そんなに可愛がらないで

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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6章【そんなに嬉しそうにしないで】

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 カナタの素直な言葉に、リンは眩いほどの笑みを浮かべる。


「だよね、だよねっ! くぅっ、生でボーイズのラブが見られるなんて、僕ってばツイてる~っ!」


 まるで、長年探していた秘宝を見つけ出したトレジャーハンターのようだ。

 大はしゃぎするリンを見ていると、打ち明けるのは早計だったかと思えてくる。
 だがどちらにせよ、隠し通すことはできなかっただろう。

 リンはカナタと距離を詰め、キラキラと輝く瞳を向けた。


「僕、本当に人の恋バナが大好きなんだよ! 僕が就職じゃなくて進学を選んだのだって、社会人より学生の方が恋バナ発生率高いかな~って思ったからだし、喫茶店をバイト先に選んだのだってそういう理由! ……まぁ、店員がマスターを含めて四人しかいないっていうのには驚いたけど、こんなに極上の恋バナがあるなら大正解だよねっ!」


 なんて不純な動機で進学をしているのだろうと、カナタは思うことすらできない。
 それほどまでに、リンの勢いが強いからだ。


「ねぇねぇ、二人はどういう関係なの? 両想い? 両片想い? それとも、カナタ君の片想いかな~っ?」
「あの、リン君──」
「でも、好きになったら厄介そうな人を好きになっちゃったんだね~? だってホムラさんって、カッコいいから引く手あまたって感じじゃん? 見た目チャラいし、結構遊んでそう。浮気の心配とか──」
「──そっ、それは違うよっ!」


 思わず、カナタは声を張る。

 気弱で大人しそうなカナタの怒声に、リンは思わず言葉を詰まらせた。


「ツカサさんはそんな人じゃない! 見た目で判断しないで!」


 リンが、輝いていた瞳を丸くしている。
 その姿に気付き、カナタは慌ててリンから距離を取った。


「あっ、ご、ごめん! いきなり、怒鳴っちゃって……っ」
「いや、僕の方こそ……嫌な言い方して、ごめん」


 カナタと同様に、リンも反省をしている様子だ。
 頬を掻き、リンはどことなく気まずそうな表情を浮かべている。


「ちょっと、テンション上げすぎちゃった。本当にごめんね?」


 慌てて、カナタは首を横に振った。『気にしないでほしい』という意思表示だ。

 カナタが怒っていないと理解したリンは、すぐにまた人懐っこい笑みを浮かべる。


「でも、ちょっとビックリした! カナタ君って、自分の意見をハッキリ言えないタイプの人だと思ってたからさ! なんか、カッコいいね!」


 リンの言葉に、カナタは自分でも驚く。

 確かに、今まではなかなか自分の意見を真っ直ぐと言えなかった。
 それなのに、ツカサが誤解されていると思っただけで、自分でも驚くほど感情的になってしまったのだ。

 それでも、カナタは……。


「……オレは、全然ダメだよ。カッコ良くなんて、ない」


 拳を握り、堪らず俯く。

 ツカサがカナタのことをどう思っているのか、確認する勇気すらも奮い立たせられない。
 そんなカナタは、当然……。


「──オレは全然、カッコ良くなんてないよ」


 胸を張って自分の考えを言えるツカサの方が、断然輝いている。
 そんなツカサだから憧れ、そんなツカサだからこそ惹かれた。

 ツカサのことが好きだと打ち明けるまで、こんなにも沢山の不安要素を羅列してしまう自分が、カッコいいわけがない。

 カナタの呟きを、どう受け取ったのか。
 リンはただ、不思議そうに小首を傾げていた。




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