131 / 290
8章【そんなに惚れ直させないで】
3 *
しおりを挟むカナタと両想いになって、数日後。
「んっ、あぁ、あっ! ツカサさん、ふか、い……っ!」
ツカサはカナタの部屋で、カナタのことを犯していた。
シーツの海に沈むカナタはいつだって煽情的で、愛らしい。
「あっ、んあっ、はっ! やっ、イく、イ──ふ、ぁあっ!」
淫らに喘ぎ、はしたなく果てるその姿も、胸が締め付けられて仕方がない。
ツカサに比べると小ぶりな性器すらもが、全てツカサの理想通りで。
きっと【理想】という言葉は、カナタのために用意されたものなのだろうと。
そう本気で思うほど、ツカサはカナタに傾倒していた。
「カナちゃん、可愛い……っ」
可愛くて。
大切で。
絶対に、手放したくない。
絶頂を迎えて放心状態のカナタを見て、ツカサは一言では言い表せない感情を抱く。
カナタの笑顔が見たいのに、その先にあるものが自分ではないのならば、その笑顔をバラバラになるまで切り刻みたくなる。
カナタの声を聞くだけで胸が弾むのに、その舌が別の誰かを呼ぶのならば、根を残さないほど完璧に引き千切りたくなった。
手も足も、向かう先がツカサではないのならばへし折りたい。
映すものはツカサだけでいい瞳も、他の誰かを映すために使われるのであれば、えぐり取って宝石のように大切にしてしまえたらと。
ツカサ以外の音を求める飾りのような耳も、いっそそぎ落とした方が良いのではないかとも。
どうしようもないほどの庇護欲と、抑えきれないほどの破壊欲も、ツカサにとってはどれも本物で。
「ツカサさん……っ。大好き、です……っ」
だからこそツカサは、カナタの【好き】に手放しで【好き】を返せない。
「ありがとう、カナちゃん。世界で一番可愛いよ」
きっとカナタは、こんな感情を抱いたことがないのだろう。
そんな相手が口にする想いと、ツカサの想いが同じわけがない。
それでもカナタは、自らを犯す男を見上げて、唇を尖らせる。
「……『好き』って、言ってほしいです」
その言葉が、どれだけ清廉潔白で無垢なものかも知らずに。
「そうだね、ごめん。……好きだよ、カナちゃん」
この言葉が、どれだけの狂気を内包しているかも知らずにだ。
満足げに微笑むカナタの膝を、ツカサは持ち上げる。
「まだ足りない。カナちゃんが、もっと欲しい。……欲しいよ、カナちゃん」
それは、性欲からくる言葉ではない。
ましてや、カナタの世界にある【愛】からくる言葉でもなかった。
ツカサは文字通り、カナタの全てが欲しいのだ。
──体も、心も、過去も現在も未来も、全て。
しかし、カナタの世界にはツカサが告げる感情が言葉として存在しない。
それをカナタは、自身が知る一番近い言葉で返すのだ。
「オレも、ツカサさんがほしい……っ。もっと、ほしいです……っ」
交わっているようで、本当は違う。
カナタとツカサは、一生交わることのできない存在だ。
どれだけ愛し合い、どれだけ体を重ねても、二人は決してひとつにはなれない。
そんなこと、ツカサは疾うの昔から気付いている。
カナタと握手をしたあの日から、ツカサは知っているのだ。
それでもツカサは、カナタのことが手放せない。
今後どれだけ言葉を交わしても、カナタには理解されないと分かっているのに。
ツカサはどうしたって、カナタを手放すことができないのだ。
20
あなたにおすすめの小説
僕と貴方と君と
五嶋樒榴
BL
カッコいい&可愛い年下ふたりに翻弄されてます。
柊木美峰は28歳。
不動産屋に勤務する宅地建物取引士。
顔見知りの24歳の融資担当の銀行員、葉山優星から食事に誘われ、そのまま自宅に招待される。
優星のマンションに着くと、そこには優星の年の離れた異母弟、小学2年生の明星が居て………。
恋愛に臆病な主人公が、ふたりの年下男子に振り回されるハートフルML。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます
天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。
広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。
「は?」
「嫁に行って来い」
そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。
現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる!
……って、言ったら大袈裟かな?
※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる