あやとり

近江由

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六本の糸~収束作戦編~

起動

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 砲撃を受けた戦艦が、白い戦艦を少し巻き込みながら爆発をする。

 辺りが見えない。

 レーザー砲を発した影はどうなったのかわからない。



「・・・・シンタロウ!!」

 イジーが叫んだ。そうだ、レーザー砲を撃てるドールは、今はシンタロウだけだ。



 白い戦艦は多少の衝撃は受けたようだが直撃は避けられたようだ。

 爆発する戦艦は見えるが、影は見えない。



 モーガンは顔を青くしていた。

「・・・・嘘だ。・・・おい、いやだ。・・・おい、おい!!」

 モーガンは首を振り叫んだ。



 レスリーはモーガンの肩を掴んだ。

「まだ終わっていない。」

 レスリーは手に力を入れた。モーガンは歯を食いしばりながら頷いた。



 リリーは目をこすって首を振った。切り替えようと努力しているようだった。

 イジーは深呼吸をして再び砲撃の操作にかかった。



 マックスとリオとカカも砲撃の操作に移った。

 マックスはイジーの様子を盗み見た。

 変わらず操作を続ける彼女の背を見てマックスは悲しい気持ちになった。

 リリーも横のイジーの様子を盗み見た。

「・・・・!?」

 リリーはそっと目線を外し、操作に移った。



「・・・・約束・・・したでしょ。」

 イジーは拗ねるように呟いた。





 




「・・・・くそくそくそくそ!!」

 息を切らしながらキースは叫んだ。



「何でもっと早く俺は・・・・くそ!!」

 キースは歯を食いしばってモニターを睨んだ。

 再び頭痛に襲われる。だが、もう構うことない。



 目の前に光の網が広がった。

『・・・・ハンプス少佐・・・・』

 悲しそうな声が響いた。



『あんたがいてよかった。』

 キースは悲しそうな声に応えた。



『だから、ラッシュ博士とつるんでいたんだな。』



『ジョウさん。俺とあんたは同類だ。』

 キースは変わらず前に向かっていた。



『・・・・最初からこうすればよかったんだ。』

 ジョウは口調を切り替えて事務的になった。



『そうだな。』



『『殲滅だ。』』



 キースは目を閉じて、頭に走る熱から自身の感覚を切り離した。

 痛みにいちいち反応していられない。

「・・・・90%以上だよな・・・・・」

 歯を食いしばってキースは手を前に出した。



「・・・・切り離されても戦う理由が俺にわからない。」

 キースはネイトラルの軍勢の前に飛び出た。



 各戦艦の砲撃の照準はおそらくキースに集まるだろう。



 今の彼を見たらなおさらだ。

 キースは青筋を立てるほど頭に力が入っていた。

 光の束がキースの操るドールに集まる。



「・・・・俺を恨んでいいぞ。」

 放たれたのはレーザー砲だった。



 もはや殺さずにいようなど関係ない。止めるというものでもない。



 ただ、目の前の敵を破壊するための攻撃だった。












 カワカミ博士は無言で機械に向かっていた。

「戦況がどうなったのかわからないわね・・・・操作ってそこでしているの?」

 ラッシュ博士はカワカミ博士の様子を見て訊いた。



「キャメロン・・・あなた、ハンプス少佐に機械を埋め込みましたね。」

 カワカミ博士は冷たく呟いた。



「・・・・彼の望みよ。」

 ラッシュ博士は感情のない声で応えた。



「・・・・・まあ、いいでしょう。操舵室の様子が気になります。フィーネが再び動き始めたということは攻められているということです。」

 カワカミ博士は汚いものを見るように機械の端末を見つめていた。



「貴方なりの慈悲だったのね。」



「・・・・おや・・・・?」

 カワカミ博士は端末を見つめて目を丸くした。



「どうしたの?」



「いえ・・・・」

 カワカミ博士は少し悲しそうな顔をした。



「・・・・コウヤ君たちあの人を止めれると思う?」

 ラッシュ博士はぼーっと別のところを見つめてい呟いた。



「止めれますよ。なにせ・・・・コウヤ様がいないとシンヤは目的が達成できないのですから。コウヤ様の意思は固い。・・・・・そう。シンヤは勝てません。」



「・・・・彼は知らないのよ。知ったらどうなるのかしら?」



「どうもなりません。事実は事実です。彼は自らの役割を達成してくれます。その後に悩めばいい。」

「悩めたら・・・・・ね。」

 ラッシュ博士は棘のある言い方だった。



「・・・・・もう私は何が正解なのかわからないですよ。」

 カワカミ博士は自問するように呟いた。



 口元には笑みが浮かんでいた。











 

 ガタン

 大きく戦艦が揺れた。



「うわ!!」

 だだっ広い部屋でコウヤは掴まるところもなく床に転がった。

 コウヤと同じくユイ、ハクト、ディア、クロス、レイラもだ。

 転がらなかったのは椅子に座っていたアリアの体をかりたムラサメ博士だけだ。



「・・・・攻められている・・・・・」

 ハクトは呟いた。



「この状況で・・・?通信機器が使えないのに・・・・」

 レイラは対象がいないから何もない空中を睨んでいた。



「とにかく・・・・この戦艦で応戦しよう。」

 クロスは椅子に座るムラサメ博士を見た。



 ムラサメ博士は穏やかな表情だった。

「私を止めるよりも対処するべき問題だな。」

 話す言葉に先ほどまでの狂気は無い。



「ムラサメ博士。その体を開放してくれませんか?」

 ユイはムラサメ博士を見た。



「今は、まだだ。・・・いずれ開放する。」

 ムラサメ博士は少し考え込んだ。



 コウヤは何か思いついたようで、ムラサメ博士に駆け寄った。



「父さん。俺にはいってくれ。・・・・俺の中にいれば、母さんに会いやすくなる。」

 コウヤの提案にムラサメ博士は目を丸くした。



「コウ。それは危険すぎる。いつ暴走するかもわからない人を・・・・」

 クロスが反論した。



「私もクロスに賛成だ。お前の負荷が大きい。」

 ディアもクロスに賛成した。



 ユイは困った表情をしていた。



 ハクトは考え込んでいる。



「とにかく戦艦を動かそう。ここから動かせるのか?ムラサメ博士。」

 ハクトはとにかく事態の収束にかかろうと判断したようだ。



「そうだな。ここから、君たちなら簡単だろう。ドールの遠隔操作と同じだ。」

 ムラサメ博士は手を前に出して指示するような素振りを見せた。



「じゃあ、僕がやろう。」

 クロスが手を挙げた。



「わかった。クロス。フィーネと合流して早く戻ろう。」

 コウヤは何やら急いでいた。急いでいて当然だが、何にやら顔色が悪い。



「どうした?」

 ハクトが心配そうに見た。



「・・・・何か、変な感じがする。」



 コウヤはムラサメ博士を見た。



「私は何もやっていない。コウヤ。」

 ムラサメ博士は両手を広げて丸腰のような仕草をした。



「・・・・これで全て決着がつくんだね。私たちは・・・次に進むんだね。」

 ユイは呟いた。

 そうだ。これで、ムラサメ博士の意識とドールプログラムを完全に抑えれば・・・・



「なんか・・・・終わらない気がする。」

 コウヤは今のネイトラルの攻撃を考え・・・・先の長さを感じた。



「終わらせるんだ。そして、次に行くんだ。」

 ハクトはコウヤに呟いた。

「そうだよ。コウ」

 クロスがハクトに同意した。



「!?」

 コウヤとハクト、ディアとユイは飛び上がるほど驚いた。



「僕の決心を曲げさせたんだ。何があって、次に進むんだ。」

 クロスは驚かれたのを気にしないで真っすぐコウヤを見た。



「そうだ。」

 コウヤは5人を見て、そして、アリアの体に入った父を見て頷いた。



 ギギギ・・・・

 機械音が響く。クロスが操作を始めたのかコウヤは揺れに備えて床に座った。



 クロスを見たら顔色が悪い。いや、青い。



「気分でも悪いのか?」

 ディアも気付いたようだ。



「・・・・僕じゃない・・・違う。」

 クロスはコウヤ達を見た。



「何が?」

 レイラは首を傾げた。



「・・・操作しているのは僕じゃない。」

 クロスが言ったと同時に戦艦内に高音の超音波のような音が響いた。



「うあ!!!」

 コウヤは耳を塞いだ。

 ハクトやユイ達もだ。ムラサメ博士も塞いでいる。



『ドールプログラム起動』

 機械音声が響いた。






 



「あ・・・電波が通じる!!」

 リリーは安心したような声を上げた。



「全員に繋いでくれ!!早く」

 レスリーは慌てた様子だ。全員の安否を早く確認したいようだ。



 イジーは青い顔のままだ。

「こちらフィーネ!!応答してください!!」

 リリーは通信を繋いで叫ぶ。



「・・・・応答してください・・・・応答して・・・・」

 イジーの声が消え入りそうになっている。



「・・・・通信機器が戻ったということは・・・・コウヤ達の回収に向かおう。モーガン。頼む。」

 レスリーはイジーを見て一瞬辛そうな顔をしたが、直ぐに指示に入った。



「艦長・・・なんか変です。他の戦艦・・・・おかしいです。」

 モーガンは全く動かない戦艦を見て眉を顰めた。



「え・・・・?」

 リリーは飛び上がった。



「どうした?」

 レスリーは大げさなリリーの動きに驚いた。

「通信が復活しているのに・・・・繋がらない。」

 リリーの言葉にレスリーは俯いた。

 たまらなくなったのか、マックスはリリーの操作する機械の後ろに立った。



 ―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―ドールプログラム起動―



 画面いっぱいに文字が浮かび上がった。

「・・・・なんだこれ・・・・」

 モーガンとレスリーが飛び上がった。



 操舵室の大きなモニターにも同じようになっていた。

「・・・・・ドールプログラムが動き出したということなのか・・・」

 マックスは冷や汗をかいていた。



「連絡が取れないのって・・・・」

 リリーは背後のマックスに縋るように尋ねた。



「最悪だ・・・・動かないのは・・・・操られているからだ。」

 マックスは先ほどまでモニターに映っていた動かない戦艦の説明をした。



「コウヤ達・・・・ダメだったのか?」

 モーガンはうなだれた。



「おかしい。権限が=なら・・・・負けるはずない。ムラサメ博士と対峙できればもう勝てる計画で行ったはずだ。そうなるようにカワカミ博士が・・・・」

 マックスはそこで言葉を止めた。

「・・・・おい、カワカミ博士は・・・・・戦艦の中にいるよな。」

 マックスはリオとカカに確認を取った。

 リオとカカは頷いた。

「・・・どこの部屋に・・・・」

 操舵室から出ようとマックスが走った時



「うあ・・・」

 高音の超音波のような音が響いた。

 あまりの音の不快さにみんなが頭を抱えた。



 音は共鳴して増幅するように頭に響いた。

 音の響きに呼応するように視界が歪む。



 一人、また一人と倒れた。









「何だ・・・・」

 コウヤは顔を上げた。



 ムラサメ博士は椅子から立ち上がった。

「お前・・・・」

 ハクトはムラサメ博士を止めようとした。



「違う・・・・彼じゃない!!」

 ユイが叫んだ。



「・・・・・はは・・・・はははは!!」

 ムラサメ博士は笑った。

 相変わらず高音は響いていた。



「そう言うことか・・・・・ギンジ。それが狙いか!!」

 再び狂った時のように笑い出したムラサメ博士とその言葉にユイは俯いた。



「どういう・・・・カワカミ博士なのか?」

 ハクトはムラサメ博士に掴みかかった。



「止めなハクト。お父さんだよ。」

 ユイはハクトを止めた。



「・・・・ドールプログラム起動のために・・・・・俺たちは戦っていたのか?」

 コウヤは足元から崩れるような気がした。



 高音は響いている。



「・・・・どうなっている?外は・・・・世界はどうなっている?」

 ディアは慌ててモニターを操作しようとした。



「落ち着いて。遠隔操作ができるだろ?」

 ムラサメ博士は一通り笑いつくしたのか、息を落ち着かせながら言った。



 映し出された映像は外の風景だった。



 ただ、静止画のように何も動いていない。

 いや、動いていた。漂うに戦艦とドールが。



「・・・・ドールプログラムが起動している。おそらく地球も月も関係ない。私がやりたかったことをギンジがやったわけか・・・・」

 ムラサメ博士は安心したように息を吐いた。



「どうすれば解ける?私たちの権限はどうなった?」

 ディアはムラサメ博士を急かすように質問した。



「ギンジに訊けばわかる。お前らの権限についてはあいつが全て設定している。・・・・そうだろ?ギンジ。」

 ムラサメ博士はその場にいないカワカミ博士に話しかけた。





『お疲れ様です。皆さま。』

 カワカミ博士の声が機械を通して響いた。



「!?」

 コウヤ達は飛び上がった。



「どうなっているのですか?フィーネは・・・・どうして他の戦艦も何も動いていないのですか?」

『今、宇宙はドールプログラムに支配されました。』

 カワカミ博士の言葉にコウヤ達は呆然とした。



「私たちは・・・・このために戦っていたわけではない!!」

 レイラは叫んだ。



『人々は知らないでしょう。何に救われたのか・・・・何に守られたのか。不明確な敵と大きすぎる力は人々を不安にさせる。のちの世界のために、人々は操られた方がいいのですよ。』

 カワカミ博士は淡々と説明するように言った。



「私たちが操られていないが・・・・・?」

 初めてクロスがカワカミ博士に対して不信を見せた。



『あなた方は特別です。ムラサメ博士から聞きませんでしたか?特別でないものはプログラムに入るのに実体があると難しいと・・・・。プログラムを操作するものは内部にいる必要がある。・・・・あなた方は操作する側の人間。』



「・・・・俺たちに人々を管理しろと言っているのか?」

 ハクトは難しい顔をした。



『・・・・さあ?どうでしょうね。』

 カワカミ博士は愉快そうに言うとそのまま通信を切った。









「このままだとカワカミ博士が操作する世界になるのか?」

 ディアはムラサメ博士を見た。



「戦艦を動かそう。とにかく・・・・カワカミ博士のいるフィーネに向かおう。」

 クロスはそう言うと再び操作をし始めた。



「ギンジは用心深い。おそらくフィーネにはいないだろう。それに、あの口調だったら、ただでは戻してくれない。」

 ムラサメ博士の呟きにコウヤ達はうなだれた。



「じゃあ・・・・どうすれば」

 考え込むようにしたコウヤを見てムラサメ博士は何かを思いついたようだ。

「・・・・あるだろ。手段が・・・・・」

 ムラサメ博士はコウヤを指差した。

 その様子を見てディアとハクトがあっと言った。



「俺・・・・?」

 コウヤは自分を指差して首を傾げた。



「向かうのはどこだ?月周辺か?」

 クロスもわかったらしく方向を尋ねていた。



「どういうこと?」

 ユイとレイラは眉を顰めたままだった。

 コウヤも考えた。

 自分が何かできるものなのか。プログラムのことなど知らない。仕組みも曖昧だ。

 そんな自分は該当者ということ以外でカワカミ博士を止められるのか。



 該当者であるのならハクトやクロスの方が器用で能力も高い。

 自分が有用されている理由は母体プログラムの該当者と、父親を止めるためと・・・・

「あ・・・・・」

 コウヤは分かったようだ。

 その様子を見てムラサメ博士は頷いた。



「そうだ。お前にしかできない。」

 そう言うムラサメ博士は羨ましそうな目をして悲しく笑っていた。



「母さん・・・・ドールプログラムの源・・・・」





 



