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【面白味もない恋の話】
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しおりを挟むコヨリは俺の胸に顔を埋めつつ、淡々と会話を続行する。
「お兄ちゃんの好みのタイプを彼女さんで把握して、研究して、盗んで……。そうやって、将来の僕に役立てるつもりだったから。だから、お兄ちゃんに彼女ができても、彼氏ができても……僕は、平気だよ」
確実に、俺がコヨリ以外の相手とは別れると。そうした大前提を敷くことで、コヨリは俺が誰と恋愛をしてもポジティブ思考で受け止められるらしい。
俺が選んだ相手から、俺の好みを学ぶとは。クールで感情が乏しく、色々と心配な子供だとは思っていたが……どうやら想定外なことに、コヨリはかなり強かだったらしい。
ふたつに結ばれた、コヨリの髪。俺は片方の手でコヨリの頭を触りながら、気になったことを口にした。
「……じゃあ、観察とかが済んだ後。その後は、どうするつもりだったんだ?」
「どんな手を使ってでも、お兄ちゃんがその人を嫌いになるようにするつもりだったよ」
これまた、即答。コヨリは俺の手を払いのけることもせず、未だに俺の胸へ顔を押し付けたまま、淡々と答えた。
これは、また。なんとも捻れた発想だ。ボーッとしているかと思えば、内側には猛獣の如き行動力を内包していたとは。
……しかし、それにときめく俺も大概なのだろうか。
「それだと、時間をかけて好みを観察する意味がないんじゃないか?」
「そこは臨機応変にする。好きそうな動作とか、返事とか、そういうところを知りたかったから」
「なんとまぁ、勉強熱心なことで」
コヨリの、なんとも言えない若干ずれた恋心。それがなんだかいじらしく、それでいて『可愛い』と思えるのだから……やはり、俺も大概なのだろう。
……さて、忘れてはいけない。ここは人通りが多くないとは言っても、外だ。いつ誰が来てもおかしくはない場所である。俺は名残惜しさを感じつつも、コヨリを抱擁から解放した。
ハグを解くと、案の定コヨリはしょぼんと落ち込んでしまった……ように、見える。あまり表情が変わらないから、推測交じりの断定ではあるが。
それでも、俺の意思を汲み取ってくれたのだろう。コヨリも俺の背中から腕を離し、そのままそっと、俺の手を握った。
「いつか、こうして手を繋いだだけで。これだけで、お兄ちゃんにドキドキしてもらいたかった。……そのくらい、僕のことをいっぱい好きになってほしかったんだ」
なんだよ、それ。……くそっ、ときめくじゃないか。
もう一度ハグをかましそうになるが、グッと堪える。俺はコヨリの手を引いて、なにも言わずに歩き出した。
俺の後ろを、手を引かれたコヨリが付いて歩く。なんだか、子供の頃に戻ったみたいだ。
……なんて、ちょっとだけしんみりしていると。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「──キスは? しないの?」
「──おうっふぅ」
まさかの、冒頭へ戻る。コヨリは未だに、キスを諦めていなかったらしい。
だが、分かってほしいものだ。さっきまでと今の俺とでは、もう返事が全く違うものになってしまったのだと。
下心満載の俺では、コヨリにキスができない。両想いと分かったのなら、なおさら駄目だ。……コヨリは、未成年だからな。
「それは、まぁ。……もうちょっと、大人になってからということで」
「子供の頃はほとんど毎日、いっぱいしたのに?」
「その頃と今じゃ心持ちが違うんだよ……!」
「僕は子供の頃と変わらず、お兄ちゃんが好きだよ?」
「汚れた俺を誘惑しないでくれ……ッ!」
これはハッピーエンドを迎えた、どこにでもある恋の話。
……えっ? 面白味がなければ、ドラマチックさもないって? それは、まぁ、そうだよなぁ。ならば、謝罪のひとつでもさせてもらおうか。
ただただ俺たちが幸せなだけで悪かったな、ということで。ちゃんちゃん、ってな。
【面白味もない恋の話】 了
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