あやとり

近江由

文字の大きさ
53 / 126
六本の糸~研究ドーム編~

46.カゲロウ

しおりを挟む


「君はこの家の子かい?」

 そうロマンスグレーの穏やかそうな男に尋ねられた。

「そうですけど・・・・」

 茶髪の少年は警戒するように男を見た。

「そんな警戒しないでくれ。この辺に金髪の女の子はいないか?」

 男は少年の警戒を解こうとしているのか、優しく尋ねた。

「・・・・金髪・・・・」

 少年はある少女を思い浮かべた。

「この辺りに住んでいると聞いた。私は彼女の保護者だ。」

 男はそう優し気に言った。

「レイラの・・・?」

「そう!!レイラだ!!彼女はどこに?」

 男は少年の両肩を掴んだ。

 少年は思わず後ずさりした。

「す・・・すまない。彼女はどこに?」

 男は少年から手を離し謝った。

「どうした?レスリー?」

 後ろから別の大人の声が聞こえた。その大人は40近くの白髪交じりの茶髪の男だった。

「父さん。」

 少年、レスリーと呼ばれた子供は茶髪の男をそう呼んだ。

 レスリーの父親は小柄だが、優しさと品の良さ、人の好さが溢れた表情をしていた。

「そこの方はお客様かい?」

 レスリーの父親はロマンスグレーの男を見てレスリーに尋ねた。

「ううん。でも、レイラを探しているみたい。」

 レスリーの言葉に彼の父親は表情を硬くした。

「・・・・失礼する。」

 ロマンスグレーの男はその場を足早に立ち去ろうとした。

「おじさん誰?」

 男が立ち去ろうとした方向に栗色の髪をした赤い目の少女が立っていた。

「・・・・!?」

 男は少女を見て驚いた様子を示したがすぐに足早に立ち去ってしまった。

「待って!おじさんどこかで・・・」

 少女は男を追いかけようとした。

「ユッタちゃん・・・だめだ。」

 少女にレスリーの父親が言った。

「・・・でも、今の人・・・」

 少女は納得していないのか口をもごもごさせていた。

「・・・・レスリー、ユッタちゃんを連れて屋敷の中に入りなさい。」

 レスリーは父親に命令されるように言われた。

 レスリーは驚いた顔をしたが、直ぐに頷きユッタと呼ばれた少女の手を引いて近くの屋敷に向かった。

 レスリーの父親は二人に続き周りを気にしながら屋敷に向かった。

 屋敷の前では50前後の外見をした執事らしき男がレスリーの父親を出迎えていた。

「旦那様。レスリー坊ちゃんとユッタ様が急いで来られましたが・・・どうか?」

「ロバートだ。急いでレイラちゃんとクロス君を呼び戻すんだ。どこにいる?」

 二人は緊迫した雰囲気で話していた。

「・・・・私わかるよ。」

 ユッタが二人の間に入ってきた。

「ユッタちゃん。君はおとなしくしていなさい。」

 執事は諭すように言った。

 ユッタは頬を膨らませ少しすねた表情をした。

「・・・・しかし、レイラちゃんを狙うとは・・・・やっぱり情報が漏れていたようだ。」

 レスリーの父親は何かを探るように目を細めた。

「旦那様。この家にシェルターはありますか?」

「簡易的なものならある。だがどうしてだ?まさか、襲撃されると・・・」

「旦那様と坊ちゃま、ユッタ様はあの男の顔を見ています。坊ちゃまとユッタ様ならいいですが、旦那様は・・・・」

 執事はそこで言葉を切った。

「殺される可能性があるか・・・・だが、まだあの男はこのドームにいる。」

「ドームの襲撃は無いでしょう。レイラ様の確保ができない限り、やつらはドームの襲撃はしないです。」

 執事は断言するように言った。

「レイラちゃんをこちらで確保したら、レイモンドに連絡を取ってどこか別のドームに移動しよう。」

 レスリーの父親は確定事項のように言った。

