94 / 290
6章【そんなに嬉しそうにしないで】
7
しおりを挟むカナタの素直な言葉に、リンは眩いほどの笑みを浮かべる。
「だよね、だよねっ! くぅっ、生でボーイズのラブが見られるなんて、僕ってばツイてる~っ!」
まるで、長年探していた秘宝を見つけ出したトレジャーハンターのようだ。
大はしゃぎするリンを見ていると、打ち明けるのは早計だったかと思えてくる。
だがどちらにせよ、隠し通すことはできなかっただろう。
リンはカナタと距離を詰め、キラキラと輝く瞳を向けた。
「僕、本当に人の恋バナが大好きなんだよ! 僕が就職じゃなくて進学を選んだのだって、社会人より学生の方が恋バナ発生率高いかな~って思ったからだし、喫茶店をバイト先に選んだのだってそういう理由! ……まぁ、店員がマスターを含めて四人しかいないっていうのには驚いたけど、こんなに極上の恋バナがあるなら大正解だよねっ!」
なんて不純な動機で進学をしているのだろうと、カナタは思うことすらできない。
それほどまでに、リンの勢いが強いからだ。
「ねぇねぇ、二人はどういう関係なの? 両想い? 両片想い? それとも、カナタ君の片想いかな~っ?」
「あの、リン君──」
「でも、好きになったら厄介そうな人を好きになっちゃったんだね~? だってホムラさんって、カッコいいから引く手あまたって感じじゃん? 見た目チャラいし、結構遊んでそう。浮気の心配とか──」
「──そっ、それは違うよっ!」
思わず、カナタは声を張る。
気弱で大人しそうなカナタの怒声に、リンは思わず言葉を詰まらせた。
「ツカサさんはそんな人じゃない! 見た目で判断しないで!」
リンが、輝いていた瞳を丸くしている。
その姿に気付き、カナタは慌ててリンから距離を取った。
「あっ、ご、ごめん! いきなり、怒鳴っちゃって……っ」
「いや、僕の方こそ……嫌な言い方して、ごめん」
カナタと同様に、リンも反省をしている様子だ。
頬を掻き、リンはどことなく気まずそうな表情を浮かべている。
「ちょっと、テンション上げすぎちゃった。本当にごめんね?」
慌てて、カナタは首を横に振った。『気にしないでほしい』という意思表示だ。
カナタが怒っていないと理解したリンは、すぐにまた人懐っこい笑みを浮かべる。
「でも、ちょっとビックリした! カナタ君って、自分の意見をハッキリ言えないタイプの人だと思ってたからさ! なんか、カッコいいね!」
リンの言葉に、カナタは自分でも驚く。
確かに、今まではなかなか自分の意見を真っ直ぐと言えなかった。
それなのに、ツカサが誤解されていると思っただけで、自分でも驚くほど感情的になってしまったのだ。
それでも、カナタは……。
「……オレは、全然ダメだよ。カッコ良くなんて、ない」
拳を握り、堪らず俯く。
ツカサがカナタのことをどう思っているのか、確認する勇気すらも奮い立たせられない。
そんなカナタは、当然……。
「──オレは全然、カッコ良くなんてないよ」
胸を張って自分の考えを言えるツカサの方が、断然輝いている。
そんなツカサだから憧れ、そんなツカサだからこそ惹かれた。
ツカサのことが好きだと打ち明けるまで、こんなにも沢山の不安要素を羅列してしまう自分が、カッコいいわけがない。
カナタの呟きを、どう受け取ったのか。
リンはただ、不思議そうに小首を傾げていた。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで
月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆
辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。
けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。
孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。
年齢差、身分差、そして心の距離。
不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。
■執筆過程の一部にchatGPT、Claude、Grok BateなどのAIを使用しています。
使用後には、加筆・修正を加えています。
利用規約、出力した文章の著作権に関しては以下のURLをご参照ください。
■GPT
https://openai.com/policies/terms-of-use
■Claude
https://www.anthropic.com/legal/archive/18e81a24-b05e-4bb5-98cc-f96bb54e558b
■Grok Bate
https://grok-ai.app/jp/%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%A6%8F%E7%B4%84/
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。
一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。
叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。
【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
僕と貴方と君と
五嶋樒榴
BL
カッコいい&可愛い年下ふたりに翻弄されてます。
柊木美峰は28歳。
不動産屋に勤務する宅地建物取引士。
顔見知りの24歳の融資担当の銀行員、葉山優星から食事に誘われ、そのまま自宅に招待される。
優星のマンションに着くと、そこには優星の年の離れた異母弟、小学2年生の明星が居て………。
恋愛に臆病な主人公が、ふたりの年下男子に振り回されるハートフルML。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる