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六本の糸~収束作戦編~
適任
しおりを挟むその宙域は地獄のようだった。
飛び出したとき、白い戦艦が絶え間なく砲撃をしていた。
砲台が360度にわたって設置されており、機体の上下にもある。
対するネイトラルの軍勢は、ドール部隊は絶望的だ。
一目見て夥しい死が想像できた。
「・・・・うっ」
生々しい感覚がこみ上げてきた。
『・・・・ひどいな。ネイトラルには引いてもらった方がいい。』
クロスはため息をつきながら言った。
『聞いてくれるはずない。ネイトラルと白い戦艦両方を戦闘不能にする必要がある。』
ディアは考え込んでいた。
『とにかく私たちは事態を把握と、この白い戦艦を止める。』
レイラは二人を叱咤するように叫んだ。
『コウ。無理しないで。・・・おそらくこういう現場にあまり出たことが無いんだと思う。』
ユイはコウヤを気遣うように優しく言った。
「いや、大丈夫。」
コウヤは慌てて首を振った。
『ユイ。コウをあまり甘やかすな。この男が止まると私たちは何もできない。』
レイラはユイに厳しい口調で言った。
『そうだ。コウも・・・・お前は目を瞑って周りを誤魔化してでも行く必要がある。』
ディアはコウヤに厳しい口調で言った。
「わかっている。」
コウヤは強く肯定するように叫んだ。
『4人とも、味方は皆生きている。ハンプス少佐もジョウさんもシンタロウ君もな。ネイトラルの軍勢はあの3人に任せよう。私たちは白い戦艦の砲台を破壊する。』
クロスはコウヤ達のやり取りが落ち着いたのを見て切り出した。
『わかった。だが、近付くと洗脳されるんだろう?』
ディアは警戒をしていた。
『・・・・解けばいい。そうだよ。誰か、プログラム内に入って・・・・それができればいいんだよ。』
コウヤは叫ぶように言った。
『状況が違う。この前は電波が向かっていた。今回は・・・・一定距離に近付く必要がある。』
ディアはそうだろうとクロスに確認した。
『そうだ。ムラサメ博士が対策を何もしていないとは思えない。』
『定位置にい続けさせる必要がある。その間誰が守るの?』
クロスとレイラはコウヤの提案に否定的だった。
『私だね。』
声を挙げたのはユイだった。
「え?ユイが・・・・」
コウヤはなぜか急に不安になった。
『ひどいよコウ。コウはレイラやディアやクロスは力強く思っているくせに私は弱いって思っているんだね。』
コウヤの口調にユイが拗ねた。
『出来るか?』
『クロス。私はずっと実験施設にいたんだよ。洗脳に関しては一番経験がある。』
ユイはクロスの問いに自信ありげに答えた。
「ユイ。」
『その間私を守るんだよ。3人とも!!』
ユイは大げさに笑いながら言った。
『わかった。まずくなったらすぐに切り上げるんだ。』
ディアは頷くように言うとユイの後ろに付いた。
『コウ。ユイの近くにディアを置いて、私とクロスとあんたは周囲の警戒よ。』
レイラは苛立ちを滲ませながら言った。
『わかった。行くぞ。コウ。しっかりしろ隊長代理!!』
クロスはコウヤを叱責してすぐさま飛び立った。
『お願いね。コウ。』
ユイはコウヤの背中を押すように言った。
「・・・・わかった。」
コウヤは急いでクロスの後を追った。
ジージー
ドール内で別の回線から通信が入った。コウヤは一瞬誰だかわからなかったが、繋がっている通信の向こうでクロスとレイラが笑っていた。
『コウヤ。俺だ。クロスもレイラとも通信を繋げている。』
先ほど別れたばかりだったが、かなり離れた気がする。
「シンタロウ。」
コウヤは名前を言って安心した。
『コウノ准尉。通信を試みたのはどういう心境だ?』
クロスはおそらく笑顔であるだろう。声に笑みが含まれていた。
『ネイトラルのドール部隊について連絡事項がある。レーザータイプの剣を持っている。危険だが、とても使える武器だ。俺ももう3本ほど使わせてもらっている。あと、ネイトラルのドールは実戦慣れしていない。剣の外見についてデーターを送るから漂ってきたら使うといい。』
シンタロウの言った通り写真のようなデーターがコウヤに届いた。
『ありがたい。・・・・悪いな。』
クロスも確認したようだ。声には考え込むような、少しの罪悪感があった。
『ありがとう。・・・・あまり無理はするな。』
レイラはシンタロウを労った。レイラの声にも罪悪感があった。
『その言葉はそのまま返します。』
シンタロウは笑いながら言った。
レイラとクロスの声に含まれていた罪悪感について考えたが、コウヤには思い浮かばなかった。
「ありがとう。シンタロウ。」
コウヤは二人と同じようにシンタロウに礼を言った。
『・・・・・また会おう。』
シンタロウはそう言うと通信を切った。
白い戦艦の一部分の砲台を狙い、レーザーを掠らせて使用不能にした。
その一辺に向かい、ディアはユイの背後に付き、周りを見ていた。
「・・・・混沌か・・・・混乱だ。」
見つめる景色は光が生まれ、消えて、破裂するように何かが散っていた。
ネイトラル、地連の洗脳された補助部隊。ムラサメ博士の乗っている白い戦艦。
フィーネのドール達。
それらが戦い入り乱れている。
『・・・・これが本当の状況。本当は、世界はこれぐらいあからさまに混沌としてる』
ユイは呟いた。
「・・・・そうだな。」
ディアは前にいる親友を見て悲しく笑った。
「一番変わっていないのは・・・・コウだな。」
『みんな変わっていないよ。ディアもレイラもクロスもハクトも・・・・変わっていないからこうやって戦っているんだよ。』
ディアの言葉にユイは笑った。
「そうだったらいいな。」
ディアは祈るように呟いた。
『ディア。お願いね。』
ユイは空間が歪むように異質な雰囲気が漂う宙域にそっと飛びこんだ。
ユイが飛び込むのを見てディアはユイに背を向ける形の体勢を取った。
「・・・・・頼んだ。」
補助部隊のドール達が向かってくる。
ネイトラルのドール隊と戦艦に、そしてそれと戦う黒いドール3体にもだ。
黒いドールのうち銃を装備したドールは各ドールの間を縫うように動いて距離を置いたらまとめてレーザー砲を撃っている。
そのドールのデザインに合わないレーザーの剣を装備した黒いドールは戦艦に向かう。的確に死角を狙い、砲撃される前に砲台への攻撃をする。
3体目の黒いドールは白い戦艦から打ち出される砲撃を見て、敵味方関係なくドールを砲撃の直線上から押し出している。
いくつ目だろうか。
奮う武器のエネルギーが切れ、ただの粗大ごみになっているのに気付いた。すぐさまその場で手放し、同じものを持つドールを捜した。
『ハンプス少佐。キリがないです。このままだと、こちらの装備もエネルギー切れになってしまいます。』
「無駄撃ちするなよ。・・・・無駄とか関係ないレベルなのは分かっている。」
キースは額に流れる汗を拭おうとして、宇宙用スーツのためヘルメットをしていることに気付いて舌打ちをした。
『ネイトラル・・・軍隊を追加しているようだ。』
舌打ち混じりでジョウは言った。
『ハンプス少佐!!』
予想外の人物の通信にキースは息を呑んだ。
「おいおい・・・こっちに来ていいのかよ。」
キースは辺りに集中した。
『はい。向こうはコウ達で足ります。俺はこちらの援助をします。』
真面目で凛とした声だ。融通が利かなそうだが、心強いことには変わらない。
『ニシハラ大尉。ネイトラルは宇宙の兵力全て注ぐつもりだ。』
ジョウの報告に、ニシハラ大尉、ハクトは唸った。
『ハクト。いや、ニシハラ大尉。俺が切り込みます。どうせ、このままだと銃のエネルギーも切れる。』