「そうですね。では、旦那様方はシェルターに入ってください。私はレイラ様の確保に向かいます。」

 執事がそう言い行こうとするとレスリーの父親は執事を止めた。

「だめだ。お前こそ向こうに渡してはいけない。私が探しに行く。」

 そう言うとレスリーの父親は走って行った。

「待って父さん。俺わかるよ。」

 レスリーは父親を追いかけ始めた。

「いけません!!坊ちゃま!!」

 執事は叫んでレスリーの腕を引いた。

「お兄ちゃん探す!!言わなきゃ・・・・」

 ユッタは執事がレスリーを止めている隙に横をすり抜け走って行った。

「ゆ・・・ユッタ様!!」

 執事は急いで追いかけた。

「ユッタ!!」

 レスリーも続いた。



 玄関近くで轟音と爆発音が響いた。

 はじけ飛ぶ庭の木と石畳、石造りの古風な屋敷の玄関は抉られたような無残な姿に変わった。

 無意識にレスリーはうめいていた。レスリーが玄関に入る前にそれは起こったようだ。

 近くには執事が倒れていた。彼は爆風で壁に叩きつけられたようだが、幸い生きているようだ。

 レスリーは痛みより、ある恐怖が勝った。

「・・・・父さん・・・ユッタ・・・・?」

 レスリーは急いで玄関だった場所に走った。

「とうさ・・・・」

 玄関には父親一部が転がっていた。

「ひ・・・」

 その一部を見て、レスリーは父がどうなったのか理解してしまった。

「あ・・・・・あ・・・・」

 吐き気がこみ上げてきた。だが、嗚咽により吐き出せないでいた。

「う・・・・嘘だ。」

 思わずよろめき目を逸らした。だが、目の先には瓦礫に埋まった小さな手があった。

「・・・・ユッタ・・・?」

 手は頷くようにピクリと動いたように見えた。

「ユッタ!!」

 レスリーは必死に縋るようにユッタの手を取った。彼女を瓦礫から出そうと引っ張ろうとした。

「・・・・レスリー・・・お兄ちゃんに言わないと・・・・」

 ユッタは掠れた声でレスリーに話しかけた。

「ユッタ!!今出すから。」

 レスリーは手を引いた。思いのほか簡単に瓦礫から出てきた。

「違うよ・・・・」

 ユッタの声が聞こえた。

「・・・・あ・・・・あ・・・」

 レスリーはユッタの声が自分の後ろからしているのを気付かないでいた。

 彼が瓦礫から引っ張り出したのはユッタの手だけだった。

「・・・・・お兄ちゃん・・・・」

「ユッタ!!どこ?」

 レスリーは声の元を向いた。

「言わないと・・・・言わないと・・・・」

 瓦礫の隙間から彼女の赤い瞳が見えた。

「ユッタ!!今出すから。」

 レスリーはがむしゃらに瓦礫を叩いた。

「あのね・・・『希望』ではね、いつもお兄ちゃんお友達と遊んでて私に構ってくれないの。でも、妹は私だけだから私は気にしてなかったの。」

「今出すから。クロスに・・・・」

「あ・・・・・今日のおやつなんだったかな?・・・・そう言えばイジー元気かな?あのね、イジーって私の恋人兼友達・・・・なんちゃって。ふふ、やきもちする?」

 ユッタは夢見るように細々と言い笑っていた。

「やきもち焼くよ。・・・・今日のおやつは水菓子だよ・・・・ほら、ユッタが好きな」

「やった・・・・私桃のやつ好き。お兄ちゃんの分も残さないと・・・・」

 レスリーの手は爪が剥げて、血が滲んでいた。それでも彼は瓦礫をどかそうと必死だった。

「そうだ、お兄ちゃんに話さないと・・・・・私、忘れっぽいから眠ったら忘れちゃう。レスリーに言うから忘れないで。」

「ユッタ。眠れないよ。ほら、まだ昼だよ。それに・・・その痛くて眠れないよ。」

 レスリーはユッタに必死に話した。

「・・・・う・・・ん。あのね・・・・痛くないの。でも、とっても眠いの。」

 ユッタの言葉にレスリーは寒気を覚えた。

「ユッタ・・・ユッタ!?」

 レスリーは必死でユッタの名前を呼んだ。

「あのね・・・・あの人ね・・・」







「この施設の構造がわかりました。この部屋に通路もあります。」

 執事が顔を上げて言った。

「よ・・・よかった・・・」

 リリーは重い空気に耐えられず声を上げた。

「そ・・・そうだね。」

 モーガンもそれに続いた。

「施設の図を見せてくれ・・・・」

 ロッド中佐はそう言うと端末に顔を覗かせた。

「執事さん。それ、紙とかに印刷できるか?」

「キースさん、それより手持ちの端末とかにデータを移すことができれば・・・」

 モーガンはそう言い、誰しもが持っている通信用の端末を取り出した。

「・・・・いや、ハンプス少佐の言う通り、紙がいい。」

 ロッド中佐は施設の図を見ながら言った。

「え・・・どうして・・・」

 リリーは不思議そうな顔をしていた。

「・・・この施設には妨害と洗脳用の電波が流れています。機械など電波の影響を受ける物は無力化する可能性があります。」

 執事は付け足すように言った。

「そうだな・・・・先ほどまでは、ここの警備システムが動いていなかったからスムーズに行けた。だが、動き始めている。間違ってもドールには乗るな。脳ごと洗脳される。」

 ロッド中佐はそう言うと施設の図から目を離した。

「・・・・サブドールに乗るとしても、この施設内のものにしてください。どうやら登録されている機体以外だとこれも何かしら作用するようです。」

 執事は更に付け足すように言った。

「・・・・じゃあ、サブドールは乗れるってわけか。」

 キースは安心したように言った。

「施設内に登録されているものだけです。登録されていない機体を確認すると何かが作動するようです。」

 執事は念を押すように言った。

「要は、この施設の親玉を倒せばいいわけだ。」

 ロッド中佐はそう言うと壁のある場所を目指し始めた。

「おい・・・・図はもう大丈夫なのか?」

 キースは端末に記された施設の図面を指さした。

「覚えた。長い時間失礼した。」

 ロッド中佐は壁のある一面を押した。

 押すとその一面はへこみ、通路が出てきた。

「うらやましい脳みそしてるな。」

「言っておくが、私について来るとしても、距離を置いた方がいいぞ。巻き込む可能性がある。」

 彼はそう言うと通路の先に消えた。





「何あの人・・・・」

 リリーは彼に好感を持っていないようだ。

「・・・・あの人は、悲しい人です。」

 執事は相変わらず中佐を擁護していた。

「でも、父親を殺した国と自分を謀殺しようとした国が手を組んでいるんだし歪んでも仕方ないよな・・・・」

 モーガンも相変わらず中佐を擁護していた。

「・・・・もっと複雑なんだろ・・・・」

 キースは何ともいえない表情をしていた。

「ハンプス少佐。彼にあまり突っかからないでください。」

 執事はきつい口調でキースに言った。

「悪い悪い。今まで軍で怖いイメージしか持ってなかったし、しかも向こうの方が地位が上だからな。その反動で突っかかりたくなるんだよ。」

 キースは笑いながら謝った。

「さっきハンプス少佐がロッド中佐に話していたことってなんのことだったんです?」

 リリーは二人のやり取りがいまいち掴めていない様だった。

 モーガンも頷いた。

「軽口叩き合っている感じではなかったけどね。キースさん中佐をあそこまで問い詰めるなんて度胸凄いですよ。」

「考えてみれば、あいつは年下だぞ。威圧感と恐怖が勝っているが、21なんてガキだ。名門のロッド家とレイモンド・ウィンクラー大将の御墨付きだから誰も突っかかってないけどな。」

