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【目が合わなくても愛してる】 *
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しおりを挟む迫の家は、普通の一軒家だった。
一階建ての平屋で、家族三人には広すぎず狭くもない。普通サイズの家だ。
「おいで、宮古。中に入っていいよ」
先に玄関で靴を脱いだ迫に続き、宮古も靴を脱ぐ。
「……お、おじゃま、します……ッ」
「あはっ。宮古、緊張しすぎだって」
「ご、ごめん……ッ」
好きな人の家なのに、緊張しない人なんていないだろう。……勿論そんなこと、迫には言えないけれど。
迫の後ろをついて歩きながら、宮古は廊下をキョロキョロと見回す。
「ここが、迫の家……」
「うん、そうだよ。俺の家」
「ヤッパリ、その……迫の匂いが、する……」
「あははっ、そう? まぁ、俺の家だからね」
スンと鼻を鳴らし、匂いを嗅ぐ。
迫が近付いてきたとき、いつも香る匂いがある。その匂いが、廊下には充満していた。
口元が緩みそうになるのを、宮古はなんとか堪える。
まるで、迫に包まれてるみたいだ、と。そんな浅ましい妄想を、抱きながら。
意識をしなくても、脳に届く迫の匂い。迫に抱きすくめられているかのような錯覚に、クラクラしてしまいそうだ。
「ここが俺の部屋」
ひとつの部屋の前で、迫が立ち止まり、そう言った。
案内をされたはいいが、迫の足は止まったまま。自室に入ろうとしない迫に向けて、宮古は不思議そうに訊ねる。
「……迫? 入らない、の?」
「俺としたことが、ちょっと失念。先ずはなにか用意しないとね。今すぐお茶とかお菓子とか持ってくるから、先に入って待ってて?」
「えっ」
本人不在な中、勝手に好きな人の部屋に入るという特殊すぎるイベント。予想外の提案に、宮古はビクリと肩を震わせた。
その震えを、どう思ったのか。迫はクスッと可笑しそうに笑う。
「別に中でライオンが待ってるわけじゃないんだし、そんなに怯えないでいいんだよ?」
「ご、めん。……おっ、お構い……しなくて、いいから……っ」
だから、一緒に入ってほしい。そういうニュアンスで言ったつもりだったが、迫は気付いていないようだ。
「あははっ。大丈夫だって。……すぐ戻るから、中で待ってて?」
どうやら迫は、知らない場所で一人になることに対して宮古が不安を募らせていると解釈したらしい。いじらしい理由で自分を引き留めているんだと思っている迫を、宮古は裏切ることができない。
迫は笑顔のまま、宮古を残してその場を離れてしまう。
「あっ、さっ、迫……っ!」
迫がいなくなり、一人、廊下に取り残される。
「そ、んな。……どっ、どうしよう……っ」
──先に、部屋の中へ入るべき?
──それともここで、迫が戻ってくるのを待つ?
そもそも宮古は、友達の家に行ったことがない。友達が、迫以外にいないからだ。独りぼっちの通路で、宮古はモヤモヤと悩む。
「こういうとき、って……先に入ってるのが、普通……? それとも、図々しい……? でも、ここで待ってるのは、ヤッパリ……変、だよね……?」
考えたって、答えが分かるわけではない。宮古は意味も無く、キョロキョロと周りを見回す。……当然、誰もいないが。
「……今日で、終わりにするから……っ」
鞄の中に入っている手紙を思い出し、宮古はドアノブに手を伸ばした。
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