あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)

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六本の糸~収束作戦編~

過ぎ去りし日々

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 目の前に広がるのは、よく歩いた通学路。

 ユイと歩いて、ここの合流地点でハクトとディアと合流し、あの先に施設から出てくるクロスとレイラを待った。



「「希望」・・・・・俺たちの通学路だ。」

 コウヤは地面を踏みしめた。その感触も懐かしい。



「・・・コウ。」

 隣にユイがいた。だが、ユイは昔の姿だった。



「ユイ・・・・あれ?」

 コウヤは気付いた。自分も同じであった。



「コウ・・・・姿が子供の時になっている。」



「ユイもだよ・・・」

 声も幼い時のものだった。



 流れる風景はかつて過ごした「希望」のものだった。



「・・・コウ!!」

 怒声のような叫び声が響いた。

 道の先からハクトとディアが走ってきた。例のごとく二人とも幼い姿だ。



 何も無かったら今までが夢だと思ってしまうところだが、確かにユイもディアもハクトも先ほどまでの延長線上で生きている存在だ。



「いた!!」

 更に奥から甲高い声が響いた。



「コウ!!」

 クロスとレイラだ。ハクトもそうだが、クロスも声変わりする前で、かなり高い。



「これは一体どういうことだ?」

 ハクトは首を傾げていた。



「・・・そうだ!!母さんに会いに行かないと・・・・」

 コウヤは自分の家に向かった。



 いや、待て。コウヤは走り出して、足を止めた。



「コウ!!」

 後ろを走っていたユイがぶつかった。



「どうした?」

 ディアが心配そうにコウヤを見た。



「今いつ?」



「はあ?」

 コウヤの問いにレイラは変な声を上げた。



「・・・そうか。今いつだ?」

 クロスは分かったようで自分の持っていたランドセルを探っていた。



 見つけた日付は・・・・

「母さんが死ぬ2日前・・・・」

 コウヤは走った。



 自然にいたが、異様な風景だ。



 コウヤ達以外・・・・人がいない。

 わけではなかった。数人いた。だが、まばらだ。



「・・・・もっと人が多かったんじゃない?」

 レイラは辺りを見て不思議そうな顔をした。



「・・・・当然だよ。ほとんど破壊前に避難したからね。」

 クロスは見つけた数人の顔を見て悲しそうな顔をした。



「・・・・ここにいる人は・・・・まさか。」

 ディアも悲痛な顔をした。

 ハクトとレイラは息を呑んだ。



「・・・・もしかして・・・・「希望」破壊の時に・・・・亡くなった人たち・・・・?」

 ユイが言ったことは正しかった。



 コウヤは最近見たことのある人が数人いた。それは、自分の「希望」での記憶が戻った時にいた人たちだ。



「・・・・投入されたモルモットもいる。」

 コウヤは異質な人を数人見た。



 いるはずのない人物が数人いたことから、現実世界でなく、過去の世界でもないのがわかった。これは作られた世界だ。



「・・・・ここで「希望」はあり続けているんだね・・・・」

 ユイは周りの景色を見て呟いた。



「・・・母さんのところに行かないと。」

 コウヤは再び走り出した。



「お前の家はこっちだろ?」

 走り出したコウヤを止めるようにハクトが叫んだ。



「母さんは病院だ。」

 コウヤの言葉にハクト達は、はっとした。



 