 キースはそう言いながら施設の図面に目を通していた。

「ロッド家は落ち目だって有名だけど。」

 モーガンは言うとキースは頷いた。

「そうだな。だが、貴族の家に変わりはない。レイモンド大将は・・・あの無様だったが、情けない現総統の兄にあたる。レイモンド大将自体は干されて地球でほぼ隠居状態だが、名前の持つ力は侮れない。」

 キースは図面から顔を上げモーガンを手招きした。

「何です?キースさん」

 モーガンは呼ばれるままに寄った。

「手分けして覚えるぞ。お前も見ろ。」

 キースはそう言うとモーガンの頭を掴み、図面に顔を向けさせた。

「兄弟なら、不思議ですね。なんで、お兄さんのレイモンド大将はロッド中佐の味方の立場なのに、弟である総統は敵対する方に味方しているのか・・・・」

 リリーは考えるように言った。

「複雑なわけがあるのですよ・・・・・」

 執事はそう言うとポケットからカメラを取り出した。

 何も言わずに図面を見るキースとモーガンの方に歩み寄り

 カシャ

 ジー

「これはすぐに現像できるタイプです。持ってきてよかった。」

 カメラはシャッター音を上げるとすぐに現像を始める音を立て、写真を作成し始めた。

「・・・・・・・・」

 キースとモーガンは執事が写真を撮る様子を見て呆然としていた。









「見つけた・・・・母親とあの男にそっくりだ。」

 二人の子供にどこか不吉な響きを持った声がかけられた。

「・・・・あの・・誰?」

 その声に金髪の少女は怯えて隣の少年の腕を掴んだ。

 少女の隣の栗色の髪の少年は彼女を庇うように前に立った。

「誰だ・・・・・?」

 少年は声の元を見た。

「・・・・?」

 声の元は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに元の顔に戻った。

「レイラ・ヘッセ様。お父様がお呼びですよ。」

 声の主は男のようだ。さらに、彼の周りには同じような男がいる。

「・・・・ぱ・・・パパ?」

 レイラは栗色の髪の少年にしがみついた。

「お前ら・・・・ヘッセ総統の手の者か・・・・」

 栗色の髪の少年は綺麗な赤い瞳を歪ませて男たちを睨みつけた。

 その瞳男たちは一瞬ひるんだ。だが、構わず二人に近付いてきた。

「僕ちゃん。その子をこちらにお渡ししなさい。」

 男達は少年をよけさせようとした。



 どこかから轟音と爆発音が響いた。

「・・・なんだ?」

 男たちは困惑していた。

 集団の中の一人が先頭の男に駆け寄った。

「・・・・・顔を見られたようです。目的が掴まれると厄介なので消したようです。」

「そうか。では誤魔化すために軍施設を襲撃しておこう。」

 男の言葉に周りの者は頷いた。

「作戦・・・・変更。」

 そう男が呟くと辺りに轟音と爆発音が響いた。

 ドーン

 ボゴン

 爆発音は確かに近くにもあり何かが崩れ落ちる音も響いた。

 サイレンのような音、かすかだが悲鳴も響いた。

 砂埃を携えた焦げ臭いにおいが漂ってきた。

 栗色の髪の少年は男たちを見据えた。

「レイラ!!逃げるよ。」

 少年はレイラの手を取り走り出した。

「追え!!殺すなよ。」

 男たちは少年たちを追い始めた。

 少年たちが走る周囲は、砂埃と焦げ臭さ、瓦礫が散らばる空間だった。

「なにこれ」

 レイラは周りの景色に絶句した。

「こんなことをするなんて・・・・」

 少年は周りの景色を見ながら歯を食いしばった。

 民家があった一角は瓦礫の山と化し、悲鳴と鳴き声が響いていた。

 彼らの走る方向から近づいてくる人影があった。

 大人にしては小さく、足取りもおぼつかない人影だった。

「レスリー!!」

 少年は叫んだ。

「誰・・・?」

 レイラは誰だかわかっていないようだ。

 少年たちがレスリーと呼ばれた少年を呼び少し走るスピードが落ちた時

 ガガガガ

 燃える建物の一部が音を立てて崩れ始めた。

「クロス!!」

 レイラは叫びクロスを力強く押した。

 倒れた建物の一部はクロスが立っていたところに倒れた。

 クロスは倒れてくる建物の一部から逃げれたが、レイラとの間に燃える瓦礫があり、彼女の様子が見えない。

「クロス!!大丈夫!!」

 レイラの声が瓦礫の向こうから聞こえる。

「レイラ!!」

 クロスは叫んだ。だが、その一角が倒れたことで雪崩のように建物全体は崩れた。

「クロス!!とにかく逃げて!!」

 レスリーはクロスにおぼつかない足で走り寄り彼の手を掴んだ。

「レイラ!!」

 クロスは瓦礫の向こうのレイラを呼んだ。

「きゃあああ!!」

 向こうから悲鳴が響いた。

「レイラ!!放せ!!レスリー!!」

 クロスはレスリーの手を外そうと必死で腕を振った。

「クロス!!ここにいると死んでしまう。」

 レスリーはクロスを怒鳴るように言うと彼の手を引き瓦礫の山から逃げた。

 崩れる建物から何とか逃げた二人は瓦礫の向こうのレイラの元を目指した。

「レイラ・・・・レイラが・・・・」

 クロスは走りながらずっと呟いていた。

「クロス・・・・うっうっ・・」

 その様子を見てレスリーは涙目で何かを言おうかと迷っていたが嗚咽と息切れで満足に話せないでいた。

 瓦礫の向こう側に行くと、倒れているレイラがいた。

「レイラ!!」

 クロスは叫んだが、直ぐに顔色を変えた。

 レイラの周りには先ほどの男たちとそれを仕切る別の男がいた。

「やあ、レイラ・・・迎えに来たよ。」

 彼はレイラを抱き上げると連れ去ろうと歩み始めた。

「待て!!ロバート・ヘッセ!!!」

 クロスは叫んだ。

 その声にロバート・ヘッセと呼ばれた男は反応した。

「最近の子供はよその国の重鎮の顔も覚えるのだな・・・・」

