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最終章【そんなに可愛がらないで】
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しおりを挟む激動の一日も、ほとんど終盤。
「──疲れたぁ~っ!」
カナタは自室のベッドで横になりながら、珍しく大きな声で弱音を吐いていた。
結局、今日はお客様から祝福されてばかり。周りから『嫌な男だ』と思われる覚悟で【ツカサはオレのもの】とアピールをしていたのに、思っていたような反応が返ってこなかった。それもある意味、疲弊を増幅させていた気がする。
夕食を終えてから就寝の準備も一通り済ませたカナタがこうして、ベッドに突っ伏していると……。
「──今日は人気者だったね、カナちゃんっ」
「──わぁっ! ビッ、ビックリしたっ!」
音もなく、旦那様が侵入していた。
いつの間にかやって来ていたツカサはベッドに座り、うつ伏せで倒れていたカナタの頭を撫で始める。
「凄かったねぇ、今日。カナちゃん、いろんな人にベタベタ触られちゃってさぁ?」
「あのっ、ツカサ君?」
「誰が触ろうとカナちゃんは既に俺のものだよ? だけど、逆に面白くないよね? 人のものなのに無断でベタベタ触ってさ、非常識だよね? カナちゃんは必死に指輪を見せていたのに、どうして皆、その意味が分からないんだろうね?」
「ヤッパリ、凄く怒ってる?」
頭を撫でる手つきが、徐々に雑なものへと変わっていく。
口角は上がっているというのに、瞳は一切笑っていない。
この二点から分かることは、ひとつ。……ツカサ、大激怒。
「分かってはいるつもりだよ? カナちゃんが俺を独占しようと頑張っていたってことは、さ? だけど、あんな光景を見せられたら気が気じゃないよね。何度マスターに『うちの店で【ウミガメのスープ】をメニューに追加してみない?』って提案しようとしたことか……」
「ウミガメの、スープ? 今日の出来事とウミガメに、なんの接点が……?」
「おっと、今のは失言。……なんでもないよっ」
よくは分からないが、なにやら不穏なことを考えていたらしい。カナタは体を起こし、座っているツカサと対等になろうとする。
「だけどオレは、言いたいことをちゃんと言えたよ。確かに予想外の反応で困っちゃったけど、でも、駄目なことばかりじゃなかったかな。……なんて。そんな回答じゃ、ツカサ君は不服?」
「不服だよ?」
「だよね」
拗ねているツカサに、カナタはもたれかかった。
「オレ、ずっと『ツカサ君と結婚したんだな』って実感がなかったんだ。オレはいつも通りだし、ツカサ君もいつも通り。マスターさんもウメさんもリン君もいつも通りで、きっとオレの両親もツカサ君のお母さんもいつも通り。だから、このまま実感が湧かないのかなぁって思ってた」
「……うん」
「だけど、今は違うよ。今はね、実感しかない。お客さんが、オレを見て変化を口にしてくれたから。……だから、実感したよ」
ニコリと、カナタは笑みを浮かべる。
「──オレ、ツカサ君のお嫁さんになれたよ。だから今、凄く幸せっ」
ご機嫌取りでも、お世辞でもなく。心の底から『幸福です!』と言いたげな、カナタの笑み。
「……なんだか、ズルいなぁ。最近、カナちゃんに絆されてばかりな気がするよ」
なによりも大切で愛しいカナタのそんな笑顔を見て、それでも『だけど』と言うほど。ツカサは、子供ではなかったらしい。
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