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1章【急降下エブリデイ】
3
グチャ、グチャッ、と。秋在が絵の具を踏み潰す音が、教室に響く。
楽しんでいる様子はなく、ただ、作業のように。しかし床を汚すことを使命とでも思っているのか、秋在の足に迷いはない。
ところが不意に、秋在の動きが止まった。
「自己欺瞞、なにしに来たの」
決して絵の具を踏みつける行為に飽きたわけではなく、冬総が教室から出て行かないからだ。
足を止めた秋在は、入り口に立ったまま動かない冬総に目を向ける。その顔からは、先ほど浮かべていた天使のような笑みが消えていた。
声をかけられた冬総は、慌てて言葉を返す。
「わっ、すれ……もの」
想像以上に、引きつった声。口の中が乾燥して、思ったように声が出せなかった。
同級生が、教室の床を汚している光景。それを、ただ見ただけなのに……。
──自分でも驚くほど、冬総は困惑していた。
動揺する冬総に気付いているのか、いないのか。返事を聴いた秋在は、靴の裏で教室を汚しながら、机の群れに近付く。
そして、あるひとつの机に迷いなく、手を突っ込んだ。
「変なの。これが、そんなに大事なんだ」
秋在が引っ張り出したのは、冬総の忘れ物──【女子から渡された可愛らしい封筒に包まれている手紙】だった。
ベチャベチャと音を立てて、秋在は冬総に近寄る。
手は汚れていなかったのか、手渡された封筒に絵の具は付着していないようだ。
「よく、分かったな」
手紙を受け取った冬総は、乾いた口で言葉を発する。乱雑に置かれた机の中で、どれが冬総の席なのかを憶えていたことへの感嘆だった。
しかし秋在は、冬総から向けられた素直な言葉にも興味が無さそうだ。
「元に戻さないといけないから」
教室の隅で、法則性もなく置かれた机と椅子。秋在はそれを、どれが誰の席で、どこに戻すべきなのか。逐一全て、記憶しているのだ。
「いや、それはそうなんだけど……」
冬総がそう理解すると同時に、ひとつの疑問が生まれた。
「──俺がどこの席か、分かるのか?」
秋在は普段、誰とも交流を持たない。それなのに、冬総の席をピタリと当ててみせた。
それはつまり、秋在が【冬総を認識していた】ということ。今しがた魅せられた一連の流れは、冬総が持つ【春晴秋在】の像と一致しないのだ。
「──横の席」
冬総の困惑や動揺が理解できないのか、単純に気付いていないだけなのか。秋在はまるで、ただの事実確認や事務的な返答のように言葉を返す。
なのに、たったそれだけのことが……。
──なぜだか冬総は、純粋に嬉しかった。
秋在の隣に、自分が座っていると。秋在が気付いてくれていた。それがなぜだか、心底嬉しい。
内心ソワソワと落ち着きのない冬総には目もくれず、秋在はまた、ポケットから絵の具を取り出す。
「ばいばい」
手を振りもせず、惜しむような声音でもなく。秋在は見事に形だけの挨拶を送ってから、冬総に背を向ける。
ほんの少し、近付いた気がした。だから冬総にとっては、秋在が見せたそれらの言動が堪らなく……。
「──春晴」
冬総には、寂しく感じられた。
だから冬総は思わず、その小さな背中に声をかけてしまったのだろう。
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