 ロバート・ヘッセはクロス達の方向を見た。

「あいつは・・・」

 その顔を見てレスリーは目を見開いた。

「君は先ほどの少年か・・・」

 ロバート・ヘッセは思い出したように言った。

「レイラを返せ!!」

「私の娘だ。迎えに来て何が悪い?」

 ロバート・ヘッセは悪びれる様子もなく言った。

 その様子にクロスは歯を食いしばった。だが、それより恐ろしい表情をしていたのはレスリーだった。

「む・・・娘だって?・・・・お前は自分の娘を殺しているじゃないか!!」

 悲鳴と怒声のような声でレスリーは言った。

 その言葉にロバート・ヘッセは一瞬表情を曇らせた。

「・・・そうか。ではあの子は・・・」

 彼は悲しむ様子もなく頷いた。

 クロスはレスリーの言葉を聞き食いしばっていた歯から力が抜けていた。

「・・・・殺した・・・?」

 クロスは顎をがくがくさせて呟いた。

「私の娘はレイラ・・・この子ということになっている。名前だってヘッセと名乗っている。」

 ロバート・ヘッセは気にする様子もなく立ち去ろうとした。

「待て!!ロバート・ヘッセ!!」

 クロスはロバート・ヘッセに走り寄った。

 ロバート・ヘッセの周りにいる男たちが彼らの間に入った。

「返せ!!レイラを・・・・ユッタを・・・・・」

 子供のクロスが男たちに敵うはずもなくクロスは地面に倒された。

「私が避難したら、この辺も吹き飛ばせ。」

 ロバート・ヘッセは男たちに命令するように言った。

「僕も殺す気か・・・・?」

 クロスは赤い瞳を歪ませロバート・ヘッセを睨んだ。

「殺す・・・?君たちは不慮の事故に巻き込まれるんだ。」

 ロバート・ヘッセは言い捨てると歩き始めた。

「待て!!・・・・僕は・・・・」







「どうする・・・・警備システムが作用しても侵入者は足を止めない。」

 タナ・リードはモニターに映っている画像を見て叫んだ。

「さっきまでシステムが乗っ取られていたからわからなかったけど・・・結構来ているのね。カメラは作用してないの?」

 ラッシュ博士は慌てる様子もなく言った。

「カメラは破壊されている。侵入者は徹底的にカメラを壊しながら進んでいる。」

「落ち着きなさい。こちらにはハクト君がいるのよ。」

 ラッシュ博士は笑った。

「ニシハラ大尉だけでいいのか・・・もう我々には地連の軍も、ゼウス共和国の軍もない。」

 タナ・リードは薄々感じていた危機感を吐いた。

「ドールプログラムを掌握できれば、地球も火星も月も支配できるのよ。あなたの思うまま・・・」

「洗脳できないものはないんだな・・・」

 タナ・リードは確認するように訊いた。

「・・・・特殊な子達よ。厄介な子達。彼らを捕まえようとしているのはモルモットにするだけじゃないのよ。でも、殺しちゃダメよ。侵入者が何者か全てわかれば皆殺しシステムでいけるのに面倒だわ。」

