234 / 290
11.5章【そんなにモテないで】
4
しおりを挟む──情けない。
カナタは鳴ってしまった腹の音に対して顔を赤くしながらも、だんまりを貫く。
「ホラ、カナちゃん。我慢は良くないよ、ご飯にしよう?」
「いっ、嫌ですっ。今のツカサさんは、大好きですけど嫌ですっ」
「拗ねるカナちゃんも可愛いけど、空腹なのは見過ごせないよ。だから、ねっ? 俺と一緒に晩ご飯、食べよう?」
「だから今は──……えっ? 一緒、にっ?」
思わず、カナタはツカサを振り返った。
困ったように立ち尽くしているツカサが持つトレイには、なぜか【二人分】の食事が載せられているのだ。
「もしかして、ツカサさんも食べてないんですかっ?」
「うん。俺はなんでも、カナちゃんと一緒に食べたいから」
「……っ」
クゥンと鳴きそうなほど、今のツカサは子犬じみている。ありもしないはずの犬耳と尻尾が、ペタリと悲しくなるくらい垂れているのだ。
「俺が怒らせちゃったなら謝るよ。だから、話してくれないかな? 俺、カナちゃんに冷たくされると悲しいよ……」
言葉通り、ツカサは今にも泣き出しそうに見える。とても年上には見えないが……泣きそうな顔も、年上ということも。どちらも、事実だ。
「ごめんね、カナちゃん……」
シュンと落ち込む、愛しい彼氏。またしても、カナタの良心がズキズキと痛み始めた。
カナタは起き上がり、モグラのぬいぐるみをベッドの上に置く。それから、ツカサに向けていた顔をプイッと背ける。
「かっ、可哀想だから、一緒に食べてあげますっ。でも、ツカサさんを赦したわけじゃないですからねっ! 勘違いしちゃ嫌ですよっ!」
「カナちゃん……っ! いつもは俺に甘デレなカナちゃんも愛おしいけど、ツンデレさんなところも可愛いね。新たな一面を知られて、思わず浮かれちゃうよ……っ」
「──ツカサ君っ! 反省っ!」
「──まさかのここで『ツカサ君』呼びっ!」
ベッドから降りたカナタは、小さなテーブルを部屋の真ん中に用意する。
その上に食器を並べるツカサは、手を動かしながらも眉尻を下げた。
「だけど『反省』って言われても、ピンとこないよ。俺はどうして、大好きなカナちゃんを怒らせちゃったの?」
それは、ツカサ視点からすると当然の言葉だ。
カナタは理由を説明しようと、口を開きかける。……だが、どう伝えたら子供っぽく思われなく、且つそこそこ平和的に伝わるのか。
「ご飯を食べたら、お話します。だから、ちょっと待ってください」
「それは『ツカサさんを傷つけない言い回しを考えるので、少し時間をください』って意味? 怒っていても俺のことを想ってくれるなんて、カナちゃんは優しくてステキな男の子だね。ますます好きになっちゃうよ……っ」
「──ツカサ君っ! お口チャックっ!」
「──これからご飯を食べるのにっ?」
どうしたらいいのかと戸惑いながらも、ツカサはそれ以上なにも言わない。どうやら臨機応変に【お口チャック】を遂行するらしい。
食事を始めて、数秒後。ツカサはチラチラと、正面に座るカナタを何度も覗き見ている。
その視線に気付いたカナタは、食事を続けながら言葉を投げた。
「隣に座るのは駄目です」
「っ!」
「触るのもまだ禁止です」
「っ!」
「……でも、ご飯はとってもおいしいです。いつも、ありがとうございます……」
「っ!」
ガガンと連続でショックを受けた後に、最後のお礼を受けてツカサは柔らかい笑みを浮かべる。
言葉がなくても、意外と分かるものだ。カナタはツカサに対する理解度がいつの間にか猛烈に高まっていたのだと、妙な満足感を得た。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)
かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。
ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部のカリスマ軍師リンドグレーン大佐から持ちかけられた『ある提案』に応じ、一晩その身をゆだねる。
一夜限りの関係かと思いきや、大佐はそれ以降も執拗に彼に構い続け、次第に独占欲をあらわにしていく。
叩き上げの下士官と、支配欲を隠さない上官。上下関係から始まる、甘くて苛烈な攻防戦。
【支配系美形攻×出世欲強めな流され系受】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる