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【愛玩故に殺し愛】
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しおりを挟む※表紙イラスト二人のお話です。
早朝。
「──今日、オレを殺して」
御厨三純は、使用人である久瀬呉羽にそう告げた。
朝の挨拶よりも先に告げられた命令に、呉羽はすぐさま振り返る。
「承知いたしました。殺害方法にご希望やご指定はございますか」
カーテンを開き、鮮烈な陽の光が三純の部屋に注がれた。
三純は血のように紅い瞳を細め、窓際に立つ呉羽を見つめる。
「ない。だから、アンタの好きにして」
そう言い、ゆっくりと口角を上げた。
陽の光のせいか、それとも心象からか。ベッドに寝そべったまま、三純は瞳を細めたまま続ける。
「だけど、オレは抵抗する。殺されたくないからな」
「なるほど」
短く答えた後、呉羽は三純が寝そべるベッドへ近付いた。
普段の三純ならば。『オレを起こしたいのなら、あれをしろ、これをしろ』と、まるで駄々っ子のように呉羽へ強請る。そして、そうしたオーダーを可能な限り叶えるのが、呉羽の日課だ。
だからこそ、呉羽がベッドへ近付くその動きにはなんの淀みもない。
ゆえに、三純は笑った。
──呉羽が、なんの前振りも見せずに殺意を向けたからだ。
「──っ」
スカートの中から、短剣をひとつ。
人を殺すにはあまりにも美しい凶器を手に、呉羽は主人である三純の胸元を貫こうと猛攻を仕掛けた。
──しかし。
「──今日はノリがいいんだな」
短剣を握る呉羽の手を、三純は軽くいなす。そんな、無邪気な言葉を添えながら。
三純めがけて突き刺さるはずだった凶器の先端は、ベッドへ触れる前に引っ込められた。呉羽が、すぐさま『殺害に失敗した』と気持ちを切り替えたからだ。
「坊ちゃんのことですので、私が仕留め損なった場合……おそらく、なにかしらのペナルティを言い渡すのかと」
短剣を突き刺す挙動。その動きを瞬時に取り止めた呉羽は特段抵抗を示すこともなく、ただただ三純に手を握られている。
三純は三純で、殺意を向けられたばかりだというのに一切動じず、呉羽の手を握っていた。
「オレのこと、ちゃんと分かってるんだな。……今日のアンタ、いつもよりカワイイ気がする」
「お戯れを」
そっと、三純は呉羽の手を引き寄せる。呉羽の手の甲へ、口付けるためだけに。
さすがの呉羽も、口付けを黙って受け止めるわけにはいかない。すかさず手を引こうと、呉羽は手に力を籠める。
だが、三純は呉羽を手放さない。むしろそんな小さな抵抗すらもが楽しいのか、三純の口角は変わらず上がっている。
「そう。オレはアンタに殺されたい。だけど、殺されるのは御免蒙る。だから抵抗はするけど、アンタはオレを殺さないとダメ。そういう命令だからな」
「…………」
「なら、オレを殺せなかった場合──つまり、命令違反をした場合。アンタは罰を受けなくちゃいけない。……そうだろう?」
長い口上に、呉羽は眉ひとつ動かさない。
こうしてわざわざ、口で外堀を埋めてまで三純が望むこと。三純が告げる【罰】に、呉羽は心当たり【しか】ないのだ。
「──オレを仕留め損なったら、アンタからキスして」
想像通りの答えに、呉羽は閉口。
表情を一切変えない呉羽を見上げて、三純は小首を傾げた。
「なに。まさか、呆れてんの?」
「いえ、そのようなことは決して」
──『揺らがないですね』と。ただ、その一言に尽きるだけ。
三純の手が、呉羽から離れる。
すぐさま呉羽は、短剣をスカートの中へ忍ばせた。
「坊ちゃんの使用人として、私は坊ちゃんからの命令を遂行いたします。全身全霊をかけて、必ずや坊ちゃんを殺してみせましょう」
それだけ言い、恭しく頭を下げる。
そんな呉羽の様子を見て、三純はただただ愉快気に、口角を上げていた。
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