「・・・・私もロバート君のように父親だよと言えば慕ってくれるかな・・・?」

 タナ・リードは笑った。

「ああ、レイラちゃんね。あの子の場合は母親がヘッセ総統に心酔していたから別でしょ?」

 ラッシュ博士は鼻で笑った。

「レイラちゃんの態度を見ている父を慕う娘のひたむきさが伝わって何とも言えない気持ちになったな。私なら娘をああいう使い方はしないだろうがな。」

 その言葉にソフィは微笑んだ。







「・・・・・嫌な電波だ。ドールパイロットの気配もちらほらする・・・・」

 細長い廊下を走る一人の男がいた。

 彼に向かって走ってくる病人のような服装をした人々がいた。

 彼らは皆目が血走っていた。

「かわいそうな者たちだ・・・・だが、お前らでなくとも、お前らの仲間が・・・・」

 男はそう言うと向かってくる集団に走り出した。

 男に向かって腕を振るい、彼を殴り飛ばそうとした。

 彼はその者の胸元に入り両腕を掴み他の向かってくる者たちに振り回し倒した。

 構わずに向かってくる集団に男は地面を強く蹴り、壁を蹴り集団の頭上に浮いた。

 集団の中の一人の頭に着地し、重みで倒れる前に他の者の顎を狙い確実な蹴りを入れていった。

 集団に立ち向かわれながらも男は臆することなく、更に有利に襲撃を受け流し反撃していた。

 男は腰から銃を取り出したと思ったら、集団ではなく違う方向に撃ち込んだ。

 ガシャン

 音を立てて壊れたのは監視カメラのようだ。

「・・・・恐怖して待つがいい・・・」

 男は口を歪ませて言った。







「おい・・・・!!おい!!」

 コウヤの声で我に返った。

「あ・・・コウヤか、悪いな。思いのほか気分が悪くてな。」

 影はそう言うと起き上がった。

「わざわざサブドールから出してくれたのか、ありがとな。」

「いいって。大丈夫か?・・・・頭。」

 コウヤは心配そうに影を見た。

「なんか腹立つ言い方だが、心配してくれてるんだな。大丈夫だ。」

 影はおちょくるように笑うと起き上がった。

「大丈夫か?」

 二人の傍にミゲルを押さえつけたディアが歩いてきた。

「くそ・・・・放せ!!」

 ミゲルは暴れようとしていたが、ディアに力で敵わないようで何もできないでいた。

「ミゲル君。この際本名とか関係ない。ラッシュ博士のところに案内しろ。」

 ディアは暴れるミゲルを地面に叩きつけた。

「いだっ!!・・・・乱暴な女だ。」

 ミゲルは恨めしそうにディアを見た。

「俺も・・・・キャメロンのところに案内してくれ。彼女と話したい。」

 コウヤはミゲル真っすぐ見て頼むように言った。

「・・・・どうせ、ディア・アスールはモルモットになるんだ。どうせならお前等二人も一緒に・・・・」

 そう言いかけたミゲルの顔を影が掴んだ。

「が!!」

 驚きと痛みに息を詰まらせミゲルは影を睨んだ。

「・・・・うるさい。立場を考えろ。」

 影はそう言うとミゲルを抱え上げた。

「小柄なのによく持ち上げれるな。」

 ディアが影の力に感心して言った。

「こうした方が早い。近くに行けばディアとコウヤでニシハラ大尉たちの場所は察知できるだろ?途中まで案内させよう。」

 そう言うと影は先導するつもりらしく二人の前を歩いた。









 ガシャン

「・・・・これで全部かな・・・?」

 シンタロウはあたりを見回し監視カメラを撃ちぬいていた。

 イジーは人以外を撃っているシンタロウをみて安心していた。

「イジーは怪我無い?」

「大丈夫。そっちは?」

「俺は大丈夫。」

 シンタロウそう言うと、廊下の入り口に頭が挟まっているサブドールのコックピットを覗き込んだ。

「弾とかはないな。武器はなるべく持たせないようにしているのか。」

 諦めたように言うと歩き出した。

「警備が来ると思っていたけど、来ないわね。」

 イジーは静まり返った廊下を見て不気味そうに言った。

「何かが用意されているか・・・・他のところにも警備を割いているから手が回らないかだな。」

 しばらく廊下を歩くと病室らしき部屋がいくつか見えてきた。

 病室の入り口には検体ナンバーと名前が表札のようについていた。

「なるほど・・・・あのカプセルに入る前はここで生活しているのか・・・・。ここにいる間は名前はあるんだな。」

 部屋を覗き込むシンタロウは納得したように言った。

「でも、いずれは血走った目で操られる警備兵のようになるのね。」

「・・・・そうだな。サブドールに乗っていたのはここのやつらなんじゃないか?カプセルのやつらは・・・だいたい俺が殺してしまったから、ここから出て来ていたと考えると妥当だな。」