シンタロウはそう言うと飛び出した。
『おいおい、やけくそになるな。』
ジョウはたしなめるように言った。
「シンタロウが先頭で俺とジョウさんが続く。ハクトは・・・・・自分で判断して動け。」
キースは一瞬考えこんで指示をした。
『俺だけテキトーじゃないですか!?』
ハクトはため息をついてシンタロウの横に付いた。
「無理するなよ。」
『自分で判断しろと言ったじゃないですか?』
ハクトはキースの言葉にたいしてしれっと答えた。
シンタロウの突入によりネイトラルのドール隊は隊列を乱した。だが、同じ戦法を何度も取っているのだろう。立て直しが早い。
だが、シンタロウの横にいたのはハクトだ。
一瞬の隙、いや、飛び込んだ時点でドール隊は捕らえられていると同様だ。
シンタロウに気を取られているのであればなおさらだ。
ハクトは一瞬シンタロウの後ろに引いて影に隠れるような位置に付き、ドール隊の足元に潜る形を取った。そのままドール隊の足を掴み、体を回転させて投げちぎり、その動力を利用し他のドール隊に突っ込んだ。
「すげーな・・・・」
ハクトはシンタロウを先頭として利用しているからか、あっという間に周囲の宙域のドールを無力化した。戦意の喪失を促すには十分すぎる働きだ。
シンタロウはすぐにハクトの補助に切り替え、銃を構えた。
ハクトから離れた場所を狙う。そこには他のドール部隊いた。
ハクトは自分から外れたレーザー砲に驚いたが、シンタロウが撃ったものだと判断すると感心した。
『すまんな。』
ハクトはそう言うと、シンタロウが狙ったドール部隊に向かった。
撃たれたレーザー砲により、部隊の隊列は乱れていた。
『さて、本格的な露払いは俺たちが・・・・』
ジョウは流れてきたレーザーの剣を取った。
「おい!!白い奴から来る!!」
キースは叫んだ。
ハクトは砲撃の直線上だと思われる宙域から飛び出した。
シンタロウは砲撃の方向を見てそこに向かって飛んだ。
『あ・・・おい!!』
ハクトはシンタロウに叫んだ。
『ニシハラ大尉どのは自分の身を守ってください。俺は・・・これを逸らすのが役目だ。』
シンタロウは寸前で直線上から体をずらし、銃を構え向かってくる砲撃に掠らせるように撃った。
その狙いは当たったのかわからないが、ネイトラルの軍勢を掠るような形で砲撃は通過した。
「上出来だ。」
キースは感心した。
「下にずれて!!」
モーガンが叫ぶとその指示を聞くようにレスリーは舵を取る。
急な動きに戦艦内は大きく揺れたが、だれも怯むことなかった。
モーガンの指示通り動いて正解だからだ。
「・・・・くそ。これは大層な地獄じゃないか・・・・」
レスリーは舌打ちをした。
「艦長!!・・・・白い戦艦が・・・・防衛ラインに近付きつつあります。突破されると・・・・月付近はおろか、地球全体が危ないです。」
リリーは青い顔をしていた。
「ネイトラルの邪魔さえなければ・・・・」
イジーは舌打ちをした。
「ネイトラル側から見たら、俺らが邪魔だろうな。危険因子を守っているんだから。」
レスリーは呼吸を整えながら言った。どうやら怒りを落ち着かせているようだ。
「沈めた方が危険だってわかっているんですよね?博士の意識を留めている身体が無くなった方が最悪の事態だと。・・・・それなら邪魔なのはネイトラルです。」
イジーはモニターを睨んだ。
「ここで怒っても仕方ない。・・・カワカミ博士に・・・・いや、コウヤ達の様子を探れればいい。」
レスリーはリリーとイジーを見た。
「全員生きています。ニシハラ大尉、コウノ准尉、ハンプス少佐、ジョウさんがネイトラルの対応をしています。コウヤさん、クロスさん、ディアさん、レイラさんは白い戦艦の方です・・・・ユイさんが近づきすぎです。」
イジーは自身の前にある機械を見ながら淡々と言った。
『それは本当ですか?』
カワカミ博士の慌てたような声が響いた。
「聞いていましたか?はい。その通りです。何かご意見を頂ければと思うのですが・・・・」
レスリーはその場にいないカワカミ博士を見るように上空を見た。
『おそらく、ユイは周辺の洗脳電波を止めるために戦艦にプログラムに乗り込むつもりでしょう。確かに適役ですが、この状況では危険です。』
カワカミ博士は珍しく慌てた様子だ。
「カワカミ博士。意見は?」
『・・・・どうしようもないです。前線にいる方々を信用するしかないです。実際、皆様素晴らしい役割を果たしています。恐ろしいほどに強いですよ。』
カワカミ博士の言葉を聞きレスリーたちはモニターを見た。
白い戦艦の周りを飛ぶ影が見える。動きは蠅のようであるが素早く繊細で力強い。
『本部に連絡を取ってネイトラルを落ち着かせる方を優先してください。殺そうと思えば殺せる。殺さずに済まそうとしているから手間取っているのです。』
カワカミ博士は舌打ちをしていた。
「電波を通じなくするのはいつしますか?」
『ムラサメ博士の説得に取り掛かった時です。彼の意識が他に逃げないようにするために遮断します。なので、説得に取り掛かった時・・・・できるだけ遅い方がいいですね。』
カワカミ博士は考え込むように呟いていた。
「お任せします。」
レスリーはそう言うと再びモニターを睨んだ。
「天」の軍本部ではネイトラルの攻撃の情報に混乱と怒りがあった。
「・・・・あのエセ中立国め・・・・事態を分かっているのか!?」
一人の軍人が叫んだ。
他の軍人たちも彼に頷いた。
「わかっているからだろうな。巻き込まれたと感じてもおかしくない。自分たちの存在理由をわかっていないのは難点だが。」
声に威厳と余裕のある現在のこの作戦責任者レイモンド・ウィンクラーが注目した。
「大将・・・・でもこれはあんまりですよ。」
彼の余裕さに頼もしさを感じながらも他の軍人たちは反論した。
「事態が事態だからな・・・・こちらも仕方ないだろ。おい、地球のネイトラルの息のかかった施設は全て敵認定だ。作戦の実行を妨げるものは赦されない。宇宙にいるネイトラル勢に伝えろ。お前らは見捨てられた。地球のやつはお前等ごと捨てる。作戦は無駄だ。」
レイモンドは冷たい目で言い放った。
その冷ややかさに他の軍人たちは息を呑んだ。
「・・・・さて、地球でも戦争かな・・・・宇宙が終わったら大忙しだな。」
レイモンドの口調は冷たく、どこまでも他人事だ。
「地球の全て・・・ですか?」
一人の軍人が恐る恐るレイモンドに訊いた。彼はネイトラルに対して怒りを叫んでいた者だ。
その言葉にレイモンドは笑った。
「事態が事態だから仕方ないだろ。」
クロスのドール使いは同じ特別と言われても目を奪われるほど圧倒的だ。
コウヤと同じ速さであっても動きに無駄が見えない。
すれ違ったら間違いなくどこか持ってかれると思ってコウヤは身震いした。
性格からは考えられないが、レイラは堅実な戦い方をする。
足元から崩そうとする。向かってくるドールに対してクロスが頭のモニター狙うのに対してレイラは足をもぐか、武器を取り上げる。砲撃に関しては、クロスは見極めて最小限の動きで避けるが、レイラは素早くその場から大きく離れる。
『コウはレイラの真似をするといい。』
何を考えているのか分かったようで、クロスはコウヤに笑いながら言った。
「な・・・なんだよ。」
コウヤは驚いて叫んでしまった。
『私は基本的に隊を率いて動いていたからクロスより危険に対して大げさに動く。効率重視ならクロスをお手本にしたらいいだろう。できないだろうがな。』
レイラはたくましい口調で勇まし気に言った。
レイラの言う通りだった。
空間の把握に関してはハクト、ドールなどの戦闘全般は圧倒的にクロスが勝っていた。
『これでしか役に立てないからいいよ。僕はこういう形でしか役に立てない。』
クロスは幼い口調で笑いながら言った。
白い戦艦に向かう戦艦を一つ戦闘不能にした。
『役に立つならいいのよ。』
レイラはクロスに怒った。
ドール5体の両足をもぎ、ガス噴射口、および動力関係を封じた。
「クロスはさ、いちいち頭痛い話に持ってくよね。」
コウヤは二人のやり取りを聞いて心が痛んだ。それを誤魔化すように軽口を叩いた。
白い戦艦から放たれた砲撃の軌道をわずかに逸らした。
『仕方ない。一番多感な時期を復讐に費やした。・・・そう。復讐にな・・・』
クロスは怒るわけでもなく、当然のことのように言った。
だが、悲しそうでもあった。
『・・・・ユイ大丈夫かな・・・・』
レイラは思い出したように呟いた。
何度やったことかわからない。たぶん初めてこのまえ試みたけど、自分はこれと同じことを何度もしている。
自分の座るコックピットの椅子を他人事のように感じながらユイは目を閉じた。
ドールプログラムへの接続は、ユイにとって今までの生涯全てだった。
コードで繋がれているか、離れているかの違いだ。
気が遠くなるのは、自分がここからいなくなる証拠。
悲観するべき人生なのかもしれないが、ユイは他人に嫌悪はあっても、自分の今までを呪うようなことはない。
ユイは「希望」を出てから今までの自分の人生を、呪うことはない。が、感謝することもあまりない。
その数少ない感謝するべきものの一つに、ユイの中に攻撃性を生まれさせてくれたことだ。昔からあったものかもしれない。だが、それを明確にしてくれた。
ああ、私はこのプログラムの該当者なんだ。
ドールプログラムの一部であるアレスプログラムは、軍神の名前が付けられているものだ。
カワカミ博士が適当に振り分けたようなことを言っていたが、ユイは、それは違うと思っている。
名前に該当する性質を持っているのだ。全員が、それぞれに該当するなにかを。
勇ましい、荒々しさのある軍神。
昔のユイには考えられなかったものかもしれない。
ユイは目の前の光の壁に微笑んだ。その先に巡らされている光の帯はきっとプログラムの中だろう。それを全て破壊すれば、この忌々しい壁を消せる。
『・・・あんた・・・・』
この子もここにいたんだ。
ユイは自分をかつて殺そうと睨んでいた少女を見た。
その少女は強くあろうとしている。
『こんにちは・・・』
ユイが笑いかけると少女も笑った。
『やばいことになっているじゃない。きちんとやってよ。』
少女はユイに憎まれ口を叩いた。
『そうだね。そっちは頑張ってくれたのに、なんかごめんね。』
ユイが素直に謝ると少女はつまらなそうな顔をした。
『わかればいいの・・・・』
少女はむくれるように言うとユイから視線を逸らした。
『私、ユイ・カワカミ。あなたは?』
ユイは少女の前に回り込むように無理やり視界に入った。
少女は少し煩わしそうな顔をしたが、直ぐに微笑んだ。
『アリア・スーンよ。』
少女、アリアはユイを見て仕方なさそうな顔をした。
『アリアちゃんって呼んでいい?』
『呼び捨てでいいって。私も呼び捨てにするから。』
アリアはユイに向き合った。
『じゃあ、アリア。この戦艦の電波をつかさどるシステム・・・場所を教えて。』
ユイはアリアを真っすぐ見た。
『・・・・・人使い荒いわね。私さっきまでムラサメさんだっけ?抑えていたのに・・・』
アリアはそう言いながらも嬉しそうだ。
ついて来るように視線を送るとアリアは進み始めた。
『・・・・ねえ、間違っていたらごめんね。アリア。あなた、もしかして・・・私と同じなんじゃないかな?』
ユイは前を行くアリアを見た。
『・・・・同じ?』
『別にお互いコウが好きだとかそう言うのじゃなくて・・・・』
ユイは慌てて訂正した。
アリアはおかしそうに笑った。
『体を離れて、他人から離れて・・・・コウヤは大切だってわかった。シンタロウも・・・・』
アリアはゆっくりと何かを実感するように言った。
『・・・・・・』
ユイは何も言わずにアリアを見た。その視線に気づいたアリアは楽しそうに笑った。
『あの二人・・・・私にとって家族なの。どんな形であっても・・・・繋がっていたい、コウヤに憧れたし、好きよ。シンタロウも大好き。でも、違った。私の望んでいるのは、甘い関係じゃない。私は・・・家族が欲しかった。』
『やっぱり、私と同じだ。』
ユイはアリアを優しい目で見た。
『コウヤは最低な男よ。気を付けなさい。』
アリアは上から目線な言葉だが、ユイから目を逸らして言った。
『知っているよ。』
『言っとくけど、私はまだ別れていないつもりだから、手を出すのは別れてからにしてよ。』
『向こうは別れたつもりみたいだよ。』
『はあ?あの野郎ぶん殴る。』
ユイの言葉にアリアは低い声で言った。
『あはは、やっとすました女面じゃなくなった。』
ユイはアリアを見て大げさに笑った。
『すましたって・・・・ひどいこと言うわね。それならあんたの親友のお二方は?』
『言えてる。』
ユイは更に笑った。
『・・・・ここから先は、私は入れないわ。あんたのような特別じゃない。』
アリアは立ち止まった。
ユイはアリアの横に並んだ。
『ありがとう。』
『お礼は成功してからにして。』
アリアはユイに笑った。
『そうだね。』
ユイは頷くとアリアの方を振り返らずに進み始めた。
ドールの腕前があってもエネルギーの問題は大きい。
特別ならうまいこと電波を使い作動させられるだろうが、機械も埋めこまれていないシンタロウは限られたエネルギーで戦うしかない。
『・・・・残量が半分切った・・・・・』
舌打ち交じりで呟いた。宇宙用スーツの密閉された肌触りは汗の感覚しかなくひたすら不快だ。
追い詰められるほど視界がはっきりする。ドールの動きもスムーズになる。
体力が減るほど力の使い方や集中するところもうまくなる。
それはシンタロウだけでなかった。
彼から離れた宙域で戦うコウヤもだった。
圧倒的なクロスや安定したレイラに対し、強いであろうが安定しなかったコウヤが慣れてきた。それにより、時にはクロスのような動きや、レイラのように安定した様子を見せた。
二人だけではない、クロスやレイラ、ディアやハクト、キースやジョウもだ。
長く宙で戦い、周りを見渡し、ドールに神経を集中させる。
『コウ!!ネイトラルの戦艦とドールを全て行動不能にした。』
ハクトは遮るものが無くなった宙域を見て息を吐いた。
ハクトがいるところからコウヤ達のいるところまで距離はあるが、今は視界を遮る戦艦たちがいないため、よく見える。点のようだが、視界に捉えられる。
コウヤはハクトの通信を受けて白い戦艦と洗脳された補助部隊から視線を外し、背後のネイトラルの方を見た。
ハクトの言う通り戦闘能力を削がれたコックピットだけのドールや、砲台の潰された戦艦が漂っていた。
『そっちに協力する。』
シンタロウの声がした。コウヤはシンタロウの方を見た。シンタロウも無事だった。
「・・・・よかった。」
コウヤは安心した。そのまま他のキースやジョウの方を見た。彼らも無事だ。
『コウ。ネイトラルの方から増援の気配が止んだ。今のうちに補助部隊を抑える。』
レイラが冷静に呟いた。彼女は流石だが、疲労の色を見せない話し方だ。
『・・・・レイモンドさんが何かしたな・・・・』
呟くクロスの声にも疲労は見えなかった。
『コウヤ達は乗り込む準備をしろ。俺とジョウさんとシンタロウで回せるように体勢を整える。』
キースはレイラの提案に対して発言した。いや、命令だ。
『大丈夫ですか?』
