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3話【優先すべき相手】

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 今はもう、オキジョーのことを考えたくない。寝よう、寝てしまおう。
 すると頭上から、慌てた様子で吠えるセンの声が降ってくる。


「ちょ、マジで寝ようとしてないッスか! ちょ、ちょっと……! おっ、沖縄先輩ッ!」
「ハァ?」


 突然センがオキジョーの名前を呼ぶモンだから、オレは慌てて顔を上げた。
 センが向いている方向に視線を向けると、名前を呼ばれたオキジョーと目が合ってしまう。

 オレと違って後輩想いなオキジョーは、センが慌てた様子で名前を呼んだモンだから、すぐに近寄ってくる。


「森青君、どうかしましたか?」


 自分のデスクに戻って来たオキジョーは冷静に、センを見てそう訊ねた。
 対してセンは戸惑った様子で、ワタワタキャンキャンと吠える。


「沖縄先輩聴いてくださいッスよ! 愛山城さん、昨日から様子が──」
「センッ!」


 ──が、その咆哮をムリヤリ断ち切る。

 さっきまでデスクに突っ伏していたオレが顔を上げて、しかも大声を出したんだ。センが驚いてオレを見るのは、不思議じゃない。
 そして……つられるようにオキジョーがオレを見ているのも、なんら不思議じゃないだろう。

 センの名前を呼んだのだから、要件を話さないと。咄嗟にオレは、一枚の資料をセンに突き出した。


「……コレの、コピー……が、欲しい」
「そ、そんなこと言うために……わざわざあんな大声、出したんスか?」
「おう。文句あんのかよ」


 もう一度、書類を突き出す。
 なんでかセンはげんなりした顔でオレを見てから、書類を受け取る。


「はぁ。……まぁ、コピーくらい別にいいッスけど」
「さんきゅ」


 書類を持ってコピー室に向かったセンから視線を外し、パソコンに向き直る。いつも以上に背を丸めて、パソコン以外なにも目に入らないよう、工夫をしながら。
 当然、正面に座るオキジョーの顔も見えない。

 ……危なかった。そう、内心で安堵の息を吐く。
 ここでオキジョーに変な気を回させたら、せっかくのクリスマスデートに支障が出るかもしれない。

 過保護なオキジョーのことだ。『寝不足だ』なんて言ってみろ? 家に帰ってから、しっかり眠るまで見張られるだろう。

 オキジョーがデートをするなんて、珍しいじゃないか。少なくとも、オレはオキジョーがデートしたとかするとかって話を聞いたことがない。

 きっと今日は、オキジョーにとっても大事な日になるだろう。普通の人が過ごす、普通のクリスマスデートをして。……普通に、好きな人とセックス、するんだから。
 そう考えると、胸の中でまたよく分からないなにかが降り込めた。

 ──ドサリ。ドサ、ドサ。そんな音が、聞こえてきそうだ。


「メイ、駄目ですよ。後輩にあまり迷惑をかけてはいけません」


 正面に座るオキジョーが、そんなことをぼやいた。どんな顔で言っているのかは分からないが、オレは「おー」とだけ返事をする。

 好き好んで誰かに迷惑をかけるようなシュミ、オレにはねぇっつの。言わなくたって、オキジョーなら分かっているはずだ。

 もしかしてオキジョーなら、オレが抱えているモヤモヤの理由も分かるのだろうか。

 ……なんて。考えたところで打ち明けるつもりがないのだから、意味なんてない問い掛けだ。




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