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六本の糸~収束作戦編~
方舟
しおりを挟む白い世界に自分だけ浮かび上がったように目が覚める。
ただ白いだけの視界は美醜が関係なくただ存在するだけの色だった。
自分の体を見ようと視線を動かすと自分の手が見えた。
真っ白なわけでも真っ暗なわけでもないようだ。自分の姿を見ることで安心した。
だが、その手に色がついている。
赤い。赤い色だった。
感じたことのある生ぬるい温度とかすかな油分を感じる滑り気。
『あ・・・・あはは・・・は・・・・』
誰にも言っていないこと。親友にも言っていないこと。
お飾りでも頂点に立つため犯した罪。
「希望」が唯一の光だったのは自分もなのだ。
そう再び実感したとき、辺りの白い世界が変わった。
赤い手には銀色のナイフが、腰には拳銃が、そして辺りには鉄と硝煙の匂い。
地面は白から豪華な絨毯とそれに染み渡る赤い液体。
『まるでマフィアのようだな。アスール財団、いや、ネイトラルというのは・・・』
背後から声が響いた。
慌てて振り向くとそこに一人の男が立っていた。
『・・・・ムラサメ博士・・・・』
男は名前を呼ばれると優しく微笑んだ。
『ディアちゃんは後ろ暗いところが無いと思っていたけど、それは違ったようだ。』
ムラサメ博士は頷きながら言った。
ディアは手にあるナイフを握り締めた。
『そんな怖い顔しないで。君だけじゃない。』
ムラサメ博士はディアを窘めるように言った。ディアは息を荒くして自分を落ち着かせようと不器用な深呼吸をしていた。
そもそもこの空間で体に働きかけるような行為に効果があるのかも疑問だが、冷静になれなかった。
『ネイトラルのトップになるために・・・・ライバルは殺し合うのか・・・・頂点に立つためにどれだけ手を汚したのかは別にいい。君は悪くない。』
ムラサメ博士は両手を広げて言った。
『だって、こんなゴミたちのために罪を感じるのか?君は選ばれた人間なのにどうして凡人と競い合わせられる?わかっていない世界が悪い。君と世界は釣り合わない。』
ムラサメ博士は身振り手振り演説するように言った。
『ムラサメ博士・・・・手を下した人間には必ず罪がある。決めたのは私だ。』
ディアは自身の手を見つめて言った。
『認めたら楽になる。わかっているはずだ。理解を拒むのは辛い。ましてや、君のような賢い子が・・・・』
『賢い子はこんなことしません。もっと利口に生きれるはずです。』
ディアは自嘲的に笑った。
『・・・・・そうか。』
ムラサメ博士は悲しそうに言うとディアから視線を外した。
ディアの足元に沢山の人であった者が這って近づいてくる。
『・・・・はは・・・・私が憎いか・・・・・』
近づくものは増えてくる。どんどん増えて辺り一面にいた。
『・・・・・ああ、やっぱり私は役立たずだ。』
ディアは笑った。
ムラサメ博士はディアの様子を見て残念そうにしていた。
『お前ディアに何をしている。』
地響きのような声が真っ白な空間に響いた。
ディアとムラサメ博士は驚いて声の元を見た。
『・・・・・そうか、母体プログラムの該当者か・・・・』
ムラサメ博士は恨めしそうに言った。
『ハクト・・・お前、今の聞いて・・・・』
ディアは顔を蒼白にしていた。
『当たり前だ。さっきの話は、俺は聞いていない。ディア。』
ハクトはディアに駆け寄り、彼女に這っていた者たちを払った。
『言っていないから聞いていないはずだ。』
ディアはハクトから目を逸らした。
『何故言わない?』
『知られたくなかったからに決まっているだろ?・・・・お前に嘘は通じない。』
ディアはハクトの視線から逃げるように俯いた。
『・・・・さて、君の発言は気に入っているんだ。ハクト君。私の世界・・・・君は相応しい人間だ。』
ムラサメ博士は二人の話を遮るように言った。
ハクトはムラサメ博士を睨んだ。
『俺は今、ディアと話している。あなたの世界の話は俺にとって優先順位がディア以下だ。邪魔するな。』