ハクトが心配そうに訊く。
『ニシハラ大尉。それを聞いたらキリがないです。』
シンタロウはハクトの心配を払うように言った。
『最初から俺らだけで抑えるわけじゃない。ユイちゃんのサポートにコウヤとレイラちゃんが回って、クロスとハクトがここで途中までいてくれ。向こうが万全になったら二人は順に離脱しろ。』
キースはドールを操りユイのいる方向を指した。
『わかりました。隊長。』
クロスは清々しいほどはっきりと返事をした。
『わかりました。』
ハクトもクロスと同様に返事をした。
『なんか、お前らにそんなはっきりと返事されるとむず痒いな・・・・』
キースはまんざらでもないように言った。
『宇宙一と二の男ですからね。』
シンタロウはしみじみと言った。
『めんどくささや融通の利かなさの順位じゃなければいいけどね。』
レイラはため息交じりに言った。
レイラの言葉にキース達は笑った。ハクトとクロスは何やら唸っていたが。
「わかりました。・・・あとでまた。」
コウヤは念を押すようにキース達に言った。
『ああ、またな。』
キースは答えるとすぐに通信を切った。
『コウ。ディアの手伝いに行くわよ。』
レイラはコウヤを見たあと、直ぐに飛び去った。コウヤもレイラの後を追った。
ユイの乗っているドールの機体は白い戦艦に沿うようにあった。それをディアの乗るドールが支える。
「・・・・情けない。」
ディアは疲労のためか、呟いた。
彼女の乗るドールは決定的な傷は無いにしろ、何かを掠ったような跡が無数にあった。
砲撃の直撃は無いにしろ、衝撃波は来る。ユイのドールを支えた状態で取れる動きは限られる。
辺りの攻撃は全てコウヤ達やキース達が防いで処置をしてくれるのが救いだ。
白い戦艦にくっつけばいいと思うかもしれないが、洗脳電波の威力を図れない以上、リスクは冒さない。
白い戦艦からわずかに離れる時を、洗脳されたドールは狙っている。いや、もうすぐ来るのではないか。
敵が多く見えて疑心暗鬼というべきか、全てが恐怖に思えた。
属していた国に背中から攻撃されるような事態に思った以上に堪えていた。
考えてみれば、自分が代表を務めていたのは遥か昔のように思える。
お飾りで力の象徴だった。今の囃し立てられているロッド中佐の状況と似たようなものだ。
代表でなく戦場で戦うと決めたときの解放感は忘れられない。考えてみるとネイトラルはディアにとって重荷でしかなかった。友情のために与えられた役割をこなした。
お飾りの捨て駒、綺麗ごとを言うだけの代表。
「気色わるい・・・・反吐がでる。」
もし、コウヤが生きていなかったら、あの時自分はハクトと再会せずに大人しく殺されているかモルモットになっていただろう。それは確信している。
綺麗ごとを言うお飾りの代表のままで、自分の背中を撃つような奴のために。
ディアは歯を食いしばった。
「・・・・コウに感謝だな。」
ディアは沿うように支えていたユイのドールをそっと自分のドールに寄りかからせるようにした。
そして、白い戦艦に近付き、寄りかかるようにくっついた。
ザーザーザー
モニターが荒れる。神経接続しているスーツの手足がピリピリする。
頭皮が痒い、瞬きが増えた。
「頼むよ。ユイ。」
ディアはそう言うと白い戦艦に両手を埋め込むように攻撃し、装甲を剥がし始めた。
分厚い構造のようで、戦艦の内部に到達することはない。ただ、戦艦を通る回線のコード見つけた。それをドールの両手に巻き付け、ユイのドールにも巻き付けた。
白い戦艦に張り付く形でユイのドールを支える体勢を固定した。
目のまえに白光が何度も飛ぶ。機械で言うとショートしているのか。
視界が途切れ途切れになる。
固定するだけで精一杯だ。コードを巻き付けるようにして正解だった。
目の前のユイの乗ったドールの機体は変わらず力が抜けたような状況だ。