 先ほどまでの戦場が、名残を残して動かない様子は滑稽だが、異様で恐ろしい。



「・・・・月か?向かうなら・・・・」

 クロスはコウヤとムラサメ博士を交互に見た。



「そうだな・・・・止めるにしても、ギンジを抑えてこれ以上何もさせないようにしてからがいいだろう。悔しいが、あの男は天才だ。私にもあの男のことは想像がつかない。」

 ムラサメ博士は考え込むように俯いていた。



「父さん。あれってなんだ?」

 コウヤは気になっていたことを尋ねた。



「あれ?なんだそれ?」

 ムラサメ博士ははぐらかすように笑った。



「・・・・ムラサメ博士。あなた、正気ですよね・・・。あなたは操られていたのですか?それとも感情を増幅させられていたんですか?」

 ディアはムラサメ博士を観察していた。



「・・・・正気であり、私にもわからない。だが、・・・・ギンジになり替わろうとしている自分がいるのも確かだ。」

 ムラサメ博士はディアから順に全員を睨んだ。



「・・・狂ったとはいえ、私は自分のやったことを後悔していない。」

 ムラサメ博士はクロスを見た。



「何故僕を?」

 クロスは視線に気づいたようだ。



「君も自分の行いの恐ろしさを知りながら後悔していないからだ。私はナツエを奪った世界を許せない。やり合うために武器が必要だった。その副産物が君たちだ。」



「俺たちはお前の武器だと言いたいのか?」

 ハクトはムラサメ博士を睨んだ。



「はは・・・・わからん。まあ、実の息子に殴られたのは堪えた。」

 ムラサメ博士は実体では殴られていないが、自身の頬をさすった。



「私の事より・・・ギンジがどこにいるか探すのが先だ。生憎、私には知る術がない。ナツエのドールに関しても・・・・私の管轄を越えて・・・知る術がない。」

 ムラサメ博士は悲しそうに呟いた。



「コウはいつお母さんに会えたの?助けられたとか言っていたけど・・・・」

 ユイはコウヤをチラッと見た。



「「希望」襲撃から守ってもらったのは確かだ。母さんのお陰で地球に降りた。」



「・・・・コウ。フィーネからの砲撃は・・・・ユイを庇った時のだ。」

 ハクトはコウヤをまじまじと見た。

 その言葉を聞き一瞬ムラサメ博士は顔を歪めた。



「え・・・あの時は・・・・気が付いたらあの隠れドームにいたんだ。どうやって助かったのかも分からない。」

 コウヤは思いだそうとして頭を抱えた。

「もしそれに関わっているのなら、ナツエさんはお前に張り付いていることになる。」



「・・・・・母体プログラムを持っている三人は特別だが、コウヤはもっと特殊だ。」

 ムラサメ博士は躊躇いながら話し始めた。



「特別・・・・?」

 皆が声を揃えた。



「ドールプログラムの仕組み、洗脳方法の確立は、ネットワークの構築だ。人にアクセスできるというものだ。それのお陰で今みんな無事に操られている。・・・・プログラムにアクセスできるのはお前等6人と機械を付けたこの少女のような者か・・・・」

 ムラサメ博士は明らかに何かを隠している。



 コウヤ達が睨むと、ため息をついた。

「実感はないだろうが、電波関係ならお前は意志を持って操れるはずだ。特別なら遠隔操作で身に覚えがあるだろうが、お前はそれ以上だ。そのフィーネに撃たれた時、お前を庇ったのは、辺りにあったドールの残骸だと思う。ユイちゃんを庇い危険に晒されたお前を守るために・・・・」



「そんなことが・・・・あり得るのか?」

 ハクトは驚きを隠せないようだった。



「コウヤが生きているのが何よりだ・・・・ギンジの場所がわからないのなら、ナツエを呼ぶか探すべきだ。」

 ムラサメ博士はコウヤを見た。



「父さんは分からないの?母さんをどう呼ぶか・・・・」



「わからない・・・・ただ、ゼウス共和国も地連も「希望」周辺にこだわっていたのは、それなりに理由があるはずだ。」

 ムラサメ博士はディアとレイラを見た。



「残骸に紛れられるか・・・・だが、プログラムを搭載しているのならそれなりに探知レーダーに引っかかりそうだ。」

 ディアは首を傾げた。



「・・・・引っかかったのは間違いないだろう。不明機の話は僕も聞いたことがある。だからあんな無茶な殲滅作戦を実験とはいえ実施したんだ。」

 クロスは少し苦い顔をした。



「どうした?」

 ハクトは心配そうにクロスを見た。



「いや、皮肉だなと思って。だって、大きい犠牲が情報の確かさを象徴するようで、無駄だと思っていたからなおさらだ。」

 クロスはため息をつきながら笑っていた。



『無駄にしない。無駄であっても無駄にしてはいけない。』

 声が響いた。

 急なことに驚き、コウヤ達は飛び上がった。



『俺は機械を付けているおかげで操られずに済んでいる。手伝うぜ。レイラさん。・・・・と愉快な仲間たち。』



「ジューロクさん。」

 コウヤは急に暖かい感情がこみ上げてきた。

『ジョウって呼んでくれ。それが本名だ。』

 ジョウは気安そうに笑って言った。



 6人の親友は勿論特別だが、それ以外の仲間の存在を確認できたことはまた違った感覚だ。



「そっちはジョウさん以外みんな操られているんだな。だから連絡も取れない。」

 ディアが確認するように言った。



『・・・・そうだな。』

 ジョウは間を開けたが、しっかりと頷いた。



「カワカミ博士がフィーネにいないと予想されているが、どこにいるかわかるか?」

 ハクトはモニターを操作し始めた。どうやら周辺の状況を探っているようだ。



『いや、俺は前線に出ていた。誰も確認できる状況じゃなかった。』

 ジョウの声は沈んでいた。



「そうか。あたりのドールで怪しいのはあるか?」



『大尉どの。おたくらが察知できないのに俺が察知できるわけないじゃないですか。』

 ジョウは呆れたように笑った。



「事実だな。」

 ムラサメ博士は頷いた。



「じゃあ、とにかく「希望」だな。」

 クロスは戦艦を前進させる。



 モニターにはかつて防衛ラインを築いた宙域が映っていた。

 そこは、今はただ鉄の塊が漂う空間だ。
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