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6話・大事にするのが好き
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しおりを挟む詰められた距離が、開く。
美鶴が俺を、腕の中から解放したからだ。
「美鶴……っ?」
不安から、声が震えた。
そんな俺が、見上げた先にいるのは。
「――好きだ」
茶化す様子もなく、嘘を吐いている様子もない。
真剣な……幼馴染みだった。
「真冬のことが、好きだ。ガキの頃から、ずっと。誰にも渡したくなかったし、今だって渡したくねェ。変わらず、お前にどう接していいのか分かんねェけど……今度は、傷つけず……守りてェって思ってる」
手が、震える。
「……子供の頃、悪い噂を流したこと……反省、してるか」
「悔やまなかった日はねェよ。過去に戻って、ちゃんとやり直せるかどうかは保証できねェけど」
「俺のこと脅して、無理矢理抱いたことは?」
「間違ったことをしたとは思ってるが、あのとき……アレ以外にお前を繋ぎとめておける正しい方法があったのかは、分かっちゃいねェよ」
普通、もう少し悪びれたり……落ち込んだり、反省したりしてる姿勢を見せるものじゃないか?
なのに、何なんだ? この、ドシッと構えた感じは。
(……あぁ、まったく……っ)
震えた手を、しっかりと握る。
そして俺は……美鶴を、見上げた。
「――お前って、本当に……昔から変わってないな」
子供の頃。
女のクラスメイトに『美鶴が自分のことをどう思っているのか訊いてほしい』と何度も頼まれた。
その度に、美鶴は同じことを答えていたんだ。
『今度はアイツか……。好きじゃないし興味もない。そう答えておけ』
俺は一度だけ、気になることを質問した。
『美鶴、好きな子とかいないのか?』
そうしたら、美鶴は何て言ったと思う?
『――お前より?』
あの時は『そういう友達的な好きじゃなくて』って思ったけど……今なら、分かる。
色んな女子に、アタックされて。
年下から年上まで、沢山の女の子がいたのに。
コイツは、ずっと……俺が一番だったんだぞ?
――だから、そんな美鶴が。
「――俺も……美鶴が、好きだ。……と、思う」
自分勝手で、ワガママだけど……自分を一切曲げない、美鶴のことが。
真っ直ぐすぎて不器用で、下手くそな愛情表現をしてくるところも。
――俺はずっと、好きだったんだ。
「……い、ま……な、んて……ッ?」
言われたことが、理解できない。
そんな顔をしながら、美鶴が俺を見下ろす。
「だ、だから……っ! 俺も、美鶴が……た、たぶん、好き……っ」
「『たぶん』って何だよ」
「たぶんは、たぶんだろ……っ! 仕方ないだろ……っ! 俺、ずっと美鶴のこと嫌いだと思ってたし……今だって、お前の自分勝手で俺様すぎるところ、どうかと思ってるし……っ! 悪い噂流したことも、無理矢理抱いてきたことも、許してないんだからな……っ!」
美鶴がしたことは、シンプルに悪いことだ。
俺はそれを……悪意からの行動だと思っていた。だから、許せなかったし……嫌いになろうと思い込んだ。
全部、愛情の空回りだったと知って……それで、許せるかどうかと訊かれると……まだ、難しい。
――でも、もう。
「だけど、俺はさ……好きな人のことを悪く思うのは、もう……いやだよ」
プレゼントをしてくれて、嬉しかった。
先輩たちから守ろうとしてくれたのも。
先輩たちの告白を一蹴したのも……嬉しかった。
美鶴が詩織を好きじゃないって分かって、ホッとしてるし。
「美鶴……っ」
俺が抱きついたら。
「……真冬」
抱き締め返してくれる。
だから、今は……好きって気持ちだけに、目を向けたいんだ。
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