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3話【優先すべき相手】

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 クリスマスイブや、クリスマス当日。雪が降ったって、なにもロマンチックだと思わない。これはきっと、オレたちが北海道民だからだろう。

 オレが過ごしてきたクリスマスってやつは、温かいシチューを食った後、オキジョーが作ったケーキを一緒に食べる日だった。

 雪が降ったら『明日の除雪が大変だろうな』ってオキジョーを労わって。晴れたなら『道路がテカテカになってないといいな』ってオキジョーを労わる。……それが、オレたちのクリスマス。

 ──それを今年、オキジョーはオレじゃない別の人とするんだ。


「メイ、おはようございます」


 翌日。迎えた、クリスマスイブ。
 普段通り除雪をし終わったオキジョーが、オシャレ感ゼロのジャンパーを脱いで、オレに挨拶をする。

 いつもならまだ眠い時間だが、今日はあんまりよく眠れなかったし、昨日からあんまり……眠くも、なかった。

 朝メシの準備を始めるオキジョーは、普段通りだ。


「……なぁ、オキジョー」
「はい?」
「今日の夜って、ノナガサンとどっか行くの」


 米を茶碗によそいながら、オキジョーは答えた。


「えぇ、そのつもりですよ」
「……っそ」


 昨日の夜から重たい足を、引きずるようにしてソファに座る。
 二度寝のひとつでも決め込もうと努力している普段は、いったいなんなのか。そう不思議になるほど、今は睡魔がこない。

 今晩、オキジョーはノナガサンとクリスマスデートというやつをするらしい。……そう考えると、ノドとか胸の辺りとかが、モゴモゴしてくる。
 吐き出そうにも、どうしたら出ていくのかが分からない。だからなんとか、飲み込む。

 だが、それを昨日の夜から続けるもんだから。まるで雪みたいに、心の中に降り込めて。……ひたすらに、重たい。

 朝メシをテーブルに並べて、オキジョーがオレを見る。


「メイが僕のクリスマスイブの過ごし方を気にするなんて、珍しいですね。なにかありましたか?」
「や、別に。……なにもない」


 いつもは『ウマイ』って感じる、オキジョーのメシ。
 それがなぜだか、オキジョーとノナガサンが二人で過ごす夜を思うと。……味がよく、分からなかった。



 * * *


 昨日と同じく、今日もオキジョーはノナガサンと可能な限りコミュニケーションをとっていた。
 時々、ノナガサンが小声でなにかを話して、オキジョーが頷いている。たぶん、今晩のデートプランとかだろう。確証はないが。

 そんな様子をチラッと見たり、ジッと見たり、見てないフリをして見たり……。今日のオレは、どうにも変だった。

 カノジョを優先しろとお願いしたのは、オレだ。そしてオキジョーがそのオーダーを実行して、二日目。……なんでオレはこんなに、オキジョーを見てるんだろう。
 オキジョーが約束を破らないよう、監視してるつもりなのか? だとしたら、オレは相当イヤな奴だぞ。親友のことくらい信じてやれよ。

 オキジョーの淹れたコーヒーには及ばないけれど飲めなくもないコーヒーを啜りながら、オレはデスクに突っ伏した。


「セン、眠い……」
「は? ──って、愛山城さん! 今仕事中ッスよ! なに寝ようとしてるんスか!」
「珍しく寝不足なんだよ……」
「だからって仕事中に寝ていい理由にはなんないッス!」


 セン、やめろ。肩を乱暴に揺するな。もう少し、オレには慈愛を持って触れろよな。
 例えば、オキジョーみたいに……。そこまで考えて、オレは目を強く閉じた。 




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