リビングデッドと雪男

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
36 / 49
10話【孤独】

4

しおりを挟む
 アパート近くのスーパーで総菜と飲み物を調達した後、俺は雪豹先生をつれて歩いた。

 街灯で照らされているけれど空は真っ黒で、雪なり雨なりが降りそうな雲行きだ。

 けれど、今日は雪が降ってもいいと思う。雪豹先生が万が一融けても大丈夫なように、だ。


「すみません。短時間で片付けたので、あまり綺麗ではありませんが」
「あ、お、おかまい、なく……っ」


 小さく一礼した後に「お邪魔します」と呟いた雪豹先生を部屋へ招き、扉を閉める。

 お世辞にも雪豹先生の部屋みたく綺麗ではないが、雪豹先生は何も文句を言わない。


「ひとまず、そこ座っててください」
「分かりま――あ、麒麟さん」
「はい、何でしょうか」


 名前を呼ばれたので振り返ると、雪豹先生が困ったように俺を見上げていた。


「保険証。いざという時に持っていないと、困っちゃいますよ……?」


 雪豹先生が両手で持っているのは、俺がわざと置いていった保険証だ。

 眉尻を下げながらはにかむ雪豹先生から、俺は視線を逸らす。


「気を付け、ます」
「はい」


 わざとと言えど、医者の前で保険証を持ち歩いていないとバレたのは……失礼だったかもしれない。たぶんそんなこと、雪豹先生は気にしてないだろうけど。

 狭いテーブルに料理と飲み物を並べると、雪豹先生は嬉しそうに肩を揺らして笑った。


「どうかしましたか」
「あ、す、スミマセン……っ! その、嬉しくて、つい……」


 スーパーで買った料理を眺めて、雪豹先生は笑っている。


「ボク、雪以外は何も食べたり飲んだりしないんです、けど……こうして誰かと一緒に飲み会ができて、嬉しいです」


 買い出し中、雪豹先生は何も欲しいと言わなかった。前回コンビニで買い出しをした時もそうだったが、どうやら雪豹先生は普段から食事を一切しないらしい。

 だったら買い出しは俺一人でもいい気がするが……それじゃあ駄目だ。

 ――俺からしたら、大きな意味合いはない忘年会だけど。

 ――雪豹先生からすると、この忘年会は特別なのだから。


「……だったら、お金は折半じゃなくて全額俺に払わせてほしいです」
「うっ。ボ、ボクも何か食べます……っ」
「無理は」
「し、しません……スミマセン」


 正座したまま膝に手を付き、落ち込んだように俯く雪豹先生が可笑しい。

 思わず笑みを浮かべると、雪豹先生の毛先から水滴が零れた。冷凍庫に雪を詰めておいたのは正解のようだ。こう見えてタオルの用意もバッチリなので、突然融けても対策は万全である。

 テーブルの上に食べ物を並べてから、俺は雪豹先生と缶ジュースで乾杯した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...