ハクトはムラサメ博士を振り払うように手を振った。
ムラサメ博士は目を丸めた。
『は・・・・ははは。考え直したらいつでも呼ぶがいい。』
ムラサメ博士はそう言うと徐々に消えて行った。
ムラサメ博士の消えた後を見て、ハクトは再びディアを見た。
『何か背負っているのは分かっていた。それを含めて俺は先を考えている。』
ハクト未だ目を合わせないディアに責めるように言った。
『私は他の者と違い、戦場ではない。暗殺のような謀殺のようなものだ。』
ディアは頑なにハクトと目を合わせない。
『人の命を奪っているのに綺麗も汚いもない。どんな綺麗ごとでも汚い謀が背景にあってもやっていることは同じだ。』
ハクトはディアの手を取った。
『いい意味に聞こえるが、私たちは同じ穴の狢というわけか。』
ディアは目線だけハクトに向けた。
周りにあった血だまりも人影も消えていた。
『そうだ。一人だけ抜け駆けは赦さない。ましてお前が俺を置いて行くことは赦さない。』
『お前に言われたくないことばかりだ。』
ディアは呆れながらも少し笑った。
―母体プログラム確認。―
機械音声が響いた。
『だから、俺たちはムラサメ博士を止めるんだろう?』
ハクトはディアの手を握った。そこからディアとハクトは空間から消えていく。
『そうだな。』
浮いていた。足元に何もないのだからそうなのだろう。
真っ青な世界でただ浮いている。
『空・・・・か?』
地球の青空に似ていたその青はどこまでも広がっていた。
上も下も青い。自分は立っている感覚がないことから、無重力状態の場所かと思った。
それにしては体は安定している。
身体を見た時、赤と黒の軍服が目に入った。
『・・・・これは・・・・』
かつて自分が常に着用していた服、いや、現に今も着用しているのと同じ種類だ。
別に不審がることはない。当然のことだ。
そう自分に言い聞かせて落ち着いた。と思った。
足元の青に黒と灰色の靄がまざり、歪み始めた。
『・・・・これは・・・・!!』
急に耳を塞ぎたくなるほどの叫び声が聞こえた。断末魔だろう。
さらにうめき声と呟きが聞こえる。
苦しい・・・・怖い・・・・どうして・・・
恨みを込めた言葉。呟かれて当然だ。
やったことは後悔していないという輩がいるが、後悔しかしていない。
目を閉じて恨みを聞く。
自分にふさわしいものだ。
『違うよ。』
恨み言以外の声が聞こえた。
『・・・・あなたは・・・・・』
レイラは久しぶりに見たその姿に目を見開いた。
確かにプログラムの中なのだから先ほどまでの少女の姿とは違う。
『レイラちゃん。君は勘違いをしている。』
レイラに諭すように優しく声をかけるのは親友の父親だ。
『ムラサメ博士・・・・・勘違いとは?』
レイラはムラサメ博士を観察するように見た。
ムラサメ博士はレイラと同じように空中に浮いていた。
『君の犯した罪は・・・・そこまで重くない。一番重い罪といえば、ロバート・ヘッセに協力していいように使われたことだ。だが、これは全てあの男が悪い。』
『それは違う。私がどれだけの犠牲を出したか知っているのですか?』
レイラはムラサメ博士の言葉に首を振った。
『君以上に犠牲を出しているのが世界だ。君に助けられた存在もある。だが、世界は君の様に人を救ったことがあったか?いつも犠牲を出すのは世界だ。君は世界の一部であったから犠牲を出していた。』
『・・・・すみませんね。私は頭が悪いみたいで、言っていることがわかりません。』
レイラはムラサメ博士の言葉を流すように俯いた。
『簡単だ。君は世界の一部として犠牲を出した。だが、君は世界から切り離された。罪は全て世界にある。』
ムラサメ博士の言っていることは都合のいい理屈だ。レイラはそう思った。
『あなた本当にそんなこと思っている?あなたは・・・本当にムラサメ博士?』
レイラは目の前にいる男を疑わしそうに見た。
『君の知っている私は・・・・私だ。だが、私もまた私だ。プログラムやシステムというのは過去の欠点や新たな機能を付属するためにアップデートをする。人間もそうだ。理解し、学習する。経験で人は変わるものだ。』
ムラサメ博士は両手を広げた。
『私が自分の犯したものを割り切って考えられると思っているの?そんな器用でもない。それに、そんなことをしたら、殺した人々の存在がなかったことになる。』
レイラは大きく首を振った。
『殺した人々を忘れろとは言わない。君だけが悪いわけでない。罪は平等にあるべきだ。人々を殺したのは君であり、世界だ。そして、人々は世界だ。』
『殺したことには変わらない!!』
レイラはムラサメ博士の言葉を振り切った。
『君だって・・・洗脳をやったじゃないか?ドールプログラムの鍵として・・・選ばれた者として人々の意識に、脳に働きかけたじゃないか!?』
ムラサメ博士の言葉にレイラは蒼白になった。
『人々を導くのにはやはり、私のやり方が必要だ。』
『違う!!私は・・・私は、彼らに責任を持つ・・・全て操ることは・・・』
レイラは振り払うように首を振った。
ムラサメ博士は残念そうな顔をしていた。
『君は私の望む世界の在り方に反論するのか・・・・』
ムラサメ博士はそう言うと、徐々離れていく。
足元に広がっていた青は、全て灰色と黒に染まっていた。
その靄は徐々にレイラに向かう。纏わりつくように上ってくる。
何で・・・・・私が・・・・死にたくない・・・・
声が体を這いまわる。
『・・・・そうだ。私が、私の罪だ。』
レイラは声に応えた。
私たちを・・・私たちの意志を曲げさせた・・・お前が・・・
耳元に別の声が響いた。
『そうだ。私が・・・争わせないように・・・お前らを洗脳した。』
レイラは首を振った。
『私も背負う。』
這いまわる声に新たな声が重なった。
後ろに人がいる。
『君のことは守るって・・・・決めたんだ。』
レイラの肩に優しく手をかける。
レイラは後ろの人物を見て泣きそうになった。
ムラサメ博士は眉を顰めた。
『・・・・クロス・バトリー・・・・ロバート・ヘッセの実の息子か。』
クロスはムラサメ博士を真っすぐ見た。
『生憎・・・・僕は彼のことを父だと生きている間に思ったことはない。』
『まあ、君に関しては同情しかない。』
ムラサメ博士は両手を広げて首を傾げた。
『同情はいらない。』
クロスはレイラの肩にかける手に力をいれた。
『君ならわかるはずだ。私の描く世界のすばらしさを・・・・失った者にはわかる。』
ムラサメ博士は優しい笑みでクロスを見た。
『・・・・貴方は誰だ?』
クロスはムラサメ博士を疑うような目で見ていた。
『私は、シンヤ・ムラサメだ。君だってわかっているだろ?』
ムラサメ博士は大げさに笑った。
『・・・・・そうだ。貴方本当にムラサメ博士なのか?』
クロスは再び確認するように呟いた。
『・・・・クロス。それどういうこと?』
レイラは横のクロスを見た。
『・・・・・何を言っている?』
ムラサメ博士は無表情だった。
『レイラ、君はドールプログラムに操られた時のこと・・・・わかるだろ?』
クロスはムラサメ博士に歩み寄ろうとした。
『・・・・・ロバート・ヘッセの息子が・・・・・』
吐き捨てるように言うとムラサメ博士は消えた。
ムラサメ博士が消えた後をクロスは凝視していた。
『クロス・・・・今の・・・・』
レイラは恐る恐る横のクロスを見た。
『僕に生きろと言って・・・君は負けるつもりだったのか?』
クロスは冷たい口調だった。
『私は・・・地球でゼウス共和国の人たちを洗脳した。地連を敵と思わせないために・・・私は』
『生きたいに決まっているだろ!!』
クロスは叫んだ。
『クロス・・・』
『でも、君が死を選ぶなら僕もきっとそっちに行くだろう。それだけでなくても、僕は生きてはいけない人だ。』
クロスは首を振った。
『望まれて死ぬなら・・・望まれて生きる道もあるんじゃない・・・?』
レイラはクロスを見た。
『私は・・・クロスに生きていて欲しい・・・私は死なない。』
レイラはクロスと自分に言い聞かせるように言った。
『・・・僕の決断を鈍らせるのは・・・頑固なハクトか、君ぐらいなのかもしれない・・・』
クロスは苦笑いをした。
『・・・背負って、くれるんでしょ?』
