あやとり

近江由

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六本の糸~収束作戦編~

光る剣

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 ドールが出て来てからは全く登場する機会が無くなったが、自分が時代を作ったものでもある。ドール格納庫の奥に行くと思った通りだった。

 一人の男が立っていた。



 時代遅れのものを仕舞う倉庫の前で、時代遅れな武器を掲げる。

 銀色の美しい装飾がされた凶器。



「やあ、レイモンド。」

 学校卒業の時にもらった飾り物のような剣。



「タナ。余興のつもりか?」

 レイモンドが手に取るのは、前に立つ男タナ・リードの持つものと同じものだ。

 銀色の美しい装飾がされた凶器。



「時代が変わってもお前は鍛錬を怠っていなかったのだな。」

 レイモンドは蔑む様な目を向けながらも目の前の男に感心していた。



「ああ、昔を思い出すではないか・・・・軍学校でお前と私は同期だった。一つ下にお前の弟のライアンがいた。」

「昔話をするためか?」

 レイモンドは剣を掲げ、切先をリード氏に向けた。



「今しかできないだろ?」

 リード氏もレイモンドと同じように切先をレイモンドに向けた。



「成績は私の方がよかったな。剣術など実技全般はお前が上だった。」



「別に共に悪さをしたような思い出もない。成績がトップだったお前はよく他人をうまく使って自分の能力を誇示していたな。有象無象というのにふさわしい集団だった。」

 先に踏み出したのはリード氏だった。



 金属がぶつかる音。

 直線的に切先で突くのをレイモンドは剣の側面で絡めるように弾く。

 弾かれた剣の軌道を手首の動きで修正し、横から斬り付ける。

 レイモンドは剣をたてて、刃を向けて受け止めた。



「そんな使い方をしていると、手首を痛めるぞ。」

 レイモンドはリード氏を見て、講評するように言った。



「成績はよくても、軍に入っての訓練は悲惨だった。実際に軍を動かしたとき、お前に敵わなかった。」

 リード氏は剣同士を弾くようにし、レイモンドと距離を取った。



「お前は優秀だっただろ?私に敵わなくても気にすることはないだろ。」

 レイモンドは呆れたようにリード氏を見た。



「・・・・人は全員がお前のように強くない。」

 リード氏は初めて、人間的な目でレイモンドを睨んだ。



「ライアンのことか?」



「ライアンだけでない。私もだ。」

 リード氏は再びレイモンドに斬りかかった。

 金属がぶつかり、再び弾ける音だ。



「何故軍に行った後もあの男とつるんだ?お前はもっと違う世界を見るべきだった。」

 リード氏は剣を弾かれながらも、足を組み替えるように軸足を替え、バランスを崩さずにいた。



「レイの話か?お前があいつの話をするな。」

 レイモンドは再び切先をリード氏に向けた。



「・・・・レイ・ディ・ロッドは生まれる時代を間違えた。優しいだけの没落貴族の男など、この時代に不要だ。そして、お前はこの時代にふさわしい者だ。」

 リード氏は向けられている剣の切先から辿るようにレイモンドを見た。



「そうだ。私はレイに未来を見た。私は嫌だったんだろう。自分が。自分の生き方がな。」



「お前に憧れたライアンはだからロッド侯爵を嫌った。」

 リード氏は突進するようにレイモンドに向かってきた。



 金属がぶつかる音。擦れてけん制し合う音。

 リード氏の剣を止め、そのまま刃で押し合う。



「憧れ・・・・?」

 レイモンドは目を見開いた。



「・・・・そこまで見えていなかったのか?お前は、どこまで愚かだ?」

 リード氏はレイモンドを睨んだ。

「人は皆お前の様に強くない。私も徒党を組むのは弱いからだ。」

 リード氏は自嘲的に笑った。



「タナ。そんなことよくわかっている。お前は、弱いからライアンに近付いた。」



「私のことをそこまでわかっていながら、弟のことを分かっていないのは、ライアンが可哀そうだな。」

 リード氏はレイモンドを馬鹿にするようなことを言いながらも穏やかそうな表情だ。



「お前は何故そこまで私に突っかかる?ライアンを餌にして私に突っかかるのは何故だ?」

 レイモンドは剣に力を入れた。若干レイモンドが押している。



「お前もゼウス共和国の民衆と変わらん。ロバート・ヘッセに熱狂していた者たちの様にお前はロッド侯爵に心酔し、更には友情という馬鹿馬鹿しいもので魅了される。私たちに友情は必要ないものだ。」



