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7章【未熟な悪魔は伝えました】
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しおりを挟む多少調子が悪かろうと、今日も今日とて仕事は始まる。
「追着さん、すみません。少し、システムのことで教えていただきたくて」
俺は職場内だと、人事担当と上司を除けば草原君にしか自分の血筋を語っていない。俺が悪魔と人間の混血だと、周りはほとんど知らないのだ。
「あぁ、大丈夫ですよ。どうしました?」
だから、普段通りに。俺は作業の手を止めて、女性職員が立つ方を振り返った。
「資料のこの部分なのですが、システムで修正ってできないのでしょうか? イマイチ、やり方が分からなくて……」
「なるほど。口頭では難しいので、そちらのパソコンで説明しますね」
「ありがとうございますっ」
女性職員が使っているパソコンまで移動し、断りを入れてから椅子を借りる。
ふむふむ、このデータは確か……。組み込まれた数式を数秒だけ確認させてもらってから、俺は改善方法を提案する。
「年度が替わると、参照するデータを手動で直さないといけないんですよ。少し不便ではありますが大した作業ではないので、今回は俺がやっちゃいますね。それと、来年度のために誰でもこのデータを扱えるよう、修正方法を後で記載しておきます」
「いいんですかっ? ありがとうございますっ!」
問題は無事に解決し、女性職員は俺に感謝を伝えてくれた。俺は「いえいえ」なんて相槌を打ちつつ、キーボードを叩き始める。
……こうして、感謝をされると。俺はつい、安堵してしまう。
誰かの役に立てて嬉しいって気持ちは当然あるけど、俺が抱いているのは【優越感】じゃない。ただただ、安堵するのだ。
だって、そうじゃないか。俺なんかが、誰かの役に立てているなんて──。……いや、やめよう。
まぁ、あえて誰かに伝えるような心境ではないけどねっ。俺は女性職員が使うデータを修正してから、自分のデスクに戻った。
すると、なんということだろう。戻ってきた俺に気付いた月君が、キラキラと輝く瞳を向けてくれたではないか。
「センパイ、ヤッパリ仕事バリバリでカッコいいッスね~っ」
「そんなことないよ。俺も同じところで躓いたことがあったから覚えていただけって話だから」
「くぅ~っ! 鼻に掛けないところもカッコいいッス! センパイはマジでオレの憧れッスよ!」
「おぉっ、突然だね? でもありがとう、嬉しいよ」
さて。後輩から嬉しい言葉を貰ってすぐに、昼休憩を告げる音が事務所に響いた。
……と、ほぼほぼ同時。
「……今の。センパイのお腹の音、ですよね?」
「えっ、聞こえちゃった? ごめんごめん」
俺のお腹が、浮かれ気分マックスな様子で『ぐぅ~っ』と元気な音を鳴らしたではないか。
だって、カワイが作ってくれたお弁当が待ってるからなぁ~。しかも、この前少しだけつまみ食いさせてくれたパプリカのきんぴらがあると知っちゃったら、腹の虫だって期待感に音を鳴らしちゃうよねぇ~。
「今日はオレ、パンを買って来てあるんスよ。良かったら、お昼をご一緒してもいいッスか?」
「勿論いいよっ。じゃあ、移動しよっか」
「ウッス!」
てくてく、とことこ。俺と月君は事務所から移動し、休憩室へ。そこで空いている席を発見し、俺たちは各々の昼食をテーブルの上に広げた。
「さてと! お弁当っ、お弁当っ!」
「センパイ、超ゴキゲンですね」
「あっ、分かっちゃう~っ?」
「露骨なくらいッスからね!」
それは、褒め言葉なのだろうか。とてもいい笑顔を向けられたので、ポジティブな意味でありがたく受け止めよう。
さぁ、カワイとゼロ太郎お手製の愛情弁当を食べる時間だ! お弁当箱を開けて、いざ……ぱくっとな!
うぅ~んっ。今日のお弁当もおいし──。
……って、あれ?
「センパイ? どうかしました?」
思わず動きを止めてしまった俺を訝しむように、月君が声を掛ける。焼きそばパンを三口で頬張った後で、だ。
「いや、なんだろう……。……前と、味が変わった気がする」
「味? って、うわっ。今日もスゴい弁当ですね。やるなぁ、カワイ君」
味が、薄くなった? 気がする、ような?
……気のせい、かな。俺は気を取り直して、すぐにお弁当と向き合った。
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