 フィーネは大きく揺れている。

 戦艦内が無重力状態になり、安定しない。



 辺りが赤く点滅している。避難船の前で宇宙用スーツを着たフィーネの乗組員が立ち止まっている。



「もう限界です。・・・・避難船を一つ残して出ましょう。」

 リオは泣きそうな顔をしてた。



「艦長も来るって言っていたよ。しっかりと頷いて・・・。」

 リリーは頑なに出発をしないマックスを見た。



「・・・・確かに・・・・言っていた。」

 モーガンも頷いた。



 マックスは無言で避難船に自分以外を押し込んだ。

「マックスも早く・・・・」



 カカがマックスの腕を引っ張ろうとした。

「・・・俺、レスリーさんと後で行く!!」

 マックスは勢いよく扉を閉めて素早く外からロックをかけた。



「おい!!マックス!!」

 モーガンは急いで扉を開こうとした。



 マックスはそんなこと構わずに無理矢理避難船を押し出す準備を始めた。

「モーガン・・・・もう無理だ。」

 カカはモーガンを止めた。



「アホじゃねえの!!マックス!!艦長は後で来るって・・・・」

 モーガンは扉を叩いた。

「アホというなら艦長、先生です。」

 イジーは寂しそうな顔をしてた。



「え・・・・レスリー、あいつまさか・・・・」

 モーガンは顔色を変えた。



 リリーはモーガンを避難船の奥に引っ張り、操作に取り掛かった。



「モーガン。操作するけど、あなたが頼りです。」

 イジーはモーガンを一番前の席に座らせた。



「・・・・くそおおお!!絶対後で会うんだからな!!」

 モーガンは叫んだ。









 軍の倉庫の地下深くにあるドームとドームを繋ぐ電車がある。

 電車の入り口でレイモンドは険しい顔をしていた。



「ネイトラルは意地になっている。もはやムラサメ博士は落ち着いたというのに、攻撃を止めない・・・・それどころか・・・・愚弟のせいで貴重な人材を失いかけている。」

 レイモンドは舌打ちをした。



「総統は・・・・臆病な方ですから。」

 付き添いの兵士は気を遣うように言った。



「臆病にしては行動力がある。褒められて事はしていないが、見直した。」

 レイモンドは辛らつだった。



「そうだ、タナの容態はどうだ?」

 レイモンドは付き添いの兵士に訊いた。



「リード氏は命に別状ないです。大将の剣の腕は流石です。」

 兵士は感激したように目を輝かせていた。



「そうか。では・・・・研究用ドームに行くぞ。」

 レイモンドは電車に乗り込んだ。







 

 記憶の中にあるものと変わらない。病院は相変わらず消毒液の匂いがするし、カーテンは白い。廊下の床は少しぺたぺたしていてスリッパがくっつくことがある。

 ただ、人が全然いない。



「コウ・・・・人が全然いない。」

 ユイは記憶の中にある病院と変わらない分恐怖心があるようだ。



「皆避難したんだね。」

 レイラは安心していた。



「とにかく行こう。」

 クロスはコウヤに先を急ぐように促した。

 コウヤは頷き走っちゃいけなかった廊下を全速力で走った。



 後ろにいるユイ達も走っているようだ。ただ、子供の体が思った以上に動きにくいようだ。走るのも遅いらしくクロスやハクトは動きにくそうに顔を顰めていた。



 記憶にある母の入院していた部屋を探した。確か4階だったはず。

 エレベーターが動いていないようで、舌打ちをしながら階段を駆け上がった。



 動きにくい気がしていたが、子供の体は身軽だった。

 息切れはするが、動き自体は軽快だ。



 夢中で階段を駆け上がり、4階の廊下に飛び出した。

「・・・はあ・・・はあ・・・・」

 確か少し奥の部屋だった。



 懐かしさと嬉しさがあった。これは現実ではないが、久しぶりに母の存在を感じる。

「コウ。」

 後ろからユイが声をかけた。



「ああ。」

 コウヤは前を見て頷いた。



 目的の部屋まであと少しだ。



 途中に見かける病室にも、もちろん人はいなかった。



 母が近くにいることがわかる。

 目的の部屋は扉が開いていた。

 コウヤは勢いを殺さずにそのまま部屋に飛び込んだ。



「母さん!!」

 コウヤは期待と不安を持って叫んだ。



 部屋のベッドには人がいた。

 懐かしいショートカットの女性。顔色が悪く、やつれている。だが、優しい空気を纏った・・・



 記憶と変わらない母の姿だ。

「・・・母さん・・・」

 コウヤはベッドに座っている母に駆け寄った。

 母はにこりと微笑んだ。

 コウヤに続いて入ってきたハクト達はナツエの姿を確認すると驚いた表情をしていた。

 そして、少し微笑んだ。微笑ましいのだろう。



「コウヤ・・・・遅かったな。」

 ナツエの横に寄り添っていたムラサメ博士が笑顔でコウヤを見た。

 その顔は、歪んでいた。







 



