短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
22 / 78
【滴り注げ、双翼の愛】

3話【蔑もう、絶対服従の下等生物】

しおりを挟む



 吸血鬼から吸血された人間は、その吸血鬼の言いなりになるらしい。
 その状態に陥った人間のことを、吸血鬼たちは『眷属』と呼んだ。

 眷属は、主である吸血鬼から与えられたどんな命令にも【絶対服従】。それはどんな例外も通用しない、絶対的な関係性。
 だからこそ吸血鬼は、人を吸血することに意味を見出していた。

 ──それは吸血鬼が生きていく中で、とても合理的な手段だから。


 * * *


 グラスを傾け、左翼は呟く。


「『吸血鬼に吸血され、眷属となった生き物は主である吸血鬼に絶対服従。だからこそ、吸血鬼は人間を吸血したがる』……ですか」


 ステーキをナイフで切りつけながら、右翼は顔を上げた。


「へぇ、珍しいね? まさか、左翼が『人間』】って単語を口にするなんて」
「あっ。ごっ、ごめんなさい、右翼お兄様っ。お食事中に、私ったらなんて単語を……っ!」
「いいや、かまわないよ。驚きはしたけど、そうだね……」


 右翼は切り分けた肉片をフォークで刺し、それを口に運ぶ。
 しっかりと咀嚼し、嚥下した後。……右翼は小さく、口角を上げた。


「ぼくは左翼ほど、生粋の人間嫌いじゃないからね」


 青い瞳で悲し気な眼差しを向ける左翼に向けた、赤い瞳の小さな笑み。
 右翼が向ける、些細な表情。それだけでも、左翼の笑みを引き出すには十分すぎるものだ。


「『吸血鬼に吸血され、眷属となった生き物は主である吸血鬼に絶対服従。それはつまり、眷属からならいつでもその身──血液を差し出させることが可能ということ』……でしょ?」


 吸血鬼──右翼と左翼の両親が口癖のように言っていた言葉を、右翼が復唱する。
 どんな吸血鬼だろうと、必ず欲しがる存在。【眷属】は、吸血鬼にとって便利な【血液タンク】だ。

 吸血鬼が血を渇望した時、手軽に新鮮な血液を入手することができる都合のいい存在。それが【眷属】であり、つまり【人間】だった。
 その考えは吸血鬼にとっての常識で、一般論。幼少の吸血鬼が教育を受ける過程で、その事実は耳にたこができるほど聞かされる話だ。

 だが左翼は、その考えがどうしても好きになれなかった。


「血を吸われただけで、絶対服従になるなんて……。人間には、プライドというものがないのでしょうか」
「ぼくたち吸血鬼の力がそれだけ圧倒的で絶対的で、とどのつまり強いってことだよ」
「それでも、私は人間が好きじゃありません」


 そう言い、左翼はグラスを更に傾け……床に、液体を零す。
 シェフが用意した液体──【人間の血液】は、大理石を赤く汚した。


「どうして、大人はすべからく【人間から】吸血したがるのでしょうか。私は、右翼お兄様以外の血なんて欲しくありませんのに……っ」


 右翼と左翼から距離を置いて立っていた使用人が数人、掃除をしようと行動を起こしかける。……余談ではあるが、この屋敷にいる使用人は全員、右翼と左翼の両親が所有する眷属だ。

 両親の眷属──使用人の動きを、右翼は片手で制した。


「左翼は、左翼の考えを貫いたらいい。人間なんて、血を吸い尽くされたら死ぬ生き物さ」
「そんなの、どの生き物だって同じです。右翼お兄様のお気持ちは嬉しいですが、今のは気休めにもならないお言葉ですよ」
「そうかもね。でも、ぼくは左翼をそんな目に遭わせやしないよ」


 口元をナプキンで拭き、右翼は正面に座る左翼を見つめる。


「左翼を吸血していいのは、ぼくだけだからね。だから、左翼だけは別。血を吸い尽くされて死ぬなんて未来は、永劫来やしないさ」
「……っ」


 白磁のような頬を朱に染め、左翼は右翼から瞳を逸らした。


「それも、気休めになりません。……屁理屈、です」
「左翼の気分が良くなるなら、ぼくは左翼からどれだけ責められてもかまわないよ」
「右翼お兄様の、ばか……っ」


 微笑む右翼から視線を逸らしたまま、左翼が呟く。


「私が別なのでしたら、右翼お兄様だって……別、です……っ」


 その後、左翼が恥ずかしそうにそう付け足すものだから。右翼は余計、愉快気に微笑むのだった。 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...