存在証明

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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17話【僕等の記憶】

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 待ち合わせ場所は、一太郎君と一緒によく遊んだ、誰もいない廃倉庫。子供の頃はそこを秘密基地だなんて言って、一緒に笑った。初めてキスをしたのも、ここだ。

 そんな思い出の場所で、最期を迎えられる。それがひたすらに嬉しかった筈なのに、今はそれどころじゃない。

 一太郎君のことは、何でも知っている。なのに、自分のことが思い出せない。そんなこと、普通に考えて変だ。

 廃倉庫の扉は、常時開いている。誰も管理していないのだから、当然。いつも薄暗くて、いつも埃っぽい。

 普段は人が寄り付かないような場所だから、ラブホテルの代わりとして恋人があんなことやこんなことをしていたりするとか、しないとか。僕等はキスこそしたけれど、それ以上のことはここでしていない。だって、住んでいる家が一緒なんだから。家がラブホテルだ。……なんて、建ててくれた父親が聞いたら、きっと泣く。

 待ち合わせ相手と思しき人影はおろか、僕以外誰もいなさそうなその廃倉庫で、僕は積まれた鉄筋に腰を下ろす。目を閉じて、辞世の句でも読もうかと思ったけれど……それよりも先に、解決しなくちゃいけない問題がある。それをどうにかしないと、死んでも死にきれない。

 父親……そう、父親だ。全ての始まりは、父親だった。
 僕等が初めて間違われた、あの日、あの瞬間。傷付いていたのは一太郎君の筈だ。

 だって、そうだろう? 驚いたかのように目を見開いて、僕を見ていたんだ。愕然としたような驚愕の表情を浮かべて、僕を見ていたんだよ? 傷付いていたに決まっている。あれが、全ての始まりだったに違いない。きっと、一太郎君にとって根深いトラウマに――。

 …………あれ? 待って。待って、ねぇ、待ってよ……?

 一太郎君はあの時、傷付いていたんだよね? ビックリして、信じられなくて、戸惑って。……深く深く傷付いて、父親に攻撃されたんだよね?

 ――じゃあ、何で父親じゃなくて僕を見ていたの?

 不意に、心臓が壊れるんじゃないかってくらい、激しく動いた気がした。必要以上の血液を血管に巡らせて、頭を無理矢理働かせようとしてくる。いきなりそんなことをされたら、痛くて動けない。

 ――待って、お願い、待って。

 ――これ以上は、考えちゃいけない気がするんだ。


「嫌だ、嫌……ッ! 違う、やだ、僕は――僕じゃなくて、僕が……ッ!」


 頭を抱え始めた僕の耳に、硬質な足音が響く。

 ――思い、出した。

 父親が、一太郎君と僕を間違えた時……傷付いたのは、一太郎君じゃない。
 どうして忘れていたんだろう。
 だって、本当は、一太郎君じゃなくて……。

 ――傷付いていたのは、僕だったじゃないか。

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