レイラはクロスを見上げた。
—母体プログラム確認—
機械音声が響いた。
それを聞くとクロスとレイラは目を合わせて頷き合った。
『・・・・レイラ。行くぞ。』
クロスはレイラの手を取った。そこから二人は徐々に消えていく。
真っ暗だった。
手探りで何かを掴もうとする。
空気しか掴めない。いつもと同じ感覚だ。
暗くて寂しくて誰もいない。
もしかして、今までのことが夢だったのではないか。
幸せな夢だった。
諦めたように笑った。
『幸せだった。』
自分の人生にはもったいない。もしかしたら自分の存在もないのかもしれない。
でも構わない。
『夢ではない。』
現実に引き戻すように声が響いた。
自分の体は見えないのにその男の体は見えた。
『・・・・コウヤのお父さん・・・・』
コウヤの父、ムラサメ博士は微笑んだ。
『やあ、ユイちゃん。君とは将来的に義理の親子になるのかな?』
ムラサメ博士は嬉しそうに言った。
『君はギンジに似ていないな。それでいいと思う。あの男に似たら大変だ。』
『・・・・ムラサメ博士・・・・・』
『君は存在している。そして、先ほどまでのことも夢でない。君の味わってきたものは存在する。』
ムラサメ博士はユイの周りをうろうろと回り始めた。
『憎くないのか?君を実験台にしたキャメロン、ゼウス共和国が・・・・』
耳元で囁く。声は届くのに息がかかることはない。
『憎いですよ。決まっているじゃないですか?』
ユイは声色を変えずに当然のように言った。
『・・・・ほう』
ムラサメ博士は興味深そうにユイを見た。
『でも、私を苦しめたやつのために私の幸せを阻害させない。私の人生は私のもの。』
ユイはムラサメ博士に挑む様な目を向けた。
『君が殺した人々は・・・・?彼らの人生はどうなんだ?』
『私は、勝った。彼らを倒さないと私は死んでいた。』
ユイはムラサメ博士を真っすぐ見た。
ムラサメ博士は驚いたような表情をした後に楽しそうな顔をした。
『ははは・・・・君はギンジに似ている。君は私の望む世界の在り方を理解してくれるだろうか?』
ムラサメ博士はユイに手を差し伸べた。
『あなたが作る世界なんか興味ない。私の世界は私のもの。コウもレイラもディアもハクトもクロスもみんな私の世界の人。』
ユイはムラサメ博士の手を振り払った。
『・・・・・君は子供なんだな。世界を分かっていない。』
『そうだよ。分かっていない。子供だよ。』
ユイはやけくその様に首を縦に振った。
『今ならまだ間に合う。ユイちゃん。君はこの世界に相応しくない。いや、世界が君に相応しくない。コウヤもいる。君はこちらに来るだろう?』
ムラサメ博士は再びユイに手を差し伸べた。
『何で私が世界に合わせないといけないの?それと同じで世界が私に合わせる必要もない。人はこんなにいるんだもん。合わない人がいて当然だよ。』
ユイはまたムラサメ博士の手を振り払った。
『・・・・君もか・・・・』
ムラサメ博士は残念そうに呟いた。
『父さん。』
凛とした声が響いた。
その声を聴いた時、ムラサメ博士は悲しそうな顔をした。
『もうやめて。』
ムラサメ博士の前に徐々に浮かび上がる人影。
『コウヤ。』
ムラサメ博士はコウヤを見て、複雑そうに微笑んだ。
『コウ。』
ユイは心強そうにコウヤを見た。
『俺の友達を悪いことに勧誘するなんて。』
コウヤはユイとムラサメ博士の間に入った。
辺りが徐々に明るくなる。真っ暗な世界が真っ白な世界に、光が広がるように変わっていく。
『コウヤ。待っていた。お前がいないとあれが動かせない。』
ムラサメ博士は先ほどの笑みからうって変わって満面の笑みを浮かべた。
“あれ“という言葉にコウヤは眉を顰めた。
『父さん。・・・・感情が暴走する。分かったよ。俺も父さんみたくなったことがあるんだ。』
コウヤの言葉にムラサメ博士は驚いた表情をした。
『何を言っているんだ?・・・・コウヤ。まさか私がおかしくなっているとでも?・・・・くそ!!ギンジか。私が逃げないように、通信機器を使えなくしているのか。』
ムラサメ博士は辺りを見渡し少し焦りを見せた。
