リビングデッドと雪男

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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10話【孤独】

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 雪豹先生に好意を寄せられていたと仮定して、真っ先に考えることがある。

 ――いつから?

 俺と雪豹先生が話すようになったのは、俺がリビングデッドになったあの日だ。順当に考えるなら、一番早くてもその時だろう。

 ――つまり、俺が【他種族】だから?


「……んだよ、それ」


 味方と言ってくれたのは、雪豹先生だった。

 あの時俺は、本当に嬉しかったんだ。一人じゃないんだって、分かってくれる相手がいるんだって。本当に、純粋に……嬉しかったんだ。

 ――なのにどうして、俺はこんなに孤独なんだろう。


「俺が死んで――他種族だから好きなんでしょうッ!」


 痛むはずない胸が、こんなにも痛い。

 他種族に嫌悪感がないのに、周りは違う。

 退院する日、雪豹先生が言っていた通りだ。


『中身が全く変わっていなくても、世間――人間から向けられる視線は……変わってしまうと思います』


 だったら俺は、どうしたらいい。

 自分で選んだことなのに、俺はこの気持ちを……怒りを悲しみを、どこにぶつけたらいいんだ。


「死体になって動き回ってる俺を見て、ドキドキしたんですかッ! 他種族を嫌う【人間】が他種族になって、同じ立場になって……だから、高揚したんでしょうッ!」
「ちが、違いますっ! ボクは、そんな理由で麒麟さんのことを、す、好きに……好きに、なったわけじゃありませんっ!」
「嘘だッ! 誰が信じられるかッ!」


 夢を見た時に、気付けていたら良かったのに。

 ――どうか、他種族であることを悲観しないでほしい。

 ――そしてどうか……他種族である俺を、雪豹さんだけは変わらず……受け入れて。


「――元から化け物のアンタに、俺の気持ちは分からないッ!」


 こんな孤独感を抱くなら、リビングデッドになんかなるんじゃなかった。

 叫ぶようにぶつけた言葉がどれだけ痛烈なものだったのか……吐き出して、頭がクリアになってから気付く。

 ハッとして、床に押し倒した雪豹さんを見る。
 雪豹さんは体を小刻みに震わせて、自身を押し倒した張本人である俺を見上げていた。

 そしてそのまま、震える唇で……言葉を紡いだ。


「ご、めん……なさい」


 雪豹さんは依然として、涙を流してはいなかった。

 ――けれど、確かに……泣いているのだ。


「ボクは、医者として……担当医として、貴方を守れなかった……っ。貴方を見ていたのに、心の傷に……気付かなかった」


 赤い瞳を揺らしながら、泣き出しそうな顔で涙も流さず泣きながら、雪豹さんはひたすらに贖罪の言葉を紡ぎ続ける。


「ボクをどうにかすることで、貴方の気が晴れるなら……ボクは、どうなったって構いません……っ。担当医だから――貴方が、好きだから」


 嘘偽りない言葉に、体が震えた。


「だからどうか……自分を、自分自身を、嫌いにならないで……っ」


 頼りなさげで、いつもオドオドしている雪豹さんだけれど。

 こんな状況だというのに……雪豹さんは変わらず、俺の味方でいてくれている。

 なのに俺は……その想いに、気付けなかった。

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