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【ハッピーエンドと誰が決めた】

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 ……真面目な話。

 この王子は、ヘンタイだってところを抜けば……まぁ、かなりハイスペックな男だ。

 背は高いし、イケボだし、運動もできる。
 頭もいいし、物腰も穏やか。
 それでいて、イケメン。

 ……神様よぉ? コレって不公平だと思わないか?
 何でこんな男を創りだしたんだよ?
 同じ男として泣けてくるぜ。

 思わず、ジーッと、顔面を凝視する。


「……白雪姫」


 すると、突然。

 ──王子が、オレの手を握った。


「どぅえ……ッ!」


 オレの手、よりも……大きくて、ガッシリしてる。
 ……それに、あたたかい。

 王子はオレの手を握ったまま、その場に跪く。

 そして……まさに真剣そのものな目で、オレを見上げた。


「──私と、結婚してください」
「ぎぇぇ……ッ!」


 な、何でそんなにイイ声出すんだよ……! 思わず、潰れたカエルみてぇな声出しちまったじゃねぇか。……誰が潰れたカエルだ!

 自分の顔を見なくたって、分かる。

 ──オレは、きっと。

 ──真っ赤に、なっているだろう。


「白雪姫」


 熱い瞳で、真っ直ぐに見つめられる。

 ──ダメ、だ。

 心臓が、ウルサイ。

 手から伝わる熱が、妙に気恥ずかしい。


「……どうしても、無理でしょうか?」
「ひ……ッ」
「白雪姫、返事を」


 整ったその顔は、茶化しているようには見えない。
 さっきまで可愛いハサミを持っていたヘンタイとは、まるで別人のようだ。

 ──どう、しよう。

 赤くなった顔のまま、オレは王子を見つめる。

 この男相手に、これだけドキドキしたのは……たぶん、初めてだ。

 だって、そうだろ?
 コイツはいつも、ふざけたことばっかり──。

 ──いや。

 いつもコイツは、小人の手伝いをしてくれる。

 オレが持っていた重い荷物をさりげなく持ってくれたり、ほつれていた小人の服を素早く直してくれたり。

 ──コイツは、いい奴なんだ。


「オ、オレ、は……ッ」


 恥ずかしくて、王子の顔を見ていられない。

 ──真剣な気持ちなんだから。

 ──真剣に、答えなくちゃいけない。

 なのに、コイツの顔を見ていたら頭が真っ白になって。

 ……ん?
 ……『真っ白』?

 いつの間にか下がっていた、オレの視線。
 その先に、映ったのは。

 ──真っ白な二本の棒。

 ──まるまるとした、カボチャのようなもの。

 ……白い棒と、カボチャ……?


「……白雪姫? どうかされましたか?」
「お、まえ……ッ」
「はい?」


 確かに、カッコイイ奴だ。
 それに……いい奴だとも、思う。

 だけど。

 だからって……ッ!


「──そのファッションセンスだけは、マジでムリだからァアアッ!」


 なにを、ドキドキしていたのだろう。

 初対面でキスをかましてきて、毎日ワケの分からん告白をしてきて。
 挙句に、このファッションときたもんだ。

 というかコイツ……ずっとオレの手をスリスリ揉み揉みしてきてるし!


「ご安心を、白雪姫! 既に私たち二人の寝室は用意済みですし、初夜の準備も万端です! 母上が愛読している男性同士の官能小説は、私も読破しております! つまり、私は童貞ではありますが知識だけはあるということです!」
「気持ち悪ィよバカじゃねーの手離せやキモイッ!」
「ウブなのですね、白雪姫。ですが、なにも不安がることはございません! きちんと【メスイキ】というものを体感させてみせましょう! こう見えて私、天才型ですので!」


 オレの言葉をどう解釈したのか。
 王子は、ワケの分からんことをのたまっている。

 ──コイツは確かに、いい奴かもしれない。

 ──だけどそれ以上に……どうしたって。


「──この、ヘンタイがアアアァァッ!」


 ──コイツは、ヘンタイなのだ。

 今日も森に、鈍い音が響き渡った。





【ハッピーエンドと誰が決めた】 了




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