『正気に戻る機会を失っていたんだ。父さんは。気付かなくてごめん。』
コウヤはムラサメ博士に近付いた。
『お前の権限で私を消すのか?コウヤ。』
ムラサメ博士は挑むように笑った。
ユイは目を丸くした。
『コウ?』
ムラサメ博士はコウヤを見て少し後ずさりをした。
『・・・・はあ・・・』
コウヤは息を思いっきり吸って吐いた。
『お前だけが悲しいと思うなよ!!クソおやじ!!』
コウヤは声が裏返るほど叫び。ムラサメ博士の頬をひっぱたいた。
バチン
という音がこだまする。
『お前、父親を殴るなんて・・・・』
『うっさい!!母さんが死んで何で父さんだけ悲しんでいるんだよ!!母さんは父さんの大切な妻だっただろうけど、俺にとっては一人の母親だったんだ。・・・・そして、父さんは俺にとって一人の父親だ。』
叩かれた頬をさすりながらムラサメ博士は俯いた。
『反抗期か・・・・』
自嘲するように呟いた。
『何で、俺と居る道を選んでくれなかったんだよ。父さん。』
コウヤはムラサメ博士に寄り添うように近づいた。
『あの時・・・俺には父さんが必要だったんだよ!!』
コウヤは父を睨んだ。
目の前の父の頭に何やら歪みが見える。
『・・・・だから・・・、プログラムを俺に寄越せよ!!母さんに会わせてやるから!!』
コウヤは父の頭を掴み、自分の頭にぶつけた。
ゴン
と頭と辺りに響いた。
目の前の父の頭に見えていた歪みが消えていく。
コウヤとムラサメ博士の様子を見ていたユイの肩が叩かれた。
『・・・みんな・・・・』
ユイが振り向くと、ハクト、ディア、レイラ、クロスがいた。
彼等はコウヤ達の様子を見守っていた。
『・・・・何で・・・自殺を選んだんだよ。』
コウヤは絞り出すような声で言った。
『そこまでわかったのか・・・・キャメロンから聞いたのか?』
ムラサメ博士は驚いた表情をした。そして、毒気の抜かれたようにポカンとしていた。
『俺は、キャメロンが父さんを殺すとは思えなかった。』
『・・・プログラムに入るために実体は持てなかった。お前たちのような特別ではない私は、ギンジのような頭脳もない私が・・・プログラムを操るためには実体を持たないことが大事だった。』
そこまで呟いてムラサメ博士は何かに気付いた顔をした。
『・・・そうだ。コウヤ。お前無事だったのか?「希望」が破壊されたあと・・・地球で生き延びたんだな。何があった?』
ムラサメ博士はコウヤの肩を掴み、慌てた様子だった。
その様子を見てコウヤは安心した表情をした。
ユイ達もだった。
『・・・・父さんは、ドールプログラムに感情を増幅させられていたんだ。』
コウヤはムラサメ博士を諭すように言った。
—母体プログラム確認—
機械音声が響いた。
『・・・・父さん。終わらせよう。』
コウヤは父親の肩を掴んだ。
『コウヤ、あれはお前にしか動かせない・・・・』
ムラサメ博士はまだ、少し狂気の残る表情でコウヤを見た。が直ぐに顔を振った。
『・・・・あれって・・・・?』
コウヤが首を傾げた。
『コウ。とにかくプログラムの権限で対抗しよう。』
クロスは急かすように言った。
『会話は止めたからだ。』
ハクトも頷いた。
『どうやるの?』
レイラは辺りを見渡した。
『何か強力なビームでも出せればいいのだが・・・・』
ディアは困ったような表情をしていた。
『ちょっとディア。変な冗談言わないでよー』
ユイはディアを突っついて少し笑った。
『・・・・いや、本気だった。』
ディアは驚いた表情をした。
『・・・・父さん。どうすればいい?』
コウヤは目の前で俯く父親に尋ねた。
『どうやるもない。お互いが協力し合うと思っていれば・・・・・』
ムラサメ博士は呆れたように笑っていた。
—権限・・・・移動—
機械音声が響いた。
その響きが広がるのに対応するようにコウヤ達の体は消えていく。
呼吸を整えて神経を研ぎ澄ます。油断はしない。
通信機器が使えないというのはレーダーで相手を察知できない。連絡を取り合えない。というものだった。カワカミ博士は用心を重ねた結果なのか・・・・
「・・・・これだけ使えればいいっていう考えか・・・・」
自身の乗るドールのカメラから得たモニターの映像と感覚が頼りだ。
ピリっとした気配がした。
「!?・・・・ネイトラル・・・・・今の状況で来るのか・・・・・?」
シンタロウは慌てて方向を変え、気配の元に向かった。
それに気づいたのか、キースとジョウもシンタロウについて行った。
通信ができないと話せない。だが、カメラにより動きはわかる。
気配の方向を確認したときシンタロウは絶句した。
隊列を揃えたネイトラルの別の軍勢が砲台を向けていた。
光が束になっている。やばいとわかる。
「・・・・に・・・逃げろ!!」
叫んだ。通信が使えないのだから伝わるはずもないのだが、彼らには伝わるはず。
シンタロウは急いで砲撃の軌道を測るように前を観察した。
後ろからも何か違う感覚がある。
『だめだ!!シンタロウ!!』
聞こえないが、これはモーガンだ。
エネルギー残量を見て頭の中でシュミレーションした。
「だめなのは・・・・こいつらだ。」
シンタロウは呟くと軍勢に向かって行った。
フィーネの操舵室ではモーガンが叫んでいた。
「・・・モーガン・・・?」
レスリーはモーガンを驚いた様子で見ていた。
「艦長。・・・・ネイトラルが来ました。軍勢が増えている。それを確認して・・・・シンタロウ達は飛び出して・・・・このままだと負ける。」
モーガンは急いで舵に飛びついた。
「それ、本当・・・・?ネイトラルは機会をうかがっていたってこと?」
リリーは青い顔をしていた。
「この状況を狙って、数量戦で勝つつもりだ。コウヤ達が戦えない状況にあることを知っているのは限られている。」
レスリーはモーガンの操舵を手伝いにかかった。
「・・・・戦いましょう。今、白い戦艦が沈められたら・・・・」
イジーも顔が青かった。
「誰かがネイトラルにリークしたのか・・・・」
マックスは呟いた。その横でリオとカカが首を振っていた。
「別に二人を疑っていない。・・・・俺はずっと二人といたから・・・・誰だ?」
マックスは頭を抱えていた。
「・・・・犯人捜しは後だ。全員集中しろ。あいつらは数で押し切れると思っている。」
レスリーは目の前のモニターを睨んだ。
フィーネは再び戦場に向かった。
目で見て、砲撃を感じて避ける。
キースはそれを実践できていることに驚きもあったが、当然だという思いが根底にあった。
シンタロウが鉄砲玉の様に軍勢に向かって行き、かき乱す。これは変わらない戦法の様だ。
「・・・・・だが、あいつもエネルギー量がそろそろやばいはずだ。」
キースは前に出た。シンタロウと通信ができないのだから何か言えるわけではない。だが、気付いてくれるのを祈る。
気付かずに戦い続けている。いや、気付いても戻れないのだ。
キースもそうだ。下手に退いたら白い戦艦が沈められる。今白い戦艦から敵意も何もない。おそらくコウヤ達が占領している状態に近いのかもしれない。戦えないのだったらあっという間に沈められる。
向こうの領域に入った方がいい。通信ができないのは向こうも同じだ。チラリとジョウを見ると向こうも察したのか前進した。
背後から別の気配がした。
ふわっとしたものだ。
キースは横を通る光の束を見た。
「・・・・フィーネ・・・・」
後ろには戦艦フィーネがあった。先ほどの砲撃もそこからの様だ。おそらくモーガンが察知したのだろう。
「・・・・どこまでも心強い。」
フィーネの砲撃で更に敵は混乱した。
「・・・・あの時とは違う。」
キースは歯を食いしばった。
焼けるような痛みが頭に響いた。
目の前がチカチカする。
普段使わない能力を使うのだから当然だろう。
「・・・・ここで踏ん張らないと隊長失格だ。」
キースは目を見開いた。
視界に砲撃が入って来た。
キースは急いで避けた。
確実に白い戦艦に狙いを絞っている。
砲撃の周りをシンタロウが飛んでいた。だが、スピードは加減している。
明らかにエネルギー不足になっている。
「・・・・くそ!!」
気になっても砲撃を止めない戦艦をどうにかしないといけない。