 無重力の戦艦の中、レスリーはひたすら砲撃の操作をしていた。

 避難船が出た表示を見て安心した表情をした。

 そして、艦長の席に座った。

 操舵室は赤く点滅していた。

 ガタガタと揺れる音や動きに身をゆだねるように目を閉じた。



「・・・・お互い・・・・厄介な人間になっているな・・・・ハンプス少佐。」

 かろうじて映っているモニターを見てレスリーは笑った。

「だいたい・・・・あんたはひどいな、俺を艦長に置いて、自分を隊長にするっていうのは・・・・」

 誰もいないがレスリーは愚痴るように話し始めた。



「おっと・・・・いけない。」

 レスリーは戦況を見て、砲撃の操作をした。



 モニターを操作し、避難船の位置を確認した。

「もう・・・・いいな。」

 だいぶ離れているようで、確認すると戦艦を動かし始めた。





 ウィーン

 操舵室の扉が開く音がした。

 レスリーは飛び上がるほど驚き振り向いた。



「逃げますよ!!レスリーさん!!」

 宇宙用スーツを着て、宇宙用スーツを持ったマックスが立っていた。



「あ・・・お・・・お前・・・」

 レスリーは一瞬言葉を失ったが、息を思いっきり吸い込んで



「バカじゃないのか!?今どこにいると思ってんだ!!」

 目の前にマックスに思いっきり怒鳴った。



 マックスは普段ならびっくりして飛び上がるのに、真っすぐレスリーを見た。

 マックスは怒ったようにレスリーを睨んでいた。



「マックス、まだ間に合う。サブドールでも避難船でもいいから離脱しろ。」

 レスリーは反応を示さないマックスに毒気を抜かれたように諭すような口調に変わった。



「ええ、レスリーさんも一緒です。」



「俺はこの戦艦の艦長だ。」

 マックスの申し出にレスリーは一言で返した。



「艦長であるからと言って残る理由はありません。船から避難する艦長は沢山います。あなたは・・・・死にたがっているだけです。」

 マックスの言葉にレスリーの眉はピクリと動いた。



「・・・・そうかもしれないな。なら、お前は俺の自殺に付き合う必要は無い。早く逃げろ。」

 レスリーは自身を落ち着かせるように深呼吸をした。ここで怒ったら負けだと思ったようだ。



「この先生きていくのが怖いんだろ。」



「は?」



「クロス・バトリーでもなくなり、レスリー・ディ・ロッドとして死ぬことでクロス・バトリーとの交代を果たすんだろ。それを実行した先に自分がどう生きていくのか考えられない。戦うことしかしてなかったから想像力が乏しいんだな。」

 マックスは煽るようにレスリーを見た。



「俺を怒らせるつもりか?なら無駄だ。」

 レスリーはマックスを呆れたように見た。



 マックスはレスリーに殴りかかった。レスリーは、少しは驚いたが、戦闘訓練を受けていたレスリーと研究者だったマックスでは力の差が大きい。レスリーはマックスの攻撃を難なく流した。



「お前は俺を殴るためにいるわけでないだろ。・・・・貴重な頭脳でもあるんだろ。お前は医者であり、ドールプログラムの研究にも関わっていた。お前はこれからの世界に間違いなく必要だ。賢いお前はわかるだろ。」

 レスリーはマックスの首根っこを掴み操舵室の外に押し出そうとした。



 マックスは大きく暴れてレスリーも操舵室の外に引きずり込んだ。

「わかんない・・・・俺が必要で、なんであんたは生きていかないんだ!?」

 マックスはレスリーを睨んだ。



「いいから逃げろ。」

 レスリーはマックスの背を押そうとした。マックスは飛び上がり廊下を泳ぐように進んだ。



「俺はあんたが逃げないなら意地でも逃げないからな!!」

 マックスの言葉を聞いてレスリーは舌打ちをした。



「ふざけんな!!待て!!時間が無いんだ!!」

 レスリーはマックスを追いかけた。



 二人がいなくなった操舵室から異質な音がする。



『・・・レ・・・・・レスリー・・・?』

 機械を通した人の声だ。

 その声を二人は聴いていなかった。







 

 笑顔でコウヤ達を見るムラサメ博士は昔の姿だった。

 コウヤ達は身構えた。だが、子供の体だとたかが知れている。



「いい世界だ・・・・コウヤ。ここならずっと平和だ。」

 ムラサメ博士はナツエの手を取り笑った。

 言っていることは警戒しなければならないが、ムラサメ博士の表情は穏やかだった。

 やっと求めていた者に会えたことを物語っている。

 だが、歪んでいた。あのコウヤが彼から権限を戻す前と同じだ。



「・・・・コウヤ・・・・ありがとう。やっと・・・やっと会えた。」

 ムラサメ博士はコウヤに深く頭を下げた。



「・・・あなた?」

 ナツエはムラサメ博士を見てぽかんとした顔をした。



「すまん。ナツエ。コウヤが私と君を再び引き合わせてくれた。」

 ムラサメ博士はナツエの手を自分の頬に寄せた。



 ナツエはコウヤとムラサメ博士、そして後ろにいるユイ達を見た。



「・・・・気が付かなかっただけよ。私はずっとあなたを見ていた。シンヤ。」

 ナツエはコウヤ達を再び見た。



「・・・・・コウヤ。そしてユイちゃん、ハクト君、ディアちゃん、クロス君、レイラちゃん。この人を止めてくれてありがとう。」



「母さん・・・・」

 コウヤは頭を下げる母親を見て寂しくなった。



「・・・・この空間は・・・・私が、私の望みから作られたものなの。」

 ナツエは上を見た。



「・・・・私はここから見ていたの。ずっと・・・・・あなた方に何があったのかよく知っている。だってドールプログラムは・・・・私の分身みたいなものだもの。」

 ナツエはコウヤを再び見た。



「ねえ・・・・・あなた方は、赦せるの?」



 ナツエの目は冷たくコウヤ達の奥の何かを見ていた。



「母さん・・・・」

 懐かしい怒りを感じたが、それ以上に不安もあった。



「私を見つけたなら権限を取り上げればいいわ。造作もないこと。・・・そして、ドールプログラムを安定させるのは簡単よ。コウヤ。あなたが全てなのよ。」



「え?」

 ナツエの言葉にコウヤだけでなくユイ達も驚いた。



「・・・だって、ドールプログラムを動かしたのはあなたよ。あなたが動かした。あなたが鍵よ。」

 それを聞いたコウヤの顔は青くなった。



「あれ・・・・って・・・・」

 コウヤの声は震えた。



「ドールプログラムを作動させたのは・・・・・お前だ。コウヤ。」

 ムラサメ博士は観念したように言った。



「だから、ギンジはお前を俺に向かわせた。負ける確率が無いからだ。ナツエは源のプログラムを搭載しているが、鍵はお前だった。」



「・・・・それって・・・・俺が全ての引き金を引いたってこと?」

 コウヤの声は震えていた。



「コウ。止めろ。そっちに考えるな!!」

 ハクトはコウヤの表情の変化を読み取り叫んだ。



「コウヤ。コウヤは悪くない。きっかけを考えてみて?」

 ナツエはコウヤに優しく手を伸ばした。



「・・・・だめ!!コウ!!」

 ユイはコウヤに飛びつき、ナツエから引き離そうとした。



「だめだ君たち!!」

 後ろから知らない男が飛び出してきた。コウヤとナツエの間に立った。

 急な人物の乱入にコウヤは驚いた。



 コウヤは男の名前は知らなかったが、最近見たことがあった。

 男の緑色の目は最近見た。最近思い出した。



「あなた・・・・「希望」の襲撃に参加していた・・・・・ゼウス共和国の人・・・・」

 コウヤは最近蘇った記憶の映像にその人物を見た。



「・・・ここから逃げなさい。早く!!君たちは取り返しのつかないことになる!!」

 男はコウヤ達を見て叫んでいた。



「誰だか知らないけど・・・・貴方は大切な子を危険に晒すのを赦せるの?何で邪魔するの?」

 ナツエは男を睨んだ。



「母さん・・・何を・・・・」



