存在証明

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
15 / 25

14話【僕等の別れ】

しおりを挟む
 口では簡単に『死にたい』と言えるけれど、実際に死んでいる人なんてごく少数だ。自分をいかに可哀想だと思わせられるかの、アクセサリー。所謂『ファッション死にたい』というやつさ。

 そう言う人を見ると、僕は不思議でならない。自分を被害者だと思っているなら、加害者を殺した方が円満じゃないだろうか。自分を、悲劇の主人公やヒロインに置き換えている頭の痛ぁい人には、言ったら怒られそうだけど。

 辛いと感じているから、逃げる為に死にたくなるんだろう? だったら、生きて幸せになる方が素敵じゃないか。

 まぁ、そもそも……敵が個人の奴等と、敵が世界の僕等じゃ、話が違うか。

 そして……味方がいない奴等と、一太郎君という最高でしかない味方がいる僕とじゃ、気持ちも違うというもの。

 ――僕は殺れるよ。敵を殺すのも、僕を殺すのも。

 ――ただ、より現実的な方を選んだだけさ。

 僕は死にたいわけじゃない。
 一太郎君の幸福の為に、邪魔な奴を殺すだけ。
 それが……僕だっただけさ。



 愛おしそうに僕を抱き締める一太郎君の髪を、指で撫でた。僕と同じ髪質のくせに、僕とは雲泥の差だ。世界髪質選手権一位は一太郎君以外在り得ない。でも、そこで一位になる為には誰かが一太郎君の髪を触って、確認するんだろう? 嫉妬で気が狂いそうだ。だから、エントリーさせてあげない。

 髪型を変えたら、僕等の見分けはつくだろう。でも、僕は一太郎君の髪型はこれじゃないと嫌だ。一太郎君も、僕に同じことを言うんだから仕方ない。相思相愛だね、羨ましいかい?

 瞼で隠されているけれど、瞳の色は若干違うんだ。一太郎君の瞳は暗い赤色だけど、僕はまぁまぁ明るい赤色。そんなもの、光の加減でどうとでも変わるけど。

 自分を傷付けるなんて、絶対許さない。ピアスも染髪も、タトゥーなんて以ての外。一太郎君はこのままで十分魅力的さ。


「…………大好きだよ……っ」


 想いが、胸では留められなくて、勝手に漏れ出る。

 ――あぁ、一太郎君……ッ!

 ――本当に、世界で一番……大好きさッ!

 ――愛しているよッ!

 裸で抱き合って、同じ毛布に包まって、互いのことだけを感じ合って……今みたいに、世界が僕等だけだったら、幸せなのにね。

 でも、もう終わりだよ。
 痛いのも、苦しいのも、辛いのも。全部全部、終わらせてあげる。


「ん……っ」


 上体を起こした僕のせいで、一太郎君が小さく吐息を漏らした。世界吐息選手権一位も確約だね。思わず、笑みが零れちゃうよ。


「……ばいばいっ」


 お別れを笑顔で言わせてくれる一太郎君は、本当に最高な人さ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

貴方へ贈る白い薔薇~思い出の中で

夏目奈緖
BL
亡くなった兄との思い出を回想する。故人になった15歳年上の兄への思慕。初恋の人。忘れられない匂いと思い出。黒崎圭一は黒崎家という古い体質の家の当主を父に持っている。愛人だった母との同居生活の中で、母から愛されず、孤独感を感じていた。そんな6歳の誕生日のある日、自分に兄がいることを知る。それが15歳年上の異母兄の拓海だった。拓海の腕に抱かれ、忘れられない匂いを感じる。それは温もりと、甘えても良いという安心感だった。そして、兄との死別、その後、幸せになっているという報告をしたい。亡くなった兄に寄せる圭一の物語。「恋人はメリーゴーランド少年だった」も併せてどうぞよろしくお願いいたします。

蒼と向日葵

立樹
BL
梅雨に入ったある日。新井田千昌は雨が降る中、仕事から帰ってくると、玄関に酔っぱらって寝てしまった人がいる。その人は、高校の卒業式が終わった後、好きだという内容の文章をメッセージを送って告白した人物だった。けれど、その返信は六年経った今も返ってきていない。その人物が泥酔して玄関前にいた。その理由は……。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

君と過ごした最後の一年、どの季節でも君の傍にいた

七瀬京
BL
廃校が決まった田舎の高校。 「うん。思いついたんだ。写真を撮って、アルバムを作ろう。消えちゃう校舎の思い出のアルバム作り!!」 悠真の提案で、廃校になる校舎のアルバムを作ることになった。 悠真の指名で、写真担当になった僕、成瀬陽翔。 カメラを構える僕の横で、彼は笑いながらペンを走らせる。 ページが増えるたび、距離も少しずつ近くなる。 僕の恋心を隠したまま――。 君とめくる、最後のページ。 それは、僕たちだけの一年間の物語。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

Fromのないラブレター

すずかけあおい
BL
『好きです。あなたをいつも見てます。ずっと好きでした。つき合ってください。』 唯のもとに届いた差出人のない手紙には、パソコンの文字でそう書かれていた。 いつも、ずっと――昔から仲がよくて近しい人で思い当たるのは、隣家に住む幼馴染の三兄弟。 まさか、三兄弟の誰かからのラブレター!? *外部サイトでも同作品を投稿しています。

処理中です...