キースは舌打ちをした。
動力に回すためにレーザー砲は撃たない。持っていたレーザーの剣も使えなくなっている。
更に削るエネルギーを頭の中で調べながら砲撃の位置を確認する。
「・・・・これだな。」
シンタロウはモニターを切った。
何も見えないのではない。分かるはずだ。
先ほどまで感じていた汗の不快さも気にならない。
見えないが、わかる。
フィーネが来ている。
白い戦艦もある。だが、そこからの攻撃は期待できない。
感じるままに進む。どうなったかは分からないがわかる。
ピリピリと肌に感じる。
とてつもない寒気があるとそこから避ける。だが、フィーネと白い戦艦は常に気に掛ける。
砲撃と違う気配が白い戦艦に近づいている。
「・・・・特攻だと・・・・」
間違いない。一つの戦艦が白い戦艦に体当たりするつもりだ。
「させるか!!」
シンタロウは真っすぐ向かった。
フィーネはとうとうモニターで前線を確認できるところまで来た。
モーガンは青筋を立てるほど頭を使っているようだ。汗は滝の様だが、集中力が切れている様子はない。
「・・・・モーガン!!あれ・・・・突進しているんじゃ・・・・」
イジーはモニターに映った一つの戦艦を指差した。
「砲撃は!!」
「間に合わない!!」
「とにかく撃て!!」
もはや前線で仲間が戦っているとかは考えていられない状況だ。
だめだ、間に合わない駄目だ。
「フィーネ飛ばす。」
レスリーは全員の意思を聞かずに前進をさせはじめた。
敵の戦艦が白い戦艦に迫る。砲撃はギリギリで届いたようだ。
もう殺さないようにとかはなく、止めることだけだった。
だが、戦艦が砲撃されても煙を上げながら進んでいた。
「撃て・・・撃て!!」
なりふり構わず叫んだ。
煙を上げる戦艦と白い戦艦の間に一つの影が出てきた。
はっきりしない映像の中、それは鮮明に見えた。
影は煙を上げる戦艦に向かってる。そして、影から光が発せられる。
「・・・・レーザー砲・・・・」
その影が発したレーザー砲により突進を試みていた戦艦の軌道は変わり、直撃は避けられたようだ。
流石はハクトが乗っていないとはいえフィーネだと思った。
どうにか戦艦に砲撃を与えられた。
だが、軌道は変わらない。
シンタロウは、残りのエネルギー量を考えた。
見えないながらもわかる。
隙間に入り込み、手を挙げる。
反動はどうでもいいだろう。直撃よりはましだ。
微かな抵抗で突進しながら放った。
実際に撃つのは初めてだった。装備された銃は撃った。だが、こんなに振動が来るものなのか。
感心しながら前を見た。
見えないが、当たっている。軌道は、流れは、ずれたのかは分からない。
反動に対応するように逆噴射される仕組みだが、今はそんなのに回すエネルギーは無い。
グンと体が後ずさる。
背中に衝撃。頭に響く。体がしなり、首と腰に負荷がかる。
「が!!」
痛みと苦しさに呻いた。肺の怪我が治っていないのだろう。血の気配を含めた息がこみ上げてくる。
そして、先ほどまで目の前にあったコックピットすら暗くなる。
完全にエネルギーが切れたのか、はたまた、自分の視界が消えたのか。
考え始めた時、細かく衝撃を発するものが近づいている。
「・・・・直撃してないのか。」
よかったと呟いた。
視界は完全に暗くなった。
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でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
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記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
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【全17話完結】
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