷酷すぎる。」
キースはそこで目を細めた。
「・・・・・?いや、年齢が違う。だいたい記録にも残っている。」
「ハンプス少佐。どうしたんですか?」
リリーが心配そうにキースを見た。
「急ぎましょう。先ほどの車の行先が気になります。」
そこで執事が会話を切り出した。
「そうだな。たぶんあの車の行先が目的地だ。」
ゴシャ!!ドゴン!!キキー!!
4人が歩き出したとき、前方からものすごい音がした。
「なんだ?」
「とにかく急ぎましょう!!」
執事はそう言うと先頭を走り出した。
「あー!!だから隠れながらって言っただろ!!」
キースが執事を追い抜かそうとしたとき4人の前に一人の男が出てきた。
「!!」
4人はとっさに身構えた。
4人を見つめると男は
「先ほどの音は、君たちではないのか。」
そう話すと男は4人を置いて歩き出した。
「おい!!待てよ。中佐。」
そう呼ばれ男、ロッド中佐は立ち止まった。
「ハンプス少佐。今回の件。協力感謝している。」
ロッド中佐は淡々と礼を述べると再び歩き出した。
「待て。ここは共同で行った方がいい。」
キースはそう言うとロッドの腕を掴んだ。
「心配ない。この先の兵は目につくものすべて再起不能にした。もし出てきても、たかが知れている。」
ロッド中佐は当然のことを話すように言うとキースの腕を払い歩き出した。
「・・・・ロッド中佐どの・・・」
執事がそう呟いた。
その声を聴きロッド中佐は執事の方を見た。
「あなたの姿を確認したときは驚きましたが、考えてみれば当然ですね。」
ロッド中佐は執事にそう口元だけ笑いかけいうと4人を置いて先に行ってしまった。
「・・・・なんなの。初めて話すところ見たけど、冷たい人。」
リリーはそう言うと顔を顰めた。
「仕方ねーよ。ずっと一人で軍の上層部を脅かし続けたんだ。あのくらいの図太さと冷酷さが必要だったんだ。それに、あの映像を見ただろ。地連に裏切られてあの様。」
キースはそう言うと執事の方を見た。
「執事さん。あんた、もしかしてロッド中佐の協力者の一人か?」
執事はその言葉に笑った。
「私は執事です。」
「それよりハンプス少佐。ロッド中佐の言ったことが本当なら早く進んだ方がいいと思います。敵が湧いてくる前に。」
モーガンはリリーとは逆にロッド中佐に対して好意的な感触を得たようで笑顔だった。
「そうだな。」
そう言うと4人は再び進み始めた。
「なあ、執事さん。ドールプログラムが開かれるとやばいってなんでなんだ?それを敵さんに教えなかったのか?」
キースは訊いた。
「聞く耳なんて持つはずありません。向こうには、一人の女がいます。その女はドールプログラムを開くことに執着した女。かつて、ドールプログラムの開発に携わっていた女です。」
執事は口元を歪めて吐き出すように呟いた。
「へー・・・そんなやつを抱え込んでいるのか。」
「あの女は、開くためなら嘘を吹き込むことも厭わない。・・・・いや、何も知らないのかもしれない。」
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警備が来ないと分かって、落ち着いて周りを見ているようだ。
「どうですか?何か操れそうな機械とかは・・・」
モーガンが執事の横に並んだ。
「いえ、ここはまだですね。たぶんこの先にでっかいのがあります。」
執事の指差す方向は車が走り去った方向であり、ロッド中佐も走って行った方向だった。
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