「コウヤ・ムラサメ!!今すぐに友人を追い出せ!!現実の肉体が危険だ!!」

 男は叫んだ。それを聞いてムラサメ博士は舌打ちした。



「え?・・・・追い出すって・・・・」

 コウヤは両親を見た。

 追い出すというよりは・・・・ここは自分の家。希望の時の家。



「待って!!コウを置いて行ったら・・・・」

「お前も・・・・」

 ユイとハクトの声が途切れた。いや、ディアもレイラもクロスも何か言っていた。飲まれるように消えた。



「・・・・ここでずっと暮らす世界の方が幸せだろうに・・・・」

 ムラサメ博士は悔しそうに呟いた。



「・・・・でも、コウヤは残ってくれた。」

 ナツエは嬉しそうに笑った。



 気付くべきだった。優しい母親であるが、彼女はムラサメ博士が搭載したものだ。

 ムラサメ博士の、父の考えに染まっていない方がおかしいのだ。

 それよりも・・・・



「・・・・全て俺のせいなんだ・・・・そうなんだね。」

 コウヤは目の前の両親を見た。

 二人は優しく微笑んだ。二人はコウヤを赦してくれるように両手を広げた。



「・・・・さあ、コウヤ。大丈夫。ドールプログラムの全てはあなたの手に・・・・」

「そうだ。コウヤ。この人類は、すべては、お前は支配する者、神になるんだ。思うままに・・・・」

 ナツエとムラサメ博士はコウヤに聖母のような優しい笑顔を見せた。





 





 無事フィーネから避難船が出たことを確認し、その避難船を援護できる位置を探っていた。

 そこでフィーネが動き出し、敵軍に突進するような行動に出たのは驚いた。だが、ドールプログラムに長く触れていた自分はこんなことには驚かない。



 避難船に集中した。



「・・・・あのあたりから着くか・・・」

 辺りを見渡しながら他の仲間の様子を窺う。



 宇宙の戦場は意地の張り合いというのがふさわしいものになっていた。



「やはり、あのレイモンドさんはこれからのことを考える人じゃなかったんだな。」

 ジョウは温和そうな初老の軍人を思い浮かべた。



「・・・・皮肉だ・・・・今の状況は・・・・」

 ジョウは思ったことをそのまま呟いた。誰も聞いていないからだ。



「作戦で死ぬつもりの俺たちが生きて・・・・・先のことを頼まれていたあいつが・・・」

 ジョウはこめかみを指でさすった。



「・・・・あとどれくらい無茶できるか・・・・」

 避難船が自分の行動範囲内に近付いた。



 いつ他の戦艦に気付かれるかもわからない。急いで援護に行こう。

 ジョウは辺りの戦艦の砲撃を窺いながら進もうとした。



『・・・・あっちを助けてくれ・・・・』

 通信が入ったと思った。



「ハンプス少佐か!?・・・・あっちって・・・」

 ジョウは急いで通信をしてきたドールを確認しようとした。



「え・・・?」

 ドールからの通信じゃない。違う。これはこの前までの状況と同じだ。

 頭の機械が声を届けている。



 誰のか

 と聞こえた声を反芻したとき口元が震えた。



「・・・あ・・・あなたは・・・・」



『ジョウ・・・・レイの子供を、彼は私の古い知り合いなんだ。』

「どこに・・・・どうして生きていたんですか!?」

 ジョウは見えないのに辺りを見渡した。



『急いでくれ。』



「でも・・・避難船が・・・」

 ジョウははっと自分の役割を思い出した。



『・・・・それは大丈夫だ。ジョウ。君の仲間は強いな。』

「え・・・?」

 ジョウは言われている意味が分からなかった。



『ジョウ・・・・最後の命令だ。頼む。』

 命令と断言してから懇願するかつての上司の癖にジョウは涙腺が緩んだ。



「・・・・・わかりました。ナオさん。」

 久しぶりの上司の命令と彼の言っていることがわかって、ジョウは涙ぐんだ。









 