「・・・頑張れよユイ。頑張れ。」
聞いているはずもない、効率の悪そうな掛け声だ。
どれだけ時間がたったのかわからないが、数分、いや数秒かもしれない。
それが限りなく長く感じる。
洗脳電波のせいで思考が単純なのか深く考えられなくなっている。
視界が途切れる回数が増える。ユイの様にプログラム内に入ればいいのかもしれないが、そうすればこのドールとユイのドールが宇宙に漂いかねない。
白い戦艦のこの面から離れた時に、砲撃の的になりかねない。
身体に電流が走るとき、筋肉がしびれて力が抜ける。
意識とは反対に力が抜けていく。
流れに逆らわずにプログラムに入った方がどれだけ楽なのだろうか。
目の前のユイのドールに動きがあった気がした。
それに目を奪われ、意識がそっちに向かった時
張りつめていた手の力が抜ける。ドールプログラムの素晴らしき人体の連動性。
それが憎らしく思えた時だ。
ディアの腕に合わせて操作するドールも脱力する。
巻き付けたコードがドールを支え続けられるわけもなく、申し訳程度の時間稼ぎだ。
このまま無重力に身を任せれば、洗脳電波から離れられるだろう。そして、砲撃の的になる。
「コウ、役立たずは私だった。」
ディアは腕に力を入れると、そこで無理やりドールの接続を解いた。
「ぐっ・・・・・」
思った以上の痛みに嫌な汗が噴き出る。
痛みのお陰で視界がだいぶ戻ってきた。
ユイの乗るドールに動きが見えたのは、気のせいだったよう。
動力の調整だけだ。必要な操作は戦艦の時と似たようなものだ。
「・・・・・お前はいつも来るのが遅いのではないか・・・・」
ディアは気の抜けたようにため息をついた。
返事があるわけではない。なぜなら洗脳電波の内部に入っており、外からの通信に対応できない。
だが、返事はある。
『ディアもそんな顔をするんだ。』
嫌な奴だ。
『体を張るなんて珍しい。いつもお高くとまっているくせにね。』
こいつも嫌な奴だ。
「うるさいな・・・・」
通信が通じなくてもわかる。
便利だな・・・・私たちは。
『そうだね・・・・』
通信が入った。
驚いてディアはドールを動かそうとしたが、自分で接続を解いたのだ。すぐには動かせない。
そういえば、視界がクリアだ。
目の前のドールがディアの乗るドールを支えた。
『お待たせ・・・・・応援ありがと。』
「聞いていたのか。人が悪いな。」
安心すると力が抜ける。そして、冷静になるのであろう。ドールの接続を再びした。
白い戦艦を覆う厭な気配が消えた。
「・・・・やってくれたな。」
クロスは思わず笑みがこぼれた。
ネイトラルが落ち着き、補助部隊の洗脳の心配も無くなった。
操られている補助部隊の数は少ない。幸い殺さずに処置できる数だ。
『クロスさん。残りの補助部隊の方は、後は俺たちでいけます。』
「シンタロウ君。君のドールエネルギー残量は大丈夫か?」
クロスは通信を繋いだ心強い仲間に訊いた。
『大丈夫です。さっきほどの大群は来ません。』
シンタロウは不安など感じさせない声で答えた。
『シンタロウだけでなく・・・・ハンプス少佐とジョウさんは?』
頼りない心強い味方のハクトが言った。
『大丈夫だ。心配なら早く終わらせろよ。』
キースは心強い隊長だ。どこか投げやりな感じがして怖い気もするが、それはみんな同じだ。
「わかりました。行くぞ。ハクト。向こうはやってくれたようだ。」
『ああ。』
クロスはこんな心強い仲間がいたことに、先ほどまでの裏切られた悔しさが消え去ったような気がした。
『俺たちも・・・やらないとな。』
ハクトが呟いた。
クロスは笑った。
「当たり前だろ。」
クロスの言葉にハクトも笑った。
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