「・・・・そうね。部屋に武器は特にないわね。」

「武器は管理されていたみたいだな。俺らの武器も落ちているのではくて、持っている奴から取ったから、普段は丸腰なんだな。」

 シンタロウは納得したようだ。

 用心深く病室を覗き込む。監視カメラを見つけるたびに二人は撃ちぬいた。

「イジー。この先に研究員用の部屋があるかもしれない。」

 シンタロウは廊下の先にあるロックのかかった扉を指さして言った。

「本当だ。でも、ロックがあるから入れないわね。」

 イジーは扉を見てがっかりした。

「仕方ない。ないとは思うけど、あちこちの病室に何か手掛かりがないか調べよう。」

 シンタロウはそう言うと銃を構えながら慎重に別方向に進み始めた。

「シンタロウ。こっちの廊下の壁・・・・爪でこすった跡があるわ。」

「本当だ。抗ったのか・・・・きっとそうだよな。」

 シンタロウは撃った警備兵のことを思い出し辛そうな顔をした。だが、直ぐに冷静な表情に戻った。

「・・・・とにかくこれだけ広い施設だもの。何かあるわよ。入り口だって他にあるだろうし」

 イジーはシンタロウの表情を見て思わず辛くなってしまい、元気づけるような口調で言った。

「そうだな。病室とベッドの数に対して、俺らに向かってきたサブドールは少ない。だが、病室は、もぬけの殻だ。他のところに回されたんだと考えるのが妥当だな。」

 シンタロウはそう言うとまた病室を覗き込み、監視カメラを探し撃ち始めた。

 イジーはシンタロウの気が紛れたように思えて安心した。彼女もシンタロウに続き周りを見渡しながら慎重に進んだ。

 シンタロウが立ち止まった。

「ここの警備兵たちは・・・・頭に機械が埋め込まれているんだよな・・・・病室にいるってことは、その埋め込み手術して間もないってことだよな・・・他に怪我は無かった。」

「そうね。不安定だから武器になるようなものが無いのね。でも、どうしたの?」

 シンタロウは顔が青い。

「・・・・・嘘だろ・・・・」

 シンタロウの様子が今までとあきらかに違い、おかしいことにイジーは気付いた。

「どうしたのシンタロウ?」

 イジーはシンタロウの見ているものを見た。



 検体No,6375 アリア・スーン



「アリア・・・・」

 シンタロウの様子を見てイジーは彼が以前言っていた友人のことだと思った。

「この人・・・あなたの友達なの?」

 イジーは恐る恐る訊いた。

「・・・・・ああ。そうか、コウヤも俺も死んだら・・・・アリアには何もなくなるもんな・・・」

 シンタロウは納得したようだが悲しそうだった。

「どうしようイジー・・・・」

 シンタロウは縋りつくようにイジーを見た。

「俺・・・・心から悲しいのに、悲しいより、アリアを撃てるか考えている。」

 そのシンタロウを見たイジーは彼が徹底したために、自分を押し殺し過ぎていたことを痛いほど感じた。

「・・・・でも、俺言ったもんな。・・・・悲しむのはすべてが終わってからだって・・・・」

 そう言うとシンタロウは涙一つ見せずに歩き始めた。

「・・・・撃てるの?」

 イジーは思わず訊いてしまった。これは、訊いちゃいけないことだと思いながらも口が開いてしまった。

「・・・・・撃てる。でも、撃ちたくない。」

 シンタロウは淡々と言った。

 バチン

 イジーは思いっきりシンタロウをビンタした。

「ブホッ・・・・・」

 不意な攻撃にシンタロウは呻いた。

「ばか!!撃てないって言いなさいよ。」

「え・・・・でも、徹底しないと・・・」

「あんたが壊れるでしょ!!この子をあんたが殺したらあんた何が残るの!?親友のために生きるんでしょ!!」

 イジーは人がいないことをいいことに大声で言った。

「イジー!!声!!声!!」

 シンタロウが大慌てでイジーに黙るように言った。

「・・・・私が撃つ。もし向かってきたらよ。」

 イジーは胸を張って言った。

「・・・・イジー?」

 シンタロウはきょとんとしていた。

「少しでも心を軽くしなさい。ただでさえ重いもの引きずっているんだから・・・・・」

 イジーはそう言うってシンタロウの銃を握る手を握った。

「ありがとう。イジー。」

 イジーは思わず照れた。自分でも不思議なほど思い切ったことをした。

「・・・・ねえ、シンタロウ。」

「なんだい?」

「すべてが終わったら悲しみましょう。思う存分自分の手が汚いって・・・嘆きましょう。」

「そうだな。・・・・俺も、死んだ両親に謝らないといけない。」

「その時にさ・・・・一緒に悲しんで嘆いてくれる?」

「俺はイジーが思っているよりも、ずっと汚い人間だ。」

 シンタロウはイジーを突き放すように呟くと笑った。

「・・・私に偉そうに憎しみレクチャーしたんだから・・・偉そうに嘆き方もレクチャーしなさいよ・・・」

 イジーはシンタロウの頬を抓った。

「痛い痛い!!わかったから!!わかったから!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...