「軍の人間ではない。彼は親友だ。お前は誰にも心を開いたことが無いからだ。見てみろ。コウヤ君たちを。彼らは友情という絆で再会し、今手を取り合い共に問題に立ち向かっている。お前の残した問題のな。」

 レイモンドの言葉にリード氏は笑った。



「彼らを繋げているのはプログラムだ。友情などという寒いものが無くプログラムだけでも彼らは手を取る。分かるか?私たちに友情は必要ない。必要なのは利害関係だ。幼いままでいるお前等と違う。だから私はロバートと手を組んだ。」

 リード氏は紳士的な表情を崩し、唾を飛ばし叫んだ。



「わからん・・・何故ライアンをつるむ?あいつは、お前と利害が一致するような男か?」



「・・・ははははははははは」

 リード氏は声をあげて嗤った。



「そうだよ。レイモンド。あの男に利用価値は傀儡以外ない。兄であるお前はそれはよくわかっているんだな。だが、私とライアンは・・・・共通点があった。」

 リード氏は剣に力を込めた。レイモンドは込められた力を逃がすために一歩下がった。



「共通点だと?傀儡ならいい奴がいただろうに、あいつを取り込むことで、切れない血の繋がりがあるかぎり、否応がなく私との接点を持つことになる。お前を警戒する存在が近くにいるのは好ましくないはずだ。」

 レイモンドの言葉にリード氏は穏やかに笑った。剣に込める力が緩んだ。



「・・・・そうだな。」

 レイモンドはその隙を逃さなかった。



 リード氏の剣を弾き、体を捻らせ斬りかかった。



 弾き出された剣は上空に舞い、銀の刃は光を反射させる。



 スローモーションのようにリード氏は両手を広げた。その中に吸い込まれるようにレイモンドは剣を振り下げた。



 銀の刃は油を含んだ水音を立てて血が飛び散らせた。



 リード氏は崩れ落ちるようにその場に倒れた。

「・・・・もう少し深くても良かったものを・・・・」

 リード氏は恨めしそうにレイモンドを見た。



「手当てをすれば助かる。お前には正当な裁きが下ることが必要だ。このまま楽に死なせるものか。」

 レイモンドは手に持っていた剣についた血をゆっくりと拭っていた。



「ははは・・・・レイモンド。ライアンは戦闘機に乗って出て行った。」

 リード氏は痛みに顔を顰めながら言った。



「お前があいつの捨て駒になったのか?」

 レイモンドは驚いた顔をした。



「・・・・言っただろ?私とライアンは共通点がある。」

 リード氏は穏やかに笑っていた。















 宇宙は混乱にあった。

 白い戦艦の周りには地連所属のドール達がいた。

 そのドール達は白い戦艦を襲うわけでなく、ただ傍について漂っている。どうやら守っているようだ。

 白い戦艦の後ろには距離を置いて別の戦艦がある。その戦艦の傍にもドールが漂っていた。

 その戦艦フィーネと傍のドールは緊張の中にいた。



「ギリギリまでニシハラ大尉には操舵室にいてもらう。」

 レスリーはモーガンの横に立つハクトを見た。



「構わない。いや、そうした方がいい。」

 ハクトは頷くとモニターを睨んだ。



「ムラサメ博士側の戦艦だけならいいが・・・・ネイトラル側も入ってくるとなると護らなければならない。あの戦艦の危険性はネイトラルに言っているのか?」

 レスリーは呆れたようにため息をついていた。表情は逼迫したものだった。



「言っている。少しでも襲う気を削ごうと思ったが、ネイトラルの戦艦は思ったより厄介だ。ドールパイロットはこちらに圧倒的に劣るが・・・・私がいた軍だ。」

 ディアは自嘲的に言った。



「軍備は整っているか・・・当然だな。」

 クロスは腕を組んで考え込んでいた。



「クロス、ディア。二人は出撃準備をしてくれ。俺も様子がつかめたらすぐに出れるようにする。」

 ハクトは考え込むクロスとディアに言った。



 三人以外はもうすでにドールの準備に入っているようだ。



「もしかしたら、白い戦艦は月の防衛ラインまでいけないかもしれない。ネイトラルの軍勢が思ったよりも多い。しかも、長距離の砲撃が可能な戦艦だと思う。フィーネじゃあ厄介だ。誰かが乗り込む必要がある。」

 ハクトは頭を抱えて、ちらりとクロスを見た。



「そうだな・・・・私たちが出るしかない。」

 クロスは頷いた。



「ハンプス少佐達も充分やってくれると思うが、数が多い。」

 ディアも頷いた。



「・・・・忘れるなよ。隊長の命令を守れよ。」

 レスリーは三人を見て言った。





 



 ドールの格納庫ではレイラとユイとコウヤ、リオとカカとマックスがいた。

 リオとカカは相当堪えているようだ。いつものん気なやり取りをしているのに、今は何も言う気が起きないようだ。



「仕事しろ。」

 マックスなりにリオとカカのことを気にかけているようだ。



「仕事今ないです。」

「怪我してくれますか?」

 リオとカカは変わらないような反応だが、顔色が悪い。



「きっとネイトラルとの戦いは避けられない。白い戦艦を守りながら戦うのは大変ね。」

 レイラは敢えてネイトラルとの戦いに触れているようだ。



「・・・・私の感覚だけど、ネイトラルの軍勢は多いよ。テイリーさんの言った通り、地連ごと潰すつもりだと思う。」

 ユイは歯を食いしばっていた。



「今出ているキースさんたちでは・・・」

 コウヤはレイラとユイを見た。



「無理だ。彼らを殺すつもりか?」

 レイラは断言した。



「うん。数が多いのもあるけど、白い戦艦に洗脳されたドールに襲われることも考慮しないといけない。」

 ユイもレイラに同意した。



 戦艦が進んでいるのがよくわかる。

 皮肉なことに敵の気配で進んだ距離を測っている。








 



 白い戦艦の周りを漂うドールに変化はない。

『こっち側に来ないようだし・・・・今は大丈夫そうだ。』

 ジョウは安心したのか、気が抜けたように息を吐いた。



「向こうは正直コウヤの乗っているフィーネを潰すつもりはないはずだ。あいつらの狙いは月だ。今はまだ俺たちは様子を見ているだけでいいんだ。」

 キースは緊張していた。



『ネイトラルとの戦いになるとは思っていなかったですね。ずっと協力してもらっていたイメージですから。』

 シンタロウは、緊張はしていないが、気も緩めていないようだ。



「そうだな。なあ、シンタロウ。ネイトラルの軍が・・・・」



『襲ってきたら撃ちますよ。確かにあっちの言い分は分かりますよ。巻き込まれた形だと言いたいでしょうね。』

 シンタロウは寛容そうなことを言いながらも口調に変化はなかった。



『はあ?俺は分からんな。』

 異を唱えたのはジョウだ。

『ネイトラルは潰そうと思えばいつでもできたということだ。それをしなかったのは、自分たちの利を見極めていたからだ。アスール財団なんかもうほぼ無力だ。恩恵にあずかっていたのに、やばくなったら棄てる。第三者のふりをしてけんかの仲裁に入っていたが、問題が大きくなったら両者をボコって逃げるようなもんだ。』

 ジョウは明らかに苛立っていた。



「わかりやすい例えだな。」

 キースは思わず笑った。



『そう聞くと腹立ってきますね。』

 シンタロウはあからさまに舌打ちをした。



「だいぶ進んだな・・・・もうすぐネイトラルの軍勢と小競り合いになるな。」

 キースは気合を入れるように息を吸った。







 棚から牡丹餅か、漁夫の利か・・・・

「何ていえばいいんだろう?」

 コウヤは苛立ちを抑えるためにひたすら蔑む言葉を探していた。



「対岸の火事・・・・」

 クロスが呟いた。

「それって?」

 ユイは首を傾げた。



「燃えているのを見て大変だなと言う・・・・傍観していることだ。」

 クロスは片頬を吊り上げて笑った。



「悪いことしている気分・・・・ネイトラルに切り離されて初めて、私たちって一般市民から見たら実感のない存在なんだと思った。」

 レイラは悲しそうに笑った。



「そうだろうな。だが、実感がなくても私たちは存在している。そして、それと同じく危険も存在している。」

 ディアもクロスと同じような笑い方をしていた。



「・・・・もっと大げさに戦闘員を増員すればいいと思っていた。カワカミ博士やレイモンドさんが何でこんな少人数で当たるのは、少し引っかかっていた。今いるメンバーだけでなく本部とかからも増員して当たればいいのにって・・・・」