「は!!」

 思い出したように息を吐いて目を開く。

 見覚えのあるコックピット。

 ドールの中だ。



『ハクト!!』

 ディアの声だ。



「ディア!!みんなは・・・」



『僕は戻って来ている。』

 クロスも意識が戻ったばかりのようだ。



『私もよ。』

 レイラの方が意識が明確なようで、はっきりと返事をした。



『ハクト、コウだけ戻って来ていない・・・・』

 ユイは不安そうに言った。



 予想はしていたことだ。

「コウ・・・・・」



 罪悪感で苦しみ彼はここまで生きてきた。自分が無力と思いながらもここまで付いてきてくれた。



『・・・・・コウ大丈夫かな・・・・』

 ユイの言いたいことはわかる。



『・・・・信じるしかない。』

 クロスの言葉には願望が滲んでいた。



『それより・・・・動かないと。コウを守りながら』

 ディアがドールを動かそうとしたようだ。

 ハクトも気付いた。

 神経接続が解けている。



 コウヤにプログラムから追い出された時に接続も無理やり解除されたらしい。



 急いで接続しなおす。

『遠隔操作しろ!!』

 クロスの叫び声が響いた。

 モニターを見ると数隻の戦艦があった。



 先ほど自分たちを助けてくれたものに感謝しながらハクトは遠隔操作の作業に向かった。

 だが

「・・・で・・・・できない。」

 いつも操作する際に浮かぶ糸が繋がらない。



 ハクトは他の親友の様子を見た。どうやらクロスは自分ができないと分かったから叫んだようだ。



 動かないでいる一台のドールはコウヤだ。

「とにかくコウを守る。」

 ハクトは神経接続の作業に移った。



 数隻の戦艦は光の束を作っている。



『本格的に片づけにかかって来ている。クソ!!』

 レーザー砲の気配を察知してクロスは舌打ちした。



『間に合わない!!』



『簡易接続でも・・・・』

 慌てている様子が伝わる。



 肝心な時に戦い続けてきた集中力も切れている。



『みんなが一緒ならプログラムの中でもいい。』

 ユイが叫んだ。



『ユイ・・・』

 レイラはユイの言葉に諦めを浮かべた。



「ふっざけんな!!俺の言ったこと忘れたか!!」

 ハクトは神経接続と遠隔操作無理やり両方やった。



 糸が細く繋げられそうだ。

 救いの糸になるか切れるか



 光は向かってくる。

『簡易接続で腕だけ動かせる!!』

 クロスはレイラを押し出し、コウの乗ったドールも一緒に押し出した。



 次にユイとディアに向かった。

『お前ひとりで食らうつもりか!!』

 ディアが怒ったように叫んだ。



『ふざけんなクロス!!』

 レイラも叫んだ。



 一瞬だった。黒いドールが飛びこんできた。片手には見たことのないレーザーの剣が握られていた。









 光の束に向かいレーザー砲を逸らす。

 戦艦は数隻ある。レーザー砲を逸らしながら手を差し出しレーザー砲を放つ。



「誰だ・・・・」

 ハクトは無理矢理神経接続と遠隔操作を行ったために誰だか察知出来ていない。



『ひどいな・・・・隊長のこと忘れちゃったのか?』

 気安い口調で言うが、息切れが聞こえる。



「ハンプス少佐・・・・」

 ハクトは安心した。が、何か引っかかることがあった。



『あなた、レーザー砲使えないはずじゃ・・・・』

 レイラがハクトの引っかかりを代弁した。



「そうです!!そうです・・・・」

 ハクトが質問しようとしたが



『待てよ・・・時間が無い。だから手短に話す。』

 キースは慌ててハクトの発言を止めた。



 時間が無いとはどのようなことなのか



『無理するな。』

 ハクトの思考を呼んだようにキースは言った。



『あなた・・・死ぬ気か!?』

 クロスが怒ったように叫んだ。



『お前に言われたくない。クロス・バトリー。隊員の命を考えるのは隊長の役目だ。隊員は自分が生き残ることを考えろ。』



 黒いドールは戦艦に向かって行った。







『お前らは仲良く生きろよ。』



 黒いドールは数隻の戦艦とともに光に包まれた。



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