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【目が合わなくても愛してる】 *

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 宮古はある日、遂に【自分の想いを断ち切る決意】をした。

 ……だが、直接伝える勇気は無い。電話越しやメールでも、迫の反応を見せつけられるという覚悟を、宮古は持っていないのだ。
 苦肉の策として宮古は毎日、手紙を書いた。

 書いては、鞄に忍ばせ。
 渡そうと思っても、渡せず。
 最終的には、自宅へ持ち帰る。
 また新しく書き直して、鞄に忍ばせ。……毎日がその、繰り返し。

 渡せもしない手紙をゴミ箱に捨てて、意気地の無い自分を責め続ける日々。宮古の精神は、露骨に摩耗していた。しかしそれでも、こんな宮古を慰められるのもまた、迫以外ありえないのだ。

 暇があれば、SNSで迫のアカウントを眺める。癒しを求めた宮古は迫が投稿した内容だけに飽き足らず、迫と誰かがやり取りしているメッセージも眺めるようになった。

 親友の枠を大きく外れていると気付いていながらも、本人に伝えられない。自分一人で、断ち切ることすらできなかった。

 ──いっそ、手紙をゴミ箱に捨てるように……この想いも、捨てられたならいいのに。

 そう、現実逃避をしながら。……今日も、宮古が持つ鞄の中には一通の手紙が入っている。


 * * *


 放課後になり、宮古は何度目か分からない自己嫌悪に陥っていた。


「今日も、渡せなかった……っ」


 鞄の中に手紙を忍ばせるようになって、何日が経ったのだろう。五十を超えてから、宮古は数えるのをやめた。

 誰にも聞こえないだろう声量で呟いた後、離れた席に座っている迫に、宮古は視線を向ける。
 迫の周りには、男の友人が数人たむろしていた。


「迫ぉ~っ。昨日、なに届いたんだよ?」
「あっ! それ、俺も気になってたっ!」


 話題は、迫宛に届いた【なにか】のことらしい。

 昨晩、迫はSNSに写真とコメントを投稿していた。有名な通販サイトのロゴが描かれた箱の写真で、コメントは『注文してた物がやっと届きました』だけ。その投稿には、なにが届いたのかという詳細は書かれていなかった。

 迫はよく、通販サイトを利用している。品物が家に届く度、迫はSNSに箱の写真を投稿していた。
 暇があれば迫のアカウントを眺めている宮古も、昨晩の投稿を知っている。

 しかし当然、宮古だって中身を知らない。だから、興味があるに決まっているだろう。

 ……だが、宮古は踏み込めない。
 自分が迫に、プライベートなことを訊くのは……果たして、親友としての正しい距離感なのか。それが、分からないからだ。

 離れた席で宮古が聞き耳を立てていると、迫は気付いていないのだろう。迫は、友人に笑顔で応対してる。


「秘密」
「エロ本か?」


 友人の問いに、宮古の方が驚く。

 迫が、エロ本を購入している。……全く、想像がつかない。
 無粋な質問にも、迫は笑顔のまま答える。


「違うよ。もっといい物」
「迫のことだし、参考書とかじゃね? 地球儀とか、壁に貼るための世界地図とか。そう言うなんか……頭の良さそうな物?」
「ふんわりした印象だなぁ」


 友人の言葉に、迫は肩を揺らして笑った。

 SNSに投稿される箱のサイズは、様々だった。参考書が入っていてもおかしくないほど薄い箱や、地球儀が入っていてもおかしくないほど大きな箱。頭のいい迫のことだから、そういう類の物を注文していても不思議じゃない。


「今度見せろよ~」
「気が向いたらね」


 友人に向かって、迫は爽やかな笑顔を見せている。
 そんな迫に向けて、宮古はそっとスマホのカメラを向けた。 




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