 コウヤは傍にいる親友たちの顔を見た。



 間違いなく彼らは味方だ。



「・・・・あの二人は・・・・人を信用できない。裏切られたり、失ったりした人たちだ。確かな味方しか手元に置きたくないのだろう。」

 僕もそうだ・・・と付け加えてクロスは悲しそうに呟いた。



「俺は味方だ。みんなそうだ。」

 コウヤはクロスの表情を見て思わず叫んだ。



 その様子を見てユイが笑い出した。

「そんなこと分かっているよ。」



「ちょっとユイ!!何でそんなに笑うの?俺変なこと言った?」

 コウヤは笑い転げるユイを見て恥ずかしくなっていた。



 二人の様子を見てクロスとレイラとディアは微笑んでいた。



 前を行く白い戦艦の気配の先に淀みのような濁りのような不純物が漂うような気配が出てきた。

 明確な寒気や恨み、尖った刃物のような気配ではなく、錆びて刃こぼれした刃や鈍器、挙句には粘り付く水あめのような気配を漂わせていた。



「・・・・・来た。」

 察知したとたんにコウヤ達の顔色が変わった。











「来たか・・・・・シンタロウ、ジョウさん。来た。ネイトラルの軍勢だ。」



 キースは白い戦艦から横に距離を置くように逸れて行った。



『ハンプス少佐。俺たちはきっとフィーネから離れると狙撃されますよ。』

 シンタロウはキースの行動を止めるように言った。



「バカ。この戦艦が間に入っていたら通信ができない。ネイトラルに止めるように言う。いたら危険なうえに邪魔になる。」

 キースは通信機器を扱い、先に見える軍勢への通信を試みた。



『ハンプス少佐。そんな余裕はないと思います。』

 シンタロウもキース同様にフィーネから離れた。



「バカ!!お前は大人しくそこにい・・・」



『そんなことしていたら白い戦艦もフィーネも沈められます。』

 シンタロウはレーザー砲を構えた。



 そして、ドールの動力を弱め。無重力に身を任せるように脱力した。



『・・・・同感だ。』

 ジョウもキース達と同様にフィーネから離れた。そして、シンタロウと同じように無重力に漂うようにした。





 白い戦艦の先で閃光が見えた。

 それを合図のように三人は飛び出した。









「来た。前触れなしに砲撃しやがった。」

 レスリーは前方にいるネイトラルの軍勢に舌打ちした。



「敵だから仕方ない。」

 ハクトは目を細めてモニターの向こうの景色を見ていた。



「ハンプス少佐達が飛び出しました。いいんですか?」

 リリーはハクトを見た。



「・・・・ああ。白い戦艦を守る必要があるのは確かだ。コウ達もすぐに出さないといけない。」

 ハクトは自分に頷くように言って、廊下への扉に歩きだした。



「ニシハラ大尉。」

 レスリーはハクトを呼び止めた。



「俺との通信を切らないでください。フィーネは積極的に攻撃しないでください。」

 ハクトは、それ以上は何も言うつもりがない様で、そのまま廊下に消えて行った。



「・・・・おい、脱出用の船を用意しておけ。」

 ハクトがいなくなったのを確認してからレスリーはマックスとリオ、カカに言った。



「・・・脱出用って・・・・レスリーさん。」

 マックスは青い顔をした。



「念には念を入れてだ。」

 レスリーはただモニターを見ていた。



『艦長。格納庫のコウヤです。今、全員出る準備が整いました。』

 格納庫からの通信が入った。



「ルーカスです。ニシハラ大尉もそちらに向かっています。出る際には気を付けてください。」

 イジーは淡々と言うとレスリーを見た。



「すまないイジー。コウヤ。無理をするな。全員だ。」

 レスリーは急いでコウヤの通信に答えた。その様子を見てマックスは険しい表情をしていた。

 レスリーが艦長の席に落ち着いたのを確認してマックスは操舵室から出て行った。



「艦長・・・・いえ、レスリーさん。マックスさんはあなたのことを心配しているんですよ。」

 イジーはマックスが出て行った扉の先を横目で見てレスリーに言った。



「そうだろうな。だが、俺はあいつの家族でも兄弟でもない。お互いただの協力者だ。」

 レスリーは自嘲するように言った。



「それは・・・・」

 リリーが抗議するように席から立ち上がろうとしたとき



「だから、あいつは俺に引きずられることはあってはいけないんだ・・・・・」

 レスリーは口元に諦めるような笑みを浮かべていた。







 



