あやとり

近江由

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~糸から外れて~無力な鍵

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 シンタロウは慌ただしくしている整備士たちに悪く思い、格納庫から出て廊下で専用スーツの上半身部分だけはだけさせていた。



「少佐。臨戦態勢が解かれると普通の学生にも見られますよ。」

 横を歩くイジーが咎めるように言った。



「裸なわけじゃない。肌着は着ている。」

 シンタロウはつなぎ状になっている専用スーツの上半身部分の両腕を腹の前で縛って留めた。



「上羽織ってください。」

 イジーはいつの間にか手に持っていた軍服の上着をシンタロウに渡した。



「ありがとう。」

 シンタロウは上着だけ羽織った状態でそのまま歩き続けた。



「…大丈夫?」

 イジーは口調を変えて訊いた。



「大丈夫じゃなった。イジー。」

 シンタロウも口調を変えていた。



「聞いたわ。クロスさんだったって。」



「ああ。強かった。けど、それじゃない。」

 シンタロウは弱った表情をした。



「どうしたの?」

 イジーは立ち止まって彼を見た。



「…呼ばれるんだ。俺のことを…」

 シンタロウはイジーと同じように立ち止まった。



「呼ばれる?」



「ああ。おそらく…狙いは俺たちだ。」



「シンタロウたちが狙い…」



「テロリストとしてじゃない。バックにいる存在にとってもだ。おそらくバックにいるのはドールプログラムだ。」

 シンタロウは確信した様に言った。



「それと同じようなことをマックスさんが言っていたらしいけど、シンタロウはどうして確信したの?」



「あの時とやり方が同じだと思う。」

 シンタロウは俯いて考え込むように言った。



「あの時?」



「怒らせて、破壊させて、煽ることだ。」

 シンタロウは嫌悪を示した。



「確かにテロリストを煽っているわ。」

 イジーは納得したように言った。



「それだけじゃない。イジーには聞きたいことがあるんだ。」

 シンタロウは親し気な目でなく、鋭い目でイジーを見た。



「なんですか?少佐。」

 イジーはシンタロウの表情が変わったことに気付いたのか姿勢を正した。



「ロバート・ヘッセの妻についてだ。」

 シンタロウは探る様にイジーを見ていた。



「私も詳しくは知らないんです。それがどうか?」

 イジーは首を傾げていた。



「いや、知らないならいい。」

 シンタロウは訊くことが無くなったのか、表情が緩んだ。



 それと同時に多少緊張も緩んだのだろう。足がふらついて、壁に手をついた。



「ちょっと!!無理しないでって。」

 イジーは仕方なさそうに無理やりシンタロウの腕を持ち、自分の肩にかけた。



「いや、俺は怪我もしていないからこれは申し訳ない。」

 慌てて腕を払おうとするシンタロウをイジーは睨んだ。



「何回あなたに肩を貸したと思っているの?今更よ。」

 イジーは口を尖らせて言った。



 その様子を見てシンタロウは優しい笑みを浮かべた。



「なあ…気が付いたら時間が進んでいたんだ。」

 ぽそりと懺悔するようにシンタロウは呟いた。



「そうなの」



「ああ。頭に呼ばれる声が響いて…グスタフが目の前に現れるんだ。抗っているうちに…コウヤが来ていた。」



「…だから無理しないでって言ったでしょ?」



「頑張る。」

 イジーの肩にシンタロウは頭を寄りかからせた。









 

 アリアはリコウから見てとても綺麗な人だった。



 マックスやコウヤ、見たところウィンクラー少佐とイジーとも顔なじみのようだ。



 言われた通りウィンクラー少佐の部屋で待機する形をとっているが、二人掛けのソファが二つと部屋の主用の椅子が一つだ。



 緊張して固まったジュリオは直立不動の状態で立っている。

 彼の視線からして、リコウが座るのはきっと咎められそうだ。ジュリオに。



 リコウも仕方なくジュリオと同じように立った。



「お前座らないのか?」

 と聞くマックスは我が物顔でソファにふてぶてしく座っていた。



「マーズ博士。どうやって地球に降りてきたんですか?」

 アリアが興味津々でマックスの横に腰かけた。



 マックスは飛び上がって慌ててリコウの後ろに回った。



「急になんだ?アリア・スーン。俺の隣でなくても訊ける話だろ?」

 リコウを盾とするように、彼の後ろから顔を出してマックスはアリアに言った。



 マックスの慌てぶりがおかしいのかユイはマックスを指差して笑っていた。



「笑うな。ユイ・カワカミ。だいたい何でお前等一緒に行動しているんだ?理解できない。」

 マックスはユイを睨んで言った。



「ユイ・カワカミ?この人戦士の一人だったのか?」

 リコウの横に立っていたジュリオはユイを見て驚いていた。



 それを見てユイはジュリオに向かってピースサインをした。

「そうだよ。公表されて困っているの。」

 困ったように言うが、満面の笑みだった。



 きっと彼女は天真爛漫なのだろうな。と思える行動と話し方だった。



「この女はお前よりもずっと強いから気をつけろよ脳筋。」

 マックスはもうジュリオを脳筋と呼ぶと決めたようだ。



 ジュリオは少し不満そうな顔をしながらも仕方なさそうにその呼び名を容認したようだ。



「しかし、何でこんな見るからに脳筋をシンタロウは呼んだのか…」

 マックスはジュリオを見て呆れたような顔をした。



「それは彼が私の注意を再三無視して待機命令を聞かない困ったであることが関係していると思います。」

 ノックもせずにイジーが入ってきた。



 急に部屋に入ってきたことにリコウとジュリオは驚いたが、他の者たちは驚いていなかった。



「待たせて悪いな。」

 イジーの後ろからはウィンクラー少佐が入ってきた。



 ドール専用のスーツの上部分を脱いでいるが、その上に軍服を羽織っている。



 ただ、肩にかけている状態であるから彼の上半身がしっかり見える。もちろん裸というわけではないが、筋肉質であることはわかる。





「えっぐい体してるわね。」

 アリアはウィンクラー少佐の様子を見て言った。



「環境に順応したらこうなった。」

 ウィンクラー少佐は自分の机を見た。



 暫くすると天井から机部分にかかるほどにモニターが降りてきた。



 ウィンクラー少佐はリコウの隣にいるジュリオを見た。



 ジュリオは姿勢を更に正して目を輝かせながらも少し不安な表情をした。



「戻れないぞ。今なら間に合う。」

 ウィンクラー少佐はジュリオに覚悟を聞いているようだ。



「前に軍に入った時から決めています。」

 ジュリオはウィンクラー少佐を見てはっきりと言った。



「…ジュリオ・ドレイク。」

 ウィンクラー少佐はジュリオに向かって歩いてきた。



「は!!」



「お前を、俺の外部部下として扱うがここにいる者以外には秘密にしろ。そして、戦艦内部の学生を偵察しろ。」

 どうやらウィンクラー少佐はジュリオを外部部下というものに認定したようだ。



 ジュリオはそれを聞いて目を更に輝かせた。

「はい!!」









「外部部下って、昔のコウヤみたいなものね。」

 アリアはコウヤを見て言った。



「懐かしいな。シンタロウは少佐だもんな。」

 コウヤは懐かしそうに目を細めていた。



 少佐



 リコウはなんとなくだが、彼等は亡くなったキース・ハンプス少佐のことをいっているのだと思った。



「それに加えてこいつは若いし、血が繋がらないとはいえ総統閣下の息子だからな。」

 マックスは冷やかすようにウィンクラー少佐を見た。



 やはり、マックスはウィンクラー少佐とコウヤには心を許している。

 異性だからというのもあるが、二人に対してはおそらく他の戦士とは違った関係があるのだろう。



「それを言ったらコウもじゃん。」

 ユイが満面の笑みでコウヤを指差して言った。



「え?」

 リコウとジュリオは彼女が何を言っているのかわからなかったが、ウィンクラー少佐とイジーとコウヤが苦い顔をした。



「え?どういうことですか?」

 ジュリオが食いついた。

 何に関してコウヤもだと言っているのが気になったようだ。



「え?だからコウもレイモンドさんの息子だよねって。」

 ユイは当然のことのように言った。



「ええ?」

 リコウとジュリオが飛び上がる勢いで驚いた。



 だが、リコウには心当たりがある気がした。



 総統閣下はあのとき「息子たち」と言った。



「言っていなかったの?」

 アリアは驚いたようにコウヤとウィンクラー少佐を見ていた。



「あのね、コウとシンタロウはね、血のつながらない兄弟なんだよ。」

 ユイは楽しそうに言った。



 兄弟

 その言葉はリコウに響いた。



 だがそれよりも…

「意味が分からない。」

 リコウの隣のジュリオはもう頭がパンク寸前なのか、難しい顔をして限界まで顔を顰めていた。



 リコウも全くジュリオと同じ意見だった。



「シンタロウは養子だけど、コウの育てのお母さんがレイモンドさんの結婚相手なんだよ。奥さんだね。」

 ユイは隣で頭を抱えているコウヤをガン無視して分かりやすい説明をしてくれた。



「しかも、妹もいるぞ。今何歳だっけ?」

 マックスは楽しそうに言った。



「え?じゃあ、血のつながらない三兄妹なわけなのか?」

 ジュリオは理解できたけど理解できないようで首を何度も傾けていた。



「あの、どっちがお兄さんですか?」

 リコウは純粋に気になったことを訊いた。



「…俺だよ。もういいだろ。この話題は。」

 コウヤは両手を振って話題を変えようと主張した。



「全くだ。」

 ウィンクラー少佐もコウヤに同意していた。



「今から連絡を取るのはレイモンド・ウィンクラー総統閣下なんですけどね。」

 イジーはポソリと呟いた。

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