 ネイトラルの軍勢は思いのほか多かった。いや、予想通りと言っていいだろう。

 戦艦6隻とそれに付属するドール部隊がいくつか



「・・・アリのような軍勢だ。」

 第一印象を口にした途端通信の向こうでジョウが笑った。



『アリか・・・・だが、さすがはネイトラルだ。ドールも戦艦も最新式だ。』



「怖いですか?ジョウさん。」



『怖いぞ。お互い様だろ?』

 シンタロウの問いにジョウは笑っていた。



「そうですね。・・・・ジョウさん。ハンプス少佐の通信が失敗したら、俺は戦艦から沈めます。助言はありますか?」

 シンタロウは視界に戦艦とドール部隊、そして神経は白い戦艦に向いていた。



『戦艦でどこを狙うつもりだ?』



「一番効力があるのは、操舵室です。ですが、あとあとのことを考えるとそれは出来ないので、砲台と、あのガス噴射口ですね。あれを抑えれば動きは止まります。」



『その見立ては正しい。俺はお前の補助でもするか?』



「いえ、白い戦艦の方を気にしてください。あと、フィーネも・・・・・」

 シンタロウの気がフィーネに向きかけた時



『おい!!』

 キースの叫び声が突如入ってきた。



 シンタロウとジョウは急いでその場を離れた。



 二人がいた宙域にレーザー砲が放たれていた。そして、そこにいくつかのドールが向かってきている。



『ハンプス少佐。うまくいかなかったんだな。』

 ジョウは半笑いだろうが、冷たく言った。



『ああ、変な大義名分で、俺らも敵だと言われたさ。』

 キースはケラケラと笑った。



『じゃあ、敵と思われているのなら、俺らも敵と思わないと申し訳ない。』

 シンタロウは避けた勢いを殺さないまま銃だけ構えた。



『向こうは、見てみろ。ドール用の剣だ。レーザータイプの剣だから切られたら一発で終わりだ。』

 キースは向かってくるドールを見て言った。



『最新式に手を加えてやがる。カワカミ博士が銃の装備に関してロックをかけていた理由がよくわかる。』

 ジョウはシンタロウやキースとは違う方向からネイトラルの軍勢に向かった。



 照準の合わせ方も慣れてきた。ドールが慣れるという感覚がよくわかる。人間の感覚にここまで合わせられる兵器にまでできるとは恐ろしい。と考えながらも必要なものと結論づけて引き金に指をかける。ドールを操作しての作業だが、神経接続をしているせいか緊張もそのままドールに反映される。

 ふと、コックピットや操舵室を狙えばいいのにと思ったが、あとの処理をする人に申し訳ないのと、彼らも被害者だと考えて狙いをずらした。



 直線上に来たなら仕方ないが、なるべく殺したくないな。



 と考えてすぐに引き金を引いた。

 シンタロウの撃ったレーザー砲は向かってくるドールが持っている武器に直撃した。衝撃にドールが揺らぎ、隊列を組んでいた他のドールを巻き込む。

 おおよそ数秒だ。その隙を見逃さずにキースは敵ドール隊に突っ込んだ。



 内部に入れば下手に動けない。あちらはシュミュレーションばかりで実戦経験はないだろう。武器が強力なほど巻き込む恐れもあり、力を奮えない。

 動きの精密さや、素早さは一般兵がキースに敵うはずもない。



 そして、シンタロウやジョウにも敵うはずもない。

 キースの後に続くようにシンタロウも突っ込んだ。シンタロウによって隊列を崩され、キースによって混乱に陥ったドール隊はシンタロウが向かってくる数十秒の時間でも態勢を立て直せなかった。



「・・・いいもん持っているな。」

 シンタロウの目は彼らの持つレーザーの剣に向いていた。



『二人ともそこを退けろ!!』

 ジョウが叫んだ。



 その声が届くと同時に寒気のある鋭い気配が風の様に吹いてきた。

 キースとシンタロウは近くにいるドールを踏み台にする形でその宙域を飛び出した。



 二人が避けるとすぐにレーザー砲が放たれた。白い戦艦からだ。



 その場にいたドール隊は数体を残して塵になった。



『シンタロウ。』



「はい?・・・・おっと。」

 キースはシンタロウに向かっておそらくドール隊からぶん取ったのであろうレーザーの剣を投げ渡した。



「ありがとうございます。」

 シンタロウは受け取ると使えるか確認した。



『これなら、レーザー砲をある程度軌道をずらせると思う。ネイトラルの部隊にそんな芸当は出来ないと思うが、お前ならできる。』

 キースはそう言うと今度は白い戦艦に向いた。



「ハンプス少佐。この砲撃を受けてネイトラルは戦艦戦に持ってくると思います。」

 シンタロウはチラリとネイトラルの戦艦部隊を見た。

 案の定、砲撃準備に入っていた。



『俺とジョウさんで砲台を潰す。お前は万一飛んできた砲撃を逸らせ。』

 キースは先に向かっているジョウの後を追った。



「わかりました。」

 シンタロウは白い戦艦とネイトラルの軍勢両方を見られる位置を定まった動きを避けて飛んだ。



「・・・・・やばいな。」

 白い戦艦も砲撃の準備に入っていた。

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